【第二部連載中】あなたの愛なんて信じない

風見ゆうみ

文字の大きさ
上 下
13 / 31

12 仮定の話

しおりを挟む
 エルに頼まれた仲間たちは、自分たちもお姉様に会いたくないといって、話を聞いた当初は行くことを嫌がった。

「迷惑なのはわかってるわ。皆が行きたくないなら私が行っても良いか騎士団長に聞いてみる。嫌な気持ちにさせてしまってごめんね」

 私が謝ると、皆は困ったように顔を見合わせたあと、くじ引きで決めるから私は行かなくても良いと言ってくれた。

 エルに命令してもらっても良いんだけど、今回は個人的なものであって任務ではない。
 彼らには関係ないことをお願いするのだから、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 くじ引きで決まった二人には、必ずお礼をすると約束して見送ったあと、事務処理をするテントに行き、いらない紙をもらってお姉様に返事をする。

『死にたくないのであれば来ないでください。今、こちらは死傷者だらけで、あなたにかまう余裕はありません』

 走り書きの汚い文字だ。

 これでやって来ようとするなら、お姉様は本当に馬鹿だわ。
 お腹に子供がいる人のやることではない。

 引き返してくれることを祈っていると、エルと後方支援の副リーダーであるフェインが近づいてきた。

「ちょっといいか」
「どうかしたの?」
「フェインがアイミーと俺に話したいことがあるってさ」
「……どんなこと?」

 フェインの表情がいつもよりも暗い気がして心配になって尋ねると、フェインは小声で言う。

「あまり、人に聞かれたくない話なんです」
「……わかったわ。移動しましょう」

 よっぽどのことだと思って、テントがある場所から少し離れた場所に移動すると、フェインが暗い表情のままで話し始めた。

「こんなことを聞いて良いのかわからないんですけど、もし、エイミー様がもっと早くにレイロ様のことが好きだと言っていたら、アイミー様はどうするおつもりだったんですか?」
「え? そんなこといきなり聞かれても困るわ」

 少し考えてから、頭に浮かんだ答えを話す。

「私にはどうにもできないから、両親に相談していたと思うわ。だって、その時にはお姉様には婚約者がいたんだもの」
「でも、婚約者がいるというのはアイミー様とレイロ様が結婚しても同じですよね」
「それはそうだけど、一体何が言いたいの? はっきり言ってよ」

 語気を強めると、フェインは困った顔になった。

 フェインが何を言おうとしているのかわからない。
 中々話し出さない彼に困惑していると、エルも苛ついた様子で急かす。

「何で、そんなことを聞くのか俺も気になるから、早く言えよ」
「すみません。あの……、おかしいと思ったからです」
「「おかしい?」」

 私とエルの声が重なった。
 フェインは苦笑して頷くと、疑問を口にする。

「どうしてエイミー様は今まで黙っていたのに、突然、レイロ様が好きだったなんて言い出したのでしょうか」
「……ごめんなさい。あなたが何を言おうとしているのか、まだわからないわ」
「だって、おかしいじゃないですか。わざわざ結婚してから言い出すだなんて」
「私が呑気に結婚したから苛立ったとかじゃないの?」

 何が問題なのかわからない。
 幸せそうな私たちを見て羨ましくなり、余計に第二王子との結婚が嫌になっただけじゃないの?

 そう思って言ってみたけど、フェインは納得しない。

「その可能性もありますけど、エイミー様はレイロ様のことをずっと好きだったんですよね。それなら、結婚が決まった時に誘惑していてもおかしくないと思うんです」
「……そうね。好きな人が自分以外の人と結婚するなんて辛いから、奪いたいと思うかもしれない」
「ではなぜ、そうしなかったんでしょうか」
「ちょ、ちょっと待て。まさか、エイミーと兄さんの関係は結婚前からかもしれないとか言うんじゃないだろうな」

 エルが眉根を寄せて尋ねると、フェインは頷く。

「そのまさかというか、それは、本人に聞いてみないとわかりません。でも、エイミー様は昔から密かにレイロ様にアタックしていたけど相手にされなかった。だから、子供を生めば振り向いてくれると思ったのではないでしょうか」
「そうだとしたら、レイロはどうして結婚後にお姉様と関係を持ったの? 同じように断れば良かったじゃないの」
「それが謎なんです」

 結婚前から関係を持っていた可能性があると言われたみたいで、正直に言うとショックだった。
 
 ――駄目よ。
 こんなことで動揺して、未練があるように思われてしまったら嫌だもの。

「フェイン、悪いけど、もう今となってはどうだって良いの。お姉様とレイロの間に何かあったとしても、もう私には関係ない。気にかけてくれるのはありがたいし、お姉様のことを思い出させるようなことになったのは私が悪いと思ってる。だけど、私はもうお姉様のこともレイロのことも忘れて、今、どうしたら多くの人を助けて、自分も生き残れるかを考えたいの」
 
 フェインは私の話を聞いて納得したように頷くと「すみません。忘れてください」と言って去っていった。

 結局、フェインが何を言いたかったのかはっきりしないまま終わり、その点についてはモヤモヤする。

「一体、何を言おうとしていたのかしら」
「絶対とは言えねぇけど、エイミーに気をつけろと言いたかったんじゃないのか?」
「どうして、はっきりと言ってくれないのよ」
「普通の人間は、あなたのお姉さんはやばいです。近づかないほうが良いですよ。なんて、実の妹に言わないんだよ」
「そ、そう言われたらそうかもしれないわね」

 その後はエルと一緒に怪我人のいるテントに戻り、怪我人に回復魔法をかけて、疲れたら眠ったり食事をするを繰り返して、次の日の朝を迎えた。


*****



「……ミー! アイミー!」

 エルの声がテントの外から聞こえて、慌てて飛び起きた。
 空はまだ薄暗いから、早朝といったところだ。
 そんな時間に起こしに来るのだから、よっぽどのことだと思い、ぐしゃぐしゃの服や髪をそのままにして外に出た。

「何かあったの!?」
「エイミーが来た」
「……え? どういうこと?」
「追い返しに行かせた奴らと合流する前に陣痛が来たらしい。エイミーは念の為を思って転移の魔導具を持っていて、屋敷には帰らずにこっちに飛んできたんだと。屋敷に帰ったら、アイミーに会わせてもらえないから嫌だと言ってる。今、出産経験のある人や医師がエイミーの様子を見てくれているけど、アイミーを呼べってうるさいんだ」

 どうして、自分の子供よりも自分のことを優先するのよ!

「エル、お願いがあるんだけど」
「何だ?」
「お姉様に伝えてほしいの。どうしても私と話がしたいならしてあげる。だけど、無事に子供が生まれてからじゃないと話はしないって言って」
「わかった。……あと、昨日の話を俺なりに考えてみたんだけどな」
「フェインの話?」
「ああ。フェインが起きたら確認するつもりだが、もしかして、あいつが言いたかったのは、エイミーは兄さんを繋ぎ止めるための道具にするために子供を生むつもりなんじゃないかって思ったんじゃねぇかな」
「何ですって?」
「昨日も別の話で言ったけど、実の妹にそんなことを言って良いのかわからないから言えなかったのかもしれないかと思ったんだ」

 エルの言っていることが正しいような気がして、私の感情が黒く染まるのを感じた。

「アイミー! 落ち着いてくれ。フェインはお前がそんな感情を持つことを望んでなかったんだと思う」

 エルに言われて気付いた。
 そうだわ。
 きっと、フェインはこうなってほしくなかったから躊躇したんだわ。

「……ありがとう、エル」
 
 大きく深呼吸して笑顔を作ると、エルはホッとしたような顔になった。
 
しおりを挟む
感想 138

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた

奏千歌
恋愛
 [ディエム家の双子姉妹]  どうして、こんな事になってしまったのか。  妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。

愛のない貴方からの婚約破棄は受け入れますが、その不貞の代償は大きいですよ?

日々埋没。
恋愛
 公爵令嬢アズールサは隣国の男爵令嬢による嘘のイジメ被害告発のせいで、婚約者の王太子から婚約破棄を告げられる。 「どうぞご自由に。私なら傲慢な殿下にも王太子妃の地位にも未練はございませんので」  しかし愛のない政略結婚でこれまで冷遇されてきたアズールサは二つ返事で了承し、晴れて邪魔な婚約者を男爵令嬢に押し付けることに成功する。 「――ああそうそう、殿下が入れ込んでいるそちらの彼女って実は〇〇ですよ? まあ独り言ですが」  嘘つき男爵令嬢に騙された王太子は取り返しのつかない最期を迎えることになり……。    ※この作品は過去に公開したことのある作品に修正を加えたものです。  またこの作品とは別に、他サイトでも本作を元にしたリメイク作を別のペンネー厶で公開していますがそのことをあらかじめご了承ください。

【完結】お前を愛することはないとも言い切れない――そう言われ続けたキープの番は本物を見限り国を出る

堀 和三盆
恋愛
「お前を愛することはない」 「お前を愛することはない」 「お前を愛することはない」  デビュタントを迎えた令嬢達との対面の後。一人一人にそう告げていく若き竜王――ヴァール。  彼は新興国である新獣人国の国王だ。  新獣人国で毎年行われるデビュタントを兼ねた成人の儀。貴族、平民を問わず年頃になると新獣人国の未婚の娘は集められ、国王に番の判定をしてもらう。国王の番ではないというお墨付きを貰えて、ようやく新獣人国の娘たちは成人と認められ、結婚をすることができるのだ。  過去、国の為に人間との政略結婚を強いられてきた王族は番感知能力が弱いため、この制度が取り入れられた。  しかし、他種族国家である新獣人国。500年を生きると言われる竜人の国王を始めとして、種族によって寿命も違うし体の成長には個人差がある。成長が遅く、判別がつかない者は特例として翌年の判別に再び回される。それが、キープの者達だ。大抵は翌年のデビュタントで判別がつくのだが――一人だけ、十年近く保留の者がいた。  先祖返りの竜人であるリベルタ・アシュランス伯爵令嬢。  新獣人国の成人年齢は16歳。既に25歳を過ぎているのに、リベルタはいわゆるキープのままだった。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

愛される日は来ないので

豆狸
恋愛
だけど体調を崩して寝込んだ途端、女主人の部屋から物置部屋へ移され、満足に食事ももらえずに死んでいったとき、私は悟ったのです。 ──なにをどんなに頑張ろうと、私がラミレス様に愛される日は来ないのだと。

【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに

おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」 結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。 「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」 「え?」 驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。 ◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話 ◇元サヤではありません ◇全56話完結予定

処理中です...