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13  価値観が合わない

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 イベントの準備を進めている間は、伝書鳩を使ってプロウス王国の獣医とやり取りをし、パゼリノ王国では公園内で犬たちと会話をして健康状態などを調べた。病院に行きたくないと訴える犬たちには心苦しかったけれど、少しでも元気に長生きしてほしいというのが私を含め、飼い主の願いでもあり我慢してもらった。

 手をまわしたことにより、ノウル様からの新聞での気持ち悪いメッセージはなくなった。そのかわり、イベントで私に会えるかもしれないと意気込んでいるらしい。テグノ伯爵夫人は獣医たちに相手にされないだけでなく、貴族からも相手にされなくなり、社交界では爪弾きにされている。
 訴訟問題は示談交渉中で、このこともあって、ノウル様は余計に夫人のことを嫌うようになったようだ。

 ノウル様は自分が悪いという自覚がないから余計にたちが悪い。
 自分がしたことを浮気だとまだ認めていないから、どうすれば浮気だとわかってもらえるのか考えていたら、王妃陛下から同じことをしたと言ってみたらどうかと言われた。

 私が同じことをしたと思った場合、ノウル様はどう受け止めるのか……。
 受け止め方によっては諦めてもらえるかもしれない。

 そう思った私は、フェル殿下に協力してもらうことにした。


******

 日にちは過ぎて、イベント開催日になった。公園には多くの人が集まり、犬と一緒に食べられる味付けしていない食べ物の出店がたくさん出ている。

 開催場所は私たちが散歩に使っている、いつもの公園で、国外から来た人のための注意事項の看板が新しく立てられた。

 思った以上に人が集まっているので、手荷物検査はしっかりとされ、入場前から暴れている犬には申し訳ないけれど、他の犬のために遠慮してもらうことになった。
 といっても、どの犬もドッグトレーナーによって躾をされているから、実際はそんなことは起きずに済んでいる。

 フェル殿下と私は仮設のテント内で護衛に囲まれつつ、犬のことで悩みがあるという飼い主の話を一人ずつ聞いていった。
 無料にすると冷やかしのような人が来てしまうので、有料にして真剣な悩みだった場合は後ほど返金することにした。

 お金のある貴族は、いずれ王太子妃になる私と話がしてみたいと言う理由だけでやって来ていたので、このままいけば必要経費が補えるだけでなく、利益も出そうだった。

 疲れが出始めたので休憩を取っていると、受付にいる兵士から、私に連絡があった。

「テグノ伯爵夫妻がお見えになっています」
「ありがとう」

 いよいよだ。
 
 フェル殿下と顔を見合わせて頷き合うと、休憩を終えて彼らの順番が来るまでは、相談者たちに集中することにした。

 そして、彼らの番がやって来た。

 あれだけ私のことを好きだと言っていたノウル様だから、私がいなくなって少しはやつれていたりするのかと思ったけど、肌艶も良く健康そうで、私を見て満面の笑みを浮かべた。

「ああ! 久しぶりだなナナリー!」
「お久しぶりです。テグノ伯爵」

 私が冷たい声で挨拶を返すと、ノウル様……ではなく、テグノ伯爵は悲しそうな顔をする。

「……怒っているよな。なかなか、迎えにこれないもんだから。でも、オレなりに頑張っているんだ」
「いいえ。迎えに来ていただかなくて結構です。パゼリノ王国はとても良い国です。ですから、ここに来る理由を作ってくださったテグノ伯爵には感謝しています」
「……やっぱり怒ってるじゃないか。オレのことをテグノ伯爵だなんて」

 この人、私の話をちゃんと聞いていないわね。

「おい。ナナリーはもうお前の妻じゃない。俺の婚約者なんだ。馴れ馴れしくするな」
「……申し訳ございません」

 フェル殿下に睨みつけられたテグノ伯爵は情けない顔になって、後ろへ下がる。

「……ナナリー様、お久しぶりでございます」
「お久しぶりですね。テグノ伯爵夫人」

 カーテシーをするテグノ伯爵夫人に微笑みかける。二人は犬を連れてきていないから、私に会いに来ただけらしい。あとで、二人の飼い犬のリチャに会いたいけど、どうにかならないかしら。

 と、考えていると、テグノ伯爵夫人が笑みを浮かべて話しかけてくる。

「こちらでの暮らしはいかがですか? 人質として大変な生活を送っているのでしょう?」

 テグノ伯爵は元気そうだけれど、伯爵夫人はどこか顔色が悪い。お腹も微かに膨らんできているので、彼女の状態が子供に悪影響がないか心配になった。

「私は快適な生活を送っていますのでご心配なく。ここに来てから、本当に幸せです。わざわざ私からテグノ伯爵をありがとうございます」
「な、何なんですか、その言い方は!」

 妊婦を興奮させるのは良くない。そう思い、彼女を無視してテグノ伯爵に話しかける。

「あなたが浮気をしたおかげで私はフェル殿下と結婚することができます。そのことを感謝しただけです。ですが、浮気はいけないことだということは忘れないでくださいませ」
「浮気がいけないことなんてわかってる!」

 テグノ伯爵はそう叫んだ。
 
 いけないこととわかっているなら、どうしてしたのよ。そういうところが嫌だ。

「浮気を感謝するものではないが、ナナリーを俺の妻にできるチャンスをくれてありがとう」

 フェル殿下が嫌味っぽく礼を言うと、テグノ伯爵は怒りで顔を真っ赤にする。

「フェル殿下、私は浮気なんてしていません!」
「本気でそんなことを言っているのか?」

 呆れた顔で聞き返すフェル殿下に、テグノ伯爵は自信満々の笑みを浮かべて答える。

「いいですか、フェル殿下。浮気というのは一人の人を愛するのではなく、他の人に心を移すことを言います。ですが、私は一度もナナリーから心が移ったことはありません!」
「なんですって!?」

 価値観が合わない。

 そう思って口を開こうとした時、私よりも早く、テグノ伯爵夫人が叫んだ。

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