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12 仮定の話
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エルに頼まれた仲間たちは、自分たちもお姉様に会いたくないといって、話を聞いた当初は行くことを嫌がった。
「迷惑なのはわかってるわ。皆が行きたくないなら私が行っても良いか騎士団長に聞いてみる。嫌な気持ちにさせてしまってごめんね」
私が謝ると、皆か困ったように顔を見合わせたあと、くじ引きで決めるから私は行かなくても良いと言ってくれた。
エルに命令してもらっても良いんだけど、今回は個人的なものであって任務ではない。
彼らには関係ないことをお願いするのだから、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
くじ引きで決まった二人には、必ずお礼をすると約束して見送ったあと、事務処理をするテントに行き、いらない紙をもらってお姉様に返事をする。
『死にたくないのであれば来ないでください。今、こちらは死傷者だらけで、あなたにかまう余裕はありません』
走り書きの汚い文字だ。
これでやって来ようとするなら、お姉様は本当に馬鹿だわ。
お腹に子供がいる人のやることではない。
引き返してくれることを祈っていると、エルと後方支援の副リーダーであるフェインが近づいてきた。
「ちょっといいか」
「どうかしたの?」
「フェインがアイミーと俺に話したいことがあるってさ」
「……どんなこと?」
フェインの表情がいつもよりも暗い気がして心配になって尋ねると、フェインは小声で言う。
「あまり、人に聞かれたくない話なんです」
「……わかったわ。移動しましょう」
よっぽどのことだと思って、テントがある場所から少し離れた場所に移動すると、フェインが暗い表情のままで話し始めた。
「こんなことを聞いて良いのかわからないんですけど、もし、エイミー様がもっと早くにレイロ様のことが好きだと言っていたら、アイミー様はどうするおつもりだったんですか?」
「え? そんなこといきなり聞かれても困るわ」
少し考えてから、頭に浮かんだ答えを話す。
「私にはどうにもできないから、両親に相談していたと思うわ。だって、その時にはお姉様には婚約者がいたんだもの」
「でも、婚約者がいるというのはアイミー様とレイロ様が結婚しても同じですよね」
「それはそうだけど、一体何が言いたいの? はっきり言ってよ」
語気を強めると、フェインは困った顔になった。
フェインが何を言おうとしているのかわからない。
中々話し出さない彼に困惑していると、エルも苛ついた様子で急かす。
「何で、そんなことを聞くのか俺も気になるから、早く言えよ」
「すみません。あの……、おかしいと思ったからです」
「「おかしい?」」
私とエルの声が重なった。
フェインは苦笑して頷くと、疑問を口にする。
「どうしてエイミー様は今まで黙っていたのに、突然、レイロ様が好きだったなんて言い出したのでしょうか」
「……ごめんなさい。あなたが何を言おうとしているのか、まだわからないわ」
「だって、おかしいじゃないですか。わざわざ結婚してから言い出すだなんて」
「私が呑気に結婚したから苛立ったとかじゃないの?」
何が問題なのかわからない。
幸せそうな私たちを見て羨ましくなり、余計に第二王子との結婚が嫌になっただけじゃないの?
そう思って言ってみたけど、フェインは納得しない。
「その可能性もありますけど、エイミー様はレイロ様のことをずっと好きだったんですよね。それなら、結婚が決まった時に誘惑していてもおかしくないと思うんです」
「……そうね。好きな人が自分以外の人と結婚するなんて辛いから、奪いたいと思うかもしれない」
「ではなぜ、そうしなかったんでしょうか」
「ちょ、ちょっと待て。まさか、エイミーと兄さんの関係は結婚前からかもしれないとか言うんじゃないだろうな」
エルが眉根を寄せて尋ねると、フェインは頷く。
「そのまさかというか、それは、本人に聞いてみないとわかりません。でも、エイミー様は昔から密かにレイロ様にアタックしていたけど相手にされなかった。だから、子供を生めば振り向いてくれると思ったのではないでしょうか」
「そうだとしたら、レイロはどうして結婚後にお姉様と関係を持ったの? 同じように断れば良かったじゃないの」
「それが謎なんです」
結婚前から関係を持っていた可能性があると言われたみたいで、正直に言うとショックだった。
――駄目よ。
こんなことで動揺して、未練があるように思われてしまったら嫌だもの。
「フェイン、悪いけど、もう今となってはどうだって良いの。お姉様とレイロの間に何かあったとしても、もう私には関係ない。気にかけてくれるのはありがたいし、お姉様のことを思い出させるようなことになったのは私が悪いと思ってる。だけど、私はもうお姉様のこともレイロのことも忘れて、今、どうしたら多くの人を助けて、自分も生き残れるかを考えたいの」
フェインは私の話を聞いて納得したように頷くと「すみません。忘れてください」と言って去っていった。
結局、フェインが何を言いたかったのかはっきりしないまま終わり、その点についてはモヤモヤする。
「一体、何を言おうとしていたのかしら」
「絶対とは言えねぇけど、エイミーに気をつけろと言いたかったんじゃないのか?」
「どうして、はっきりと言ってくれないのよ」
「普通の人間は、あなたのお姉さんはやばいです。近づかないほうが良いですよ。なんて、実の妹に言わないんだよ」
「そ、そう言われたらそうかもしれないわね」
その後はエルと一緒に怪我人のいるテントに戻り、怪我人に回復魔法をかけて、疲れたら眠ったり食事をするを繰り返して、次の日の朝を迎えた。
*****
「……ミー! アイミー!」
エルの声がテントの外から聞こえて、慌てて飛び起きた。
空はまだ薄暗いから、早朝といったところだ。
そんな時間に起こしに来るのだから、よっぽどのことだと思い、ぐしゃぐしゃの服や髪をそのままにして外に出た。
「何かあったの!?」
「エイミーが来た」
「……え? どういうこと?」
「追い返しに行かせた奴らと合流する前に陣痛が来たらしい。エイミーは念の為を思って転移の魔導具を持っていて、屋敷には帰らずにこっちに飛んできたんだと。屋敷に帰ったら、アイミーに会わせてもらえないから嫌だと言ってる。今、出産経験のある人や医師がエイミーの様子を見てくれているけど、アイミーを呼べってうるさいんだ」
どうして、自分の子供よりも自分のことを優先するのよ!
「エル、お願いがあるんだけど」
「何だ?」
「お姉様に伝えてほしいの。どうしても私と話がしたいならしてあげる。だけど、無事に子供が生まれてからじゃないと話はしないって言って」
「わかった。……あと、昨日の話を俺なりに考えてみたんだけどな」
「フェインの話?」
「ああ。フェインが起きたら確認するつもりだが、もしかして、あいつが言いたかったのは、エイミーは兄さんを繋ぎ止めるための道具にするために子供を生むつもりなんじゃないかって思ったんじゃねぇかな」
「何ですって?」
「昨日も別の話で言ったけど、実の妹にそんなことを言って良いのかわからないから言えなかったのかもしれないかと思ったんだ」
エルの言っていることが正しいような気がして、私の感情が黒く染まるのを感じた。
「アイミー! 落ち着いてくれ。フェインはお前がそんな感情を持つことを望んでなかったんだと思う」
エルに言われて気付いた。
そうだわ。
きっと、フェインはこうなってほしくなかったから躊躇したんだわ。
「……ありがとう、エル」
大きく深呼吸して笑顔を作ると、エルはホッとしたような顔になった。
「迷惑なのはわかってるわ。皆が行きたくないなら私が行っても良いか騎士団長に聞いてみる。嫌な気持ちにさせてしまってごめんね」
私が謝ると、皆か困ったように顔を見合わせたあと、くじ引きで決めるから私は行かなくても良いと言ってくれた。
エルに命令してもらっても良いんだけど、今回は個人的なものであって任務ではない。
彼らには関係ないことをお願いするのだから、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
くじ引きで決まった二人には、必ずお礼をすると約束して見送ったあと、事務処理をするテントに行き、いらない紙をもらってお姉様に返事をする。
『死にたくないのであれば来ないでください。今、こちらは死傷者だらけで、あなたにかまう余裕はありません』
走り書きの汚い文字だ。
これでやって来ようとするなら、お姉様は本当に馬鹿だわ。
お腹に子供がいる人のやることではない。
引き返してくれることを祈っていると、エルと後方支援の副リーダーであるフェインが近づいてきた。
「ちょっといいか」
「どうかしたの?」
「フェインがアイミーと俺に話したいことがあるってさ」
「……どんなこと?」
フェインの表情がいつもよりも暗い気がして心配になって尋ねると、フェインは小声で言う。
「あまり、人に聞かれたくない話なんです」
「……わかったわ。移動しましょう」
よっぽどのことだと思って、テントがある場所から少し離れた場所に移動すると、フェインが暗い表情のままで話し始めた。
「こんなことを聞いて良いのかわからないんですけど、もし、エイミー様がもっと早くにレイロ様のことが好きだと言っていたら、アイミー様はどうするおつもりだったんですか?」
「え? そんなこといきなり聞かれても困るわ」
少し考えてから、頭に浮かんだ答えを話す。
「私にはどうにもできないから、両親に相談していたと思うわ。だって、その時にはお姉様には婚約者がいたんだもの」
「でも、婚約者がいるというのはアイミー様とレイロ様が結婚しても同じですよね」
「それはそうだけど、一体何が言いたいの? はっきり言ってよ」
語気を強めると、フェインは困った顔になった。
フェインが何を言おうとしているのかわからない。
中々話し出さない彼に困惑していると、エルも苛ついた様子で急かす。
「何で、そんなことを聞くのか俺も気になるから、早く言えよ」
「すみません。あの……、おかしいと思ったからです」
「「おかしい?」」
私とエルの声が重なった。
フェインは苦笑して頷くと、疑問を口にする。
「どうしてエイミー様は今まで黙っていたのに、突然、レイロ様が好きだったなんて言い出したのでしょうか」
「……ごめんなさい。あなたが何を言おうとしているのか、まだわからないわ」
「だって、おかしいじゃないですか。わざわざ結婚してから言い出すだなんて」
「私が呑気に結婚したから苛立ったとかじゃないの?」
何が問題なのかわからない。
幸せそうな私たちを見て羨ましくなり、余計に第二王子との結婚が嫌になっただけじゃないの?
そう思って言ってみたけど、フェインは納得しない。
「その可能性もありますけど、エイミー様はレイロ様のことをずっと好きだったんですよね。それなら、結婚が決まった時に誘惑していてもおかしくないと思うんです」
「……そうね。好きな人が自分以外の人と結婚するなんて辛いから、奪いたいと思うかもしれない」
「ではなぜ、そうしなかったんでしょうか」
「ちょ、ちょっと待て。まさか、エイミーと兄さんの関係は結婚前からかもしれないとか言うんじゃないだろうな」
エルが眉根を寄せて尋ねると、フェインは頷く。
「そのまさかというか、それは、本人に聞いてみないとわかりません。でも、エイミー様は昔から密かにレイロ様にアタックしていたけど相手にされなかった。だから、子供を生めば振り向いてくれると思ったのではないでしょうか」
「そうだとしたら、レイロはどうして結婚後にお姉様と関係を持ったの? 同じように断れば良かったじゃないの」
「それが謎なんです」
結婚前から関係を持っていた可能性があると言われたみたいで、正直に言うとショックだった。
――駄目よ。
こんなことで動揺して、未練があるように思われてしまったら嫌だもの。
「フェイン、悪いけど、もう今となってはどうだって良いの。お姉様とレイロの間に何かあったとしても、もう私には関係ない。気にかけてくれるのはありがたいし、お姉様のことを思い出させるようなことになったのは私が悪いと思ってる。だけど、私はもうお姉様のこともレイロのことも忘れて、今、どうしたら多くの人を助けて、自分も生き残れるかを考えたいの」
フェインは私の話を聞いて納得したように頷くと「すみません。忘れてください」と言って去っていった。
結局、フェインが何を言いたかったのかはっきりしないまま終わり、その点についてはモヤモヤする。
「一体、何を言おうとしていたのかしら」
「絶対とは言えねぇけど、エイミーに気をつけろと言いたかったんじゃないのか?」
「どうして、はっきりと言ってくれないのよ」
「普通の人間は、あなたのお姉さんはやばいです。近づかないほうが良いですよ。なんて、実の妹に言わないんだよ」
「そ、そう言われたらそうかもしれないわね」
その後はエルと一緒に怪我人のいるテントに戻り、怪我人に回復魔法をかけて、疲れたら眠ったり食事をするを繰り返して、次の日の朝を迎えた。
*****
「……ミー! アイミー!」
エルの声がテントの外から聞こえて、慌てて飛び起きた。
空はまだ薄暗いから、早朝といったところだ。
そんな時間に起こしに来るのだから、よっぽどのことだと思い、ぐしゃぐしゃの服や髪をそのままにして外に出た。
「何かあったの!?」
「エイミーが来た」
「……え? どういうこと?」
「追い返しに行かせた奴らと合流する前に陣痛が来たらしい。エイミーは念の為を思って転移の魔導具を持っていて、屋敷には帰らずにこっちに飛んできたんだと。屋敷に帰ったら、アイミーに会わせてもらえないから嫌だと言ってる。今、出産経験のある人や医師がエイミーの様子を見てくれているけど、アイミーを呼べってうるさいんだ」
どうして、自分の子供よりも自分のことを優先するのよ!
「エル、お願いがあるんだけど」
「何だ?」
「お姉様に伝えてほしいの。どうしても私と話がしたいならしてあげる。だけど、無事に子供が生まれてからじゃないと話はしないって言って」
「わかった。……あと、昨日の話を俺なりに考えてみたんだけどな」
「フェインの話?」
「ああ。フェインが起きたら確認するつもりだが、もしかして、あいつが言いたかったのは、エイミーは兄さんを繋ぎ止めるための道具にするために子供を生むつもりなんじゃないかって思ったんじゃねぇかな」
「何ですって?」
「昨日も別の話で言ったけど、実の妹にそんなことを言って良いのかわからないから言えなかったのかもしれないかと思ったんだ」
エルの言っていることが正しいような気がして、私の感情が黒く染まるのを感じた。
「アイミー! 落ち着いてくれ。フェインはお前がそんな感情を持つことを望んでなかったんだと思う」
エルに言われて気付いた。
そうだわ。
きっと、フェインはこうなってほしくなかったから躊躇したんだわ。
「……ありがとう、エル」
大きく深呼吸して笑顔を作ると、エルはホッとしたような顔になった。
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