4 / 23
3 殿下の婚約者
しおりを挟む
「俺の思った通りだ」
「何がですか」
「似合ってる」
アーク殿下が連れてきた、謎の女性達に部屋に連れ込まれた後、無理やり用意されていたドレスに着替えさせられ、メイクをされ、アクセサリーをつけられた私が、別室で待っていたアーク殿下の所へ行くと、普通に褒められた。
彼が用意してくれたドレスは、普段、私が選ばない色のワインレッドのイブニングドレスで、綺麗な色合いだけど、なんだか落ち着かない。
それにしても、ここ最近、アーク殿下の私への求愛行動がすごい。
「ここ最近、どうされたんです。婚期を逃して焦られてるんですか」
人の家だというのに、我が物顔でソファーにふんぞり返っている、アーク殿下に尋ねると、彼は呆れた顔をする。
「俺とお前は同じ年なはずだが」
「私は婚期を逃しそうなので、結婚をあきらめました」
「あきらめるくらいなら、なぜ俺の妻にならない」
「結婚が全てじゃないからですよ」
「貴族の女性はそうでもないだろ。嫁にいかなければ」
「それなんですよ! なぜ、嫁にいかないと陰口を叩かれないといけないんです!」
私に言われ、彼は足を組み替えながら答える。
「知らん。それが流れだからだろう」
「そういうのが腹が立つんですよ」
「結婚したくないのか?」
「良い人がいたら結婚しますよ」
「いるだろ」
「どこに」
「目の前に」
「私の目の前にいるのは、私の意見を一切聞こうとしない、王太子殿下しかいらっしゃいませんが」
ため息を吐いて答えると、アーク殿下は言う。
「この上なく良い人間だろう」
「王太子でなく、普通の貴族でしたらね」
「他の女性は王太子と聞くと喜ぶが」
「でしょうね。アーク殿下は顔は良いですし、あなたの妻になりたい人間はそこら中にいるでしょうから、何も私にこだわらなくても」
「ルアは1人しかいないだろう」
「だから、なぜ私限定になるんですか」
わざと大きなため息を吐いてみせると、向こうもため息を返してきてから口を開く。
「どうして伝わらん?」
「殿下は私に同情しているだけでしょう。有り難いとは思いますが、そんな気持ちは、姉を見たら消えてなくなりますよ」
「なぜ同情だと思うんだ? それにお前の姉くらい、何度も見たことはある」
「話してみたら考えも変わりますよ。あ、姉はまだ独身ですし、いかがですか?」
「いらん」
アーク殿下は吐き捨てる様に言うと立ち上がった。
「俺が妻にしたいと思えるのはお前しかいない」
「では、一生、独身でお願いします」
「だから、なぜ嫌がる」
「あなたと結婚したら、王妃じゃないですか。私はそういう器ではありません」
「そんなもの最初からもってる奴はそういないだろう」
このままでは、堂々巡りになりそうなので、話題を変える。
「殿下は今までどうして、婚約者がいなかったんですか」
「いるだろう」
「え? そうなんですか?」
「お前だ」
「婚約者になった覚えがありません」
「俺が子供の頃に決めた」
あ、また、話が戻りそう。
「残念ですね。そんな話は私の親にしていただかないと」
「話しているはずだが?」
「そんな話、聞いた事ありませんよ…って、父が反対したのかもしれませんね」
私達が幼い頃の話なら、余計に父は王太子の婚約者を私になんてさせたくなかっただろうから。
父は私なんかより、お姉さまの方がふさわしいと思っていたはず。
まあ、それは今もそうだろうけど。
「そうだ。代わりにお前の姉をすすめられたが断った」
「やっぱりそうでしたか。父が失礼な事をしてしまい申し訳ございません。とにかく、姉とゆっくりお話して下さい。ことごとく、私の婚約者を奪い取っていく姉です。殿下もひっかかりますよ」
「わかった。だが、ひっかからなければ、お前が責任を取れ」
「絶対に嫌です」
「どうしたら納得する」
「どうしたって納得しません」
アーク殿下と婚約だなんてなったら、お姉さまは私から殿下を奪おうと必死になるだろうし、そうなったらそうなったで、彼はお姉さまを好きになるはず。
もう、婚約破棄されるのには飽きてしまった。
だから、婚約なんてしたくない。
私より頭一つ分背の高いアーク殿下は私の目の前に立ち、目を細めて私を見てくる。
本当に綺麗な顔立ちだ。
紺色の瞳が私の黒い瞳を見つめているのがわかった。
視線をそらしたら負けの様な気がして見つめ返すと、顎をつかまれる。
「このまま押し倒して既成事実を作れば大人しく結婚するか?」
「この世で1番嫌いな人間が殿下になるだけです」
「……」
殿下は大きく息を吐いてから、私の顎から手をはなした。
こういうところは嫌いじゃない。
「兄上、ルルア、用意ができたなら行こう」
「わかった」
ミア様を迎えに公爵邸に来ていたのか、部屋の外から、アーク殿下の弟である、レオの声が聞こえた。
アーク殿下は私が逃げない様にか、私の腕をつかんでから返事を返した。
「何がですか」
「似合ってる」
アーク殿下が連れてきた、謎の女性達に部屋に連れ込まれた後、無理やり用意されていたドレスに着替えさせられ、メイクをされ、アクセサリーをつけられた私が、別室で待っていたアーク殿下の所へ行くと、普通に褒められた。
彼が用意してくれたドレスは、普段、私が選ばない色のワインレッドのイブニングドレスで、綺麗な色合いだけど、なんだか落ち着かない。
それにしても、ここ最近、アーク殿下の私への求愛行動がすごい。
「ここ最近、どうされたんです。婚期を逃して焦られてるんですか」
人の家だというのに、我が物顔でソファーにふんぞり返っている、アーク殿下に尋ねると、彼は呆れた顔をする。
「俺とお前は同じ年なはずだが」
「私は婚期を逃しそうなので、結婚をあきらめました」
「あきらめるくらいなら、なぜ俺の妻にならない」
「結婚が全てじゃないからですよ」
「貴族の女性はそうでもないだろ。嫁にいかなければ」
「それなんですよ! なぜ、嫁にいかないと陰口を叩かれないといけないんです!」
私に言われ、彼は足を組み替えながら答える。
「知らん。それが流れだからだろう」
「そういうのが腹が立つんですよ」
「結婚したくないのか?」
「良い人がいたら結婚しますよ」
「いるだろ」
「どこに」
「目の前に」
「私の目の前にいるのは、私の意見を一切聞こうとしない、王太子殿下しかいらっしゃいませんが」
ため息を吐いて答えると、アーク殿下は言う。
「この上なく良い人間だろう」
「王太子でなく、普通の貴族でしたらね」
「他の女性は王太子と聞くと喜ぶが」
「でしょうね。アーク殿下は顔は良いですし、あなたの妻になりたい人間はそこら中にいるでしょうから、何も私にこだわらなくても」
「ルアは1人しかいないだろう」
「だから、なぜ私限定になるんですか」
わざと大きなため息を吐いてみせると、向こうもため息を返してきてから口を開く。
「どうして伝わらん?」
「殿下は私に同情しているだけでしょう。有り難いとは思いますが、そんな気持ちは、姉を見たら消えてなくなりますよ」
「なぜ同情だと思うんだ? それにお前の姉くらい、何度も見たことはある」
「話してみたら考えも変わりますよ。あ、姉はまだ独身ですし、いかがですか?」
「いらん」
アーク殿下は吐き捨てる様に言うと立ち上がった。
「俺が妻にしたいと思えるのはお前しかいない」
「では、一生、独身でお願いします」
「だから、なぜ嫌がる」
「あなたと結婚したら、王妃じゃないですか。私はそういう器ではありません」
「そんなもの最初からもってる奴はそういないだろう」
このままでは、堂々巡りになりそうなので、話題を変える。
「殿下は今までどうして、婚約者がいなかったんですか」
「いるだろう」
「え? そうなんですか?」
「お前だ」
「婚約者になった覚えがありません」
「俺が子供の頃に決めた」
あ、また、話が戻りそう。
「残念ですね。そんな話は私の親にしていただかないと」
「話しているはずだが?」
「そんな話、聞いた事ありませんよ…って、父が反対したのかもしれませんね」
私達が幼い頃の話なら、余計に父は王太子の婚約者を私になんてさせたくなかっただろうから。
父は私なんかより、お姉さまの方がふさわしいと思っていたはず。
まあ、それは今もそうだろうけど。
「そうだ。代わりにお前の姉をすすめられたが断った」
「やっぱりそうでしたか。父が失礼な事をしてしまい申し訳ございません。とにかく、姉とゆっくりお話して下さい。ことごとく、私の婚約者を奪い取っていく姉です。殿下もひっかかりますよ」
「わかった。だが、ひっかからなければ、お前が責任を取れ」
「絶対に嫌です」
「どうしたら納得する」
「どうしたって納得しません」
アーク殿下と婚約だなんてなったら、お姉さまは私から殿下を奪おうと必死になるだろうし、そうなったらそうなったで、彼はお姉さまを好きになるはず。
もう、婚約破棄されるのには飽きてしまった。
だから、婚約なんてしたくない。
私より頭一つ分背の高いアーク殿下は私の目の前に立ち、目を細めて私を見てくる。
本当に綺麗な顔立ちだ。
紺色の瞳が私の黒い瞳を見つめているのがわかった。
視線をそらしたら負けの様な気がして見つめ返すと、顎をつかまれる。
「このまま押し倒して既成事実を作れば大人しく結婚するか?」
「この世で1番嫌いな人間が殿下になるだけです」
「……」
殿下は大きく息を吐いてから、私の顎から手をはなした。
こういうところは嫌いじゃない。
「兄上、ルルア、用意ができたなら行こう」
「わかった」
ミア様を迎えに公爵邸に来ていたのか、部屋の外から、アーク殿下の弟である、レオの声が聞こえた。
アーク殿下は私が逃げない様にか、私の腕をつかんでから返事を返した。
61
お気に入りに追加
1,722
あなたにおすすめの小説

【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです
果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。
幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。
ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。
月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。
パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。
これでは、結婚した後は別居かしら。
お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。
だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

はずれの聖女
おこめ
恋愛
この国に二人いる聖女。
一人は見目麗しく誰にでも優しいとされるリーア、もう一人は地味な容姿のせいで影で『はずれ』と呼ばれているシルク。
シルクは一部の人達から蔑まれており、軽く扱われている。
『はずれ』のシルクにも優しく接してくれる騎士団長のアーノルドにシルクは心を奪われており、日常で共に過ごせる時間を満喫していた。
だがある日、アーノルドに想い人がいると知り……
しかもその相手がもう一人の聖女であるリーアだと知りショックを受ける最中、更に心を傷付ける事態に見舞われる。
なんやかんやでさらっとハッピーエンドです。

私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください
迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。
アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。
断るに断れない状況での婚姻の申し込み。
仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。
優しい人。
貞節と名高い人。
一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。
細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。
私も愛しております。
そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。
「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」
そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。
優しかったアナタは幻ですか?
どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。

私の完璧な婚約者
夏八木アオ
恋愛
完璧な婚約者の隣が息苦しくて、婚約取り消しできないかなぁと思ったことが相手に伝わってしまうすれ違いラブコメです。
※ちょっとだけ虫が出てくるので気をつけてください(Gではないです)

飽きて捨てられた私でも未来の侯爵様には愛されているらしい。
希猫 ゆうみ
恋愛
王立学園の卒業を控えた伯爵令嬢エレノアには婚約者がいる。
同学年で幼馴染の伯爵令息ジュリアンだ。
二人はベストカップル賞を受賞するほど完璧で、卒業後すぐ結婚する予定だった。
しかしジュリアンは新入生の男爵令嬢ティナに心を奪われてエレノアを捨てた。
「もう飽きたよ。お前との婚約は破棄する」
失意の底に沈むエレノアの視界には、校内で仲睦まじく過ごすジュリアンとティナの姿が。
「ねえ、ジュリアン。あの人またこっち見てるわ」
ティナはエレノアを敵視し、陰で嘲笑うようになっていた。
そんな時、エレノアを癒してくれたのはミステリアスなマクダウェル侯爵令息ルークだった。
エレノアの深く傷つき鎖された心は次第にルークに傾いていく。
しかしティナはそれさえ気に食わないようで……
やがてティナの本性に気づいたジュリアンはエレノアに復縁を申し込んでくる。
「君はエレノアに相応しくないだろう」
「黙れ、ルーク。エレノアは俺の女だ」
エレノアは決断する……!

王家の面子のために私を振り回さないで下さい。
しゃーりん
恋愛
公爵令嬢ユリアナは王太子ルカリオに婚約破棄を言い渡されたが、王家によってその出来事はなかったことになり、結婚することになった。
愛する人と別れて王太子の婚約者にさせられたのに本人からは避けされ、それでも結婚させられる。
自分はどこまで王家に振り回されるのだろう。
国王にもルカリオにも呆れ果てたユリアナは、夫となるルカリオを蹴落として、自分が王太女になるために仕掛けた。
実は、ルカリオは王家の血筋ではなくユリアナの公爵家に正統性があるからである。
ユリアナとの結婚を理解していないルカリオを見限り、愛する人との結婚を企んだお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる