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7  必死なお姉様

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「そ、そんな……、本当にリネを選んだって言うんですか!?」

 お姉様は眉根を寄せ、エディ様の言葉を待たずに、言葉を続ける。

「リネのどこが良いって言うんですか!? 私は美女で有名なんですよ!? あなたのような方には私のほうが!」
「少なくとも僕にとってはあなたよりもリネのほうが美しい。それに、僕のリネはたとえ自分が美女だと思っていても口には出さない人だと思うよ?」

 エディ様はお姉様に冷たい視線を送ると、私のほうに顔を向けて相好を崩す。

「リネは美少女というよりかは可愛い、かな」
「美少女でも可愛くもありません!」

 リネ嬢からリネと呼び捨てになっていることにドキドキしてしまう。
 それに僕のリネだなんて……!

 それにしても長い夢だわ。
 これ以上幸せな気持ちになってしまったら、目が覚めたあとの現実が辛すぎる。
 名残惜しいけれど、もう起きないといけないわね。

 そう思ってエディ様に握られている右手を動かすと、エディ様は残念そうな顔をしつつも離してくれた。
 
 自由になった右手で頬をつねってみる。

 でも、目の前の景色は変わらない。

 おかしいわ。
 もっと痛い目に遭わないといけないのかしら?

「リネ、何してるの? そんなにひっぱったら痛いだろ?」

 エディ様が心配そうな顔をして覗き込んでくる。

「あの、これ、夢ですよね?」
「え?」
「その、現実じゃないですよね?」
「これが夢だったりしたら、目が覚めたらすぐに君の元婚約者を抹殺」

 え?
 まっさつ?
 
 エディ様がそこまで言ったところで、閣下が立ち上がる。

「エディ、そこまでだ。リネ、エレインと一緒に君の部屋に戻り今すぐ荷造りを始めてくれ。使用人は信用ならないんだろう?」
「……はい?」

 閣下はいきなり何を言い出されたのかと不思議に思って聞き返すと、閣下は苦笑する。

「君は夢だと思っているようだが夢じゃない。君はエディの婚約者だ。だが、色々と問題があるので我が家で教育を受けてもらう」
「は、はい!?」

 閣下の言葉を聞いて頭が真っ白になった。

 えっと、教育?
 どんなことをさせられるのかしら?

 でも、この家から出ていけるの素敵なことかもしれない。
 どちらを選ぶかと言ったらニーソン公爵家にお世話になるほうよね?

「固まってるリネも可愛い」

 エディ様は私に対しては笑顔を絶やさない。

 私が言うのもなんだけれど、エディ様は私にかなり夢中になっているように見えるわ。

 頬をもう一度つねってから閣下に尋ねる。

「あの、本当に夢じゃないんでしょうか?」
「ないと言っているだろう。エレイン、頼むぞ」
「承知いたしました」

 キノン伯爵令嬢は元気よく返事をすると、私に笑顔で声を掛けてくる。

「リネ様、お部屋までご一緒させていただいてもよろしいですか?」
「もちろんです」

 立ち上がると、エディ様は寂しそうな顔をされた。
 でも、お姉様の声が耳に届いたからか、エディ様は表情を険しくする。

「エディ様、本当に私ではなく、リネを選ぶと言うんですか!?」
「そうだよ。僕が好きなのは君じゃない」

 エディ様はお姉様にきっぱりと答えたあと、私のほうを向いて笑顔になる。

「ごめんね、リネ。僕は君の家族と話をしなくちゃいけないから、その間に君はエレインとここから出る準備をしておいてほしい。すぐに迎えに行くからね」
「……はい」

 素直に頷くしかなくて、キノン伯爵令嬢と一緒に部屋から出ようとすると、お父様が立ち上がって叫ぶ。

「リネ! お断りしなさい!」
「え?」

 私が聞き返したと同時に、エディ様が素早く動き、ローテーブルを挟んだ状態で腕を伸ばし、お父様の首を片手で掴んだ。

「それ以上、余計なことは言わないでくださいね? 僕のリネを傷つけたあなたを本当は今すぐにでも」
「エディ、いい加減にしろ」

 閣下は大きくため息を吐いてから、エディ様を止めた。
 そして、私のほうに顔を向ける。
 エディ様は苦しんでいるお父様よりも、驚いて動きを止めてしまっている私のほうが気になるみたいだった。

 だからか、お父様には「失礼した」と言い、閣下には「すみません」と謝ったあとに、私のところへやって来て眉尻を下げる。

「ごめんね。怖かった?」
「いいえ。驚いただけです」
「僕としたことが、リネの前で取り乱すなんて、本当に気を付けるよ」
「あの、取り乱すことは悪くはありませんが、時と場合によっては気を付けたほうが良いかもしれませんね」
「~っ! リネは天使だ」
「違います!」

 エディ様のキャラクターが無茶苦茶、というか情緒不安定すぎるわ。

 視線を感じて目を向けると、閣下と目が合った。

 早く行けと言われている気がして、エディ様に微笑みかける。

「あの、荷造りをしてまいりますね?」
「リネは僕の家に来てくれるんだよね?」
「そうさせていただけるみたいです。では、失礼いたします」

 頭を下げて出ていこうとすると、お姉様がとんでもないことを口にする。

「妹一人では心配ですから、私も付いていきますわ!」

 胸に手を当てて、お姉様は訴える。

「リネはまだ子供ですもの! 保護者が必要です!」
「来なくていいよ、迷惑」

 エディ様に冷たくあしらわれ、お姉様は悔しそうな顔になった。

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