20 / 23
19 殿下とさよなら
しおりを挟む
お姉さまの話を聞いたあと、私は急いで公爵邸に戻り、ポールの部屋へと向かった。
「ポール、話があるんですが!」
「どうしたんだよ、そんなおっかない顔して」
「お姉さまから話を聞きました。どうして話をしてくれなかったんです!」
「何の話だ」
「お姉さまから聞いたって言ってるじゃないですか! お姉さまと結婚しなければ、陛下の浮気を王妃様に話すと脅していると聞いたんです! どうせ、あなたはアーク殿下から聞いてるんでしょう!?」
お姉さまは私の元婚約者であるワイズ様から、国王陛下の過去の浮気の話を聞いたらしく、それをネタにアーク殿下を強請ったようだった。
殿下は王妃様に陛下の過去の浮気をどうしても知られたくない理由があるから、今回の事をどう乗り越えるかで頭を悩ませていたのだと思われる。
「ルルア、それに関してはもう大丈夫だ。王妃様は陛下の退位の事も考えて、先に城を離れる事になった。しかも1週間後だ。どちらに引っ越すかは親しい人間にしか知らされない。連れて行く使用人や騎士の家族も連れて行くそうだ。だから、王妃様が城を離れてしまえば、王妃様にお前の家族は接触できなくなる。だから気にすんな」
「…そんな訳にはいかないでしょう」
これがただの反王家の人間がやった事なら、悩まずに済んだ。
だけど、違う。
殿下を脅したのは私の父と姉。
他人事なんかじゃなかった。
だって、家族が言い逃れのできない罪人になったんだから。
「おい、ルルア。変な事を考えるなよ。何のためにアークがお前には何も話さずに動いてたと思ってるんだ」
「…わかりました」
ポールは私の返事を聞いて、何か言いたげにしていたけれど、それ以上口にする事はなかった。
その日の晩、私は一生懸命、考えに考えて決断を出した。
次の日の朝、仕事の合間にミア様にその話をしたところ「そんなの嫌だし、駄目よ!」と中々、納得してくださらなくて、泣かせてしまいそうになってしまった。
何より、ご迷惑をかける事になるのが、本当に心苦しかった。
最終的にはある条件をのむことで許してもらえ、私はある条件を果たすために、夕方にはお母様と一緒に城に赴いた。
なぜ、お母様も一緒かというと、私の話を聞き、元々、お母様が考えていた事を、実行しようと決めたからだ。
王妃様には事前に行く事と用件は伝えていたため、不思議がられはしたが、話はすんなりとすすみ、お母様と一度別れ、今度はアーク殿下の所へ向かう事にした。
今日の彼は一日中寝ていろとでも言うことなのか、王太子なのにベッドに紐で縛り付けられていた。
私としては好都合だけど。
「すごい格好ですね」
「うるさい」
「それでゆっくり出来ます?」
「出来るわけないだろ。屈辱しかない」
ベッドに近付き、彼の顔を覗き込んで見る。
顔色が昨日よりも良くなっていて、少し安心した。
「このまましばらく休んで下さい」
「そういう訳にもいかん」
「頑張る理由が減るから大丈夫ですよ」
「…どういう意味だ?」
「私、ミア様の侍女を辞めて、違う場所で働く事にいたしました」
「…どこで働くつもりだ?」
「父と姉に悩まされない、遠い場所です。だから、殿下ともお別れです。殿下に素敵な人が見つかるまでは、もうお会いしません」
殿下の方を見ると、呆然とした顔で私を見つめていた。
見ていられなくなって、視線をそらす。
「では、もう行きますね」
「待て!」
「あなたにはもううんざり。自分のことばかり考えて、私の気持ちなんて考えてない」
「そ、それは」
殿下が言葉を詰まらせた。
自覚はあったのか、と笑ってしまいそうになるのをこらえる。
本当は私も同じだ。
自分のことばかり考えて、殿下の気持ちなんて考えてない。
ひどい女ですよね。
「私は自分自身で決めた相手と一緒になります。その相手は殿下ではありません」
私は罪人の娘で、あなたにはつり合わない。
あなたにはもっと、素敵な人がいるはずだから。
「幸せになって下さいね」
「お前がいないのに、どうやって幸せになれと? 幸せになってほしいなら俺のそばにいろ!」
「私には私の幸せがあるんです。殿下は私がいなくても幸せを感じられる何かを探して下さい」
ぐるぐる巻きにされている殿下の手に優しく触れてから、すぐにはなす。
「嫌だ。ルア、行くな」
泣き出しそうな顔になって殿下が言う。
嫌だはこっちのセリフよ。
やめてほしい。
そんな顔されたら、私が泣いてしまうから。
「さよなら」
「ルア! 頼むから! もう結婚してくれなんて言わないから! 俺から離れていくな! ルア! 行くな!」
部屋を出て扉を閉める。
心配そうな騎士達に笑いかけると同時、目から涙があふれてきた。
涙を拭ってから、驚いている騎士達に軽く頭を下げて、廊下を走る。
彼の部屋から少しでも早く、少しでも遠くに行きたかった。
目一杯泣くのは後でいい。
