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17  悪い奴だわ

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 リリをカンバーに見ていてもらい、私だけ部屋を出ると、ファンクは私に向かって吠える。

『別にお前に出てきてほしいなんて言ってない! リリちゃんを出せ!』
『リリはあなたに会うのを嫌がってるの。積極的すぎても良くないわ。何かされるんじゃないかと不安になるわ』
『嘘だ! お前は悪い奴なんだろう! 悪い奴の言うことなんて信じないぞ! リリちゃんに会わせろ!』

 ファンクは誰から私を悪い奴と聞いているのかしら。……って、一人しかいないわね。

『そうね。私は悪い奴だわ。でもね、リリと私は仲良しなのよ。リリは私の言うことを信じてくれるの。だから、ファンクは嫌な犬だと伝えておくわ』
『ちょ、ちょっと待ってくれよ』

 慌てるファンクに私は伝えておかないといけないことを話しておく。

『ファンク、近い内にあなたはたくさんの犬と会うことになって、色々とお願いされることになるわ。その時は、クランボ様の言うことを聞くのよ』
『言われなくても、オレはいつだってそうしてるよ!』

 ファンクが唸り始めると、部屋の中からカンバーの声が聞こえる。

『ナナリー殿、我が相手をしよう』
『……カンバーがいるのかよ!?』

 ファンクにも声が聞こえたようだった。ファンクはカンバーが苦手のようで、後退りする。

『今日のところは諦めてやる。でも、俺は諦めないからな!』
『ファンク! 他の子をいじめちゃだめよ! リリは乱暴な犬は嫌いだからね!』

 走り去っていくファンクに声をかけたけれど、振り返ることなく走っていった。部屋の中に戻って、リリとカンバーに話しかける。

『どんな犬でも分かりあえると思っていたけど、ファンクは難しいわ』
『まだ、ナナリー殿のことを下に見ているからだろう』
『そうね。クランボ様の飼い犬だから、私を下に見ていても、別にかまわないといえばかまわないけど……』

 ファンクはクランボ様のことが大好きみたいだから、彼を裏切るような行為はしないはず。問題になっている待てができるかについては、時間制限があるから、最悪、引き分けに持っていける。

 あとは自由に芸をするものもネックだけど、カンバーとフェル殿下なら大丈夫なはず。

『カンバー、あなたが辛いと思ったり、嫌だと思うことはさせたくないの。これから、フェル殿下と訓練することになると思うけど、本当に嫌なら私に伝えてちょうだい』
『我は主のためなら何でもできるぞ』
『わたしはナナリーのためなら、大好きなビスケットもあげられるわ!』 

 カンバーは躊躇う様子もなく、リリは聞かれてもいないのに尻尾を振りながら言った。

 リリが食べ物をくれるなんて、本当に私を信頼してくれているのね。

「ありがとう、リリ」

 声に出して感謝の気持ちを伝える。【ありがとう】という言葉が良いものだということは、リリも理解しているので、尻尾の振り具合が激しくなった。

『カンバーの気持ちも、フェル殿下に伝えておくわね』
『かたじけない。今度こそは絶対に負けないとも伝えてくれないか』
『わかったわ』

 その後はリリとカンバーを散歩に連れていき、そのまま、カンバーをフェル殿下のところに送り届けることにした。フェル殿下は仕事中だったけれど「ちょうど話したいことがあった」と言って、私たちを執務室に招きいれてくれた。

 リリとカンバーには遊んでいてもらい、私とフェル殿下は向かい合って話をする。

「何かあったのですか?」
「テグノ伯爵夫人だが、絶対に離婚はしないと言っているという話はしていたが、君に助けを求めるつもりらしい」
「私に?」
「ああ。夫人は君からテグノ伯爵に別れないように言ってほしいと連絡しようとしているようだ」
「そうなんですね。でも、私は何を言われても、テグノ伯爵に連絡をするつもりはありません。もし、夫人から連絡があった場合は、風の噂として、子供が生まれたら別れるなんて、無責任で最低な男だと流せば良いでしょうか」
「そうだな。わざわざ連絡してやる必要はない。それにしても、テグノ伯爵というのは、そんなに良い男なのか」

 不思議そうなフェル殿下に首を横に振って答える。

「執着するほどの男性だとは思えません。夫人の場合は離婚されてしまえば住むところがなくなるからではないでしょうか。それに、子供を自分で育てなければならなくなるのが嫌なのでしょう。伯爵家にいれば、使用人が面倒を見てくれますから」
「実家は彼女を受け入れるつもりはないのか?」
「公爵家は逆に縁を切りたがるのではないでしょうか。彼女を助けるということは、パゼリノ王国に目をつけられることはわかっているでしょうから」

 どうなるかはわからないけれど、伯爵夫人は夫に捨てられたら、クヤイズ殿下を頼るかもしれない。でも、クヤイズ殿下も自分の浮気は婚約者に知られたくないはず。きっと、クヤイズ殿下は彼女を見捨てるわね。浮気や不倫をした彼女は悪いけれど、お腹の赤ちゃんは関係ない。テグノ伯爵夫人が子供を愛してくれれば良いけど、子供のせいで自分の運命が狂ったと恨みかねない。

 両親が子供を守らないなら、第三者でも大人が守らなければならない。

 生まれてくるまでにまだ時間はあるため、テグノ伯爵のことを「無責任な男」だと私が批判している噂を流してもらうことにし、間近に迫って来た大会の話をフェル殿下とカンバーと一緒に打ち合わせることにした。


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