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24 悲しみと恨み

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 レイロはお姉様に無理やり転移魔法で連れて行かれたと主張した。
 お姉様が自分が連れて行ったのだと証言したことや、多くの目撃者がいたことで、レイロは脱走兵としての罪は免れた。
 でも、私への殺意をエルたちに見られていたので、お咎め無しとはいかなかった。

 宿営地近くには魔物の死体が放置されたままになっている。
 放っておけば死体が腐り始めて衛生上良くない。
 すでに異臭を放っていて、処理することを嫌がる兵士が多かった。
 そのため、レイロは魔物の死体を焼却場で焼く仕事を命じられた。

 最初、レイロはその命令を拒否しようとした。
 でも、エルに胸ぐらを掴まれて叱責されると大人しくなり、素直に命令に従うことにしたそうだ。

 かといって、レイロは信用できない。
 逃げ出す可能性もあるためレイロには監視が付けられることになった。
 逃げても追跡魔法で見つけられる。
 でも、そのことはレイロに伝えていなかった。

 そんなことは言わなくてもわかっているだろうと思い込んでいた。

 レイロと共に逃げ出す可能性があったので、お姉様は強制的に王都に帰らされた。

 お姉様が敵に回ると厄介なため、現在はお父様が入れられた、あの檻の中にいるらしい。

 その案を出したのが国王陛下だと言うのだから、何か考えがあるのかもしれない。

 私も帰るべきかと考えた。
 でも、回復魔法を使える人が今回の戦いで犠牲になったり、オーバーワークで次々と倒れてしまった。
 
 お姉様の魔力がなくても多くの人を助けられるということで、私は宿営地に残る許可が下り、何かあった時のために待機していた。

 宿営地での二日目の晩、エルと夕食をとることになったので、隣に座る彼に聞いてみる。

「魔物はもう襲ってこないかしら」
「たぶん。でも、まだ残党はいるらしいから、一人で遠くに行くなよ」
「子供じゃないんだから大丈夫よ」
「大人でも危ないから言ってるんだ」

 呆れた顔でエルはそう言うと、話題を戻す。

「アイミーが光の魔法をかけてくれた時、ボスらしき大型の魔物の命や範囲外にいた魔物は仕留められてなかったんだ」
「ごめんなさい」
「嫌な意味で言ったんじゃない」
 
 エルは私の額を小突くと話を続ける。

「大型の魔物にとどめを刺したら、一気に雑魚たちは戦意を喪失して逃げ帰っていった。今、他のチームが確認してる途中だが、魔物は少し離れた森の中に一部が残っているだけで、多くはルーンル王国から離れて行ってるらしい」
「……じゃあ、もう長かった戦争も終わるのね」
「ああ。手紙が無駄になって良かったな」

 戦地に向かう前に、後方支援のメンバーも含め、騎兵隊たちは家族や大事な人に伝えておきたいことを手紙に書いておくことになっている。

 生きている内に伝えられなかったこと、自分の死後にこうしてほしいなど、人によって書くことは違う。

 レイロはなんて書いているのかしら。

 私のことは本当は好きじゃなかった。
 エルと結婚させないために私と結婚したのだと書いてあるんだろうか。

「アイミー?」
「ごめんなさい。少しぼんやりしてたわ。エルは何て書いてたの?」
「……それは、その、何となくわかるだろ」

 頬を染め、視線を彷徨わせるエルを見て微笑む。

「私のことを書いてるの?」
「……うん」

 今はまだ、エルの気持ちを受け入れる気にはなれない。
 エルのことは大好きだけど、恋愛とは違う。
 仲間たちや後方支援の数少ない女性たちからは「付き合ってみないとわからない」なんて言われているから、ちょっと揺れていることは確かだ。

 だけど、まだ恋愛する気にはなれないというか、怖い。

 レイロのことを十年以上も好きだった。
 夫婦になって、それが愛に変わったと思っていた。
 あんな最低な人を好きだった自分が嫌だ。

 レイロが私をエルの恋人にさせたくないのは、自分の本性を見抜けなかったからかしら。
 彼が認めるような女性は、レイロの上辺だけの態度に騙されたりはしないんでしょうね。

 レイロのことを思い出したからか、彼が真面目に仕事をしているのか気になった。

 そして、気が付いた。

「レイロが近くにいないわ」
「何だって?」

 レイロは昼間だと魔物がはっきり見えるから気持ちが悪いと言って、夜に動くことを望んだ。

 今、彼は宿営地の近くの焼却場で火の中に魔物の死体を投げ入れているはずだ。

 それなのに、レイロが遠ざかっている気がする。

「監視がいるはずだが、一応、見に行こう」
「ええ」

 食事を中断し、急いでエルと共にレイロがいるはずの場所に向かって走った。

 焼却場の大きな焚き火の近くで、15,6歳くらいの少年が一人で立ち尽くしていた。

「レイロはどこへ行ったの? 監視役はあなた一人?」
 
 近づいて話しかけると、少年は私とエルを見て怯えた顔をした。
 でも、すぐに私からの質問に答える。

「皆は今、レイロ様を連れ戻しに行っています」
「追いかける? レイロが逃げたの?」

 聞き返すと、まだあどけなさの残る少年は涙を流しながら話し始める。

「……俺の兄ちゃんは第11騎兵隊に所属してました。……レイロ様たちが馬鹿なことをしてる間に、俺の兄ちゃんは死んだんですっ」
「ごめんなさい」
「すまない」

 私とエルが謝ると、少年は服の袖で涙を拭きながら、勢い良く首を横に振る。

「お二人のことを悪いだなんて思ってませんっ! だけど、どうしても、レイロ様たちのことが許せなくてっ! レイロ様たちが馬鹿なことをしなければ、2日前だってアイミー様がこの場所にいてくれたんだ!」

 この子は私が戦場にいなかった本当の理由を知らない。
 私が帰還したのは、レイロたちが来たからだと公には発表されている。
 でも、レイロとお姉様が浮気をしなければ、こんなことになっていないのも確かだ。

「許せない気持ちはわかるわ。悲しいことを思い出させてしまってごめんなさい」
「違う、違うんですっ! 俺、俺っ、うっ、えっ、レ、レイロ様に嘘をつきました」
「……どんな嘘をついたの?」

 嗚咽を上げる少年に尋ねると、彼はとある方向を指差す。

「レイロ様がこんなことはやってられない。魔物がいない森はどっちだって聞いてきたからっ! あっちって……っ! 俺、答えたんですっ」
「あっちって……」

 彼が指差した先は、まだ魔物が多く残っている森の方向だった。

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