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10 性悪殿下
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それから数日後の朝、私とお姉さまは城の敷地内にある池の近くにいた。
なぜかというと、アーク殿下から、私達にピクニックの誘いがあったからだ。
姉と話すという約束を果たそうとしてくれたんだと思われる。
「ありがとう、ルルア! 私、頑張るから!」
「…よろしくお願いします」
どうしてお姉さまと殿下のデートに私も付き合わないといけないの。
…と言いたいところだけど、同席すると約束したのでしようがない。
そういえば、この場所って、ミア様とレオがよく2人で来てる場所だし、私にしては珍しい場所ではないけど。
まあ、景色もいいし、城の敷地内だから安全だし、ゆっくりするには良いか、と納得する。
お姉さまには、アーク殿下の好きな食べ物は、事前に伝えておいたので持参してきたようで、殿下に食べさせてあげるのだと、さっきからうるさい。
どうせ、自分で作ったわけではないでしょうに。
私は今日は自分が食べたいと思った具材を入れたサンドイッチを自分で作ってきた。
孤児院の皆と作った事があったし、これくらいは作れる。
木陰に敷かれた赤いカーペットの上に、お姉さまから距離を置いて座って待っていると、アーク殿下がやって来た。
お気に入りのサーコートは着ておらず、白のシャツに黒のタイ、黒のパンツ姿で、当たり前だけれど、どんな格好でも彼の顔の良さは変わらない。
お姉さまは白のレースをふんだんに使ったピンク色のメルヘンなドレス、私は侍女の時に着ている黒のメイド服なので、はたから見れば、殿下とお姉さまのデートを付き添っている侍女みたいに見えるだろう。
「遅れてすまない」
「とんでもございません! 王太子殿下とこんな風にお会いできるだけで幸せですわ」
「……」
2人のデートを邪魔しないようにと、私は隅の方に座り、2人が話をはじめたら、持参のサンドイッチを食べようとしたのだけど、殿下に話しかけられる。
「なんでそんな所に座る」
「はしっこが落ち着くので」
答えると、あぐらをかいていた殿下は立ち上がると、私の前にやって来て座った。
「なんでこっちに来るんですか」
「ここが落ち着くんだ」
「場所を変わりましょうか?」
「いや、このままでいい」
「アーク殿下」
「なんだ」
「お姉さまと話をして下さい」
「お前がいるのに、なぜ他の女と話をしないといけないんだ?」
こいつ。
今日の目的を忘れてる!
ああ、しまった。
この方、だった。
「あのアーク殿下、今日、この場所をお選びいただいたのって、ジンクスを知ってらしたからですか?」
「ジンクス?」
お姉さまの言葉に私と殿下が声を揃えて聞き返す。
「最近聞いた話なんですけど、この池の畔で、膝枕をした男女は結ばれるんだそうです。困難を乗り越えた2人がおられたらしくて、城の使用人達から噂が広がり、今では貴族の間で有名なんですよ」
「……」
それ、ミア様とレオの事なんじゃ…。
2人は昔からここで、デートされておられたから、たぶん間違いない。
殿下もそれは知っているはず。
「困難をのりこえた2人は知っているが、ジンクスは知らなかった」
そう言うと、なぜか殿下が私を見てくる。
「しませんよ」
「まだ何も言っていない」
「目が言ってましたよ」
「くそ。俺もまだまだ甘いな」
「悔しがるとこなんですか」
「あのっ!」
お姉さまが会話に割って入ってきて続ける。
「よろしければ、私の膝をお貸し致します!」
「いらん」
「ですが、せっかくですし」
「せっかくの意味がわからん」
お腹が減ってきたので、2人のやり取りを眺めながら、持参したサンドイッチを食べる事にする。
「殿下の望むことは何でもしてさしあげたいんです」
目をうるませながら言う、お姉さま。
こういうのに男性はドキッとするのよね?
「なら俺とルルアが婚約」
「わーっと、手がすべったあ!」
叫びながら殿下の方に身を乗り出して、自分の食べかけのトマトとチーズのサンドイッチを殿下の口の中に突っ込んだ。
「………」
殿下は私を睨みながらも、サンドイッチを口にくわえ、モグモグと食べ始めた。
「毒見してますから安全ですよ!」
「………」
口の中に食べ物が入っているからか、殿下は無言で私を睨みつけたまま、咀嚼している。
「ちょっとルルアったら、何をしてるの! 申し訳ございません、アーク殿下」
「…気にしてない。ルルア、今のはお前が作ったのか?」
「作るも何も切って塗ってはさんだだけです」
「愛妻弁当というやつか?」
私の膝の上のサンドイッチが入ったケースを指差して言うから首を横に振る。
「殿下のものではありません」
これはわたしのお昼ごはんだ。
死守させてもらう。
そう思って、膝の上からケースを持ち上げた私が馬鹿だった。
ごろんと殿下は横になったかと思うと、私の膝と太ももの上に頭をのせた。
呆気にとられていると、殿下が私を見てにやりと笑った。
ええ、つられた私が馬鹿でしたよ。
ですけどね。
「…この」
性悪殿下!!
なぜかというと、アーク殿下から、私達にピクニックの誘いがあったからだ。
姉と話すという約束を果たそうとしてくれたんだと思われる。
「ありがとう、ルルア! 私、頑張るから!」
「…よろしくお願いします」
どうしてお姉さまと殿下のデートに私も付き合わないといけないの。
…と言いたいところだけど、同席すると約束したのでしようがない。
そういえば、この場所って、ミア様とレオがよく2人で来てる場所だし、私にしては珍しい場所ではないけど。
まあ、景色もいいし、城の敷地内だから安全だし、ゆっくりするには良いか、と納得する。
お姉さまには、アーク殿下の好きな食べ物は、事前に伝えておいたので持参してきたようで、殿下に食べさせてあげるのだと、さっきからうるさい。
どうせ、自分で作ったわけではないでしょうに。
私は今日は自分が食べたいと思った具材を入れたサンドイッチを自分で作ってきた。
孤児院の皆と作った事があったし、これくらいは作れる。
木陰に敷かれた赤いカーペットの上に、お姉さまから距離を置いて座って待っていると、アーク殿下がやって来た。
お気に入りのサーコートは着ておらず、白のシャツに黒のタイ、黒のパンツ姿で、当たり前だけれど、どんな格好でも彼の顔の良さは変わらない。
お姉さまは白のレースをふんだんに使ったピンク色のメルヘンなドレス、私は侍女の時に着ている黒のメイド服なので、はたから見れば、殿下とお姉さまのデートを付き添っている侍女みたいに見えるだろう。
「遅れてすまない」
「とんでもございません! 王太子殿下とこんな風にお会いできるだけで幸せですわ」
「……」
2人のデートを邪魔しないようにと、私は隅の方に座り、2人が話をはじめたら、持参のサンドイッチを食べようとしたのだけど、殿下に話しかけられる。
「なんでそんな所に座る」
「はしっこが落ち着くので」
答えると、あぐらをかいていた殿下は立ち上がると、私の前にやって来て座った。
「なんでこっちに来るんですか」
「ここが落ち着くんだ」
「場所を変わりましょうか?」
「いや、このままでいい」
「アーク殿下」
「なんだ」
「お姉さまと話をして下さい」
「お前がいるのに、なぜ他の女と話をしないといけないんだ?」
こいつ。
今日の目的を忘れてる!
ああ、しまった。
この方、だった。
「あのアーク殿下、今日、この場所をお選びいただいたのって、ジンクスを知ってらしたからですか?」
「ジンクス?」
お姉さまの言葉に私と殿下が声を揃えて聞き返す。
「最近聞いた話なんですけど、この池の畔で、膝枕をした男女は結ばれるんだそうです。困難を乗り越えた2人がおられたらしくて、城の使用人達から噂が広がり、今では貴族の間で有名なんですよ」
「……」
それ、ミア様とレオの事なんじゃ…。
2人は昔からここで、デートされておられたから、たぶん間違いない。
殿下もそれは知っているはず。
「困難をのりこえた2人は知っているが、ジンクスは知らなかった」
そう言うと、なぜか殿下が私を見てくる。
「しませんよ」
「まだ何も言っていない」
「目が言ってましたよ」
「くそ。俺もまだまだ甘いな」
「悔しがるとこなんですか」
「あのっ!」
お姉さまが会話に割って入ってきて続ける。
「よろしければ、私の膝をお貸し致します!」
「いらん」
「ですが、せっかくですし」
「せっかくの意味がわからん」
お腹が減ってきたので、2人のやり取りを眺めながら、持参したサンドイッチを食べる事にする。
「殿下の望むことは何でもしてさしあげたいんです」
目をうるませながら言う、お姉さま。
こういうのに男性はドキッとするのよね?
「なら俺とルルアが婚約」
「わーっと、手がすべったあ!」
叫びながら殿下の方に身を乗り出して、自分の食べかけのトマトとチーズのサンドイッチを殿下の口の中に突っ込んだ。
「………」
殿下は私を睨みながらも、サンドイッチを口にくわえ、モグモグと食べ始めた。
「毒見してますから安全ですよ!」
「………」
口の中に食べ物が入っているからか、殿下は無言で私を睨みつけたまま、咀嚼している。
「ちょっとルルアったら、何をしてるの! 申し訳ございません、アーク殿下」
「…気にしてない。ルルア、今のはお前が作ったのか?」
「作るも何も切って塗ってはさんだだけです」
「愛妻弁当というやつか?」
私の膝の上のサンドイッチが入ったケースを指差して言うから首を横に振る。
「殿下のものではありません」
これはわたしのお昼ごはんだ。
死守させてもらう。
そう思って、膝の上からケースを持ち上げた私が馬鹿だった。
ごろんと殿下は横になったかと思うと、私の膝と太ももの上に頭をのせた。
呆気にとられていると、殿下が私を見てにやりと笑った。
ええ、つられた私が馬鹿でしたよ。
ですけどね。
「…この」
性悪殿下!!
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