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第4話 アバホカ陛下とサヨナラ
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フローレンス様から聞いた話を確かめる為に、お兄様にお願いして人を使って調べてもらったところ、やはり姉と関わりがあった事がわかりました。
姉達はアッセルフェナムで名前や身分を買い、平民として暮らしていた様です。
ただ、侯爵時代の言動が抜けなかったせいか、地元の人達とはうまくいかず、何かトラブルが起きれば場所を移していたそうです。
お姉様に関しては、貴族が多く通う学園に寮暮らしをしながら半年間くらいになりますが通っていたらしく、フローレンス様とはそこで知り合った様です。
フローレンス様はどうしてもアーミテム公爵と結婚したくないらしく、アバホカ陛下に近付いたのは彼女の策略の様です。
妊娠までは考えていたのかはわかりませんが、妊娠までしないと陛下がのらりくらりと逃げてしまうと思ったのかもしれません。
「リーシャ! 嫁に行っちゃうって本当!?」
仕事中ではありましたが、陛下の愛人が3人揃って私の執務室にやって来られたので、仕事の手を止めて話をします。
「陛下からの命令なんです。何より他国に迷惑をかけたのですからしょうがありません。今まで大変お世話になりました」
「そんな寂しい事言わないでよ! それに陛下との婚約だって、あなたの姉のせいだったじゃない! リーシャばかりそんな目に合うなんておかしいわよ!」
有り難い事に陛下の愛人は私に好意的な人が多く、今いる3人は特に優しい人達で働き詰めの私を心配してくださる優しい人達しかいません。
陛下と結婚する事になっても、この3人となら良い関係を築いていけると思っていたので、さよならしなければいけないと思うと少し寂しくなります。
後継ぎもこの中の3人の方が生んでくだされば良いのに、なんて思っていたくらいですから。
3人共スレンダーな体型ではありますが、出るとこは出ていて引っ込んでほしいところは引っ込んでいるという、私からしてみれば理想の体型の持ち主な上に、三者三様の美人です。
身だしなみもきっちりされていて、私にしてみれば眩しすぎます。
「陛下がリーシャを嫁に出すだなんて信じられないわ」
「リーシャの為に私達がいるはずなのに…」
「ちょっとモナ! それは言うなって言われているでしょう! ごめんなさいね、リーシャ。でも、嫌だと言ったらいかなくてもいいかもしれないわ」
愛人の皆さんから口々に言われ、私は思わず眉根を寄せて言葉を返します。
「可愛がっている女性を他の人の所に嫁に出そうとしたりはしないでしょう。それに、今更お断りする事も出来ませんし」
「別に陛下を庇うわけじゃないんだけれど、陛下はリーシャの事を大事に思っていると思うの。だから手を出さなかったのよ。まあ、嫁に行かせようとしたのは行動としておかしいけれど…」
愛人の1人であるセミロングのストレートの黒髪を持つモナ様が教えて下さいましたが、私は首を横に振ります。
「大事だなんて思っておられませんよ。私の事は駒か何かだと思っておられます。処女だから面倒なので手を出さなかったとかとも言っておられましたよ」
「だからじゃないの。あなたに自分を好きになってもらってから手を出そうとしていたんじゃない? だから、結婚もしなかったのかもしれないわ。結婚したら初夜を迎えるから、必然的にあなたに手を出さないといけなくなるでしょう」
「たとえそうだったとしましても、他国に嫁に行けという時点でおかしくありませんか?」
「だから、おかしいと思うって言ってるじゃない!」
両拳を握りしめて言うモナさんに、金髪碧眼の清楚な美人のジェニーさんが言います。
「モナ、もう決まった事なんだからしょうがないわ。それにこのまま、この国にいたらリーシャは過労死してしまうかも。可哀想に…。少し見ない内にリーシャったら頬がこけてしまっているじゃない。顔色も良くないわ。だから、過労死といかなくても倒れてしまう前に国外へ出してあげる事が私達に出来る事なんじゃないかしら」
「そうね、そうかもしれないわね。陛下の自業自得だわ」
モナさんは頷くと、私に向かって言います。
「今やっている仕事を手伝うわ。私達もその内やらないといけなくなるでしょうしね」
「ありがとうございます!」
モナさん達は陛下と永年の愛人契約を交わされており、彼女達に与えられた権限を爵位で例えるとすれば侯爵家以上になる為、今までも私の仕事を何度か手伝ってくださったりしましたので、彼女達が協力してくれると聞くととても心強いです。
陛下が何を考えているかはわかりませんが、もう決まった事です。
正式にお付き合いして別れたりしているならまだしも、婚約者がいる上に、こんなに美人で優しい愛人達がいて、まだ遊んでいる陛下なんて結婚相手としては最悪です。
国の事は気になりますが、私だって幸せになる権利はあるはずです。
冷酷公爵であろうとも、殺されなければアバホカ陛下の嫁になるよりかはマシな気がします。
ただ、気になるのは隣国には私とメルガ兄様を捨てた家族がいるという事。
普通の人間なら、私に近付いてくる事はないかと思いますが、普通の人間ではありませんので不安です。
って、ウジウジしていてもしょうがありませんね!
とにかく、少しでも早く隣国に向かい、今回の件についてアッセルフェナムの国王陛下達にお詫びをしなくては…。
気持ちを切り替えて、モナさん達に仕事の指示をしてから、私が出国した際には今までに見て覚えてきた国の内情について、公表されている事以外は他言しないという誓約書を書いたのでした。
そして5日後、このまま仕事を続けていてもキリがなく、出発できないという事で私の出立の日時が決められ、それから10日後の今日、とうとう私は隣国へ旅立つ事になりました。
モナ様達に挨拶をしにいくついで、と言ってはなんですが、アバホカ陛下にもご挨拶に行かなかければならず、まずは陛下の部屋に向かう事にしました。
「陛下、今までありがとうございました」
部屋に入っても良いという許可が出ましたので中に入ると、今日は陛下とフローレンス様だけでなく、モナ様達、愛人の3人もいらっしゃいました。
「ありがとうございましたじゃねぇよ。本当に行く気かよ」
「本当に行くと言っているじゃありませんか。では、フローレンス様もお元気で」
陛下とフローレンス様への挨拶は簡単に済ませて、モナ様達の方に顔を向けます。
「皆様のおかげで頑張ってこられました。本当にありがとうございました」
「リーシャ、私達の事、忘れないでね!」
「隣国に行ったらゆっくり休まないと駄目よ!」
「落ち着いたら家に呼んでよね! 幸せになって!」
モナ様達と円を組んで別れを惜しんでいると、陛下が叫びます。
「待て! 絶対に行かせないからな!」
「はい?」
聞き返したのは私だけでなく、陛下以外の全員でした。
「リーシャは俺の婚約者だって言ってんだろ!」
「婚約破棄していただきましたが?」
「だから、それはお前が素直に助けてって言わねぇからだろ!」
「助けを求めるつもりはございません。元々は陛下が愛していらっしゃるフローレンス様の代わりに嫁に行くんです。陛下とフローレンス様がせめて清い交際であったなら、ここまで物事は大きくならなかったでしょう」
陛下に向き直ってからそう告げると、なぜか陛下は私の両腕をつかんで言います。
「本当に妊娠なんてさせるつもりはなかったんだ! 子供はお前としか考えてなかったんだよ!」
「何を言ってらっしゃるんですか?」
背の高い陛下に対し、女性でいえば平均身長くらいの背丈の私ですから威圧感をすごく感じますので、彼から何とか距離を保とうとしながら見上げて聞くと、陛下は必死に訴えてきます。
「こんな事になるとは思ってなかったんだよ! そんなにお前は俺が嫌なのか!? 俺はお前がやせ細っていくのが心配で!」
「ですから陛下、何を言おうとしていらっしゃるのか全くわかりません!」
腕を払いたくてもこちらはやせ細っている事もあり力はなく、陛下の腕の力も強すぎる事もあって無理です。
モナ様達も陛下を止めようとしてくださいましたが、罵声を浴びせるだけで埒が明きません。
しょうがないので、部屋の外で待機しているシーンウッドに助けを求めます。
「シーンウッド! 騎士の方を呼んで来てください!」
「承知しました!」
「――シーンウッド、シーンウッドって! うるせぇんだよ!」
突然、陛下が怒りだしたかと思うと、私の左頬を平手打ちしました。
頬をおさえて陛下の方に顔を向けた時、フローレンス様が視界に入り、私は動きを止めました。
なぜなら、彼女はそれはもう嬉しそうな笑みを浮かべて私を見ていたからです。
最低な女性ですね…。
「陛下!! なんて事を…っ!」
「リーシャ!!」
モナ様達が悲鳴に近い声を上げて、私の所へ駆け寄ってきてくださいました。
「勝手にしろや! 隣国へでもどこへでも行けばいいだろ! どうせこの国に帰ってくる事になるだろうけどな!」
モナ様達を押しのけて私の腕をつかみ部屋の外に追い出してからそう叫ぶと、私が何か言い返す前に勢いよく扉が閉められたのでした。
姉達はアッセルフェナムで名前や身分を買い、平民として暮らしていた様です。
ただ、侯爵時代の言動が抜けなかったせいか、地元の人達とはうまくいかず、何かトラブルが起きれば場所を移していたそうです。
お姉様に関しては、貴族が多く通う学園に寮暮らしをしながら半年間くらいになりますが通っていたらしく、フローレンス様とはそこで知り合った様です。
フローレンス様はどうしてもアーミテム公爵と結婚したくないらしく、アバホカ陛下に近付いたのは彼女の策略の様です。
妊娠までは考えていたのかはわかりませんが、妊娠までしないと陛下がのらりくらりと逃げてしまうと思ったのかもしれません。
「リーシャ! 嫁に行っちゃうって本当!?」
仕事中ではありましたが、陛下の愛人が3人揃って私の執務室にやって来られたので、仕事の手を止めて話をします。
「陛下からの命令なんです。何より他国に迷惑をかけたのですからしょうがありません。今まで大変お世話になりました」
「そんな寂しい事言わないでよ! それに陛下との婚約だって、あなたの姉のせいだったじゃない! リーシャばかりそんな目に合うなんておかしいわよ!」
有り難い事に陛下の愛人は私に好意的な人が多く、今いる3人は特に優しい人達で働き詰めの私を心配してくださる優しい人達しかいません。
陛下と結婚する事になっても、この3人となら良い関係を築いていけると思っていたので、さよならしなければいけないと思うと少し寂しくなります。
後継ぎもこの中の3人の方が生んでくだされば良いのに、なんて思っていたくらいですから。
3人共スレンダーな体型ではありますが、出るとこは出ていて引っ込んでほしいところは引っ込んでいるという、私からしてみれば理想の体型の持ち主な上に、三者三様の美人です。
身だしなみもきっちりされていて、私にしてみれば眩しすぎます。
「陛下がリーシャを嫁に出すだなんて信じられないわ」
「リーシャの為に私達がいるはずなのに…」
「ちょっとモナ! それは言うなって言われているでしょう! ごめんなさいね、リーシャ。でも、嫌だと言ったらいかなくてもいいかもしれないわ」
愛人の皆さんから口々に言われ、私は思わず眉根を寄せて言葉を返します。
「可愛がっている女性を他の人の所に嫁に出そうとしたりはしないでしょう。それに、今更お断りする事も出来ませんし」
「別に陛下を庇うわけじゃないんだけれど、陛下はリーシャの事を大事に思っていると思うの。だから手を出さなかったのよ。まあ、嫁に行かせようとしたのは行動としておかしいけれど…」
愛人の1人であるセミロングのストレートの黒髪を持つモナ様が教えて下さいましたが、私は首を横に振ります。
「大事だなんて思っておられませんよ。私の事は駒か何かだと思っておられます。処女だから面倒なので手を出さなかったとかとも言っておられましたよ」
「だからじゃないの。あなたに自分を好きになってもらってから手を出そうとしていたんじゃない? だから、結婚もしなかったのかもしれないわ。結婚したら初夜を迎えるから、必然的にあなたに手を出さないといけなくなるでしょう」
「たとえそうだったとしましても、他国に嫁に行けという時点でおかしくありませんか?」
「だから、おかしいと思うって言ってるじゃない!」
両拳を握りしめて言うモナさんに、金髪碧眼の清楚な美人のジェニーさんが言います。
「モナ、もう決まった事なんだからしょうがないわ。それにこのまま、この国にいたらリーシャは過労死してしまうかも。可哀想に…。少し見ない内にリーシャったら頬がこけてしまっているじゃない。顔色も良くないわ。だから、過労死といかなくても倒れてしまう前に国外へ出してあげる事が私達に出来る事なんじゃないかしら」
「そうね、そうかもしれないわね。陛下の自業自得だわ」
モナさんは頷くと、私に向かって言います。
「今やっている仕事を手伝うわ。私達もその内やらないといけなくなるでしょうしね」
「ありがとうございます!」
モナさん達は陛下と永年の愛人契約を交わされており、彼女達に与えられた権限を爵位で例えるとすれば侯爵家以上になる為、今までも私の仕事を何度か手伝ってくださったりしましたので、彼女達が協力してくれると聞くととても心強いです。
陛下が何を考えているかはわかりませんが、もう決まった事です。
正式にお付き合いして別れたりしているならまだしも、婚約者がいる上に、こんなに美人で優しい愛人達がいて、まだ遊んでいる陛下なんて結婚相手としては最悪です。
国の事は気になりますが、私だって幸せになる権利はあるはずです。
冷酷公爵であろうとも、殺されなければアバホカ陛下の嫁になるよりかはマシな気がします。
ただ、気になるのは隣国には私とメルガ兄様を捨てた家族がいるという事。
普通の人間なら、私に近付いてくる事はないかと思いますが、普通の人間ではありませんので不安です。
って、ウジウジしていてもしょうがありませんね!
