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第二部
2 元夫の新しい妻
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その日の晩は魔法によって燃えてしまった部分の消火や怪我人を治癒したりと、慌ただしく時間が過ぎた。
一段落ついた時には朝になっていた。
エルは夜型に戻っていたので、夜中の内に手紙を送って連絡を取ったら、すぐにこちらに来てくれた。
城の寮からシトロフ家まではそう遠くないのは助かった。
様子を見に来てくれたエルは、私たちの代わりに怯えているミレイを、彼女が眠りにつくまで見てくれていた。
ミレイをお母様に預けたあと、エルが詳しい話を求めてきたので、レイロとの会話を話すと、エルは眉根を寄せた。
「兄さんは一体何を考えてるんだ」
「よくわからないけど、ミレイを連れて行こうとしていたわ。奥さんが子供が嫌いなのに、どうしてミレイを連れて行こうとしたのかしら」
「兄さんの好みじゃないんじゃないか?」
「……どういうこと?」
どうして、それがミレイを引き取る理由になるのかわからない。
「その妻っていうのは、兄さんが命からがら逃げ延びたあとに出会った女性なんだろう」
「たぶんね」
「助けてもらった恩で結婚してるのかもな」
「そんなことで結婚するかしら。お姉様との時はあれだけ嫌がっていたのに」
それに、どうして今のタイミングで現れたのかしら。
何か理由があるはずだわ。
エルがため息を吐いたあとに口を開く。
「ミレイはショックを受けてた」
「それはそうでしょうね。死んだと思っていた父親が部屋にやって来るんだもの」
「最初はおばけが出たのかと思ったって言ってたよ」
「でしょうね」
「……考えたんだが、ミレイは俺が預かったほうが良いかもしれない」
「どういうこと?」
「俺なら絶対に兄さんに勝てる」
それは絶対に間違いない。
たとえ、レイロの実力がエルを上回っていたとしても、エルが負けるはずがない。
レイロはエルには手を出せないんだから。
だけど、問題がある。
「レイロ一人だけなら勝てるでしょうけど、レイロの嫁が出てきたら、あなた一人では厳しいと思うわ。攻撃魔法が使えるみたいだから」
「嫁のことだが、兄さん、ああ、もう、兄じゃないな。奴がミレイに嫁の名前を言ってたらしくて、それで今、該当しそうな人間を当たってもらってる」
「何ていう名前なの?」
「ティルシーって呼んでたらしい」
「ティルシー?」
聞いたことのあるような名前だわ。
社交場で聞いたんじゃなくて、誰かとの雑談で聞いた覚えがある。
「知ってるのか?」
「聞いたことがあるような気がする。しかも、かなり前に」
結局、この時の私はティルシーが誰だか、思い出すことはできなかった。
******
その日の昼過ぎに、ティルシーという名前の女性についての報告が上がってきた。
名前はティルシー・ブライトン。
5年前、隣国で幼い子供を複数人殺害した罪で終身刑が言い渡されていた。
刑務所に向かう途中、彼女の乗った馬車が何ものかの襲撃にあい、彼女は行方不明になっていた。
そして、昨日、彼女らしき人物が片腕のない男と歩いていたという目撃情報が王都で相次いだため、厳戒態勢がしかれることになった。
彼女が何をしたかというと、複数の友人と共に酒場で飲み会をしたのはいいものの、友人たちが連れてきていた幼い子供たちが店内で暴れ始めたことが気に食わず、次々と魔法で焼き殺したのだという。
そんな人と結婚したのにミレイを連れて行こうとしていただなんて――
結婚したと言っていたから、ティルシーも外では違う名前を名乗っている可能性が高い。
誰かを殺して成り代わっているのかもしれないわね。
「アイミー」
部屋でこれからどう対応していくかを考えていると、お母様がやって来て、私に白い封筒を差し出した。
「エイミーから手紙が届いているわ」
「……レイロの話を聞いたんですね」
礼を言って、お母様から封筒を受け取り、封を切って中身を読む。
そこには、『レイロのことで協力したいから会いに来てほしい』と書かれていた。
一段落ついた時には朝になっていた。
エルは夜型に戻っていたので、夜中の内に手紙を送って連絡を取ったら、すぐにこちらに来てくれた。
城の寮からシトロフ家まではそう遠くないのは助かった。
様子を見に来てくれたエルは、私たちの代わりに怯えているミレイを、彼女が眠りにつくまで見てくれていた。
ミレイをお母様に預けたあと、エルが詳しい話を求めてきたので、レイロとの会話を話すと、エルは眉根を寄せた。
「兄さんは一体何を考えてるんだ」
「よくわからないけど、ミレイを連れて行こうとしていたわ。奥さんが子供が嫌いなのに、どうしてミレイを連れて行こうとしたのかしら」
「兄さんの好みじゃないんじゃないか?」
「……どういうこと?」
どうして、それがミレイを引き取る理由になるのかわからない。
「その妻っていうのは、兄さんが命からがら逃げ延びたあとに出会った女性なんだろう」
「たぶんね」
「助けてもらった恩で結婚してるのかもな」
「そんなことで結婚するかしら。お姉様との時はあれだけ嫌がっていたのに」
それに、どうして今のタイミングで現れたのかしら。
何か理由があるはずだわ。
エルがため息を吐いたあとに口を開く。
「ミレイはショックを受けてた」
「それはそうでしょうね。死んだと思っていた父親が部屋にやって来るんだもの」
「最初はおばけが出たのかと思ったって言ってたよ」
「でしょうね」
「……考えたんだが、ミレイは俺が預かったほうが良いかもしれない」
「どういうこと?」
「俺なら絶対に兄さんに勝てる」
それは絶対に間違いない。
たとえ、レイロの実力がエルを上回っていたとしても、エルが負けるはずがない。
レイロはエルには手を出せないんだから。
だけど、問題がある。
「レイロ一人だけなら勝てるでしょうけど、レイロの嫁が出てきたら、あなた一人では厳しいと思うわ。攻撃魔法が使えるみたいだから」
「嫁のことだが、兄さん、ああ、もう、兄じゃないな。奴がミレイに嫁の名前を言ってたらしくて、それで今、該当しそうな人間を当たってもらってる」
「何ていう名前なの?」
「ティルシーって呼んでたらしい」
「ティルシー?」
聞いたことのあるような名前だわ。
社交場で聞いたんじゃなくて、誰かとの雑談で聞いた覚えがある。
「知ってるのか?」
「聞いたことがあるような気がする。しかも、かなり前に」
結局、この時の私はティルシーが誰だか、思い出すことはできなかった。
******
その日の昼過ぎに、ティルシーという名前の女性についての報告が上がってきた。
名前はティルシー・ブライトン。
5年前、隣国で幼い子供を複数人殺害した罪で終身刑が言い渡されていた。
刑務所に向かう途中、彼女の乗った馬車が何ものかの襲撃にあい、彼女は行方不明になっていた。
そして、昨日、彼女らしき人物が片腕のない男と歩いていたという目撃情報が王都で相次いだため、厳戒態勢がしかれることになった。
彼女が何をしたかというと、複数の友人と共に酒場で飲み会をしたのはいいものの、友人たちが連れてきていた幼い子供たちが店内で暴れ始めたことが気に食わず、次々と魔法で焼き殺したのだという。
そんな人と結婚したのにミレイを連れて行こうとしていただなんて――
結婚したと言っていたから、ティルシーも外では違う名前を名乗っている可能性が高い。
誰かを殺して成り代わっているのかもしれないわね。
「アイミー」
部屋でこれからどう対応していくかを考えていると、お母様がやって来て、私に白い封筒を差し出した。
「エイミーから手紙が届いているわ」
「……レイロの話を聞いたんですね」
礼を言って、お母様から封筒を受け取り、封を切って中身を読む。
そこには、『レイロのことで協力したいから会いに来てほしい』と書かれていた。
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