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第二部
14 女王陛下の脅し
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少し横にはなっていると、だいぶ楽にはなったけれど、すぐに動く元気がなくて、今日はどうしようか考えていると、女王陛下がディール殿下と共に私達の部屋にやって来られた。
女王陛下は、自分のワガママのせいで心労を与えてしまってごめんなさいと謝ってくれた。
根っからの悪い人ではないみたいで、癇癪を起こしたり思い込んだりすると手がつけられないみたいだった。
謝りに来てくれたということは、リアムを諦めてくれたのだと、そう思っていた。
「アイリスはリアムを私の愛人になんてしたくないわよね?」
女性だけで話をしたいと言われ、女王陛下からの命令を断れるはずもなく、心配そうにしているリアムとディール殿下が部屋から出て行くと、横になっている私に近付いてきて尋ねられた。
「正直にお答えしてもよろしいですか?」
「もちろんよ」
「では、言わせていただきます。私は主人を愛人にさせたくありません。ですから、お断りさせていただきたいです」
答えたあと、女王陛下の顔色をうかがいながら尋ねる。
「女王陛下はディール殿下が愛人を作られても、気にならないのでしょうか」
「もちろん嫌よ。私はディールを一番愛しているわ。だけど、他の人そばに置いておくことによって、より、ディールを愛していると感じられるの」
「……女王陛下は」
「セーラでいいわ」
「セーラ様はすでに愛人が他にもいらっしゃるのですか?」
私の失礼な質問に対して、気を悪くした様子もなく、セーラ様は笑顔で答える。
「いないわ。遊びで付き合っている人間はたくさんいるけれど、愛人はいない。愛人の候補だってリアムくらいなのよ。リアムの顔と声が本当に好みなの。だから、どうしても欲しくて」
「ディール殿下とは印象が全然違いますが……」
「だからよ? 好きになる人と憧れる人は違うわ。ということは、本気にならないし大丈夫だと思うの」
「もし、正式にお断りしたらどうなるのですか?」
「どうにもならないけれど、出来れば断らないでほしいってところかしら」
ベッドの横にあるサイドテーブルに頬杖をついてセーラ様は無邪気な顔で笑う。
女王陛下といえど、この態度はひどすぎるわ。
でも、この状態で断ることなんて出来ない。
だけど、承諾もしたくない。
「リアムと話をさせて下さい。国が関わる問題ですし、私では判断いたしかねます。ただ、個人的にはお断りいたします。申し訳ございません」
ベッドからおりて、深々と頭を下げると、セーラ様が大きく息を吐いた。
「顔を上げてちょうだい、アイリス。別に断っても命を奪ったりはしないから」
「……」
ゆっくり私が顔をあげると、セーラ様は立ち上がって言う。
「命を奪ったりなんかしたら、国際問題になるし、リアムの様な素敵な男性をこの世からなくしてしまうのは惜しいわ。アイリス、もちろん、あなたもね?」
良い人かと思ったけど、そうでもないのかもしれない。
彼女は脅しをかけてきている。
私が無言で彼女を見つめると、セーラ様はにっこりと笑って手を振りながら、扉に向かって歩き出す。
「この国を出るまでにしっかり考えてちょうだい。ここにはいつまで滞在してもらうことになっても、私はかまわないから」
セーラ様は言いたいことだけ言い終えると、部屋から出ていく。
そして、入れ替わるようにリアムが中に入ってきた。
「アイリス、大丈夫だった?」
「リアム……」
ベッドに横になってから頭を抱えると、リアムが私の手を優しく握って聞いてくる。
「女王陛下に何を言われた? 隠さずに教えてくれるよね?」
「……もちろんです」
頷くと、リアムは私の気持ちを落ち着かせるように、額と頭を優しく撫でてくれた。
女王陛下は、自分のワガママのせいで心労を与えてしまってごめんなさいと謝ってくれた。
根っからの悪い人ではないみたいで、癇癪を起こしたり思い込んだりすると手がつけられないみたいだった。
謝りに来てくれたということは、リアムを諦めてくれたのだと、そう思っていた。
「アイリスはリアムを私の愛人になんてしたくないわよね?」
女性だけで話をしたいと言われ、女王陛下からの命令を断れるはずもなく、心配そうにしているリアムとディール殿下が部屋から出て行くと、横になっている私に近付いてきて尋ねられた。
「正直にお答えしてもよろしいですか?」
「もちろんよ」
「では、言わせていただきます。私は主人を愛人にさせたくありません。ですから、お断りさせていただきたいです」
答えたあと、女王陛下の顔色をうかがいながら尋ねる。
「女王陛下はディール殿下が愛人を作られても、気にならないのでしょうか」
「もちろん嫌よ。私はディールを一番愛しているわ。だけど、他の人そばに置いておくことによって、より、ディールを愛していると感じられるの」
「……女王陛下は」
「セーラでいいわ」
「セーラ様はすでに愛人が他にもいらっしゃるのですか?」
私の失礼な質問に対して、気を悪くした様子もなく、セーラ様は笑顔で答える。
「いないわ。遊びで付き合っている人間はたくさんいるけれど、愛人はいない。愛人の候補だってリアムくらいなのよ。リアムの顔と声が本当に好みなの。だから、どうしても欲しくて」
「ディール殿下とは印象が全然違いますが……」
「だからよ? 好きになる人と憧れる人は違うわ。ということは、本気にならないし大丈夫だと思うの」
「もし、正式にお断りしたらどうなるのですか?」
「どうにもならないけれど、出来れば断らないでほしいってところかしら」
ベッドの横にあるサイドテーブルに頬杖をついてセーラ様は無邪気な顔で笑う。
女王陛下といえど、この態度はひどすぎるわ。
でも、この状態で断ることなんて出来ない。
だけど、承諾もしたくない。
「リアムと話をさせて下さい。国が関わる問題ですし、私では判断いたしかねます。ただ、個人的にはお断りいたします。申し訳ございません」
ベッドからおりて、深々と頭を下げると、セーラ様が大きく息を吐いた。
「顔を上げてちょうだい、アイリス。別に断っても命を奪ったりはしないから」
「……」
ゆっくり私が顔をあげると、セーラ様は立ち上がって言う。
「命を奪ったりなんかしたら、国際問題になるし、リアムの様な素敵な男性をこの世からなくしてしまうのは惜しいわ。アイリス、もちろん、あなたもね?」
良い人かと思ったけど、そうでもないのかもしれない。
彼女は脅しをかけてきている。
私が無言で彼女を見つめると、セーラ様はにっこりと笑って手を振りながら、扉に向かって歩き出す。
「この国を出るまでにしっかり考えてちょうだい。ここにはいつまで滞在してもらうことになっても、私はかまわないから」
セーラ様は言いたいことだけ言い終えると、部屋から出ていく。
そして、入れ替わるようにリアムが中に入ってきた。
「アイリス、大丈夫だった?」
「リアム……」
ベッドに横になってから頭を抱えると、リアムが私の手を優しく握って聞いてくる。
「女王陛下に何を言われた? 隠さずに教えてくれるよね?」
「……もちろんです」
頷くと、リアムは私の気持ちを落ち着かせるように、額と頭を優しく撫でてくれた。
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