私にはまだ、やらないといけない事が残っている。
「ポール、話があるんですが!」
「どうしたんだよ、そんなおっかない顔して」
「お姉さまから話を聞きました。どうして話をしてくれなかったんです!」
「何の話だ」
「お姉さまから聞いたって言ってるじゃないですか! お姉さまと結婚しなければ、陛下の浮気を王妃様に話すと脅していると聞いたんです! どうせ、あなたはアーク殿下から聞いてるんでしょう!?」
お姉さまは私の元婚約者であるワイズ様から、国王陛下の過去の浮気の話を聞いたらしく、それをネタにアーク殿下を強請ったようだった。
殿下は王妃様に陛下の過去の浮気をどうしても知られたくない理由があるから、今回の事をどう乗り越えるかで頭を悩ませていたのだと思われる。
「ルルア、それに関してはもう大丈夫だ。王妃様は陛下の退位の事も考えて、先に城を離れる事になった。しかも1週間後だ。どちらに引っ越すかは親しい人間にしか知らされない。連れて行く使用人や騎士の家族も連れて行くそうだ。だから、王妃様が城を離れてしまえば、王妃様にお前の家族は接触できなくなる。だから気にすんな」
「…そんな訳にはいかないでしょう」
これがただの反王家の人間がやった事なら、悩まずに済んだ。
だけど、違う。
殿下を脅したのは私の父と姉。
他人事なんかじゃなかった。
だって、家族が言い逃れのできない罪人になったんだから。
「おい、ルルア。変な事を考えるなよ。何のためにアークがお前には何も話さずに動いてたと思ってるんだ」
「…わかりました」
ポールは私の返事を聞いて、何か言いたげにしていたけれど、それ以上口にする事はなかった。
その日の晩、私は一生懸命、考えに考えて決断を出した。
次の日の朝、仕事の合間にミア様にその話をしたところ「そんなの嫌だし、駄目よ!」と中々、納得してくださらなくて、泣かせてしまいそうになってしまった。
何より、ご迷惑をかける事になるのが、本当に心苦しかった。
最終的にはある条件をのむことで許してもらえ、私はある条件を果たすために、夕方にはお母様と一緒に城に赴いた。
なぜ、お母様も一緒かというと、私の話を聞き、元々、お母様が考えていた事を、実行しようと決めたからだ。
王妃様には事前に行く事と用件は伝えていたため、不思議がられはしたが、話はすんなりとすすみ、お母様と一度別れ、今度はアーク殿下の所へ向かう事にした。
今日の彼は一日中寝ていろとでも言うことなのか、王太子なのにベッドに紐で縛り付けられていた。
私としては好都合だけど。
「すごい格好ですね」
「うるさい」
「それでゆっくり出来ます?」
「出来るわけないだろ。屈辱しかない」
ベッドに近付き、彼の顔を覗き込んで見る。
顔色が昨日よりも良くなっていて、少し安心した。
「このまましばらく休んで下さい」
「そういう訳にもいかん」
「頑張る理由が減るから大丈夫ですよ」
「…どういう意味だ?」
「私、ミア様の侍女を辞めて、違う場所で働く事にいたしました」
「…どこで働くつもりだ?」
「父と姉に悩まされない、遠い場所です。だから、殿下ともお別れです。殿下に素敵な人が見つかるまでは、もうお会いしません」
殿下の方を見ると、呆然とした顔で私を見つめていた。
見ていられなくなって、視線をそらす。
「では、もう行きますね」
「待て!」
「あなたにはもううんざり。自分のことばかり考えて、私の気持ちなんて考えてない」
「そ、それは」
殿下が言葉を詰まらせた。
自覚はあったのか、と笑ってしまいそうになるのをこらえる。
本当は私も同じだ。
自分のことばかり考えて、殿下の気持ちなんて考えてない。
ひどい女ですよね。
「私は自分自身で決めた相手と一緒になります。その相手は殿下ではありません」
私は罪人の娘で、あなたにはつり合わない。
あなたにはもっと、素敵な人がいるはずだから。
「幸せになって下さいね」
「お前がいないのに、どうやって幸せになれと? 幸せになってほしいなら俺のそばにいろ!」
「私には私の幸せがあるんです。殿下は私がいなくても幸せを感じられる何かを探して下さい」
ぐるぐる巻きにされている殿下の手に優しく触れてから、すぐにはなす。
「嫌だ。ルア、行くな」
泣き出しそうな顔になって殿下が言う。
嫌だはこっちのセリフよ。
やめてほしい。
そんな顔されたら、私が泣いてしまうから。
「さよなら」
「ルア! 頼むから! もう結婚してくれなんて言わないから! 俺から離れていくな! ルア! 行くな!」
部屋を出て扉を閉める。
心配そうな騎士達に笑いかけると同時、目から涙があふれてきた。
涙を拭ってから、驚いている騎士達に軽く頭を下げて、廊下を走る。
彼の部屋から少しでも早く、少しでも遠くに行きたかった。
目一杯泣くのは後でいい。
私にはまだ、やらないといけない事が残っている。
42
お気に入りに追加
1,722
あなたにおすすめの小説

【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです
果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。
幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。
ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。
月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。
パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。
これでは、結婚した後は別居かしら。
お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。
だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。

私の完璧な婚約者
夏八木アオ
恋愛
完璧な婚約者の隣が息苦しくて、婚約取り消しできないかなぁと思ったことが相手に伝わってしまうすれ違いラブコメです。
※ちょっとだけ虫が出てくるので気をつけてください(Gではないです)

はずれの聖女
おこめ
恋愛
この国に二人いる聖女。
一人は見目麗しく誰にでも優しいとされるリーア、もう一人は地味な容姿のせいで影で『はずれ』と呼ばれているシルク。
シルクは一部の人達から蔑まれており、軽く扱われている。
『はずれ』のシルクにも優しく接してくれる騎士団長のアーノルドにシルクは心を奪われており、日常で共に過ごせる時間を満喫していた。
だがある日、アーノルドに想い人がいると知り……
しかもその相手がもう一人の聖女であるリーアだと知りショックを受ける最中、更に心を傷付ける事態に見舞われる。
なんやかんやでさらっとハッピーエンドです。

私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください
迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。
アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。
断るに断れない状況での婚姻の申し込み。
仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。
優しい人。
貞節と名高い人。
一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。
細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。
私も愛しております。
そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。
「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」
そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。
優しかったアナタは幻ですか?
どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

飽きて捨てられた私でも未来の侯爵様には愛されているらしい。
希猫 ゆうみ
恋愛
王立学園の卒業を控えた伯爵令嬢エレノアには婚約者がいる。
同学年で幼馴染の伯爵令息ジュリアンだ。
二人はベストカップル賞を受賞するほど完璧で、卒業後すぐ結婚する予定だった。
しかしジュリアンは新入生の男爵令嬢ティナに心を奪われてエレノアを捨てた。
「もう飽きたよ。お前との婚約は破棄する」
失意の底に沈むエレノアの視界には、校内で仲睦まじく過ごすジュリアンとティナの姿が。
「ねえ、ジュリアン。あの人またこっち見てるわ」
ティナはエレノアを敵視し、陰で嘲笑うようになっていた。
そんな時、エレノアを癒してくれたのはミステリアスなマクダウェル侯爵令息ルークだった。
エレノアの深く傷つき鎖された心は次第にルークに傾いていく。
しかしティナはそれさえ気に食わないようで……
やがてティナの本性に気づいたジュリアンはエレノアに復縁を申し込んでくる。
「君はエレノアに相応しくないだろう」
「黙れ、ルーク。エレノアは俺の女だ」
エレノアは決断する……!

夢を現実にしないための正しいマニュアル
しゃーりん
恋愛
娘が処刑される夢を見た。
現在、娘はまだ6歳。それは本当に9年後に起こる出来事?
処刑される未来を変えるため、過去にも起きた夢の出来事を参考にして、変えてはいけないことと変えるべきことを調べ始める。
婚約者になる王子の周囲を変え、貴族の平民に対する接し方のマニュアルを作り、娘の未来のために頑張るお話。

王家の面子のために私を振り回さないで下さい。
しゃーりん
恋愛
公爵令嬢ユリアナは王太子ルカリオに婚約破棄を言い渡されたが、王家によってその出来事はなかったことになり、結婚することになった。
愛する人と別れて王太子の婚約者にさせられたのに本人からは避けされ、それでも結婚させられる。
自分はどこまで王家に振り回されるのだろう。
国王にもルカリオにも呆れ果てたユリアナは、夫となるルカリオを蹴落として、自分が王太女になるために仕掛けた。
実は、ルカリオは王家の血筋ではなくユリアナの公爵家に正統性があるからである。
ユリアナとの結婚を理解していないルカリオを見限り、愛する人との結婚を企んだお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる