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37 直接対決②
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ガゼボの中にあるテーブルの前にいるのは、私とプリステッド公爵令嬢の二人だけになった。
普通ならありえないこの状況に、近くに控えている騎士やメイド達も、どこか困惑の様子を隠せないようだった。
和やかなお茶会のはずなのに、一人二人と人が去っていき、6人で始めるお茶会のはずが、今は二人だけになってしまった。
私と向かい合っているプリステッド公爵令嬢は一人で戦うつもりではなかったようで、表情には焦りの色が見えていた。
「お茶会どころではなくなりましたし、もう帰らせていただきたいので、よろしければ今回の目的をお聞かせいただけますか?」
「アイリス様と仲良くなりたかっただけですわ」
「それは本当でしょうか? 今日のお茶会でプリステッド公爵令嬢がしてくださったことは、仲良くなるどころか悪化させるようなことしかされていないような気がしますが?」
「ご、誤解ですわっ!」
プリステッド公爵令嬢は椅子から立ち上がって叫ぶ。
「わたくしがあなたと仲良くしようと思うことの何がいけないんですの!?」
「何も悪くはありませんわ。ですけど、プリステッド公爵令嬢は、私よりも私の夫に興味があるのですよね?」
にこりと微笑んで尋ねると、プリステッド公爵令嬢は開き直ったように叫ぶ。
「そうですわ! わたくしがマオニール公爵閣下と結婚するはずだったんです! それなのにっ!」
「あなたとお見合いされたことがあると、リアムからお聞きしてますわ」
「……っ!」
「あなたはなぜ、あのお見合いの時にメイドのお茶のいれ方について話をされたのです?」
「え……、それは……っ、お茶の味が薄いような気がして……」
突然、話題を振られたからか、プリステッド公爵令嬢は困惑しながらも答えた。
「リアムからその話を聞いたのを思い出して調べたのですが、プリステッド公爵令嬢は濃い目のお茶がお好きなようですわね?」
「そ……、それは……っ!」
「マオニール家のメイドが出したお茶は、薄かったのではなく、お客様にお出しする際に出される一般的なお茶だったのではないでしょうか?」
「……」
プリステッド公爵令嬢の顔色がみるみるうちに悪くなり、椅子に倒れ込むように座ると、だらりと頭を下げた。
「プリステッド公爵令嬢、大丈夫ですか?」
さすがに心配になって尋ねると、プリステッド公爵令嬢は顔を上げずに首を横に振る。
「……えり…さい」
「……はい?」
「申し訳ございませんが……、今日は気分が優れませんので……、お帰り願えますでしょうか……?」
「……わかりました。お大事になさってくださいね」
まだ、自分の傲慢さに気付けただけマシな気がして、優しく声をかけたけれど、彼女にとっては惨めな気持ちになるだけだったらしい。
「……馬鹿にしているんでしょう?」
「何がですか?」
「そんな常識的なことに気付かなかったわたくしを馬鹿にしているんでしょう!?」
「いいえ」
顔を上げて叫んだプリステッド公爵令嬢に、はっきりと否定の言葉を投げてから続ける。
「あなたは自分の間違いに気が付いたようですし、馬鹿になんてしていません。一般的な濃さのお茶をいれるのがお客様へのおもてなしだと気付かれたのでしょう?」
この国での礼儀は、相手の好みを知っていたり、指定されない限りは一般的な濃さのお茶を出すのが常識になっている。
濃いお茶を好む人が多いのだけれど、中には薄いものが好きな人もいるので、その為の配慮だった。
その時のプリステッド公爵令嬢は、自分の家のメイドが優れていると言いたかっただけみたいだけれど、実際は自分が無知だったということに、私に言われて気が付いたのだと思われた。
「では、失礼いたします」
立ち上がって歩き出したけれど、プリステッド公爵令嬢は私を引き止める事はしなかった。
思った以上に彼女は馬鹿ではなかった。
もちろん、賢くはないかもしれない。
でも、私に嫌がらせを続けて、人としての道を踏み外し続けるよりは、今、ここで敗北に気付けたのなら、それで良いと思う。
「アイリス」
ガゼボから出たところで名前を呼ばれて、声のした方向に振り返ると、そこにはリアムがいた。
「リアム! どうして!?」
「いや、令嬢達が帰っていくのに君だけ出てこないから」
「そんなことを聞いてるんじゃありません! どうして、リアムがここにいるんですか!?」
詰め寄ると、リアムは困ったような顔をした。
普通ならありえないこの状況に、近くに控えている騎士やメイド達も、どこか困惑の様子を隠せないようだった。
和やかなお茶会のはずなのに、一人二人と人が去っていき、6人で始めるお茶会のはずが、今は二人だけになってしまった。
私と向かい合っているプリステッド公爵令嬢は一人で戦うつもりではなかったようで、表情には焦りの色が見えていた。
「お茶会どころではなくなりましたし、もう帰らせていただきたいので、よろしければ今回の目的をお聞かせいただけますか?」
「アイリス様と仲良くなりたかっただけですわ」
「それは本当でしょうか? 今日のお茶会でプリステッド公爵令嬢がしてくださったことは、仲良くなるどころか悪化させるようなことしかされていないような気がしますが?」
「ご、誤解ですわっ!」
プリステッド公爵令嬢は椅子から立ち上がって叫ぶ。
「わたくしがあなたと仲良くしようと思うことの何がいけないんですの!?」
「何も悪くはありませんわ。ですけど、プリステッド公爵令嬢は、私よりも私の夫に興味があるのですよね?」
にこりと微笑んで尋ねると、プリステッド公爵令嬢は開き直ったように叫ぶ。
「そうですわ! わたくしがマオニール公爵閣下と結婚するはずだったんです! それなのにっ!」
「あなたとお見合いされたことがあると、リアムからお聞きしてますわ」
「……っ!」
「あなたはなぜ、あのお見合いの時にメイドのお茶のいれ方について話をされたのです?」
「え……、それは……っ、お茶の味が薄いような気がして……」
突然、話題を振られたからか、プリステッド公爵令嬢は困惑しながらも答えた。
「リアムからその話を聞いたのを思い出して調べたのですが、プリステッド公爵令嬢は濃い目のお茶がお好きなようですわね?」
「そ……、それは……っ!」
「マオニール家のメイドが出したお茶は、薄かったのではなく、お客様にお出しする際に出される一般的なお茶だったのではないでしょうか?」
「……」
プリステッド公爵令嬢の顔色がみるみるうちに悪くなり、椅子に倒れ込むように座ると、だらりと頭を下げた。
「プリステッド公爵令嬢、大丈夫ですか?」
さすがに心配になって尋ねると、プリステッド公爵令嬢は顔を上げずに首を横に振る。
「……えり…さい」
「……はい?」
「申し訳ございませんが……、今日は気分が優れませんので……、お帰り願えますでしょうか……?」
「……わかりました。お大事になさってくださいね」
まだ、自分の傲慢さに気付けただけマシな気がして、優しく声をかけたけれど、彼女にとっては惨めな気持ちになるだけだったらしい。
「……馬鹿にしているんでしょう?」
「何がですか?」
「そんな常識的なことに気付かなかったわたくしを馬鹿にしているんでしょう!?」
「いいえ」
顔を上げて叫んだプリステッド公爵令嬢に、はっきりと否定の言葉を投げてから続ける。
「あなたは自分の間違いに気が付いたようですし、馬鹿になんてしていません。一般的な濃さのお茶をいれるのがお客様へのおもてなしだと気付かれたのでしょう?」
この国での礼儀は、相手の好みを知っていたり、指定されない限りは一般的な濃さのお茶を出すのが常識になっている。
濃いお茶を好む人が多いのだけれど、中には薄いものが好きな人もいるので、その為の配慮だった。
その時のプリステッド公爵令嬢は、自分の家のメイドが優れていると言いたかっただけみたいだけれど、実際は自分が無知だったということに、私に言われて気が付いたのだと思われた。
「では、失礼いたします」
立ち上がって歩き出したけれど、プリステッド公爵令嬢は私を引き止める事はしなかった。
思った以上に彼女は馬鹿ではなかった。
もちろん、賢くはないかもしれない。
でも、私に嫌がらせを続けて、人としての道を踏み外し続けるよりは、今、ここで敗北に気付けたのなら、それで良いと思う。
「アイリス」
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「リアム! どうして!?」
「いや、令嬢達が帰っていくのに君だけ出てこないから」
「そんなことを聞いてるんじゃありません! どうして、リアムがここにいるんですか!?」
詰め寄ると、リアムは困ったような顔をした。
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