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プロローグ
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とある日の夜更け、ノーウィン家の屋敷内にいる、ほとんどの人間が眠りについていた。
「嫌よ! ジョージ! 私はあんな人のところに嫁ぎたくありません! あなたと一緒にいたい!」
「シルフィー、ああ、なんて可哀想なシルフィー! 僕だって君をあんな男に渡したくない! そうだ! 僕と一緒に逃げよう! 君となら僕はどこにだって行けるよ!」
「ジョージ…! ああ! 出来れば私だってそうしたいわ! だけど、そんな事をしたら、お母様やお父様に迷惑をかけてしまうし二度と会えなくなってしまうわ!」
「駄目よ、シルフィー! あなたは私にとって、たった1人の可愛い娘なのよ! 会えなくなるだなんて駄目よ! 私達から離れていかないで!」
「そうだ! シルフィーがいなければ、私達は生きていたって何の意味もない!」
シルフィーという名の見目麗しい若い女と、その恋人らしきジョージという名の中肉中背の目鼻立ちの整った若い男が寄り添ってソファーに座り、そして、テーブルをはさんだ向かい側にシルフィーの両親らしき身なりの良い中年の男女が並んで座っていた。
彼女達は皆、一様に重苦しい表情を浮かべている。
「でも、お父様とお母様が一緒に来るわけにはいかないでしょう?」
「……あのね、シルフィー。アバホカ様はあの子を気に入ってるんじゃないかと思うのよ」
「あの子って…まさか!?」
シルフィーの母はシルフィーに優しく微笑んでから首を縦に振って答える。
「リーシャよ。リーシャをアバホカ様に渡しましょう! きっとアバホカ様は彼女を嫁にすると言ってくださるわ!」
「いらない子だと思っていたが、役に立つ日が来るとはな」
何がおかしいのか、シルフィーの父は大声で笑ってから続ける。
「リーシャをシルフィーの身代わりにしよう。リーシャをこの家に置き去りにして、私達4人で逃げるんだ」
「ノーウィン侯爵、リーシャを身代わりにするのなら逃げなくても良いのでは?」
「リーシャでは駄目だと言われた時に困るだろう」
「それにノーウィン侯爵家はどうなるんです!? ノルガ様のことだって!」
ジョージの質問にシルフィーの父は答える。
「有り金は全部持っていくつもりだが、逃げている内に金も尽きるだろう。その時に帰ってくる場所も必要だから、ノルガは後継ぎとして置いていこう。あいつもリーシャと同じで可愛げがないし、旅には連れて行きたくない。いない方がせいせいする。何よりあいつの事だ。付いてこようともしないだろう」
「そうだわ! リーシャがアバホカ様と結婚したら特赦を求めて帰ってくる事にしたらどうかしら?」
シルフィーは目を輝かせて言った母の言葉に首を横に振る。
「そんなの駄目よ。リーシャが私達を恨んでいたら捕まってしまうかもしれないじゃない。それに、私達4人で暮らせるなら、どこにいても幸せなはずよ。そう思わない?」
シルフィーが微笑むと、他の3人も微笑む。
そして、これからの事を改めて話しあった。
「隣国のアッセルフェナムに逃げよう。良い田舎町を知っている。まさか侯爵家の人間がそんな田舎に逃げてくるだなんて思わないだろう」
「お父様が一緒に逃げて下さるなんて、本当に心強いわ」
「可愛いシルフィーの為だからな」
愛娘の言葉に父は頬を緩ませた。
「僕は初めからリーシャとの結婚なんて気は進まなかったんだ。幸せになろうね、シルフィー」
「ええ。あなたやお父様達が一緒なら、私はどんな時でも幸せだけどね。ノルガとリーシャには悪いけれど、私達が幸せになら許してくれるわよね?」
ジョージに抱きしめられたシルフィーは彼の胸に頬を寄せた。
「リーシャは何の役にも立たない子だと思っていたけれど、この為に私達に神様はあの子を授けたのね」
「そうだな」
シルフィー達の向かいに座っている彼女の両親達も寄り添って微笑みあった。
この時の4人は自分達の未来は幸せなものだと思いこんでいた。
しかし、現実はそう甘くない事を知る事になる。
