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8.5 それぞれの決意(トワナ視点)
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こんなことは初めてだった。
今まで、リネのほうが良いだなんていう人は、男性だけじゃなく女性にだっていなかった。
それなのに、目の前にいるエディ様とニーソン公爵閣下は、私よりもリネを優先している。
どうしてなの?
爪を噛みそうになって、慌てて手を下に下ろす。
待って。
冷静にならないといけないわ。
せっかくのチャンスなんだから、ものにしないといけない。
元夫は病弱で近い内に死んでしまうだろうと言われていた。
田舎のほうだけれど候爵令息だったことと、かなり昔から決まっていた縁談だったから、断ることもできず、私は17歳という輝かしい年齢の時に結婚しなければならなくなった。
夫が早く死ねばいいと、毎日願っていた。
弱っていく病気の夫が気持ち悪くて見ることさえ嫌なくらいに嫌いだった。
私から「早く死ね」ときつい言葉を吐かれても微笑むあの男が気持ち悪かった。
死んでくれたあとは、自由になったのはいいものの、これからどう生きていこうと悩むことになった。
未亡人といえども、私を妻に迎えてくれる人はいるにはいた。
でも、後妻として娶りたいという年配の男性が多かった。
若い男性と知り合うにはどうすれば良いかと思っていたら、リネの婚約者のデイリがいることを思い出した。
彼はリネに会いによく遊びに来ていたし、顔もまあまあ好みだったから、声を掛けてあげた。
一時の遊びのつもりが、デイリは本気で私を愛してしまった。
相手は侯爵家の嫡男だし、私としても悪い相手ではない。
いつもウジウジオドオドしている、鬱陶しい妹から解放してあげることにした。
シンス候爵夫妻にも婚約が認められて、このまま順調に進むと思ったのに、もっと良い相手をリネがつかまえたですって!?
絶対にそんなことは許せないし許さないわ。
「エディ様、本当にトワナではなく、リネを婚約者にしたいと仰るのですか?」
お母様が声を震わせながら尋ねると、エディ様は迷うことなく頷く。
「僕はずっとリネが好きだった。でも、リネにはシンス侯爵令息という婚約者がいた。だから、リネを困らせないように近付かないようにしていたんだ。今回の婚約破棄のあとだって、本来なら、もっと時間が経ってから話しかけようと思ってた。だけど、今日の彼女はとても辛そうにしていたから声を掛けずにはいられなかった」
エディ様は自分自身に辛いことがあったかのように表情を歪めた。
「どんな事情かはわからないが婚約者が変更されたと聞いた時に、お前にはリネの心の傷が癒えるまではリネに近付くなと言ったはずだったのだがな」
「申し訳ございません」
閣下に咎められたエディ様は頭を下げた。
「謝らなくていい。今回に関しては声を掛けて正解だった」
閣下は苦笑してからエディ様の頭に手を軽く置かれたあと、私たちを見据える。
「リネにどんなことをしていたかは改めて彼女に確認するが、公にされて困るのはそちらだろう? 素直にリネを引き渡してくれるよな」
「私たちはリネに何もしておりません!」
お母様が反論すると、閣下はお父様のほうを見る。
「娘を鞭で打っていたんだよな?」
「そ……、それは……」
「今、認めなくてもリネに話をさせるだけだ。自分の身が可愛いなら大人しくしていろ」
閣下はそう言うと、頭を上げていたエディ様に声を掛ける。
「帰るぞ」
「はい」
「お待ち下さい、ニーソン公爵閣下!」
呼び止めたけれど、振り返ることもなく、閣下はエディ様と共に応接室から出て行かれた。
「お父様、お母様」
顔面蒼白になっている二人に話しかけると、二人共がゆっくりとした動作で私に視線を向けた。
「どうして、公爵閣下が鞭の件を知っているのですか! リネが言ったのであれば嘘だと言えば良いのに!」
「メイドが叫んでいるところを聞かれたんだ!」
お父様は顔を手で覆って叫ぶ。
なんて馬鹿なメイドなの!
舌打ちをしたあと、お父様に指示をする。
「お父様、そのメイドはすぐにクビにしてください!」
「それはわかっている」
「トワナ……、可哀想に。エディ様もあなたよりもリネを選ぶだなんてどうかしているわ」
「……そうだわ。本当にどうかしているわ」
お母様の言葉に頷いたあと、私は応接室を出て、廊下に立っていた私の侍女に告げる。
「今から、シンス候爵家に行くわ」
デイリを上手くなだめすかして、婚約解消してもらわないといけない。
そして、自由の身になったら、エディ様を奪いに行くわ。
私が本気になればエディ様を落とせるし、エディ様が私を好きになれば、世間から何を言われようが私を嫁にするはずだもの。
リネ、あなたみたいに泣き虫でウジウジしている女が幸せになれるだなんて思わないでちょうだい。
あなたのような女は一生日陰、もしくは私のような輝く女性の引き立て役になっていればいいのよ!
今まで、リネのほうが良いだなんていう人は、男性だけじゃなく女性にだっていなかった。
それなのに、目の前にいるエディ様とニーソン公爵閣下は、私よりもリネを優先している。
どうしてなの?
爪を噛みそうになって、慌てて手を下に下ろす。
待って。
冷静にならないといけないわ。
せっかくのチャンスなんだから、ものにしないといけない。
元夫は病弱で近い内に死んでしまうだろうと言われていた。
田舎のほうだけれど候爵令息だったことと、かなり昔から決まっていた縁談だったから、断ることもできず、私は17歳という輝かしい年齢の時に結婚しなければならなくなった。
夫が早く死ねばいいと、毎日願っていた。
弱っていく病気の夫が気持ち悪くて見ることさえ嫌なくらいに嫌いだった。
私から「早く死ね」ときつい言葉を吐かれても微笑むあの男が気持ち悪かった。
死んでくれたあとは、自由になったのはいいものの、これからどう生きていこうと悩むことになった。
未亡人といえども、私を妻に迎えてくれる人はいるにはいた。
でも、後妻として娶りたいという年配の男性が多かった。
若い男性と知り合うにはどうすれば良いかと思っていたら、リネの婚約者のデイリがいることを思い出した。
彼はリネに会いによく遊びに来ていたし、顔もまあまあ好みだったから、声を掛けてあげた。
一時の遊びのつもりが、デイリは本気で私を愛してしまった。
相手は侯爵家の嫡男だし、私としても悪い相手ではない。
いつもウジウジオドオドしている、鬱陶しい妹から解放してあげることにした。
シンス候爵夫妻にも婚約が認められて、このまま順調に進むと思ったのに、もっと良い相手をリネがつかまえたですって!?
絶対にそんなことは許せないし許さないわ。
「エディ様、本当にトワナではなく、リネを婚約者にしたいと仰るのですか?」
お母様が声を震わせながら尋ねると、エディ様は迷うことなく頷く。
「僕はずっとリネが好きだった。でも、リネにはシンス侯爵令息という婚約者がいた。だから、リネを困らせないように近付かないようにしていたんだ。今回の婚約破棄のあとだって、本来なら、もっと時間が経ってから話しかけようと思ってた。だけど、今日の彼女はとても辛そうにしていたから声を掛けずにはいられなかった」
エディ様は自分自身に辛いことがあったかのように表情を歪めた。
「どんな事情かはわからないが婚約者が変更されたと聞いた時に、お前にはリネの心の傷が癒えるまではリネに近付くなと言ったはずだったのだがな」
「申し訳ございません」
閣下に咎められたエディ様は頭を下げた。
「謝らなくていい。今回に関しては声を掛けて正解だった」
閣下は苦笑してからエディ様の頭に手を軽く置かれたあと、私たちを見据える。
「リネにどんなことをしていたかは改めて彼女に確認するが、公にされて困るのはそちらだろう? 素直にリネを引き渡してくれるよな」
「私たちはリネに何もしておりません!」
お母様が反論すると、閣下はお父様のほうを見る。
「娘を鞭で打っていたんだよな?」
「そ……、それは……」
「今、認めなくてもリネに話をさせるだけだ。自分の身が可愛いなら大人しくしていろ」
閣下はそう言うと、頭を上げていたエディ様に声を掛ける。
「帰るぞ」
「はい」
「お待ち下さい、ニーソン公爵閣下!」
呼び止めたけれど、振り返ることもなく、閣下はエディ様と共に応接室から出て行かれた。
「お父様、お母様」
顔面蒼白になっている二人に話しかけると、二人共がゆっくりとした動作で私に視線を向けた。
「どうして、公爵閣下が鞭の件を知っているのですか! リネが言ったのであれば嘘だと言えば良いのに!」
「メイドが叫んでいるところを聞かれたんだ!」
お父様は顔を手で覆って叫ぶ。
なんて馬鹿なメイドなの!
舌打ちをしたあと、お父様に指示をする。
「お父様、そのメイドはすぐにクビにしてください!」
「それはわかっている」
「トワナ……、可哀想に。エディ様もあなたよりもリネを選ぶだなんてどうかしているわ」
「……そうだわ。本当にどうかしているわ」
お母様の言葉に頷いたあと、私は応接室を出て、廊下に立っていた私の侍女に告げる。
「今から、シンス候爵家に行くわ」
デイリを上手くなだめすかして、婚約解消してもらわないといけない。
そして、自由の身になったら、エディ様を奪いに行くわ。
私が本気になればエディ様を落とせるし、エディ様が私を好きになれば、世間から何を言われようが私を嫁にするはずだもの。
リネ、あなたみたいに泣き虫でウジウジしている女が幸せになれるだなんて思わないでちょうだい。
あなたのような女は一生日陰、もしくは私のような輝く女性の引き立て役になっていればいいのよ!
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