王太子殿下が私を諦めない

風見ゆうみ

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3  殿下の婚約者

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「俺の思った通りだ」
「何がですか」
「似合ってる」

 アーク殿下が連れてきた、謎の女性達に部屋に連れ込まれた後、無理やり用意されていたドレスに着替えさせられ、メイクをされ、アクセサリーをつけられた私が、別室で待っていたアーク殿下の所へ行くと、普通に褒められた。
 彼が用意してくれたドレスは、普段、私が選ばない色のワインレッドのイブニングドレスで、綺麗な色合いだけど、なんだか落ち着かない。

 それにしても、ここ最近、アーク殿下の私への求愛行動がすごい。

「ここ最近、どうされたんです。婚期を逃して焦られてるんですか」

 人の家だというのに、我が物顔でソファーにふんぞり返っている、アーク殿下に尋ねると、彼は呆れた顔をする。

「俺とお前は同じ年なはずだが」
「私は婚期を逃しそうなので、結婚をあきらめました」
「あきらめるくらいなら、なぜ俺の妻にならない」
「結婚が全てじゃないからですよ」
「貴族の女性はそうでもないだろ。嫁にいかなければ」
「それなんですよ! なぜ、嫁にいかないと陰口を叩かれないといけないんです!」

 私に言われ、彼は足を組み替えながら答える。

「知らん。それが流れだからだろう」
「そういうのが腹が立つんですよ」
「結婚したくないのか?」
「良い人がいたら結婚しますよ」
「いるだろ」
「どこに」
「目の前に」
「私の目の前にいるのは、私の意見を一切聞こうとしない、王太子殿下しかいらっしゃいませんが」

 ため息を吐いて答えると、アーク殿下は言う。

「この上なく良い人間だろう」
「王太子でなく、普通の貴族でしたらね」
「他の女性は王太子と聞くと喜ぶが」
「でしょうね。アーク殿下は顔は良いですし、あなたの妻になりたい人間はそこら中にいるでしょうから、何も私にこだわらなくても」
「ルアは1人しかいないだろう」
「だから、なぜ私限定になるんですか」

 わざと大きなため息を吐いてみせると、向こうもため息を返してきてから口を開く。

「どうして伝わらん?」
「殿下は私に同情しているだけでしょう。有り難いとは思いますが、そんな気持ちは、姉を見たら消えてなくなりますよ」
「なぜ同情だと思うんだ? それにお前の姉くらい、何度も見たことはある」
「話してみたら考えも変わりますよ。あ、姉はまだ独身ですし、いかがですか?」
「いらん」

 アーク殿下は吐き捨てる様に言うと立ち上がった。

「俺が妻にしたいと思えるのはお前しかいない」
「では、一生、独身でお願いします」
「だから、なぜ嫌がる」
「あなたと結婚したら、王妃じゃないですか。私はそういう器ではありません」
「そんなもの最初からもってる奴はそういないだろう」

 このままでは、堂々巡りになりそうなので、話題を変える。

「殿下は今までどうして、婚約者がいなかったんですか」
「いるだろう」
「え? そうなんですか?」
「お前だ」
「婚約者になった覚えがありません」
「俺が子供の頃に決めた」

 あ、また、話が戻りそう。

「残念ですね。そんな話は私の親にしていただかないと」
「話しているはずだが?」
「そんな話、聞いた事ありませんよ…って、父が反対したのかもしれませんね」

 私達が幼い頃の話なら、余計に父は王太子の婚約者を私になんてさせたくなかっただろうから。
 父は私なんかより、お姉さまの方がふさわしいと思っていたはず。
 まあ、それは今もそうだろうけど。

「そうだ。代わりにお前の姉をすすめられたが断った」
「やっぱりそうでしたか。父が失礼な事をしてしまい申し訳ございません。とにかく、姉とゆっくりお話して下さい。ことごとく、私の婚約者を奪い取っていく姉です。殿下もひっかかりますよ」
「わかった。だが、ひっかからなければ、お前が責任を取れ」
「絶対に嫌です」
「どうしたら納得する」
「どうしたって納得しません」

 アーク殿下と婚約だなんてなったら、お姉さまは私から殿下を奪おうと必死になるだろうし、そうなったらそうなったで、彼はお姉さまを好きになるはず。

 もう、婚約破棄されるのには飽きてしまった。
 だから、婚約なんてしたくない。

 私より頭一つ分背の高いアーク殿下は私の目の前に立ち、目を細めて私を見てくる。
 
 本当に綺麗な顔立ちだ。
 紺色の瞳が私の黒い瞳を見つめているのがわかった。
 視線をそらしたら負けの様な気がして見つめ返すと、顎をつかまれる。

「このまま押し倒して既成事実を作れば大人しく結婚するか?」
「この世で1番嫌いな人間が殿下になるだけです」
「……」
 
 殿下は大きく息を吐いてから、私の顎から手をはなした。

 こういうところは嫌いじゃない。

「兄上、ルルア、用意ができたなら行こう」
「わかった」

 ミア様を迎えに公爵邸に来ていたのか、部屋の外から、アーク殿下の弟である、レオの声が聞こえた。
 アーク殿下は私が逃げない様にか、私の腕をつかんでから返事を返した。
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