とにかく、少しでも早く隣国に向かい、今回の件についてアッセルフェナムの国王陛下達にお詫びをしなくては…。
気持ちを切り替えて、モナさん達に仕事の指示をしてから、私が出国した際には今までに見て覚えてきた国の内情について、公表されている事以外は他言しないという誓約書を書いたのでした。
そして5日後、このまま仕事を続けていてもキリがなく、出発できないという事で私の出立の日時が決められ、それから10日後の今日、とうとう私は隣国へ旅立つ事になりました。
モナ様達に挨拶をしにいくついで、と言ってはなんですが、アバホカ陛下にもご挨拶に行かなかければならず、まずは陛下の部屋に向かう事にしました。
「陛下、今までありがとうございました」
部屋に入っても良いという許可が出ましたので中に入ると、今日は陛下とフローレンス様だけでなく、モナ様達、愛人の3人もいらっしゃいました。
「ありがとうございましたじゃねぇよ。本当に行く気かよ」
「本当に行くと言っているじゃありませんか。では、フローレンス様もお元気で」
陛下とフローレンス様への挨拶は簡単に済ませて、モナ様達の方に顔を向けます。
「皆様のおかげで頑張ってこられました。本当にありがとうございました」
「リーシャ、私達の事、忘れないでね!」
「隣国に行ったらゆっくり休まないと駄目よ!」
「落ち着いたら家に呼んでよね! 幸せになって!」
モナ様達と円を組んで別れを惜しんでいると、陛下が叫びます。
「待て! 絶対に行かせないからな!」
「はい?」
聞き返したのは私だけでなく、陛下以外の全員でした。
「リーシャは俺の婚約者だって言ってんだろ!」
「婚約破棄していただきましたが?」
「だから、それはお前が素直に助けてって言わねぇからだろ!」
「助けを求めるつもりはございません。元々は陛下が愛していらっしゃるフローレンス様の代わりに嫁に行くんです。陛下とフローレンス様がせめて清い交際であったなら、ここまで物事は大きくならなかったでしょう」
陛下に向き直ってからそう告げると、なぜか陛下は私の両腕をつかんで言います。
「本当に妊娠なんてさせるつもりはなかったんだ! 子供はお前としか考えてなかったんだよ!」
「何を言ってらっしゃるんですか?」
背の高い陛下に対し、女性でいえば平均身長くらいの背丈の私ですから威圧感をすごく感じますので、彼から何とか距離を保とうとしながら見上げて聞くと、陛下は必死に訴えてきます。
「こんな事になるとは思ってなかったんだよ! そんなにお前は俺が嫌なのか!? 俺はお前がやせ細っていくのが心配で!」
「ですから陛下、何を言おうとしていらっしゃるのか全くわかりません!」
腕を払いたくてもこちらはやせ細っている事もあり力はなく、陛下の腕の力も強すぎる事もあって無理です。
モナ様達も陛下を止めようとしてくださいましたが、罵声を浴びせるだけで埒が明きません。
しょうがないので、部屋の外で待機しているシーンウッドに助けを求めます。
「シーンウッド! 騎士の方を呼んで来てください!」
「承知しました!」
「――シーンウッド、シーンウッドって! うるせぇんだよ!」
突然、陛下が怒りだしたかと思うと、私の左頬を平手打ちしました。
頬をおさえて陛下の方に顔を向けた時、フローレンス様が視界に入り、私は動きを止めました。
なぜなら、彼女はそれはもう嬉しそうな笑みを浮かべて私を見ていたからです。
最低な女性ですね…。
「陛下!! なんて事を…っ!」
「リーシャ!!」
モナ様達が悲鳴に近い声を上げて、私の所へ駆け寄ってきてくださいました。
「勝手にしろや! 隣国へでもどこへでも行けばいいだろ! どうせこの国に帰ってくる事になるだろうけどな!」
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