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12 片付けないといけないわね
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多くの犬を集めて親交を深めるイベントは、パゼリノ王国では昔から行われていた。でも、国をまたがってというものはなかったため、大規模なものになると予想された。クランボ様から反対意見が出るかと思われたけど、そんなこともなく、イベントの開催はすんなりと決まった。
クランボ様にしてみれば、ファンクの優秀さを他国に知らしめることができるから、良いイベントのようだ。
これだけ聞くと、フェル殿下たちがどうして困っているのかと疑問になるけれど、イベントの件はフェル殿下の希望をクランボ様が認めたから問題がなかっただけだった。
パゼリノ王国では国での行事を決めるなど重大な事案は、議会で決めることになっていて多数決て決定される。クランボ様に睨まれたくない貴族は、パゼリノ王国で一番賢いと言われている犬を連れているクランボ様の意見に賛成するため、今は、どんなに間違っていたとしても、クランボ様の望む案しか通らなくなった。多数決にしたのは独裁政治にならないような配慮だけど、こうなってしまっては意味がない。
イベントをどんなものにするか、企画を考えるのは私とフェル殿下に決まったため、フェル殿下の執務室で色々と案を出し合うことになった。二人とも犬が好きなため、考えるのは苦にならず、案が大体まとまったところで、お茶休憩をすることになり、その時に疑問に思っていたことを聞いてみた。
「一番賢い犬というのは誰が決めるんでしょうか。それを決める大会があったりするんですか?」
「年に一度、どの犬が賢いのか決める大会が行われている。そういえば、プロウス王国ではそのような大会を聞いたことがないな」
「はい。プロウス王国では、そのような大会はありませんでした。茶会や夜会に犬を連れて行って、そこで自分の犬がどれだけ賢いか芸をさせたりして、その中で一番だと思われた子が口コミで広がっていました」
「そうか。で、リリはどうしていたんだ? そういう場には連れて行っていなかったのか?」
「結婚してすぐに開戦したため、夜会などは行われなくなったんです」
「そういうことか」
フェル殿下は納得すると、カンバーと一緒に足元に座っているリリを見て尋ねる。
「リリは大会に参加してみたいか?」
『なに? ねえ、ナナリー。フェルでんかは何の話をしているの?』
リリは自分に話しかけてくれていることはわかるけど、何を言っているのかわからないので、私を見上げた。リリはカンバーに恋してしまってから、彼の主人であるフェル殿下のことを名前で呼ぶようになっていた。というのも、カンバーが『主の名前はビスケット殿下ではない』とまじめに否定したからだ。
食いしん坊のリリだけど、恋の力というものは食欲よりも強いようだった。
『フェル殿下は、リリがこの国で一番賢い犬だと証明したいか聞いているの』
『別に興味はないかなぁ。それに、わたしは一番じゃないわ。一番はカンバーさまよ』
『そうね。そう言われればそうだわ』
『簡単に納得しないでよ! わたしも賢いのよ!』
『ごめんなさい。そうよね、リリはとっても賢いわ』
『ありがとう!』
尻尾をふるリリを見て、フェル殿下が尋ねてくる。
「リリはなんて?」
「賢いのはカンバーのほうだと言っています」
「それは間違ってない」
躊躇いもなく答えたから、フェル殿下も親バカなところがあるみたい。他の家の犬も可愛いと思うけど、やっぱり自分の犬が一番だと思うのは共通のことなのね。
「カンバーが賢いのは私も認めます。ですから、大会に出るならカンバーのほうが良いかと思うんですが……」
「そうなんだが、ファンクに負けたからな」
沈んだ表情になっているフェル殿下を見て、カンバーが心配そうに近寄る。
『主は何が悲しいんだ?』
フェル殿下はカンバーのような賢い犬が負けてしまったことを悔しいと思っているだけで悲しんでいるわけではない。だけど、カンバーにその複雑な気持ちが理解できるかわからないし、自分のせいだと思い込んではいけないので言葉を選ぶ。
『悲しんでいるんじゃないの。悔しいなと思うようなことを思い出しちゃっただけよ』
『そうか。でも、なんで悔しいんだ?』
カンバーに純粋な目で見つめられ、うまく言葉が返せなくなった私はフェル殿下に助けを求める。
「カンバーがどうして落ち込んでいるのか気にしています」
「ああ。落ち込んでいるように見えたのか」
フェル殿下は眉根を寄せると、上着の内ポケットから白い布を取り出した。その瞬間『『ジャーキーの匂い!』』
とリリとカンバーが同時に叫び、フェル殿下に襲い掛かるように飛び掛かった。リリだけかと思っていたけど、カンバーも大好物のジャーキーについては我慢できないみたいだ。フェル殿下はソファの上で二匹に押し倒された状態で「これが駄目だったんだ」と言った。
「どういうことですか?」
その後、大会の中で「どんな誘惑があっても待てができるか」という項目があったらしく、カンバーはジャーキーの誘惑に勝てず、ファンクに負けたのだと教えてくれた。
