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14  婚約者の思惑

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「で、どうしたんだ、お前ら。先輩に詳しく聞かせろ」
「お前は先輩じゃないだろ」
「顔が笑ってるわよ」

 応接間に通され、猫を預けて手を洗ってきたポールに、ニヤニヤしながら聞かれたので、アーク殿下と私がツッコむ。

「なんつーか、恋の先輩だろ。俺、婚約者と上手くいってるし」
「うざい」

 誇らしげに言うポールに向けて放った言葉は、隣に座っている殿下と重なった。

「お前ら、そういうとこ昔から気が合うよな」

 ポールは少年みたいな笑みを浮かべたあと、私達に早く言えと目で訴えてくる。
 話さないと解放されない気がしたので、馬車でしていた話をかいつまんで素直に話すと、ポールが言う。

「でも、ルルアの婚約者の件はアークがどうにかするんだろ?」
「そのつもりなんだが、ルアが話を聞かなくてな」
「どういう事です?」

 聞き返すと、ポールがアーク殿下を見た。
 その視線を受けて、殿下が口を開く。

「お前の婚約者になっている相手だが、先代のキンバス伯爵とつながりのある派閥の一つで、名前はワイズ・トゥインプという伯爵家の長男だ」
「先代のキンバス伯爵って、反王家派でしたよね?」

 アーク殿下に聞き返すと、彼だけでなくポールも大きく頷いた。
 先代のキンバス伯爵はレオへの殺人教唆として夫人共々捕まっている。
 処刑はせずに、情報を引き出すために生かしているとしか聞いていないけれど、たぶん、拷問されているのだと思われる。
 その時に聞き出した情報なのかもしれない。

「という事は、私の婚約者になったのも、アーク殿下に近付くため?」
「もしくは…」

 殿下は言いかけて、私を見て口を閉ざした。
 気になるので、殿下の袖を引っ張って尋ねる。

「なんなんですか、教えて下さい」
「…お前がトゥインプと結婚すれば、ずっと俺は弱みを握られている事になる」
「…そんな事になるんなら、絶対に結婚なんてしません」

 なんだか、だんだん腹が立ってきた。
 勝手に婚約者を決めたと思ったら、反王家派とつながっている男だなんて、父は何を考えてるの!?
 きっと、アーク殿下を諦めさせるために、新しい男性を探して、立候補してくれたのが彼だったから、何も調べずに婚約をすすめているに違いない。

 ああ、もうほんと。

「腹が立つ。どいつもこいつも私の人生を何だと思ってるのよ! 私が誰と結婚しようがしまいが勝手じゃないの! 私の人生なんだから誰かに決められたくないし、利用もされたくないし、迷惑もかけたくない!」
「ルア、落ち着け」

 殿下がぽんぽんと背中を撫でてくれる。

「ルルア、お前は結婚したくないのかもしれないけど、アークと結婚するのが1番のいい方法だと思うぞ。この先、誰と結婚するにしても、お前はアークの弱みになる事にかわりはないんだからよ」
「…すまない」

 ポールの言葉を聞いたあと、殿下が珍しく小さな声で頭を下げた。

 違う。
 こんなのは違う。
 殿下は悪くない。

 これじゃあ、せっかく殿下が私のことを好きになってくれたのに、それが駄目な事になってしまう。

「アーク殿下! あなた、私のことが好きなんですよね!?」
「…そうだが」
「じゃあ、もっと胸張って下さいよ! なんで謝る必要あるんです!?」
「お前に迷惑をかけてるかと」
「何をいまさら! 昔からポールと一緒にやんちゃして迷惑かけられてましたし、何より、学園にいた時にいじめられていた原因って、あなたとポールのせいもあったと思うんです! 私は王妃になんて絶対になりたくないですけど、殿下に好意を向けられる事は迷惑じゃありません。それに、迷惑をかけてるのは昔からなんですから、そんな風に頭なんて下げないでください!」

 感情のまま叫んでしまった。
 結局、私が何が言いたかったか、伝わってないかもしれない。
 そう思って補足しようとしたけれど、ポールが笑い始めたので止めた。

「なんで笑うの」
「いや、アークがしおれてるのを見れた上に、それを叱ってるルルアの姿がなんつーか。いや、いいんじゃね?」
「ポール、あなた言葉遣いをどうにかしたらどうなんです?」
「照れるな照れるな。なんにしてもルルアはアークに自分を好きでもいいって言いたかったんだろ?」
「…そういう訳では」

 なんと言ったらいいのかわからない。
 私だけに特別な感情を持ってくれている人が、その事で謝ってくるなんて嫌だっただけ。
 
 突然、身体が横に引っ張られたかと思うと、殿下に抱きしめられた。

「でで、殿下!?」
「というわけだ、ポール。手を貸してくれるな?」
「もちろん。お前ら2人の為なら頑張らせていただきますとも」

 抱きしめられて固まっている私の顔を見て、ポールがにやりと笑った。

 腹が立つー!!
 って、初恋の相手にこんな風にされても傷付かないのは、本当に綺麗さっぱり忘れられてるからなのかも。

「え? なんなん。このまま、お前ら一線越えちゃう?」
「それはいいな」
「それは絶対にありえませんから」

 殿下はノリ気のようだったけれど、きっぱりとお断りさせてもらった。
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