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44 自分なりの復讐
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「何の連絡もしてこないなんて、お前は本当に親不孝な娘だ! 心配で食事もろくに喉を通らなかったんだぞ!」
誕生日パーティーの会場となるダイニングルームに着くと、サマンサが横にいるにも関わらず、お父さまは私に近寄ってきて叫んだ。
何十日かぶりに会ったけれど、痩せたようには見えないし、どちらかといえば、太っているようにも思えた。
サマンサには席に着いていてもらい、私はお父様と入り口付近で話すことにした。
「お父さま、お久しぶりです。それにしても、久しぶりに会った娘に対して、開口一番の言葉がそれですか? リアムから聞きましたが、贅沢に過ごされているようですね」
「そ、それはまあ……、その、なんだ。まあ、色々とあるだろう」
私が冷たく言い返すと、お父さまは都合が悪そうに、ゴニョゴニョと言いながら視線をそらした。
最近、リアムに教えてもらったのだけれど、前にココルと街で出会った時に、リアムは私の家族を街から遠ざけなければいけないと考えた。
プリステッド公爵令嬢との話が落ち着いてから、リアムは私の家族に、森の奥深くにある大きな一軒家を買い与え、その屋敷に引っ越させたらしい。
その際、馬車は与えず、通いの人間を雇って、必要なものがあれば、その人が買ってくるようにさせた。
ノマド男爵家での仕事は優秀な人を雇い、その人に代理でさせているらしいけれど、このままいくと、ノマド家の血を一切ひかない人間がノマド家の当主になるかもしれなかった。
もしくは、リアムがノマド家の爵位を買い取ってくれる可能性はあるけれど、そちらについては、まだ先の話なので、今は考えないでおく。
ちなみに、今日は馬車を自分達で予約して、その馬車でここまで来たらしい。
「お姉さま、お誕生日おめでとう! 今日はスペシャルなプレゼントを持ってきたわ! お姉さまが喜んでくれたらいいけど!」
ショッキングピンクのフリルがたくさんついたドレスを着たココルが近付いてきて、私に笑顔で言った。
「何だかわからないけど、プレゼントをくれるのね? ありがとう。私もあなた達に渡したいものがあるのよ」
そう言って、後ろに控えていたエニスからペンと折りたたまれた白い紙を2枚受け取る。
家族に祝ってほしいわけではないから、先に終わらせることにして、ゆっくり、サマンサ達にお祝いしてもらおうと思った。
「どうかしたの?」
お母様も近寄ってきたので、三人に向かって差し出す。
「サインして欲しいの」
「何なの?」
訝しげな顔をして、ココル達は紙を受け取り、内容を読むと、満面の笑みをこちらに向けた。
「本当にいいの!?」
「ええ」
聞いてきたココルに頷いた。
「アイリス!」
部屋の奥にいたリアムが私の所へ来ようとしてくれたけど、来なくて大丈夫だと、首を横に振る。
リアムは困ったような顔をして足を止めた。
お父様達に渡した紙には、リアムから私に小遣いとして渡されていた、現在までのお金を、全て現金で渡すと書いてある。
かなりの額になっているから、お父様達はそれは上機嫌になった。
「サインしたらくれるんだな?」
「ええ。その代わり、家族全員のサインがほしいわ」
「いいわ!」
ココルが代表して頷き、それはもう喜んで、三人共サインをしてくれた。
「1枚はプレゼントするわ。こっちはトーイが預かってもらえますか?」
「……わかりました」
ダイニングルームの奥で、リアムと一緒に様子を見守ってくれていたトーイに紙を差し出すと、彼は困惑の表情を浮かべながらも受け取ってくれた。
「アイリス?」
心配そうな顔をしているリアムのところに行って微笑む。
「大丈夫ですから、心配しないでください」
「でも……」
「リアム、信じて下さい」
手を一度強く握ると、リアムは握り返してくれた。
「わかったよ」
「ありがとうございます」
お礼を言ってリアムの手をはなし、サインしてもらったもう1枚の紙を家族に手渡す前に、私はやらなければいけないことをする。
「成功しました。私の悪戯」
ココル達に向かって微笑み、事情を話しているエニスから燭台を受け取り、ロウソクの火で紙の空白部分を炙った。
すると、文字が浮かび上がる。
浮かび上がった文章を家族に見せると、三人の表情が驚愕のものに変わった。
浮かび上がった内容は、こうだった。
『アイリス・マオニールと縁を切る事を誓う。二度と彼女の目の前に姿を現さず、連絡もしないことを誓う。もし、家族の誰か一人でもそれを破れば、家族全員が最北の地で労役に服する事を誓う』
お金を受け取れるけれど、三人はこの約束も守らないといけなくなったのだった。
誕生日パーティーの会場となるダイニングルームに着くと、サマンサが横にいるにも関わらず、お父さまは私に近寄ってきて叫んだ。
何十日かぶりに会ったけれど、痩せたようには見えないし、どちらかといえば、太っているようにも思えた。
サマンサには席に着いていてもらい、私はお父様と入り口付近で話すことにした。
「お父さま、お久しぶりです。それにしても、久しぶりに会った娘に対して、開口一番の言葉がそれですか? リアムから聞きましたが、贅沢に過ごされているようですね」
「そ、それはまあ……、その、なんだ。まあ、色々とあるだろう」
私が冷たく言い返すと、お父さまは都合が悪そうに、ゴニョゴニョと言いながら視線をそらした。
最近、リアムに教えてもらったのだけれど、前にココルと街で出会った時に、リアムは私の家族を街から遠ざけなければいけないと考えた。
プリステッド公爵令嬢との話が落ち着いてから、リアムは私の家族に、森の奥深くにある大きな一軒家を買い与え、その屋敷に引っ越させたらしい。
その際、馬車は与えず、通いの人間を雇って、必要なものがあれば、その人が買ってくるようにさせた。
ノマド男爵家での仕事は優秀な人を雇い、その人に代理でさせているらしいけれど、このままいくと、ノマド家の血を一切ひかない人間がノマド家の当主になるかもしれなかった。
もしくは、リアムがノマド家の爵位を買い取ってくれる可能性はあるけれど、そちらについては、まだ先の話なので、今は考えないでおく。
ちなみに、今日は馬車を自分達で予約して、その馬車でここまで来たらしい。
「お姉さま、お誕生日おめでとう! 今日はスペシャルなプレゼントを持ってきたわ! お姉さまが喜んでくれたらいいけど!」
ショッキングピンクのフリルがたくさんついたドレスを着たココルが近付いてきて、私に笑顔で言った。
「何だかわからないけど、プレゼントをくれるのね? ありがとう。私もあなた達に渡したいものがあるのよ」
そう言って、後ろに控えていたエニスからペンと折りたたまれた白い紙を2枚受け取る。
家族に祝ってほしいわけではないから、先に終わらせることにして、ゆっくり、サマンサ達にお祝いしてもらおうと思った。
「どうかしたの?」
お母様も近寄ってきたので、三人に向かって差し出す。
「サインして欲しいの」
「何なの?」
訝しげな顔をして、ココル達は紙を受け取り、内容を読むと、満面の笑みをこちらに向けた。
「本当にいいの!?」
「ええ」
聞いてきたココルに頷いた。
「アイリス!」
部屋の奥にいたリアムが私の所へ来ようとしてくれたけど、来なくて大丈夫だと、首を横に振る。
リアムは困ったような顔をして足を止めた。
お父様達に渡した紙には、リアムから私に小遣いとして渡されていた、現在までのお金を、全て現金で渡すと書いてある。
かなりの額になっているから、お父様達はそれは上機嫌になった。
「サインしたらくれるんだな?」
「ええ。その代わり、家族全員のサインがほしいわ」
「いいわ!」
ココルが代表して頷き、それはもう喜んで、三人共サインをしてくれた。
「1枚はプレゼントするわ。こっちはトーイが預かってもらえますか?」
「……わかりました」
ダイニングルームの奥で、リアムと一緒に様子を見守ってくれていたトーイに紙を差し出すと、彼は困惑の表情を浮かべながらも受け取ってくれた。
「アイリス?」
心配そうな顔をしているリアムのところに行って微笑む。
「大丈夫ですから、心配しないでください」
「でも……」
「リアム、信じて下さい」
手を一度強く握ると、リアムは握り返してくれた。
「わかったよ」
「ありがとうございます」
お礼を言ってリアムの手をはなし、サインしてもらったもう1枚の紙を家族に手渡す前に、私はやらなければいけないことをする。
「成功しました。私の悪戯」
ココル達に向かって微笑み、事情を話しているエニスから燭台を受け取り、ロウソクの火で紙の空白部分を炙った。
すると、文字が浮かび上がる。
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『アイリス・マオニールと縁を切る事を誓う。二度と彼女の目の前に姿を現さず、連絡もしないことを誓う。もし、家族の誰か一人でもそれを破れば、家族全員が最北の地で労役に服する事を誓う』
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