この状態だと、カンバーが出てもまた、ファンクに負けてしまう。ということは、ファンクの名誉を傷つけず、カンバーを一位にする方法を考えなければいけない。
……と、その前に、まずはノウル様とテグノ伯爵夫人を片付けないといけないわね。
クランボ様にしてみれば、ファンクの優秀さを他国に知らしめることができるから、良いイベントのようだ。
これだけ聞くと、フェル殿下たちがどうして困っているのかと疑問になるけれど、イベントの件はフェル殿下の希望をクランボ様が認めたから問題がなかっただけだった。
パゼリノ王国では国での行事を決めるなど重大な事案は、議会で決めることになっていて多数決て決定される。クランボ様に睨まれたくない貴族は、パゼリノ王国で一番賢いと言われている犬を連れているクランボ様の意見に賛成するため、今は、どんなに間違っていたとしても、クランボ様の望む案しか通らなくなった。多数決にしたのは独裁政治にならないような配慮だけど、こうなってしまっては意味がない。
イベントをどんなものにするか、企画を考えるのは私とフェル殿下に決まったため、フェル殿下の執務室で色々と案を出し合うことになった。二人とも犬が好きなため、考えるのは苦にならず、案が大体まとまったところで、お茶休憩をすることになり、その時に疑問に思っていたことを聞いてみた。
「一番賢い犬というのは誰が決めるんでしょうか。それを決める大会があったりするんですか?」
「年に一度、どの犬が賢いのか決める大会が行われている。そういえば、プロウス王国ではそのような大会を聞いたことがないな」
「はい。プロウス王国では、そのような大会はありませんでした。茶会や夜会に犬を連れて行って、そこで自分の犬がどれだけ賢いか芸をさせたりして、その中で一番だと思われた子が口コミで広がっていました」
「そうか。で、リリはどうしていたんだ? そういう場には連れて行っていなかったのか?」
「結婚してすぐに開戦したため、夜会などは行われなくなったんです」
「そういうことか」
フェル殿下は納得すると、カンバーと一緒に足元に座っているリリを見て尋ねる。
「リリは大会に参加してみたいか?」
『なに? ねえ、ナナリー。フェルでんかは何の話をしているの?』
リリは自分に話しかけてくれていることはわかるけど、何を言っているのかわからないので、私を見上げた。リリはカンバーに恋してしまってから、彼の主人であるフェル殿下のことを名前で呼ぶようになっていた。というのも、カンバーが『主の名前はビスケット殿下ではない』とまじめに否定したからだ。
食いしん坊のリリだけど、恋の力というものは食欲よりも強いようだった。
『フェル殿下は、リリがこの国で一番賢い犬だと証明したいか聞いているの』
『別に興味はないかなぁ。それに、わたしは一番じゃないわ。一番はカンバーさまよ』
『そうね。そう言われればそうだわ』
『簡単に納得しないでよ! わたしも賢いのよ!』
『ごめんなさい。そうよね、リリはとっても賢いわ』
『ありがとう!』
尻尾をふるリリを見て、フェル殿下が尋ねてくる。
「リリはなんて?」
「賢いのはカンバーのほうだと言っています」
「それは間違ってない」
躊躇いもなく答えたから、フェル殿下も親バカなところがあるみたい。他の家の犬も可愛いと思うけど、やっぱり自分の犬が一番だと思うのは共通のことなのね。
「カンバーが賢いのは私も認めます。ですから、大会に出るならカンバーのほうが良いかと思うんですが……」
「そうなんだが、ファンクに負けたからな」
沈んだ表情になっているフェル殿下を見て、カンバーが心配そうに近寄る。
『主は何が悲しいんだ?』
フェル殿下はカンバーのような賢い犬が負けてしまったことを悔しいと思っているだけで悲しんでいるわけではない。だけど、カンバーにその複雑な気持ちが理解できるかわからないし、自分のせいだと思い込んではいけないので言葉を選ぶ。
『悲しんでいるんじゃないの。悔しいなと思うようなことを思い出しちゃっただけよ』
『そうか。でも、なんで悔しいんだ?』
カンバーに純粋な目で見つめられ、うまく言葉が返せなくなった私はフェル殿下に助けを求める。
「カンバーがどうして落ち込んでいるのか気にしています」
「ああ。落ち込んでいるように見えたのか」
フェル殿下は眉根を寄せると、上着の内ポケットから白い布を取り出した。その瞬間『『ジャーキーの匂い!』』
とリリとカンバーが同時に叫び、フェル殿下に襲い掛かるように飛び掛かった。リリだけかと思っていたけど、カンバーも大好物のジャーキーについては我慢できないみたいだ。フェル殿下はソファの上で二匹に押し倒された状態で「これが駄目だったんだ」と言った。
「どういうことですか?」
その後、大会の中で「どんな誘惑があっても待てができるか」という項目があったらしく、カンバーはジャーキーの誘惑に勝てず、ファンクに負けたのだと教えてくれた。
この状態だと、カンバーが出てもまた、ファンクに負けてしまう。ということは、ファンクの名誉を傷つけず、カンバーを一位にする方法を考えなければいけない。
……と、その前に、まずはノウル様とテグノ伯爵夫人を片付けないといけないわね。
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