21 / 30
20 守ってみせるわ
しおりを挟む
クランボ様は回復しきっていない状態ではあったけれど、誰かに手を借りるのが嫌らしく、一人で帰って行った。そんな彼を見送ってから、リリたちに話しかける。
「ありがとう、リリ。それから、フェル殿下を巻き込んでしまい申し訳ございませんでした」
「いや、巻き込んでくれて良かった。さっきの様子だと、無理やりファンクを連れ帰っていただろうから」
フェル殿下がなぜか言葉を途中で止めたので、不思議に思って尋ねる。
「どうかされましたか?」
「いや。リリがいたから、何とかなったかもしれないなと思ったんだ」
「……そうかもしれませんね」
二人でリリを見て微笑むと、リリは嬉しそうに尻尾を振る。
『なに? ビスケットくれるの?』
誤解させてしまったわね。
『ビスケットは部屋にあるから、後でご褒美にあげるわね』
『わーい!』
はしゃぐリリを見ながら、ファンクが私に尋ねてくる。
『ご主人はオレを嫌ったんだろうか』
『ごめんね。私はクランボ様と仲が良くないからわからないわ』
ファンクには悪いけど、クランボ様はあんなに情けない姿を見せたんだもの。あの姿を他の人に話さない代わりに、ファンクを引き受けると話をしても良かったかも。
そうすれば、クランボ様のプライドを傷つけることはできたし、ファンクを助けることもできた。
『ご主人はオレのことが嫌いになったのかな』
またファンクの声が聞こえたので、彼に目を向けると、項垂れた様子で今度はリリに話しかけていた。
『よくわからないけど、あのにんげん、嫌な奴じゃない。嫌われても気にしなくてもいいわよ』
『でも、オレにはご主人しかいないんだ……』
そうよね。ファンクにはクランボ様しかいないのよね。痛い目に遭っても、クランボ様を信じているファンクの忠誠心はすごいと思う。でも、暴力をふるうような人が相手なら、犬が主人を見限っても良いと思うのよね。
『ファンク、とにかく今日は私の部屋で寝なさい。それから……』
お医者様が来ると言ったら嫌がるわよね。リリもそうだけど、普通の犬は獣医さんが苦手だから、今は言わないでおきましょう。
私に話しかけられたファンクは、嬉しそうに尻尾を振る。
『え? リリちゃんと一緒に寝てもいいのか?』
『一緒にとは言っていないわ。でも、同じ部屋で眠って良いわよ』
『やったぁ!』
ファンクは顔を上げて、リリに飛びつこうとした。でも、予想はできていたのか、リリは素早くファンクから離れ、フェル殿下を盾にして避けた。
******
その後、ファンクを獣医さんに診てもらっている間に、私は部屋でフェル殿下と話をすることにした。
「ファンクを傷つけたのはクランボ様で間違いないのですが、彼は認めようとしませんでした」
「ファンクから聞いたと言っても、どうせ周りは信じないだろうしな」
「そうなんです。ファンクから聞いたと口にしたら、頭のおかしい人と思われてしまう可能性がありまして」
私の力がフェル殿下に信じてもらえたのも、彼自身が鳥と念話ができるからだもの。
「クランボが虐待をしていたという事実を掴まなければならないってことか」
「そうなんですが、クランボ様は虐待のことについて、私たちが感づいたことはわかっているでしょうから、そう簡単に尻尾を出さないはずです」
「今回の件も自分がやったことではないと言い張るつもりだな」
「そうだと思われます。きっと、メイドに罪を着せるはずです」
「メイドについては手を打とう。で、ナナリーにお願いしたいことがあるんだが」
「なんでしょうか」
尋ねると、フェル殿下は悲しげな表情になって答える。
「ファンクには可哀想だが、彼とクランボと引き離したい。ファンクを説得してくれないか」
「承知いたしました」
ファンクはクランボ様のことを本当に慕っている。簡単には説得できないだろうけど、彼のこれからのためにも頑張ってみましょう。
そう決めた次の日の朝、クランボ様から手紙が届いた。
そこには、メイドを昨日付けでクビにしたことと、一番優秀ではない犬はいらないし、改めて新しい犬を飼うので、ファンクを私に譲渡するという、飼い主がやることとは思えないことが書かれていた。
