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10  絶対に無理ですから! ※途中で視点変更あり

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 フェル殿下が鳥たちを使って調べてくれたところ、やはり、ノウル様がメッセージを送っているということがわかった。
 新聞社に手を回して止めさせようかと思ったけど、それをすると私が読んだことがわかってしまう。そのため、夫人にその欄を見てもらって、彼女に止めてもらうことにした。
 夫人はノウル様があんな文章を送っているなんて知ったら、どんな反応をするのかしら。

 そして、それと同時にわかったことがあった。

 複数人の獣医がノウル様に私と何とか連絡が取れないかと言って訪ねてきているそうだ。訪ねてきていることは人間の監視役から教えてもらったけれど、話の内容は監視役では聞くことができず、鳥にお願いしていた。鳥には人間の話している内容が難しかったらしく、覚えてきた言葉は【ナナリー】【連絡】【助けてくれ】【わからない】だった。

「何を助けてくれなのか、何がわからないのか、予想はつくか?」

  報告しに来てくれたフェル殿下からの問いかけに、確実ではないと前置きしてから話す。

「動物に目に見えて異変があると病院に連れて行く人は多いんですけれど、目に見えないものについては人間ではわからないので、犬が痛みを覚えていても何だかわからないのです」
「内臓系の話ということか?」
「そうです。例えば、お腹が痛い。という場合、犬は人の言葉が話せないので、お腹が痛いと言葉では伝えられません。ですが、その場合は便がゆるいなどで気づくことができます。でも、他はわかりにくいんです。以前、たまたま散歩中に出会った犬から、胸が痛いと言われて、私は触診するふりをして、胸のあたりがなんだか変だと、今思えばよくそれで信じてもらえたなと思うようなことを言いました」
「ナナリーは犬に精通していることを知っているし、相手も犬を大事にしているから焦っただろうな」
「はい。すぐに病院に行ってくれて胸の検査をしてもらい、病気の早期発見ができたんです。そんなことがあってから、その話を聞いたお医者様にまでアドバイスを求められるようになったんです」
「今まで正確に病状を診断してくれていた君がいなくなって医者は困っているというわけか」

 納得してくれたフェル殿下に頷くと、カンバーが話しかけてくる。

『立ち話をするのなら、我々を散歩に連れて行ってくれないだろうか』
『さんぽ! 行きたいわ!』

 すっかりカンバーを気に入ったリリが同意する。

「フェル殿下、カンバーが散歩に行きたがっています。よろしければ、リリと一緒に連れて行こうと思うんですが」
「俺も行く」
「お仕事は良いのですか?」
「できなかった分は夜にまわせばいい。君との時間を優先する」
「……ありがとうございます」

 私の力を利用したいという面が強いのだろうけど、歩み寄ろうとしてくれているのはわかる。道具として使われるのではなく、人権を尊重して必要としてくれるのなら、私もフェル殿下のためにできることをしようと思った。

 散歩をしながら話すことになり、散歩コースの公園に向かう。

「そういえば、今の私はどのような扱いになっているのでしょうか」
「どのようなというのは?」
「伯爵夫人でしたが、離婚してしまったので貴族ではない状態なのかと思いまして……」
「そういうことか」

 フェル殿下は頷いてから答える。

「ナナリーに来てもらうと決めた時、君の両親に話をして許可を得ている。だから、君は子爵令嬢という立場だ」
「子爵令嬢が王太子妃になるなんて、国民が納得するでしょうか」
「リリよりも賢い子がそういるとは思えない」
「そうでした」

 賢い犬がいる家には一目置くのだから、多くの貴族は私に文句を言えない状態なのね。
 賢いという言葉をリリは覚えているから、反応して話しかけてくる。

『賢い? リリは賢いからビスケットくれる?』
『太るわよ』
『ナナリーは乙女心が本当にわからないんだから!』

  リリが文句を言うと、カンバーが反応する。

『たくさん食べる子は良いと思うぞ。でも、健康が一番大事だと我は思う。ナナリー殿も君のことを心配しているんだ』
『気を付けます!』

 リリはジョンに浮気された時に『もう恋なんてしない』と言っていたけど、すっかり、カンバーにお熱になってしいる。犬としての包容力があるだけでなく、人間には絶大な癒し効果がある、もふもふ感がたまらない。それにしても、カンバーの一人称は【われ】なのね。

 フェル殿下からカンバーは何歳なのかなど、詳しく聞こうかと目を向けた時、一羽の鳥が飛んでくるのが見えた。その鳥に気が付いたフェル殿下が腕を上げると、伝書鳩らしき鳩はフェル殿下の腕に停まった。

 鳩から教えてもらった内容をフェル殿下から聞いた私は驚いて聞き返す。

「テグノ伯爵夫人が私の代わりをしようとしているんですか?」
「ああ。君には負けないと言っているらしい」

 どうして、そんなことを言う状況になってるの? 
 というか、私の代わりなんて絶対に無理ですから!


◇◆◇◆◇◆◇
(ノウル視点)

 ナナリーがいなくなってから十日が過ぎた頃、我が家に獣医が訪ねて来るようになった。最初はどうして獣医がうちの家を訪ねて来たのか謎だったが、話を聞いてみてわかった。

「ナナリー様には本当に助けていただいていたんです」
「ナナリー様がいなくなったのは、この国にとって大きな損失です」

 やって来た獣医たちはそう話し、中にはオレを責めるものもいた。今、目の前にいる彼らもそうだった。

「あなたが馬鹿なことをしなければ、ナナリー様が他国に連れていかれることはなかったのに」
「あなたのやった行為は、ナナリー様のことがなくても国を潰す行為ですよ!」
「仕方がないだろう! あの時のオレには選択肢がなかったんだ! 恨むんなら、ナナリーを渡せと言ったパゼリノ王国の王太子を恨んでくれ!」

 オレが声を荒らげた時、話をしていたエントランスホールにテレサ様が現れた。

「一体、何の騒ぎですの?」
「オレのせいでナナリーが連れていかれたって言うんですよ!」
「まあ! どうしてそんなことを言うのでしょう! そんなにナナリー様に拘る必要がありますか?」

 テレサ様は獣医たちに質問したが、オレが代わりに答える。

「ナナリーが優れているからですよ」
「納得いきませんわ。ナナリー様がいなくてそんなに困っているというのであれば、わたくしがナナリー様の代わりになりましょう」
「そんなことできるわけがない!」
「いいえ。できますわ!」

 テレサ様は胸に手を当てて叫ぶ。

「ノウル様にお願いがあります」
「……なんでしょうか」
「わたくしにナナリー様の代わりが務まりましたら、綺麗さっぱり、ナナリー様のことを忘れてくださいませ!」
「……わかりました」
「ナナリー様には絶対に負けませんわ!」

 ナナリーの代わりをテレサ様ができるわけがない。わかっていたから、オレは躊躇うことなく頷いた。獣医たちは困惑した様子だったが、ナナリーの代わりをしてくれるのならそれで良いのだろう。
「用事ができましたら伺います」と言って去っていく。
 
 その時、いつの間にかエントランスホールに入っていた数匹の鳩が、人間たちに続いて外へ出ていくのが見えた。
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