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第22話 シルフィーの失敗

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 半ば強制的に朝食が用意されて、ゆっくり食べていますとシャワーを浴びてこられたのか、ライト様が少ししめった髪のままでダイニングルームに現れました。
 食事を続けている私を見て、ライト様が聞いてきます。

「もしかして待っててくれたのか?」
「先に食事はとらせていただいてますが、気になりまして勝手に待たせてもらいました」
「遅くなって悪かった」
 
 ライト様が席に着くのを待ってから、早速話しかけます。

「ビリーはどうなったのですか?」
「……何の事だ?」

 ライト様は知らないふりをされましたが、ここは正直に聞こえたという話をして教えてもらう事にします。

「声が聞こえておりました。ですから、ビリーが来ていた事は知っております。ビリーはライト様に何かご迷惑を…?」
「いや、ただ、彼は反省していないようだったから重い罰を…」

 なぜか、ライト様がしどろもどろになっている気がして首を傾げます。

「もしかして、ビリーを殺しました?」
「ち、違う! そこまではしてない」
「では、どうして焦っておられるんです? それくらいの罰を与えられたという事ですか?」

 見つめると、ライト様は食事の手を止めて眉間のシワを深くされました。
 
 どうやら当たっているみたいです。

「ビリーは反省していましたか?」
「…いや、そんな風には思えなかった」
「悔やんでいただけで悪かったとは思っていないように見えたという事でしょうか?」
「まあ、そうなるな」
「ライト様が与えた罰で、ビリーは反省して、もう私に関わってこない様になりますでしょうか?」
「いや、関わろうと思っても関われはしないだろうな」

 ライト様は私と視線を合わせようとしません。
 よっぽどキツい罰を与えようとされているようです。
 しかも、私にもう関われないようにしているようですから、どこかに閉じ込めるつもりでしょうか。

「ライト様、甘いと思われるかもしれませんが、私はビリーがちゃんと反省して、私には関わらず、これから真っ当な人生を歩んでいくというのであれば、一生続くような辛い罰を与えてほしいとは思っておりません」
「……わかったよ。改心したと思ったら自由にさせる。これでいいか?」
「お気持ちはとても有り難いのですが、やりすぎないで下さいと言っているだけです。ただでさえライト様は冷酷公爵と言われてるのですから、そのイメージを払拭していかなければなりません! もちろん、戦場とは切り離した形でです!」

 戦場では冷酷公爵と思われていた方が良い時もありますでしょうしね。

 ライト様が訝しげな表情で聞いてきます。

「かといって、ビリーに優しくしてやる必要はあるのか…?」
「そ、それはまあ、ないかもしれないですね」
「とにかく考えておくから心配するな」
「ライト様のお気持ちはとても嬉しいです。ですが、私の為にライト様の評判が悪くなるのも嫌なんです」
「君の為…?」

 ライト様は珍しく気の抜けた顔をして私に聞き返してきました。

「えっ!? あ、そうだと思ったのですが違ったのですね! 申し訳ございません! そ、そうですよね!」

 私の事を否定してくれていないとはいえ、ライト様だってビリーに私の周りをウロウロされると、ライト様の視界に入るから鬱陶しいのですよね!
 本当に私ったら、なんて自惚れた事を思ってしまったんでしょうか…!!

 ああ、穴があったら入りたいです…。

「……そうか、そういう事か」

 そう呟いたライト様の顔が急に耳まで赤くなってしまったので驚いてしまいます。

「どうかなさったのですか!?」
「あ、いや、何でもない。気にするな」
「気にしますよ! 大変です! ライト様、お熱があるんじゃないですか? 体調が悪いのにビリーの相手までしていただいて申し訳ございません」

 立ち上がって謝ると、ライト様が顔を赤くしたまま何度も首を横に振ります。

「体調は悪くない! 何だか恥ずかしくなっただけだから気にするな」
「恥ずかしくなった…? えっと、ビリーが義理の父親かと思うと…という事ですか?」
「違う。この話はとりあえず今は終わろう。で、今日の行きたいところは決まったのか?」
「あ、はい! ピクニックに行きませんか!? ジョージもいなくなりましたし、ビリーもいなくなったのであれば、安心してピクニックが出来ますよね!」

 笑顔で言うと、ライト様は顔が熱いのか手であおぎながらも頷いてくれたのでした。

 ライト様の顔色も正常に戻った為、安心してピクニックに行き、ライト様とはたくさんお話をして帰ってくるまではとても幸せでした。
 ですが、帰ってきた時には最悪な知らせが待っていました。

 難しい顔で出迎えてくれたテセマカさんが言うには、シルフィーの旦那さまから電報が届いており、シルフィーが危篤、妹に会いたがっていると書かれていました。

「これは、本当でしょうか…」
「いや、危篤というのは嘘だろう。彼女が病気だとは報告に上がってきていない」

 ライト様が私に答えてくれた時「旦那様、こちらを」と言って、テセマカさんがライト様に白くて小さなメモの様な紙を見せました。
 すると、ライト様の表情が険しいものに変わりました。

「どうかされましたか?」
「シルフィーは馬鹿なのか?」
「…どういう事でしょう?」

 首を傾げると、ライト様が言います。

「俺達が新婚旅行をするにあたって、この時期にしたのはどうしてだったか覚えているか?」
「はい。アバホカ陛下がこの国に来ているので、顔をあわせない為に、アバホカ陛下が出席されるパーティーに出ないようにする為でしたよね」

 テセマカさんがいるので、あれとは言わずにちゃんと名前を呼ぶと、ライト様は頷きます。

「そうだ。という事は他にも同じ事を考えないといけない奴がいるだろう?」
「もしかして、シルフィーの事ですか? 彼女はアバホカ陛下との婚約が嫌で逃げたのですから会えるわけがないはずです…」
「シルフィーはそれを忘れてパーティーに出席したみたいだぞ」
「ええ!?」

 想像もしていなかった言葉に、私は大きな声を上げてしまったのでした。
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