22 / 30
21 返しません
しおりを挟む
ファンクをクランボ様から引き離せたのは良いものの、どうやってファンクを納得させるかが問題だった。ファンクが散歩に行っている時に、リリにその話をしてみると、ケロッとした様子で言う。
『どうせ、いつかはばれるんだから言ってあげたら? 言いにくいのならわたしが言ってあげるわ』
『でも、ショックを受けるんじゃないかしら』
『じゃあ、ばれないようにできるの?』
『無理があるわよね』
私がため息を吐くと、リリがふんっと鼻を鳴らす。
『ファンクだって、そうなるかもしれないってことくらいわかっていると思うわ』
『……そうね』
こんな悲しいことを好きな犬から話をされたくないわよね。ここは、嫌われている私が話をしたほうがいい。
『ありがとう、リリ。ちゃんと私の口からファンクに話すわ』
『じゃあ、わたしは見守っておくわね』
『ありがとう』
その後、散歩から帰って来たファンクに話をしたところ『そうなるだろうって思ってたんだ』と言ってからは、部屋の隅で丸まってしまった。
一匹にしてあげようかとも思ったけれど、いない間に自分を傷つけるような行為をしても良くない。そう思った私は、リリと一緒に部屋で大人しくしていると、ファンクのいびきが聞こえて来た。
いびきを聞いたリリは呆れていたけれど、私はひとまず胸をなでおろした。
*******
クランボ様が新しい犬を飼ったという情報はすぐに城内にも知れ渡り、ファンクを私が引き取ったことも周知の事実になった。リリがファンクを警戒していることもあり、ファンクには別に部屋を用意してもらい、彼の世話をしてくれるメイドはクランボ様からとばっちりでクビにされたメイドに決まった。
というのも、ファンクが彼女のことをとても優しいメイドだと、私に教えてくれたからだ。ファンクの面倒をよく見ていたからこそ、クランボ様は彼女に罪を擦り付けることができたのだと思う。
今回のことがあり、クランボ様に対する悪感情が貴族の間で広まった。
だって、ファンクを私に譲渡するんだもの。何かよっぽどの理由がない限り、飼い主はそんなことをしない。
それと同時期に両陛下はクランボ様には何も知らせず、友好国の国王陛下や王妃陛下に連絡を取った。
それは、しきたりのせいで不幸になる犬がいることをどうにかしなければならないという内容だった。多くの国の両陛下がそのことを疑問に感じていたようで、世界的な話し合いが行われることになった。
「クランボはかなり苦戦しているみたいだ」
ファンクが王城にやって来て、十日が経った頃、フェル殿下が私の部屋にやって来て、そう教えてくれた。
『クランボ様の犬は……』
『ジャーマンポテト』
念話したつもりではなかったのだけど、リリが答えてくれた。
クランボ様が新しく迎えたのは、ジャーマンシェパードだ。ジャーマンポテトというものが、どんなものかは分からないけれど、きっと食べ物なんでしょう。
どうして、リリはこんなに物知りなのかしら。犬同士のコミュニティがすごいってこと?
あとから確かめることにして、フェル殿下に尋ねる。
「ドッグトレーナーに躾を頼んでいないんですか?」
「ファンクを見てくれたドッグトレーナーが、もう仕事を辞めたんだ。それに、ファンクはクランボに喜んでもらいたくて必死に芸を覚えたんだと思う」
「新しい子はそうではないということですよね」
「君が何かしたのか?」
「……先日、クランボ様が雇っているメイドが彼を連れて挨拶しに来てくれたので、その時にクランボ様はこんな人だと伝えました」
「こんな人?」
フェル殿下が眉根を寄せて聞き返してきたので、苦笑して答える。
「ファンクの話をしたんです。そうしたら、そんな主人は嫌だって……。クランボ様が迎えた犬は、一見怖そうに見えますが、臆病なところもあるんです」
「臆病?」
「はい。人間でいう人見知りのような感じでしょうか。賢くて従順な子なんですけど、見知らぬ人や犬にはかなり警戒するようです。私と話す時もかなり警戒していましたが、まだ、クランボ様にも懐いていないので話を聞いてくれました」
