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15 伯父からのプレゼント

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 リュージ様が連れて行かれたその日に、私は国王陛下に手紙を書いた。

 タワオ公爵家の領地を国の管理に変更、もしくは代理の人を用意してほしいということなどだ。

 ただの公爵夫人としては、偉そうなことを書いているかと思ったので、手紙の中では国王陛下ではなく伯父様と書いておいた。

 両陛下の間には子供は3人いるけれど、全て男の子だった。
 そのせいもあり、私と姉は幼い頃から可愛がられていた。
 母に似たのか、祖母に似たのかはわからないけれど、私は特に変わった子だった。
 だから、手のかかる子ということで余計に可愛がられた。
 それは今でも変わらない。

 使える権力は使わせてもらうわ。

 もちろん、権力どうこう関係なく、伯父伯母としてお二人のことが好きなことは確かだ。

 その気持ちも手紙に書いた。
 
 手紙を書き終えたあとは、取り寄せた離婚届に自分の名前を記入してサインをした。
 あとは、リュージ様にはサインを貰うだけなので、フットマンに頼んでカイセイク家に持っていってもらった。

 その後は別館にいた人たちで家族と連絡が取れた人は家に送り届ける手配がどうなっているか確認をした。

 税収のことに関しては、まだ聞き取り調査中で、返金ではなく、来年度の税金免除になりそうだった。
 フェアララさんがセイフから横流ししてもらっていたお金が彼女の部屋に残されていたので、そちらを来年度分にあてることになっている。

 もちろん、まだ徴収できていない地域に関しては、変更前の税率に戻し請求することになった。

 ここの領地を任されることになる人は大変だわ。
 前任者が悪い人ばかりだったから、ここから持ち直すのは大変そう。

 まあ、私の任務はタワオ家を潰すことだから、ミッションは完了だわ。
 あとは、円満離婚だけ!
 ……と思いつつ、やはり、セイフを放ってはおけない。
 
 彼のことだから、リュージ様と同じように暴力をふるってでも、私を排除しようとしてくるはずだわ。
 正攻法で戦ったら私が負ける可能性が高い。
 となると、それ以外の方法でセイフを倒せば良い。
 一緒に来てくれている騎士たちも強いのは確かだけれど、王家直属の騎士だった人間と比べると、やはり実力は低い。

 彼らは私の護衛騎士だから、私を護るためなら、自分の死も覚悟している。
 でも、それはありがた迷惑なのよね。
 私を護るために誰かが死ぬのは嫌よ。
 だから、自分で自分の身を護らないといけない。
 
 色々と動いているうちに、あっという間に夜になった。

 夕食をとっている時にフットマンがカイセイク公爵家から帰ってきたので、彼に労いの言葉を掛け、明日は休んで良いと伝えた。

 国王陛下からの返事はその日の夜遅くに、陛下の遣いの方が持ってきてくれた。
 手紙にはタワオ公爵家の件は、私の離婚後に動くと書かれていた。
 離婚前だと私までもが平民落ちすることになり、苦労しないといけなくなるからだ。
 実行するのは離婚後だけれど、代わりに領地を治める人間は考えておいてくださるとのことだった。
 リュージ様の爵位の剥奪は確定のようで、剥奪する理由としては、セイフを野放しにしていたという管理不行き届きになるそうだ。
 
「リュージ様が雑な管理をしていたから、セイフが好きなように動いてしまったという風に持っていくのね」

 夕食後、部屋で手紙を読み終え、口に出して納得する。

 リュージ様の怠慢でたくさんの人が悲しい思いや辛い思いをしたんだもの。
 爵位が剥奪されるのは当たり前のことよね。

 手紙の最後には、セイフが戻った時に心配だから、可愛い姪にプレゼントを贈ると書かれていた。

 そのプレゼントが何だかわかった気がした。
 セイフが戻った時にどう対応すべきか悩んでいると相談していたから、きっと、あれをプレゼントに贈ってくれるのでしょう。
 私にとっては本当にありがたいものなので、陛下に感謝して、その日は眠りについた。

 次の日にはリュージ様から手紙が届いた。

 離婚届は破いて捨てたと書かれており『絶対に離婚はしない』なんて、恐ろしいことも書かれていた。
 
 ああ、私ったら本当に甘い考えをしていたわ。
 離婚届を書かせてから、ルワ様に渡すべきだった。
 こうなったら、カイセイク公爵家に乗り込もうかしら。
 嫌がったら髪の毛を掴んで額を机にぶつけさせるなりして書かせる必要があるわよね。

 ……そこまでしたら怒られるかしら。

 やり過ぎっていうのはどこまでがやり過ぎじゃないの? 
 離婚届を書きなさいと脅すのはやり過ぎなのかしら?
 暴力をふるわなければ、やり過ぎということではないということにしようかしら。

「難しいわ」

 ため息を吐くと、手紙を持ってきてくれたジーネが不思議そうな顔で聞いてくる。

「どうかされましたか?」
「普通の令嬢というのが離婚を勝ち取るためには、どう動くのか考えていたのよ」
「……普通の令嬢は離婚を勝ち取ろうと考えたりしないのではないでしょうか」
「では、どうするの?」
「黙って耐えるだけかと……」
「普通の令嬢って大変なのね。それとも、私が元公爵令嬢だから、こんな風に思うのかしら」

 リュージ様の妻でいなければならないなんて、耐えられるものではないわ。

 大きく息を吐くと、ジーネがぼそりと呟く。

「レイティア様と普通の令嬢を一緒にするのは間違っていると思います」

 私が読んでいた手紙から目を上げてジーネを見ると「用事を思い出しました!」と言って部屋から出て行った。


*****



 リュージ様がルワ様のところに行ってから三日後、セイフがタワオ家に帰ってきて、私がいる執務室へとやって来た。

 尋問がよほど辛かったのか、久しぶりに見た彼の顔はげっそりしていた。
 でも、私と目が合った瞬間、セイフは私を睨みつけてきたので、まだ戦意喪失したわけではないらしい。

「あなたはこの家の当主まで追い出して、一体何がしたいのですか」

 セイフは自分がやろうとしていたことを棚に上げて聞いてきた。

「それはこっちのセリフだわ。あなただって好き勝手していたんでしょう? リュージ様はフェアララさんに夢中で仕事らしい仕事なんてしていなかった。それを良いことにあなたは実権を握ろうとしたのでしょう?」
「それはあなたの勝手な思い込みですよ。そんなことをしても私に何のメリットもありません」
「メリットもないですって? 国への納税率は決まっているから、余った分を自分たちの懐に入れられる。ということは、高い税率にしたほうが自分たちの利益が多くなる。それなのにメリットがないと言うの?」

 睨み返して尋ねると、セイフは眉間の皺をより深くする。

「私が横領しているとでも?」
「そうでしょう? あなた、とても羽振りが良いと聞いてるわ。娼館に通うなとは言わないけど、あなたのお給金で通える場所ではないでしょう」

 彼が通っている娼館は貴族の間で特に人気があり、料金も高いことで有名だった。

「リュージ様に内緒でそこまでできませんよ」
「だから、リュージ様も薄々は気付いておられたのでしょう。あなたが何か悪いことをしているとはね? でも、フェアララさんがリュージ様の気をそらしていた、とか?」

 にこりと笑顔を作って言うと、図星だったのかセイフは悔しそうな顔をする。

 私がここに来たことで、彼の計画は狂いまくっているのでしょう。
 こんなはずではなかったと思っているのでしょうね。

「女性を好きになることは悪くないわ。でもね、領民を蔑ろにしても良いわけではないのよ」

 リュージ様の甘さは、そんなことで国民が悲鳴を上げるだなんて思っていなかったこと。
 平民と自分の暮らしがどれだけ違うのかわかっていなかった。
 これくらいなら大丈夫だとでも思ったのでしょう。
 セイフの場合は力でねじ伏せれば良いと思い込んでいた感じね。

「レイティア様、あなたは私を甘く見過ぎています」
「あら、そうかしら」
「そうですよ。そうでなければ、私と2人きりになれるはずがない」
「今、この場で私に何かあったら、真っ先に疑われるのはあなただと思うわよ?」
「使用人や部屋の外にいる騎士くらいは買収できますよ。賊が入ってきて、あなたは襲われたと言わせます」
「馬鹿ね。騎士たちはあなたになんか絶対に買収されないわ。それにたとえそれが出来てもお金の無駄よ。そんな話を私のお父様たちが信じるわけがないわ」
「信じる信じないは関係ありません」

 そう言って、セイフは私に近付いてくる。
 
 どうしようかしら。
 殺人未遂でまた捕まえさせたら、せっかく今回、泳がせた意味がなくなるのよね。
 
 私はため息を吐いてから引き出しの中に入れていた銃を手に取って立ち上がる。
 そして、近付いてきたセイフの眉間に当てた。

「私、銃を撃ったことなんてないのよ。だけどさすがに、この距離ならどこかには当てられるわよね。ずれないように口の中に銃口をいれたら良いかしら?」
「な、な、何を考えているんですか!?」
「世の中物騒になったわよね? だって、執務室にいるのに賊に襲われそうになるんだもの」

 力や速さでは彼には敵わない。
 なら、それを上回る武器を持てば良かった。
 
「少しでも動くようなら撃つわ。本気よ」

 冷たい声で言うと、セイフは怯えた表情で私を見つめる。
 それでも、戦意は失っていないように見えた。

「こんなことをしていても無駄ですよ。あなたは命を狙われているという恐怖からは逃れられない」
「あなた、私がこんな、その場しのぎの手しか打ってないと思ってるの?」
「他に何があると言うのです!?」

 セイフが聞き返してきた時、扉がノックされた。
 セイフから目を逸らさずに返事をする。

「何かあったの?」
「お客様がお見えになっています。あの、今すぐにレイティア様にお会いしたいということで、ここにいらっしゃいます」

 ジーネの声はどこか弾んでいた。
 だから、私は銃をセイフの眉間から離し、引き出しの中に戻す。

 伯父からのプレゼントが届いたみたい。

「中に入ってもらって」
「承知しました」
「一体、誰なんだ」

 セイフが小さな声で言葉を発し、中に入ってきた人物を見て息を呑んだ。

「お話中失礼致します。国王陛下のめいにより、本日よりレイティア様の専属護衛騎士に配属されました、ジェド・シルークです。よろしくお願い致します」

 白の軍服姿のジェドは深々と頭を下げたあと、固まってしまったセイフのほうを見て、笑みを浮かべた。
 
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