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42 姉との最終決戦①

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 その後は、お母様は何度も私に謝ってくれた。
 お父様だけでなく、エディ様やお義父様にもすぐに連絡すると言うので、屋敷に戻ってからで良いと伝えた。
 嫌な気持ちのままで、シオンやお母様とのお出かけを終えたくなかったのだ。

 それに、エディ様が聞いたら、すぐに私をニーソン公爵邸に戻らせるために迎えに来そうな気がするわ。
 気持ちは有り難いけれど、家族と過ごすことも大事なことだから、その時間を大切にしたかった。

「リネお姉様、ニーソン公爵家に帰ったりしませんよね?」
「もちろん! シオンと遊ぶって約束したものね」

 シオンが私の手を握って尋ねてきたので、笑顔で頷いた。

 私は気付いていなかったけれど、お母様は騎士に頼んで、お父様に連絡を入れていた。
 だから、数時間後に私たちが家に帰った時には、お父様がニーソン公爵家に連絡を入れていた後だった。

「まったく、そんなことがあったのに買い物を続けるだなんて」

 お父様がお母様を責めたので、私は間に割って入る。

「申し訳ございません、お父様。お母様は悪くありません。物心ついてからは、家族で出かけたりすることがなかったので、本当に楽しかったんです。私のわがままであり、考えの甘さです。本当に申し訳ございませんでした」
「リネが謝る必要はないよ」
「そうよ。あなたはまだ子供なんだから、大人である私がちゃんとあなたに言い聞かせるべきだったわ」

 お父様とお母様はそう言ったあと、これ以上、この話をすれば、私が傷付くと思ってくれたようで、ニーソン公爵家からの連絡を待つということで、話を終えた。

 この時の私は、自分のワガママで人に迷惑をかけてしまうことを改めて実感した。
 顔色をうかがうのをやめたからといって、ワガママを言っても良いとは限らない。

 そんな当たり前のことを心に刻み込んだ。

 その日の夜、ニーソン公爵家から連絡が来た。
 両親宛の手紙が1通と、私宛の手紙が3通あった。

 両親宛はお義父様から、私宛は、お義父様、お義母様、そしてエディ様からだった。

 両親のほうには、『リネはあなた達の子供なのだから、私に謝る必要はない。ただ、子供を守るのは親の義務だろう』と書かれていたそうで、本当に申し訳なかった。

 私宛には、お義父様からは、すぐに屋敷に帰らなかったことへのお叱り、お義母様はそれを慰めるもの、エディ様は色々と書かれていて長文だった。
 どの手紙にも私を心配する言葉が書かれていたので、それについてはとても嬉しかった。

 数日後、エディ様が私を迎えに来てくれた。
 両親やシオンの前では冷静だったエディ様は、私たちが乗った馬車が動き出すと、急に抱きしめてきた。

「シンス公爵令息の件だけど、怖くなかった?」
「大丈夫です。心配かけてしまって申し訳ございません。ところで、デイリ様は何かお咎めがあったのでしょうか?」
「それはもちろんだよ。あの日は学園の行事で、あの場所に来ていたらしい。リネの姿を見て勝手に抜け出したらしいよ。だから、学園からもペナルティーを受けたし、シンス侯爵は彼を卒業後は北の辺境伯の門兵として送ると決めたそうだ」
「北の辺境伯の門兵に!?」

 驚いて聞き返すと、エディ様は大きく頷いた。

 北の辺境伯の地は一年中雪に覆われた場所が多い地域でもある。
 領民は山の麓で暮らしている人が多く、山の麓は辺境伯の住んでいる屋敷がある場所とは違い、雪は少ない。

 けれど、デイリ様が送られるところは辺境伯の門兵だというのだから、デイリ様は確実に過酷な環境に置かれることになる。
 私たちが住んでいる地はとても温暖な気候だから、寒さに慣れていないデイリ様には余計に辛く感じることでしょう。

 最悪な出来事だって考えられる。

「リネが責任を感じることじゃないよ。本当にリネに悪いと思っているのなら、復縁したいだなんて言わないはずだから。それにリネを責めるようなこともね」
「ありがとうございます。私は大丈夫です」
「それなら良かった」

 エディ様は私の手を握って、頬を寄せてきた。

 けれど、すぐに頬を離して、私の顔を覗き込んでくる。

「リネに伝えないといけないことがあるんだ」
「……何でしょうか?」
「近々、王家主催のパーティーが開かれるんだ。そこに僕たちも出席しないといけない。そして、トワナ嬢もそこに来るらしい」

 トワナ様は今度こそ、絶対にエディ様を狙いに来るはずだわ。
 絶対に負けないし、もうなめられたりなんかしない。

「大丈夫です。そのパーティーでトワナ様との縁を断ち切ります」

 私の人生に影を落とす人とは、もう関わり合いたくないもの。
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