王太子殿下が私を諦めない

風見ゆうみ

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12  姉に宣言される

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「ルルア様、もうそろそろ戻らないと、私が怒られてしまいます!」

 アイラに懇願されて、30分くらいウロウロしたところで戻る事にした。
 戻ると、不機嫌そうな殿下と、そんな事などおかまいなしに、彼に話しかけている、お姉さまが見えた。

「帰ろうかな。機嫌悪そうだし」
「ルルア様! 早く戻って下さい!」
「お願いします! 殿下の機嫌が!」

 アイラ以外の騎士達にもお願いされて、渋々、2人の元へ戻ると、アーク殿下は私を睨んで言った。

「どこまで行ってた」
「お腹を壊してしまいまして」
「…体調がよくないのか?」

 殿下は私を睨むのを止めて聞いてきた。

「もう大丈夫です。それより、お邪魔じゃないですか?」
「そんな訳ないだろう。早く座れ」
「ルルア、気を利かせてちょうだい」

 殿下とお姉さまが正反対の事を言ってくる。
 どっちの意見を聞くべきか…。

「王太子命令だ」

 私の考えている事がわかったらしく、強い口調で言われてしまった。

「承知しました」

 座れと言われただけなので、離れた場所に座ると、殿下は言う。

「こっちに来い」
「はいはい」

 少しだけ殿下達に近寄って座り直すと、彼は眉を寄せたあと立ち上がり、私の横に座ると言う。

「もういいだろう」
「何がですか」
「お前の姉には興味はない」
「本人に伝えました?」
「伝えたが話が通じん」

 どうやらかなりイライラしているらしい。
 男性相手なら強い口調で言えるんだろうけど、女性だから遠慮しているみたい。
 まあ、お姉さまに怒鳴り散らしても、素敵、というだけかもしれない。

「殿下が扱いづらい女性なんて珍しいじゃないですか。お似合い」
「それ以上、ふざけた事を言おうとするなら、口をふさぐぞ」
「申し訳ございません」
「逃さんからな」
「愛が重いです」
「うるさい」

 そう言って、殿下は近くにいたメイドに指示をして、私が置きっぱなしにしていたサンドイッチの入ったケースを持ってこさせると、私に手渡してから言った。

「毒味したやつを食わせてくれ」
「私を毒見役にするつもりですか」
「自分で作ってきたんだろうが。毒が入ってるならどれかくらいわかるだろう」
「毒なんていれてませんよ!」
「なら食わせろ」
「子供じゃあるまいし」

 殿下がお姉さまに、恋に落ちていない事がなんだか少しだけ嬉しくて、優しくしようかな、なんて思った時だった。

「ルルア! あなた、用事があると言っていたわよね?」
「……そう言われればそうだったかもしれません」
 
 ああ、浮かれた気分になんかなるんじゃなかった。
 そうよね。
 お姉さまがこんな事くらいで諦めるはずがない。

「殿下、これは差し上げますので、お先に失礼いたします」

 サンドイッチの入ったケースを殿下に押し付けて立ち上がる。

「おい」
「失礼します」
「ルルア! 待て!」
「…なんですか」
「今日のピクニックは終わりだ。俺も帰る。それから、母上から預かっているものがあるから、持って帰れ」

 殿下が言うと、近くにいたメイドが大きな封筒を渡してくれた。
 中を見てみると、何かの冊子と手紙が入っていた。

「これ、なんですか?」
「知らん。母上がお前に渡してくれと言っていた」
「ありがとうございます。改めてお礼の手紙は書きますけど、殿下からもお伝え願えますか?」
「わかった」

 殿下が立ち上がったので、メイド達が敷物を片付けはじめると、お姉さまも立ち上がって、私の所へ来て耳打ちしてきた。

「アーク殿下って素敵ね! 私に媚びないところがたまらないわ!」
「こびる必要ないですから」
「ルルア、私、アーク殿下と結婚するわ!」
「は?」

 謎の宣言をされて聞き返したけれど、お姉さまは歩き出した殿下を追って走り去ってしまう。

「一体、なんなのよ」

 殿下はお姉さまに惚れなかったけど、お姉さまが殿下に惚れたって事?

 なんにしても、結果は一緒よね。
 お姉さまが頑張るだけだもの。

「ルア、送っていく」

 封筒の中身を見ようとして立ち止まっていたら、殿下がいつの間にか、私の目の前に立っていて、腕をつかんだ。

「大丈夫です。帰れます」
「話したい事があるから送る」

 その言葉に、胸がちくりと痛んだ。
 学園に通っていた時に、知らない男子に話したい事があると呼び出された。
 内容は姉との仲を取り持ってほしいだった。

 さっきはあんな事を言ってたから、それとは違う話よね?
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