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11 殿下の好きな人
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「起き上がって下さい」
「断る」
「…殿下が好きなようになさっているようなので、私も好きなようにさせていただきますね」
そう言って、サンドイッチの入ったケースを横に起き、一度手を自由にしてから、好きなサンドイッチを手に取り、やけ食いする事にした。
「おい、食わせろ」
「病人じゃないんですから、食べたいなら起きて下さい」
「起きたら食わせてくれるのか?」
「甘えた事を言わないで下さい」
「あの、アーク殿下!」
蚊帳の外にされてしまっている、お姉さまが持参したカゴを持って、こちらに近寄ってくる。
アーク殿下は一口サイズのサンドイッチが好きだ。
なぜなら、色々なバリエーションがあるし、食べながら仕事が出来るから。
だから、今回もお姉さまには彼の好きな具材の入ったサンドイッチばかり持ってこさせている。
一口サイズにしたか、普通サイズにしたかはわからないけど。
「アーク殿下がお好きかと思って、色々なサンドイッチを持参してきました」
「サンドイッチなら今、食ったが」
それ、私があなたの口につっこんだだけですよ。
心の中でツッコミを入れる。
「1つじゃ足りませんでしょう? ぜひ、こちらもお食べになって下さい。お口にあえば良いのですが」
お姉さまは笑顔で殿下に言ったあと、彼の横に座り、私にちらりと意味ありげな視線を向けてくる。
私にその場所を代われと訴えてきているのがわかった。
「アーク殿下、ちょっと立ち上がりたいので失礼します」
私がそう告げると、殿下は舌打ちしてから、身を起こして、お姉さまの方を見た。
「知らない人間から食い物をもらうなと言わ」
「殿下! 私の姉です」
「お前の姉かもしれんが、本人の事は詳しくは知らん」
「ぜひ知って下さいませ!」
お姉さまは身を乗り出して、殿下に近付くと同時に、サンドイッチの入ったカゴを差し出した。
「色々なお味がありますわ。ぜひお食べになって」
「お姉さま、まずはお姉さまが食べたほうが良いのでは? 毒味は必要です」
「そうね。疑われているようで悲しいけれど、相手は王太子殿下ですものね」
お姉さまはカゴから1つ、大きなサンドイッチを取り出すと、小さな口で端の方をぱくりと食べた。
うーん、可愛らしい食べ方をしてるわね。
小動物だわ。
これで、殿下もオチるはず。
「食べかけはいらん」
「ちょっと!」
思わず口を出してしまった。
殿下が、お姉さまから差し出されたサンドイッチをお断りするので、彼に耳打ちする。
「毒見役の人が食べても気にならないでしょ? それと一緒です」
「口紅が思い切りついてる」
言われて見てみると、わざとなのかわからないが、えらくべったりと白いパンの部分に真っ赤な何かがついていた。
「出血したんじゃないですか」
「余計に食いづらい」
「それはそうですね」
「お前の作ったものでいい」
私の髪を一房とって、殿下が言った。
そんな事をされたら、もっと姉が殿下を欲しくなるだけなのに…。
「ちぎりますよ」
殿下の手を軽くはらってから、私はお姉さまの方に手を伸ばし、サンドイッチを受け取り、口紅がついた部分をちぎって、また、お姉さまに渡す。
ついでにちぎった方も渡した。
「では、殿下」
お姉さまが可愛らしい笑顔で殿下にサンドイッチを差し出した。
ここから、お姉さまも本領発揮するかしら。
そう思って、気を利かせて立ち去ろうとしたのだけど、すぐに殿下に呼び止められる。
「おい、ルルア、どこへ行く」
「お手洗いです!」
さすがの殿下も、お手洗いまでは付いてくる気にならなかったらしく、不満そうにしながらも行かせてくれた。
「ルルア様」
護衛の騎士が周りにいたらしく、よく話をする女性騎士のアイラが近寄ってきて、付いてきてくれる事になった。
本当はお手洗いじゃないんだけど。
「ルルア様のお姉様を見て、同僚が任務中なのに可愛いってうるさいんですよ。仕事しろっての」
「お姉さまを見たら、大概の人はそうよ。恋人がいない人なら許してあげて?」
「ルルア様の方が私は可愛いと思います。好みですよ好み。あの方は女性には好かれない、と申し訳ございません」
「いいの。私もそう思うから。殿下だって、すぐにお姉さまの虜になるわ」
「アーク殿下はルルア様一筋ですから、お姉様にはおちないと思いますよ」
「え?」
驚いて聞き返すと、アイラが苦笑する。
「アーク殿下は昔から、ルルア様の事しか見ておられませんよ?」
どういう事?
私が気付いていなかっただけで、そんなに長い間、私の事を思ってくれてたの?
…アーク殿下は本当に私が好きなの?
本当に信じてもいいのかしら…。
いや、まだわからない。
しばらくしたら戻ってみて、その時の殿下の様子を見てから考えよう。
そう考えて、とりあえずお手洗いに行くことにした。
「断る」
「…殿下が好きなようになさっているようなので、私も好きなようにさせていただきますね」
そう言って、サンドイッチの入ったケースを横に起き、一度手を自由にしてから、好きなサンドイッチを手に取り、やけ食いする事にした。
「おい、食わせろ」
「病人じゃないんですから、食べたいなら起きて下さい」
「起きたら食わせてくれるのか?」
「甘えた事を言わないで下さい」
「あの、アーク殿下!」
蚊帳の外にされてしまっている、お姉さまが持参したカゴを持って、こちらに近寄ってくる。
アーク殿下は一口サイズのサンドイッチが好きだ。
なぜなら、色々なバリエーションがあるし、食べながら仕事が出来るから。
だから、今回もお姉さまには彼の好きな具材の入ったサンドイッチばかり持ってこさせている。
一口サイズにしたか、普通サイズにしたかはわからないけど。
「アーク殿下がお好きかと思って、色々なサンドイッチを持参してきました」
「サンドイッチなら今、食ったが」
それ、私があなたの口につっこんだだけですよ。
心の中でツッコミを入れる。
「1つじゃ足りませんでしょう? ぜひ、こちらもお食べになって下さい。お口にあえば良いのですが」
お姉さまは笑顔で殿下に言ったあと、彼の横に座り、私にちらりと意味ありげな視線を向けてくる。
私にその場所を代われと訴えてきているのがわかった。
「アーク殿下、ちょっと立ち上がりたいので失礼します」
私がそう告げると、殿下は舌打ちしてから、身を起こして、お姉さまの方を見た。
「知らない人間から食い物をもらうなと言わ」
「殿下! 私の姉です」
「お前の姉かもしれんが、本人の事は詳しくは知らん」
「ぜひ知って下さいませ!」
お姉さまは身を乗り出して、殿下に近付くと同時に、サンドイッチの入ったカゴを差し出した。
「色々なお味がありますわ。ぜひお食べになって」
「お姉さま、まずはお姉さまが食べたほうが良いのでは? 毒味は必要です」
「そうね。疑われているようで悲しいけれど、相手は王太子殿下ですものね」
お姉さまはカゴから1つ、大きなサンドイッチを取り出すと、小さな口で端の方をぱくりと食べた。
うーん、可愛らしい食べ方をしてるわね。
小動物だわ。
これで、殿下もオチるはず。
「食べかけはいらん」
「ちょっと!」
思わず口を出してしまった。
殿下が、お姉さまから差し出されたサンドイッチをお断りするので、彼に耳打ちする。
「毒見役の人が食べても気にならないでしょ? それと一緒です」
「口紅が思い切りついてる」
言われて見てみると、わざとなのかわからないが、えらくべったりと白いパンの部分に真っ赤な何かがついていた。
「出血したんじゃないですか」
「余計に食いづらい」
「それはそうですね」
「お前の作ったものでいい」
私の髪を一房とって、殿下が言った。
そんな事をされたら、もっと姉が殿下を欲しくなるだけなのに…。
「ちぎりますよ」
殿下の手を軽くはらってから、私はお姉さまの方に手を伸ばし、サンドイッチを受け取り、口紅がついた部分をちぎって、また、お姉さまに渡す。
ついでにちぎった方も渡した。
「では、殿下」
お姉さまが可愛らしい笑顔で殿下にサンドイッチを差し出した。
ここから、お姉さまも本領発揮するかしら。
そう思って、気を利かせて立ち去ろうとしたのだけど、すぐに殿下に呼び止められる。
「おい、ルルア、どこへ行く」
「お手洗いです!」
さすがの殿下も、お手洗いまでは付いてくる気にならなかったらしく、不満そうにしながらも行かせてくれた。
「ルルア様」
護衛の騎士が周りにいたらしく、よく話をする女性騎士のアイラが近寄ってきて、付いてきてくれる事になった。
本当はお手洗いじゃないんだけど。
「ルルア様のお姉様を見て、同僚が任務中なのに可愛いってうるさいんですよ。仕事しろっての」
「お姉さまを見たら、大概の人はそうよ。恋人がいない人なら許してあげて?」
「ルルア様の方が私は可愛いと思います。好みですよ好み。あの方は女性には好かれない、と申し訳ございません」
「いいの。私もそう思うから。殿下だって、すぐにお姉さまの虜になるわ」
「アーク殿下はルルア様一筋ですから、お姉様にはおちないと思いますよ」
「え?」
驚いて聞き返すと、アイラが苦笑する。
「アーク殿下は昔から、ルルア様の事しか見ておられませんよ?」
どういう事?
私が気付いていなかっただけで、そんなに長い間、私の事を思ってくれてたの?
…アーク殿下は本当に私が好きなの?
本当に信じてもいいのかしら…。
いや、まだわからない。
しばらくしたら戻ってみて、その時の殿下の様子を見てから考えよう。
そう考えて、とりあえずお手洗いに行くことにした。
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