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13 私の婚約者の話
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私が乗ってきた馬車には誰も乗らないまま、先に帰らせて、私はアーク殿下が用意してくれた馬車で一緒に帰る事になった。
お姉さまも一緒に帰りたがったけれど、殿下が拒否してくれたので、馬車の中で2人きりだ。
「今日の件だが」
「姉と結婚したいとか、そんな話ですか?」
「は?」
「わざわざ改まって話だなんて仰るので」
「お前はどうしてそうなんだ」
殿下は向かいに座っていたのに、難しい顔をして、私の隣に移動する。
「お前と姉との事はなんとなくは聞いているが、詳しくは知らん。お前の婚約者を奪うのは、俺にとっては良い事だったからな」
殿下は言葉を区切り、声を落として言う。
「お前がそこまで傷付いてるなんて知らなかった。すまない」
「ど、どうして殿下が謝るんですか!」
「気付いていれば、もっと早くになんとかしてやれてただろう?」
「こんなのは自分で乗り切れますよ」
「乗り切れたかもしれんが、お前は傷付いただろ」
「最初だけです。もう、同じパターンに飽きただけで、傷付いているというか、お姉さまにこれ以上、とられたくないだけです」
慌てて言うと、殿下は私の手を取った。
「お前が俺を姉に譲ろうとしているのは、そのせいか」
「……別に、そういう訳では」
「よく聞け。俺はお前以外の他の女を好きになれる自信がない」
自信ありげな表情で言われた。
「そんな事を、どうだ、っていう顔で言われましても」
「言いかえる。お前以外に興味はない」
「いやいや、王太子なんですから、国民や国政には興味をお持ち下さい」
「……」
うわ、正論を返してるのにめっちゃ睨んでくるんですが。
「アーク殿下、お気持ちは嬉しいのですが、姉はあなたを狙ってます。だから、あなたが恋に落ちるのは目に見えてます」
「狙った男は必ず、というやつか」
「ポール以外は」
「ポールは落ちなかったのに、俺は落ちると言いたいのか?」
しまった。
もっと眉間のシワが深くなったし、私の手を握る力が強まった。
「殿下、考えさせて下さい」
「何をだ」
「この1か月、殿下が姉に落ちずに私に婚約者が見つからなければ、殿下の婚約者になりましょう!」
「駄目だ」
「なんでですか」
「書類上、お前には婚約者がいる事になってる」
殿下は苦虫を噛み潰したような顔で続ける。
「コレット嬢の誕生日パーティーの時にいたあいつと、お前の婚約を、ウィンスレット伯爵はすすめてる」
「はあ!? そんな! 普通ならお姉さまが…って、ああ」
そうだった。
お姉さまは、アーク殿下を落とす事に夢中なんだ。
「アーク殿下」
「なんだ」
「申し訳ございません。あなたの気持ちにはおこたえできません」
座ったままではあるけれど、深々と頭を下げる。
「婚約者の件なら俺がなんとかする」
「もう、やめましょう。曖昧にしてきた私が悪いんです。終わりにしましょう」
「おい、ふざけるな」
「アーク殿下、あなたは王太子なんですよ。1人の女性にかまけてる暇なんてないでしょう。ミア様とレオの様に恋愛結婚できる人なんて、この国の貴族ではほとんどいないんですよ。ほとんどが政略結婚で、物心つかない時に決められたり、結婚する少し前に、はじめましてするんです」
「何が言いたい」
「だから、こんな関係はやめようって言ってるんです。今まで通りの幼馴染でいましょう」
タイミングよく、馬車が公爵邸に着いたので、私は扉を外から開けてもらう前に飛び出る。
「おい!」
「お気持ちはとても嬉しかったです。ありがとうございます」
そう言って馬車を降りると、殿下も降りてきて、私の腕をつかむ。
「話を勝手に終わらせるな。お前がそんなに嫌なら、王太子をやめる」
「は?」
「レオに譲る」
「そんな無茶苦茶な! あなた、自分が何を言ってるかわかってます!?」
「わかってる! そんな事、出来もしないだろうし、勝手な事を言ってる事だってわかってる! だけど」
「おい、お前ら、人んちの前で、何を痴話喧嘩してんだ」
私と殿下の会話に割って入ってきたのは、ガルシア家の次期公爵であり、アーク殿下の悪友でもあり、私の初恋の相手であるポールだった。
黒色の短髪で、背は高く細いけれど、たくましい体つきをしている。
ルックスが良いので、学園時代の彼とアーク殿下は、同学年の女性陣の人気を二分していた。
公爵家の庭園の方から現れた彼は、腕には子猫を抱えていて、腕や手は引っかき傷だらけだ。
「どうしたの、ポール」
「いや、木から降りれなくなってにゃーにゃー鳴いてたから、助けてやろうと思ったら、なんじゃお前ぇ、って感じで引っかかれた」
真っ黒な子猫は彼が助けてくれたのだとわかったのか、今はそんな様子はまったくなく、彼の腕に大人しくおさまっている。
「で、どうした、付き合ってもないのに別れ話か?」
「うるさい。ルルアが俺との結婚を嫌がるから」
「私に婚約者がいるらしいの。だから、お断りしただけ」
ポールの言葉にアーク殿下、私の順で答えると、ポールは呆れた顔をして言った。
「ルルアが婚約を解消すればいいだけだろ。あ、あれか、お前の親父がうるせぇのか? 俺が殴ってこようか? さすがに王太子が人を殴ったら駄目だろうし」
彼はミア様をとても可愛がっているので、彼女の前ではいい子ぶっているが、それ以外の人間の前ではものすごく言葉遣いが悪い。
もちろん、公の場では丁寧な言葉をつかえるけれど。
「公爵令息でも駄目に決まってるでしょ」
「ま、とにかく中入れや」
ポールに促され、私と殿下は顔を見合わせてから、大人しく先を歩くポールの後に付いて公爵邸の中に入った。
お姉さまも一緒に帰りたがったけれど、殿下が拒否してくれたので、馬車の中で2人きりだ。
「今日の件だが」
「姉と結婚したいとか、そんな話ですか?」
「は?」
「わざわざ改まって話だなんて仰るので」
「お前はどうしてそうなんだ」
殿下は向かいに座っていたのに、難しい顔をして、私の隣に移動する。
「お前と姉との事はなんとなくは聞いているが、詳しくは知らん。お前の婚約者を奪うのは、俺にとっては良い事だったからな」
殿下は言葉を区切り、声を落として言う。
「お前がそこまで傷付いてるなんて知らなかった。すまない」
「ど、どうして殿下が謝るんですか!」
「気付いていれば、もっと早くになんとかしてやれてただろう?」
「こんなのは自分で乗り切れますよ」
「乗り切れたかもしれんが、お前は傷付いただろ」
「最初だけです。もう、同じパターンに飽きただけで、傷付いているというか、お姉さまにこれ以上、とられたくないだけです」
慌てて言うと、殿下は私の手を取った。
「お前が俺を姉に譲ろうとしているのは、そのせいか」
「……別に、そういう訳では」
「よく聞け。俺はお前以外の他の女を好きになれる自信がない」
自信ありげな表情で言われた。
「そんな事を、どうだ、っていう顔で言われましても」
「言いかえる。お前以外に興味はない」
「いやいや、王太子なんですから、国民や国政には興味をお持ち下さい」
「……」
うわ、正論を返してるのにめっちゃ睨んでくるんですが。
「アーク殿下、お気持ちは嬉しいのですが、姉はあなたを狙ってます。だから、あなたが恋に落ちるのは目に見えてます」
「狙った男は必ず、というやつか」
「ポール以外は」
「ポールは落ちなかったのに、俺は落ちると言いたいのか?」
しまった。
もっと眉間のシワが深くなったし、私の手を握る力が強まった。
「殿下、考えさせて下さい」
「何をだ」
「この1か月、殿下が姉に落ちずに私に婚約者が見つからなければ、殿下の婚約者になりましょう!」
「駄目だ」
「なんでですか」
「書類上、お前には婚約者がいる事になってる」
殿下は苦虫を噛み潰したような顔で続ける。
「コレット嬢の誕生日パーティーの時にいたあいつと、お前の婚約を、ウィンスレット伯爵はすすめてる」
「はあ!? そんな! 普通ならお姉さまが…って、ああ」
そうだった。
お姉さまは、アーク殿下を落とす事に夢中なんだ。
「アーク殿下」
「なんだ」
「申し訳ございません。あなたの気持ちにはおこたえできません」
座ったままではあるけれど、深々と頭を下げる。
「婚約者の件なら俺がなんとかする」
「もう、やめましょう。曖昧にしてきた私が悪いんです。終わりにしましょう」
「おい、ふざけるな」
「アーク殿下、あなたは王太子なんですよ。1人の女性にかまけてる暇なんてないでしょう。ミア様とレオの様に恋愛結婚できる人なんて、この国の貴族ではほとんどいないんですよ。ほとんどが政略結婚で、物心つかない時に決められたり、結婚する少し前に、はじめましてするんです」
「何が言いたい」
「だから、こんな関係はやめようって言ってるんです。今まで通りの幼馴染でいましょう」
タイミングよく、馬車が公爵邸に着いたので、私は扉を外から開けてもらう前に飛び出る。
「おい!」
「お気持ちはとても嬉しかったです。ありがとうございます」
そう言って馬車を降りると、殿下も降りてきて、私の腕をつかむ。
「話を勝手に終わらせるな。お前がそんなに嫌なら、王太子をやめる」
「は?」
「レオに譲る」
「そんな無茶苦茶な! あなた、自分が何を言ってるかわかってます!?」
「わかってる! そんな事、出来もしないだろうし、勝手な事を言ってる事だってわかってる! だけど」
「おい、お前ら、人んちの前で、何を痴話喧嘩してんだ」
私と殿下の会話に割って入ってきたのは、ガルシア家の次期公爵であり、アーク殿下の悪友でもあり、私の初恋の相手であるポールだった。
黒色の短髪で、背は高く細いけれど、たくましい体つきをしている。
ルックスが良いので、学園時代の彼とアーク殿下は、同学年の女性陣の人気を二分していた。
公爵家の庭園の方から現れた彼は、腕には子猫を抱えていて、腕や手は引っかき傷だらけだ。
「どうしたの、ポール」
「いや、木から降りれなくなってにゃーにゃー鳴いてたから、助けてやろうと思ったら、なんじゃお前ぇ、って感じで引っかかれた」
真っ黒な子猫は彼が助けてくれたのだとわかったのか、今はそんな様子はまったくなく、彼の腕に大人しくおさまっている。
「で、どうした、付き合ってもないのに別れ話か?」
「うるさい。ルルアが俺との結婚を嫌がるから」
「私に婚約者がいるらしいの。だから、お断りしただけ」
ポールの言葉にアーク殿下、私の順で答えると、ポールは呆れた顔をして言った。
「ルルアが婚約を解消すればいいだけだろ。あ、あれか、お前の親父がうるせぇのか? 俺が殴ってこようか? さすがに王太子が人を殴ったら駄目だろうし」
彼はミア様をとても可愛がっているので、彼女の前ではいい子ぶっているが、それ以外の人間の前ではものすごく言葉遣いが悪い。
もちろん、公の場では丁寧な言葉をつかえるけれど。
「公爵令息でも駄目に決まってるでしょ」
「ま、とにかく中入れや」
ポールに促され、私と殿下は顔を見合わせてから、大人しく先を歩くポールの後に付いて公爵邸の中に入った。
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