ファンクの賢さを知っているクランボ様には、まだ若い犬は物足りないはずだ。
ファンクは大会では二位だった。そんな犬を手放したことをそろそろ後悔し始める頃でしょう。
「そうか。なら、クランボはファンクを返せと言ってくるかもしれないな」
フェル殿下も私と同じことを思ったようだった。
「私は絶対にファンクを返しません」
「わかってる。あと、クランボの新しい犬については、鳥たちに見張ってもらっているから心配しなくていい。クランボの部下にも何か気になることがあれば連絡するように伝えているし、クランボも犬が言うことを聞かなくてイライラしても、しばらくは大人しくしているはずだ」
フェル殿下はそこまで言い終えると、すっかり冷めてしまったお茶を一口飲んでから続ける。
「プロウス王国の件で話がある」
「何でしょうか」
また、私を返せとか言ってきたのかしら。
「まだ、非公式の話だから、公になるまで誰にも言わないでほしいんだが」
「……はい」
フェル殿下の表情が重いので不安になった。
何があったのかしら。
「クヤイズ殿下が殺された」
「……え?」
いつかは起こり得るものだとは思っていた。でも、実際にそんなことがあったと聞くと、驚きで言葉をなくしてしまった。
『どうせ、いつかはばれるんだから言ってあげたら? 言いにくいのならわたしが言ってあげるわ』
『でも、ショックを受けるんじゃないかしら』
『じゃあ、ばれないようにできるの?』
『無理があるわよね』
私がため息を吐くと、リリがふんっと鼻を鳴らす。
『ファンクだって、そうなるかもしれないってことくらいわかっていると思うわ』
『……そうね』
こんな悲しいことを好きな犬から話をされたくないわよね。ここは、嫌われている私が話をしたほうがいい。
『ありがとう、リリ。ちゃんと私の口からファンクに話すわ』
『じゃあ、わたしは見守っておくわね』
『ありがとう』
その後、散歩から帰って来たファンクに話をしたところ『そうなるだろうって思ってたんだ』と言ってからは、部屋の隅で丸まってしまった。
一匹にしてあげようかとも思ったけれど、いない間に自分を傷つけるような行為をしても良くない。そう思った私は、リリと一緒に部屋で大人しくしていると、ファンクのいびきが聞こえて来た。
いびきを聞いたリリは呆れていたけれど、私はひとまず胸をなでおろした。
*******
クランボ様が新しい犬を飼ったという情報はすぐに城内にも知れ渡り、ファンクを私が引き取ったことも周知の事実になった。リリがファンクを警戒していることもあり、ファンクには別に部屋を用意してもらい、彼の世話をしてくれるメイドはクランボ様からとばっちりでクビにされたメイドに決まった。
というのも、ファンクが彼女のことをとても優しいメイドだと、私に教えてくれたからだ。ファンクの面倒をよく見ていたからこそ、クランボ様は彼女に罪を擦り付けることができたのだと思う。
今回のことがあり、クランボ様に対する悪感情が貴族の間で広まった。
だって、ファンクを私に譲渡するんだもの。何かよっぽどの理由がない限り、飼い主はそんなことをしない。
それと同時期に両陛下はクランボ様には何も知らせず、友好国の国王陛下や王妃陛下に連絡を取った。
それは、しきたりのせいで不幸になる犬がいることをどうにかしなければならないという内容だった。多くの国の両陛下がそのことを疑問に感じていたようで、世界的な話し合いが行われることになった。
「クランボはかなり苦戦しているみたいだ」
ファンクが王城にやって来て、十日が経った頃、フェル殿下が私の部屋にやって来て、そう教えてくれた。
『クランボ様の犬は……』
『ジャーマンポテト』
念話したつもりではなかったのだけど、リリが答えてくれた。
クランボ様が新しく迎えたのは、ジャーマンシェパードだ。ジャーマンポテトというものが、どんなものかは分からないけれど、きっと食べ物なんでしょう。
どうして、リリはこんなに物知りなのかしら。犬同士のコミュニティがすごいってこと?
あとから確かめることにして、フェル殿下に尋ねる。
「ドッグトレーナーに躾を頼んでいないんですか?」
「ファンクを見てくれたドッグトレーナーが、もう仕事を辞めたんだ。それに、ファンクはクランボに喜んでもらいたくて必死に芸を覚えたんだと思う」
「新しい子はそうではないということですよね」
「君が何かしたのか?」
「……先日、クランボ様が雇っているメイドが彼を連れて挨拶しに来てくれたので、その時にクランボ様はこんな人だと伝えました」
「こんな人?」
フェル殿下が眉根を寄せて聞き返してきたので、苦笑して答える。
「ファンクの話をしたんです。そうしたら、そんな主人は嫌だって……。クランボ様が迎えた犬は、一見怖そうに見えますが、臆病なところもあるんです」
「臆病?」
「はい。人間でいう人見知りのような感じでしょうか。賢くて従順な子なんですけど、見知らぬ人や犬にはかなり警戒するようです。私と話す時もかなり警戒していましたが、まだ、クランボ様にも懐いていないので話を聞いてくれました」
ファンクの賢さを知っているクランボ様には、まだ若い犬は物足りないはずだ。
ファンクは大会では二位だった。そんな犬を手放したことをそろそろ後悔し始める頃でしょう。
「そうか。なら、クランボはファンクを返せと言ってくるかもしれないな」
フェル殿下も私と同じことを思ったようだった。
「私は絶対にファンクを返しません」
「わかってる。あと、クランボの新しい犬については、鳥たちに見張ってもらっているから心配しなくていい。クランボの部下にも何か気になることがあれば連絡するように伝えているし、クランボも犬が言うことを聞かなくてイライラしても、しばらくは大人しくしているはずだ」
フェル殿下はそこまで言い終えると、すっかり冷めてしまったお茶を一口飲んでから続ける。
「プロウス王国の件で話がある」
「何でしょうか」
また、私を返せとか言ってきたのかしら。
「まだ、非公式の話だから、公になるまで誰にも言わないでほしいんだが」
「……はい」
フェル殿下の表情が重いので不安になった。
何があったのかしら。
「クヤイズ殿下が殺された」
「……え?」
いつかは起こり得るものだとは思っていた。でも、実際にそんなことがあったと聞くと、驚きで言葉をなくしてしまった。
878
お気に入りに追加
2,686
あなたにおすすめの小説
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
辺境伯の夫は私よりも元娼婦を可愛がります。それなら私は弟様と組んで、あなたの悪事を暴きますね?
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢アシュリーは辺境伯ジャスパーの元へ嫁いだ。しかし夫ジャスパーはアシュリーに“友達”を用意したと言って、屋敷に元娼婦ワンダを住まわせていた。性悪のワンダはアシュリーに虐められたと嘘を吐き、夫はその言葉ばかりを信じて……やがてアシュリーは古城に幽閉されてしまう。彼女はそこで出会った夫の異母弟メレディスと手を組み、夫の悪事を暴き出す――
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
婚約者の断罪
玉響
恋愛
ミリアリア・ビバーナム伯爵令嬢には、最愛の人がいる。婚約者である、バイロン・ゼフィランサス侯爵令息だ。
見目麗しく、令嬢たちからの人気も高いバイロンはとても優しく、ミリアリアは幸せな日々を送っていた。
しかし、バイロンが別の令嬢と密会しているとの噂を耳にする。
親友のセシリア・モナルダ伯爵夫人に相談すると、気の強いセシリアは浮気現場を抑えて、懲らしめようと画策を始めるが………。
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
もうすぐ、お別れの時間です
夕立悠理
恋愛
──期限つきの恋だった。そんなの、わかってた、はずだったのに。
親友の代わりに、王太子の婚約者となった、レオーネ。けれど、親友の病は治り、婚約は解消される。その翌日、なぜか目覚めると、王太子が親友を見初めるパーティーの日まで、時間が巻き戻っていた。けれど、そのパーティーで、親友ではなくレオーネが見初められ──。王太子のことを信じたいけれど、信じられない。そんな想いにゆれるレオーネにずっと幼なじみだと思っていたアルロが告白し──!?
【完結】私よりも、病気(睡眠不足)になった幼馴染のことを大事にしている旦那が、嘘をついてまで居候させたいと言い出してきた件
よどら文鳥
恋愛
※あらすじにややネタバレ含みます
「ジューリア。そろそろ我が家にも執事が必要だと思うんだが」
旦那のダルムはそのように言っているが、本当の目的は執事を雇いたいわけではなかった。
彼の幼馴染のフェンフェンを家に招き入れたかっただけだったのだ。
しかし、ダルムのズル賢い喋りによって、『幼馴染は病気にかかってしまい助けてあげたい』という意味で捉えてしまう。
フェンフェンが家にやってきた時は確かに顔色が悪くてすぐにでも倒れそうな状態だった。
だが、彼女がこのような状況になってしまっていたのは理由があって……。
私は全てを知ったので、ダメな旦那とついに離婚をしたいと思うようになってしまった。
さて……誰に相談したら良いだろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる