だって愛してませんもの!

風見ゆうみ

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13 どうぞどうぞ

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 ジェドとはガゼボの中には入らず、噴水近くにあったベンチで距離を取って座って話をすることになった。
 ジェドから話を聞いたところ、本当の黒幕はセイフのようだった。

 リュージ様は当主という名の付いただけの小物で、セイフの掌の上でコロコロ転がされているだけらしい。

 まあ、私ごときに何度も病院送りにされてるくらいだから、大物ではないことは間違いないでしょう。

 ちなみに今回の病院の代金は私が令嬢時代にもらったお小遣いで投資した分の儲けから出すつもりだ。
 こんなくだらないことで、領民に返さないといけないお金を使うわけにはいかない。

 国王陛下が手を回して調べてくださった感じだと、リュージ様はフェアララさんに経理を任せ、自分は出資している店にたまに顔を出すくらいで、税金の管理に関しては全てセイフに任せていたらしい。
 空いた時間をフェアララさんとの時間に使うため、リュージ様は仕事をしているようでしていなかったという。

「ということは、リュージ様は詳しいことは知らないということ?」
「じゃないかと言われてる。セイフが悪いことをしていることはわかっているが、彼の頭の中は今まではフェアララ嬢しかなかったみたいだから、放置していたってとこだろう」
「そうね。フェアララさんに夢中って感じだったわ。彼女が自分のお金目当てだったと知って目を覚ましたみたいだけど」
「本命が変わっただけかもな」

 ジェドが含みのある言い方をするので眉根を寄せる。

「何よ、はっきり言ってちょうだい」
「タワオ公爵はレイティアのことが好きなんじゃないか?」
「はい?」

 絶対にありえないこと、そしてあってはならないことをジェドが言うものだから、聞き返す声が裏返ってしまった。

「さっきも俺とレイティアがどんな話をするのか気になって見に来たんじゃないか?」
「だからって木の陰から見る必要はないでしょう?」
「最近、ストーカーって言葉をよく聞くんだが知ってるか?」
「……知らないわ」
「特定の相手に対して、付きまとったり待ち伏せしたりする行為みたいだ。まあ、他にも事例はあるけど、タワオ公爵の場合も付きまといに近いかもな」

 はっきり言って気持ち悪いわ。
 リュージ様にそんなことをされていると思うだけでも嫌だし、そんなことをされるくらいなら病院のベッドに縛り付けてあげたくなる。

「ストーカーというのは犯罪よね?」
「犯罪だろうな。まあ、法の整備はこれからだろうけど」
「私とリュージ様の場合はどうなるのかしら? ストーカー扱いしてもらえるの?」
「木の陰から見てるくらいなら犯罪じゃないだろうな。家の敷地内だし、レイティアとタワオ公爵は夫婦なんだから、それくらいは許せと言われるんじゃないか?」

 夫婦と改めて言われてしまうと、わかっていたことなのに気が重くなる。

 リュージ様は誰かに依存して生きるタイプなのかもしれない。
 フェアララさんがいなくなったから、私にターゲットを絞ったということかしら。

 迷惑な話だわ。
 他にも女性はたくさんいるのに。

「リュージ様に関しては何とかできると思うけれど、セイフのことはどうしたら良いかしら」
「セイフには行きつけの娼館があるんだが、そこに気に入った女性を住まわせてるんじゃないかと言われている」
「立ち入り調査はできないの?」
「違法なことをしているという何かがあればできるけど、何もないなら無理だ。娼館自体はこの国では違法じゃない」
「ジェドが潜入捜査はできないの? あなた、女性に人気があるし色々と話してもらえるんじゃない?」
「俺の顔は知られすぎてるから無理だ」

 この国の娼館は警察を嫌っているところが多い。
 ジェドは警察ではないけれど、陛下の護衛騎士だから、悪いことをしていると彼にバレたら告発されてしまうことは目に見えている。

 だから、ジェドが娼館に行こうものなら警戒して何も話してくれない可能性が高いってことね。

「でも、それならセイフを泳がせて娼館に行かせても一緒じゃないの? 彼が気に入った女性、もしくは税金が払えないことで連れてきた女性と会うとしても、その場面には立ち会えないんだから証拠がつかめないわ」
「それに関しては陛下も考えていらっしゃる。セイフにはガラの悪い友人がいるんだが、そいつは金で動く奴なんだ」
「お金を積んで裏切らせるのね?」
「セイフは自分のために豪遊することはあっても、友人に奢ったりすることは少ないらしい。だから、金だけの関係の友人なら簡単に裏切られる」
「お金って怖いわね」

 ため息を吐くと、ジェドは苦笑する。

「たくさんあっても困ることはないからな」
「それはもちろんそうだと思うけど、友人なんでしょう?」
「本当の友人じゃないってことだ。……と、あまり長居しても良くないな。今日はもう帰る。あと、陛下からの伝言なんだが」
「何かしら」
「犯罪行為を許すことは出来ないが、正当防衛として認められる場合などはお前の好きなようにやれとのことだ」
「国王陛下からの許可がおりたのなら怖いものなしね」

 笑顔で言うと、ジェドは大きく息を吐く。

「両陛下はレイティアに甘いんだよな。あ、それから、フェアララ嬢の件だが、処刑よりも恐ろしいことになりそうだ」
「……どういうこと?」
「彼女は騒擾そうじょうの森に放たれることになった」
「……嘘でしょう?」
「本当だ。両陛下はレイティアに危害を加えようとしたフェアララ嬢にご立腹だ。しかも、タワオ公爵領の民を苦しめていたということもある」

 騒擾の森は一度入ると抜け出せないと言われている。
 目印になるものがないため方向感覚が狂うからだ。
 ただ、問題はそれだけではなく、森の中にいる動物に肉食動物がいるため、森を彷徨っているうちに肉食動物に襲われて命を落としてしまうという。

 昼も夜も獣の叫び声が聞こえ、時には人の悲鳴も混じり、静かな時がないため騒擾の森と言われている。

 フェアララさんは一晩も持たないかもしれない。
 私の中でのフェアララさんはくだらない人で、近くにいなければどうでも良い人だった。
 だけど、痛い目に遭わないとわからない人でもあるのでしょうね。

「仲間と一緒に送られるみたいだから、一人じゃないし、レイティアが気に病む必要はない」

 ジェドは昔のように私の頭を撫でようとしたのか、手を伸ばそうとして、すぐに引っ込めた。
 頭を撫でるだなんて、人妻にして良い行為ではないものね。
 
「ありがとう」

 私が微笑むと、ジェドは立ち上がって頭を下げる。

「本日はお時間いただき、誠にありがとうございました」
「こちらこそ、有益な情報をありがとうございました。あ、忘れていたわ」

 一礼したあと、ジェドに伝えておく。

「リュージ様は国王陛下と仲が良いと仰っていたんだけど」
「それはないですね」
「では、そのことを国王陛下に伝えてもらえるかしら」
「承知しました。陛下に対する虚偽の話をしていたということで、そう重くはないにしても罰が下ることでしょう」

 ジェドはそう言うと、もう一度頭を下げた。

 ジェドをポーチまで見送ったあと、屋敷の中に入って考える。

 とりあえず、目下の敵はセイフだわ。
 リュージ様は適当にあしらっておけばなんとかなる。

 タワオ家を今すぐ潰してしまうのもいいけれど、それだとセイフには逃げられてしまう可能性がある。
 しらを切られたらおしまいだわ。
 証拠がないのに強く出れば、冤罪だと訴えられる恐れがある。
 セイフは領民に嫌われているかもしれない。
 でも、反王家の多くは貴族の中にいる。
 貴族がセイフに味方をすれば面倒なことになるわ。

 私のことを嫌っている、あの公爵令嬢がしゃしゃり出てきたら、また面倒なことに……って、そうだわ。
 あの令嬢に押し付けるのもいいかもしれないわ。

 彼女は私の婚約者を奪うのが趣味だった。
 リュージ様を誘惑してくれれば、私としても助かるわ。
 ただ、セイフの味方に付かれると面倒なのよね。
 一長一短ってとこだわ。

 

*****



 次の日、昼前にまたリュージ様が家に帰ってきた。
 出迎えることなく執務室で仕事をしていると、ジーネが困った顔をしてやって来た。

「レイティア様、お客様がお見えになっているのですが」
「あら。リュージ様ではないの?」
「はい。ルワ・カイセイク公爵令嬢です」
「ルワ様が?」

 昨日、彼女のことを考えていただけに、このタイミングで現れたのはどうしても偶然とは思えない。

「私宛に来られているのね?」
「そうでございます」
「わかったわ。すぐ向かうから応接室にお通しして」
「承知しました」

 ジーネが去っていったあと、仕事を切り上げて椅子から立ち上がり、私も応接室に向かおうとした。
 応接室の手前の廊下で、リュージ様が目の前に立ちはだかった。

「おかえりなさいませ、リュージ様。邪魔ですのでそこを退いていただけますか」
「俺はお前一筋だからな」
「は?」
「何度も言わせるな! 俺は嫁を大事にする男なんだ!」
「は? 大事にしてませんでしょう? 本当に大事にしているのであれば、目の前に現れないでください」
「え? あ? なんで、お前は俺をそこまで嫌うんだよ! 謝ればいいのか!? 謝ればいいんだな!?」

 リュージ様はなぜか偉そうに言って、私の肩を掴もうとしたので、持っていた扇の持ち手の先を彼の鳩尾に叩き込んだ。

「ぐっ」
「リュージ様、大事な部分じゃなかっただけ優しさだと思ってくださいませ。ご希望でしたら昨日と同じように大事な部分に容赦なく叩き込ませてもらいますが?」
「ご希望じゃ……ない」
「そうでしたか。申し訳ございませんが、お客様がいらっしゃっていますので失礼します」

 廊下で座り込んでいるリュージ様を置いて、ルワ様が待っている応接室に向かい、ノックをしてから部屋の中に入った。
 すると、ルワ様は立ち上がり、豊満な胸に右手を当て、挨拶もなしに宣言する。

「あなたの夫、私がもらいますわ!」
「……」

 どうぞどうぞ。
 差し上げる際にはリボンを巻くようにいたしますわね!







最後に出てくる公爵令嬢は1話の最初のほうにちょろっと存在だけ書いている公爵令嬢と同一です。

 
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