この5年後に自分達がリーシャに頼らなければならなくなるだなんて事は思いもしていなかった。
そして、物語は5年後のリーシャ視点で始まる。
「嫌よ! ジョージ! 私はあんな人のところに嫁ぎたくありません! あなたと一緒にいたい!」
「シルフィー、ああ、なんて可哀想なシルフィー! 僕だって君をあんな男に渡したくない! そうだ! 僕と一緒に逃げよう! 君となら僕はどこにだって行けるよ!」
「ジョージ…! ああ! 出来れば私だってそうしたいわ! だけど、そんな事をしたら、お母様やお父様に迷惑をかけてしまうし二度と会えなくなってしまうわ!」
「駄目よ、シルフィー! あなたは私にとって、たった1人の可愛い娘なのよ! 会えなくなるだなんて駄目よ! 私達から離れていかないで!」
「そうだ! シルフィーがいなければ、私達は生きていたって何の意味もない!」
シルフィーという名の見目麗しい若い女と、その恋人らしきジョージという名の中肉中背の目鼻立ちの整った若い男が寄り添ってソファーに座り、そして、テーブルをはさんだ向かい側にシルフィーの両親らしき身なりの良い中年の男女が並んで座っていた。
彼女達は皆、一様に重苦しい表情を浮かべている。
「でも、お父様とお母様が一緒に来るわけにはいかないでしょう?」
「……あのね、シルフィー。アバホカ様はあの子を気に入ってるんじゃないかと思うのよ」
「あの子って…まさか!?」
シルフィーの母はシルフィーに優しく微笑んでから首を縦に振って答える。
「リーシャよ。リーシャをアバホカ様に渡しましょう! きっとアバホカ様は彼女を嫁にすると言ってくださるわ!」
「いらない子だと思っていたが、役に立つ日が来るとはな」
何がおかしいのか、シルフィーの父は大声で笑ってから続ける。
「リーシャをシルフィーの身代わりにしよう。リーシャをこの家に置き去りにして、私達4人で逃げるんだ」
「ノーウィン侯爵、リーシャを身代わりにするのなら逃げなくても良いのでは?」
「リーシャでは駄目だと言われた時に困るだろう」
「それにノーウィン侯爵家はどうなるんです!? ノルガ様のことだって!」
ジョージの質問にシルフィーの父は答える。
「有り金は全部持っていくつもりだが、逃げている内に金も尽きるだろう。その時に帰ってくる場所も必要だから、ノルガは後継ぎとして置いていこう。あいつもリーシャと同じで可愛げがないし、旅には連れて行きたくない。いない方がせいせいする。何よりあいつの事だ。付いてこようともしないだろう」
「そうだわ! リーシャがアバホカ様と結婚したら特赦を求めて帰ってくる事にしたらどうかしら?」
シルフィーは目を輝かせて言った母の言葉に首を横に振る。
「そんなの駄目よ。リーシャが私達を恨んでいたら捕まってしまうかもしれないじゃない。それに、私達4人で暮らせるなら、どこにいても幸せなはずよ。そう思わない?」
シルフィーが微笑むと、他の3人も微笑む。
そして、これからの事を改めて話しあった。
「隣国のアッセルフェナムに逃げよう。良い田舎町を知っている。まさか侯爵家の人間がそんな田舎に逃げてくるだなんて思わないだろう」
「お父様が一緒に逃げて下さるなんて、本当に心強いわ」
「可愛いシルフィーの為だからな」
愛娘の言葉に父は頬を緩ませた。
「僕は初めからリーシャとの結婚なんて気は進まなかったんだ。幸せになろうね、シルフィー」
「ええ。あなたやお父様達が一緒なら、私はどんな時でも幸せだけどね。ノルガとリーシャには悪いけれど、私達が幸せになら許してくれるわよね?」
ジョージに抱きしめられたシルフィーは彼の胸に頬を寄せた。
「リーシャは何の役にも立たない子だと思っていたけれど、この為に私達に神様はあの子を授けたのね」
「そうだな」
シルフィー達の向かいに座っている彼女の両親達も寄り添って微笑みあった。
この時の4人は自分達の未来は幸せなものだと思いこんでいた。
しかし、現実はそう甘くない事を知る事になる。
この5年後に自分達がリーシャに頼らなければならなくなるだなんて事は思いもしていなかった。
そして、物語は5年後のリーシャ視点で始まる。
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