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39 反省しなかった元教師の末路

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 トワナ様はこの場では自分が不利だと感じたのか、何も言い返しはせずに踵を帰して去っていった。

 言っていたことが本気なら、今回のパーティーで何が何でもお相手を見つけなければいけないものね。

 トワナ様の背中を見つめていると、エディ様が話しかけてくる。

「リネ、ありがとう。本当は抱きしめたいけど我慢するよ。帰りの馬車の中でなら良いかな?」
「そ、そうですわね」
「なら、今すぐに帰ろうか!」

 エディ様は本来の目的を忘れてしまっているのか、笑顔で私の肩に触れた後、すぐに表情を引き締めた。

「駄目だって言われてたのに、ごめんね」
「いいえ。気付いてくださいましたから」

 ノエラ様の問題が片付いていないことに気が付いてくれたようだった。

 トワナ様に関しては今日のところは何も言ってこないと思われる。
 でも、ノエラ様は違う。

 私のほうをチラチラと見て様子をうかがっている感じだった。

 一人にならないと話しかけにくそうだと感じ、エディ様たちに相談する。

「もう役目も終わりましたし帰りたいとはと思うんですが、ノエラ様の件は済ませないといけません。ノエラ様は私と話をしたいようですが、エディ様たちがいるので近づけないようです。ですので、パウダールームに行って待ち伏せしようと思います」
「一人じゃ危険だよ。相手は何を考えているかわからない。リネを傷つけようとするかもしれない」
「もちろん、ノエラ様が追いかけてきた後に、ノエラ様に気づかれないように、エレインにも入ってきてもらおうと思っています」
「お任せください。テッド程ではないですが、気配を消すのは得意です」

 エレインが大きく頷いてくれたのを確認してから、エディ様に顔を向ける。

「許してくださいますよね?」
「本当は嫌だし、父上に怒られそうなんだけど」
「お義父様には私からお話します」

 渋るエディ様やテッド様を押し切る形で話を決めたあと、私は早速、一人でパウダールームに向かった。
 5つのドレッサーが置かれている部屋で、都合の良いことに誰も使用している人はいなかった。
 化粧直しをする時間が設けられているので、皆、その時間にするつもりなのかもしれない。

 今は、どれだけ多くの人と会話をできるかというところかしら。

 普通は侍女を呼んで化粧直しをするものだけれど、今の私には必要ない。
 そして、頭に血が上っているノエラ様は、その事に気が付かないはず。
 というか、気づかないでいてほしかった。

 そうじゃないと、ここに来た意味がなくなってしまう。

 私のお願い通り、少ししてからノエラ様が中に入ってきた。

 以前よりも痩せておられて、目つきが鋭くなっている。
 目つきが鋭いのは、私を恨んでいるからという理由もあるのかもしれない。
 ノエラ様は入ってきてすぐに、私に話しかけてきた。

「一体、どういうことなの? 私の目の前にわざわざ現れるだなんて! 私の人生を無茶苦茶にしておいて、まだ許せないって言うの!?」
「新たな人生を歩んでもらいたかったから、お咎めなしにしたのです。それなのに、あなたはチープ男爵令息を使って、私に嫌がらせをしようとしましたね?」
「あなたへのいじめを容認していたということで、十分な制裁を受けたわ! それなのに、いつまでも皆、私のことを冷たい女だと言うのよ! そんなことを言う人のほうが冷たい人間じゃないの! 私がこんなに苦しんでるのに、あなたは幸せそうなんだから腹が立つじゃないの!」

 そう叫ぶと、ノエラ様は近くにあった椅子を持ち上げて、椅子の足で鏡を割った。

 激しい音がして、ガラスが飛び散り、ノエラ様の後ろでエレインが動く影が見えた。
 エレインと目が合ったので首を横に振ると、眉根を寄せて動きを止める。
 後ろにいるエレインがノエラ様に気づかれないように、私に注意を向けさせる。

「こんなことをして、後で何と言うおつもりなんです?」
「あなたが私を襲ってきたことにするわ! 揉み合いになって、可哀想にあなたの首を切ってしまったという事にするの」

 そう言って、ノエラ様は鏡の破片を拾い上げて、尖った部分を私に向けてきた。
 目はギラギラしていて、正気を失っているように思える。

「ノエラ様。その手を下ろさなければ、もう、後戻りはできなくなりますよ」
「後戻りなんかはしないわ! 新しい人生を歩むのよ! 私は教師だった。だから、いじめる側の生徒にも、いじめられる側の生徒にも加担してはいけなかったの! 公平でいなければならなかったんだから! 私は間違ったことをしていない! していたとするなら、ティファスさん、いじめられるあなたが悪いのよ。あなたがいじめられなければ、私はこんなことにはならなかった! あなたでストレス発散しようとなんて思わなかったのよ!」

 ノエラ様が私に向かって襲いかかってこようとした。
 すると、エレインがノエラ様のワンショルダーのドレスを後ろから引っ張り、近くの壁に叩きつけた。

「いったぁ……」

 ノエラ様が背中を押さえながら、ガラス片の落ちている床に座り込む。

「ノエラ様」
「何よ!?」

 十分に距離を取って、私を見上げるノエラ様に話しかける。

「あなたのやったことは殺人未遂です。このまま家に帰れるとは思わないでくださいね?」
「くっ!」

 ノエラ様は悔しそうに唇を噛み締めて、近くにあったガラス片を手に取ろうとした。
 でも、エレインがその手を踏みつけたので、それも出来なかった。

「あなたの運命を狂わせてしまったことは申し訳ないと思っています。ですが、あなたは選択肢を間違えたんです。普通の人なら、違う道を選んでいたはずです」

 私がノエラ様に向かってそう言った時、騒ぎを聞きつけたミレネー伯爵夫人が中に入ってきた。
 ミレネー伯爵夫人はパウダールーム内の様子を見たあと、すぐに状況を察したのか、ノエラ様を睨みつけた。
 そして、すぐに表情を緩め、私に尋ねてくる。

「リネ様、お怪我はありませんか?」
「はい。ただ、パーティーを台無しにするような真似をしてしまい、申し訳ございません」
「いいえ。こんなことをする方が悪いのです」
 
 ミレネー伯爵夫人は私に応えたあと、後から入ってきたメイドに、警察を呼ぶように指示したのだった。

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