「信じられない」
メイドはフェル殿下が助けてくれるでしょうけれど、ファンクの譲渡については、飼い主の立場からしては許せない。ファンクを助けたかったので、どうにかしてそうする気ではあったけれど、向こうから言ってくるなんて。
多くの貴族は犬が好きで、賢くなくても大事な家族の一員で自分の家の犬が一番可愛いと思っている。当たり前だけど、世界には犬を好きじゃない人たちもたくさんいる。その人たちは賢い犬でなければ、自分たちにメリットがないのだからと家に迎えない。
だけど、クランボ様は違う。彼の中では犬は、自分を引き立てるためのものであって、ただの物なのだということがわかった。
クランボ様。
悪いけど、あなたがどんな犬を飼おうと、私が絶対にその犬をあなたから守ってみせるわ。
「ありがとう、リリ。それから、フェル殿下を巻き込んでしまい申し訳ございませんでした」
「いや、巻き込んでくれて良かった。さっきの様子だと、無理やりファンクを連れ帰っていただろうから」
フェル殿下がなぜか言葉を途中で止めたので、不思議に思って尋ねる。
「どうかされましたか?」
「いや。リリがいたから、何とかなったかもしれないなと思ったんだ」
「……そうかもしれませんね」
二人でリリを見て微笑むと、リリは嬉しそうに尻尾を振る。
『なに? ビスケットくれるの?』
誤解させてしまったわね。
『ビスケットは部屋にあるから、後でご褒美にあげるわね』
『わーい!』
はしゃぐリリを見ながら、ファンクが私に尋ねてくる。
『ご主人はオレを嫌ったんだろうか』
『ごめんね。私はクランボ様と仲が良くないからわからないわ』
ファンクには悪いけど、クランボ様はあんなに情けない姿を見せたんだもの。あの姿を他の人に話さない代わりに、ファンクを引き受けると話をしても良かったかも。
そうすれば、クランボ様のプライドを傷つけることはできたし、ファンクを助けることもできた。
『ご主人はオレのことが嫌いになったのかな』
またファンクの声が聞こえたので、彼に目を向けると、項垂れた様子で今度はリリに話しかけていた。
『よくわからないけど、あのにんげん、嫌な奴じゃない。嫌われても気にしなくてもいいわよ』
『でも、オレにはご主人しかいないんだ……』
そうよね。ファンクにはクランボ様しかいないのよね。痛い目に遭っても、クランボ様を信じているファンクの忠誠心はすごいと思う。でも、暴力をふるうような人が相手なら、犬が主人を見限っても良いと思うのよね。
『ファンク、とにかく今日は私の部屋で寝なさい。それから……』
お医者様が来ると言ったら嫌がるわよね。リリもそうだけど、普通の犬は獣医さんが苦手だから、今は言わないでおきましょう。
私に話しかけられたファンクは、嬉しそうに尻尾を振る。
『え? リリちゃんと一緒に寝てもいいのか?』
『一緒にとは言っていないわ。でも、同じ部屋で眠って良いわよ』
『やったぁ!』
ファンクは顔を上げて、リリに飛びつこうとした。でも、予想はできていたのか、リリは素早くファンクから離れ、フェル殿下を盾にして避けた。
******
その後、ファンクを獣医さんに診てもらっている間に、私は部屋でフェル殿下と話をすることにした。
「ファンクを傷つけたのはクランボ様で間違いないのですが、彼は認めようとしませんでした」
「ファンクから聞いたと言っても、どうせ周りは信じないだろうしな」
「そうなんです。ファンクから聞いたと口にしたら、頭のおかしい人と思われてしまう可能性がありまして」
私の力がフェル殿下に信じてもらえたのも、彼自身が鳥と念話ができるからだもの。
「クランボが虐待をしていたという事実を掴まなければならないってことか」
「そうなんですが、クランボ様は虐待のことについて、私たちが感づいたことはわかっているでしょうから、そう簡単に尻尾を出さないはずです」
「今回の件も自分がやったことではないと言い張るつもりだな」
「そうだと思われます。きっと、メイドに罪を着せるはずです」
「メイドについては手を打とう。で、ナナリーにお願いしたいことがあるんだが」
「なんでしょうか」
尋ねると、フェル殿下は悲しげな表情になって答える。
「ファンクには可哀想だが、彼とクランボと引き離したい。ファンクを説得してくれないか」
「承知いたしました」
ファンクはクランボ様のことを本当に慕っている。簡単には説得できないだろうけど、彼のこれからのためにも頑張ってみましょう。
そう決めた次の日の朝、クランボ様から手紙が届いた。
そこには、メイドを昨日付けでクビにしたことと、一番優秀ではない犬はいらないし、改めて新しい犬を飼うので、ファンクを私に譲渡するという、飼い主がやることとは思えないことが書かれていた。
「信じられない」
メイドはフェル殿下が助けてくれるでしょうけれど、ファンクの譲渡については、飼い主の立場からしては許せない。ファンクを助けたかったので、どうにかしてそうする気ではあったけれど、向こうから言ってくるなんて。
多くの貴族は犬が好きで、賢くなくても大事な家族の一員で自分の家の犬が一番可愛いと思っている。当たり前だけど、世界には犬を好きじゃない人たちもたくさんいる。その人たちは賢い犬でなければ、自分たちにメリットがないのだからと家に迎えない。
だけど、クランボ様は違う。彼の中では犬は、自分を引き立てるためのものであって、ただの物なのだということがわかった。
クランボ様。
悪いけど、あなたがどんな犬を飼おうと、私が絶対にその犬をあなたから守ってみせるわ。
865
お気に入りに追加
2,685
あなたにおすすめの小説
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
辺境伯の夫は私よりも元娼婦を可愛がります。それなら私は弟様と組んで、あなたの悪事を暴きますね?
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢アシュリーは辺境伯ジャスパーの元へ嫁いだ。しかし夫ジャスパーはアシュリーに“友達”を用意したと言って、屋敷に元娼婦ワンダを住まわせていた。性悪のワンダはアシュリーに虐められたと嘘を吐き、夫はその言葉ばかりを信じて……やがてアシュリーは古城に幽閉されてしまう。彼女はそこで出会った夫の異母弟メレディスと手を組み、夫の悪事を暴き出す――
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
婚約者の断罪
玉響
恋愛
ミリアリア・ビバーナム伯爵令嬢には、最愛の人がいる。婚約者である、バイロン・ゼフィランサス侯爵令息だ。
見目麗しく、令嬢たちからの人気も高いバイロンはとても優しく、ミリアリアは幸せな日々を送っていた。
しかし、バイロンが別の令嬢と密会しているとの噂を耳にする。
親友のセシリア・モナルダ伯爵夫人に相談すると、気の強いセシリアは浮気現場を抑えて、懲らしめようと画策を始めるが………。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
不妊を理由に離縁されて、うっかり妊娠して幸せになる話
七辻ゆゆ
恋愛
「妊娠できない」ではなく「妊娠しづらい」と診断されたのですが、王太子である夫にとってその違いは意味がなかったようです。
離縁されてのんびりしたり、お菓子づくりに協力したりしていたのですが、年下の彼とどうしてこんなことに!?
もうすぐ、お別れの時間です
夕立悠理
恋愛
──期限つきの恋だった。そんなの、わかってた、はずだったのに。
親友の代わりに、王太子の婚約者となった、レオーネ。けれど、親友の病は治り、婚約は解消される。その翌日、なぜか目覚めると、王太子が親友を見初めるパーティーの日まで、時間が巻き戻っていた。けれど、そのパーティーで、親友ではなくレオーネが見初められ──。王太子のことを信じたいけれど、信じられない。そんな想いにゆれるレオーネにずっと幼なじみだと思っていたアルロが告白し──!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる