王太子殿下が私を諦めない

風見ゆうみ

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17  ミア様と姉

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「ルルア、どうだった?」

 公爵邸に帰ると、ミア様が心配そうな表情で駆け寄ってきてくれた。

 うん。
 ミア様を見ると癒やされる。
 ミア様のお人形とかがあったらいいのに。
 それはそれで、侍女が持ってたら怖いかしら?

「ルルア、大丈夫? 何か嫌なことでも言われたの?」

 無言でいたせいか、ミア様が顔を覗き込んできた。

「大丈夫です。2人共、頭が悪かったので助かりました」
「無事に婚約は解消できたのね?」
「はい。無事にお姉さまが奪ってくれました。扱いやすい性格で良かったです」
「良かったわ。だけど、ルルアはこれからどうするつもり?」
「何がです?」
「アーク殿下と婚約するつもりなの?」

 ミア様が不安げな顔で聞いてこられるので、私は首を縦に振る。

「考えているところなんです。殿下と婚約するかしないかの選択肢しかないのなら、婚約だけなら、王太子妃でも王妃でもありませんから。私は側室でお願いしようかと」
「アーク殿下がルルア以外の女性に興味を示すわけがないじゃない。アーク殿下が国王の間は王妃が不在になってしまうわよ?」
「そんな事をさせるつもりはありませんが…」
「ルルアがコレット様のせいで、男性に対して、自信がなくなっている気持ちはわかるわ。今回だってそうなんでしょう?」

 尋ねられ、素直にさっきの出来事を話すと、ミア様は小さく息を吐いてから口を開く。

「あなたの周りにそんな男性が多いせいで、自信が持てなくなってしまう気持ちはわかるわ。どんなに好きだと言ってくれていても、気持ちが変わる事がおかしくない事も」

 そこで言葉を区切ってから、ミア様は私の手を取って続ける。

「でも、全ての人間がそうではない事も知っているでしょう? お兄様だってコレット様の事を歯牙にもかけなかったわ」
「…そうですね」
「あなたは気付いていなかったかもしれないけれど、アーク殿下はあなたの事をずっと隣で見ていたわ。王太子という立場と、あのルックスだから、たくさんの女性に言い寄られたと思う。それでも、あなたしか見てなかったの」
「…そんな人は、この世に殿下くらいしかいないでしょうね」

 頷いて、ミア様の手を握り返す。

 ちゃんと向き合おう。
 王妃になりたくないとかいう言い訳は別にして、ちゃんと殿下の気持ちに…。
 
 そう思っていたんだけど。

「ルルア! 聞こえているんでしょう!? アーク殿下と仲良くなれる様にもっと協力して頂戴!」

 次の日の朝、公爵邸までお仕掛けてきたお姉さまは、私が会いたくないと拒否すると、ポーチで大声で騒ぎ始めた。

「ルルア! 聞いているの!?」

 窓は開けずにカーテンの隙間から、お姉さまの様子を確認して、大きくため息を吐く。
 会わないと、公爵家の方に迷惑をかけてしまう。
 諦めて、下に降りようと考えた時、ポールが部屋に訪ねてきた。

「相変わらずだな、お前の姉は」
「ごめんなさい」
「お前が謝るな。あと、ミアから伝言。私が出るから、ルルアは部屋にいなさい、ってさ」
「え!?」

 慌てて、窓の方に戻ると、ちょうどミア様が外へ出られた所だった。
 窓を開けると、周りが静かだからか、なんとかミア様とお姉さまの会話が聞き取れた。

「迷惑ですからお帰り下さい」
「ミア様! ルルアは私の妹なんです! 会わせて下さらないなんておかしいじゃないですか!」
「彼女が会いたくないと言っているのに会わせる必要はありません」
「あなたが会わせないだけではないのですか!」
「あなたはルルアの気持ちを考えた事はありますか?」

 お姉さまの言葉にミア様が強い口調で続ける。

「あなたに悪気があるのかないのかわかりませんが、あなたの存在はルルアにとってマイナスでしかありません。ルルアにどうこうしてもらわずに、あなたの力でアーク殿下を恋におとせば良いのでは? それとも、あなたには無理なんですか」
「…そんな訳ありません! ルルアに出来て、私に出来ない事なんてありませんから!」

 お姉さまはミア様にそう叫ぶと、私に頼る事は止めたのか、彼女なりの大股で歩きながら去っていく。

 お姉さまを少しだけ見送ったミア様は、私の部屋の方を見上げて、私と目が合うと、にっこりと微笑んでくれた。

 ミア様に助けてもらうなんて、本当に私らしくない。
 しっかりしなくちゃ。
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