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35 公爵令嬢の嫌がらせ③
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女性だけが集まっているお茶会というと、そんなものに参加したことのない私にとっては、とても華やかなイメージがあった。
けれど、今、この場ではそんな言葉は当てはまりそうにはなかった。
経験してみないとわからないものね。
少しの沈黙のあと、プリステッド公爵令嬢は、私から視線をそらすと、答えを返してくれないビティング伯爵令嬢の方に目を向けて口を開いた。
「ビティング伯爵令嬢」
「は、はいっ!」
プリステッド公爵令嬢に声をかけられたビティング伯爵令嬢は、飛び上がるようにして椅子から立ち上がり返事を返した。
「申し訳ないけれど、今日はもうお帰りになってくださる?」
「……え? い、今、なんと?」
「お帰りになってほしいとお伝えしたのです。アイリス様は大事なお客様ですわ。それなのに、そんな失礼なことを仰るだなんて主催者としては、場の空気をこれ以上乱すわけにはいきませんので、ビティング伯爵令嬢にはお帰りいただくしかありませんの」
「そ、そんなっ! 私はっ!」
ビティング伯爵令嬢は今にも泣き出しそうな顔になって、プリステッド公爵令嬢に近付いていこうとしたけれど、近くにいたメイドによって止められる。
「お帰りはこちらです。ご案内いたします」
「ご、ご案内って、私はまだ帰りたくなんか…っ」
「ビティング伯爵令嬢、お帰りになって?」
プリステッド公爵令嬢は持っていた扇の先を口元にあてて、にっこりと微笑んだ。
性格が良くないのはどっちもどっちといったところかしら。
私としては、別に帰らせなくても私を帰らせてくれれば良いのだけど、そんなことはさせたくないものね?
ビティング伯爵令嬢だけ帰らせるのは可哀想な気がして、プリステッド公爵令嬢に声を掛ける。
「プリステッド公爵令嬢にお聞きしたいのですが、遅れてきて一緒にお茶をするつもりだなんて図太い神経だと仰っていたご令嬢、たしか、コザック伯爵令嬢でしたかしら? コザック伯爵令嬢には何のお咎めもなしでしょうか? ビティング伯爵令嬢だけというのは、私は納得できませんわ」
「そ、それは、もちろん、今からお伝えするつもりでしたわ!」
プリステッド公爵令嬢は唇をかみしめたあと、青ざめているコザック伯爵令嬢に告げる。
「お聞きになったでしょう? コザック伯爵令嬢、あなたもお帰りになって?」
「そんな! プリセス様! 私はっ、言われたとおりに!」
「何を言っているの! わたくしのせいにしないでちょうだいっ!!」
コザック伯爵令嬢が悲痛な叫びを上げたけれど、プリステッド公爵令嬢はその叫びを自分の声でかき消すと、私の方に振り返る。
「アイリス様、これでご満足いただけたでしょうか?」
「マオニール公爵夫人! お許しください! これは、プリステッド公爵令嬢に頼まれてっ!」
ビティング伯爵令嬢とコザック伯爵令嬢が私に訴えようとしたけれど、いつの間にか現れた騎士達によって、無理やり連れて行かれてしまった。
あまりの強引なやり方に小さく息を吐いてから答える。
「満足しているかと聞かれましたら、満足はしておりませんわね。納得のいかないことを言われたんですもの。それに、あんな風に女性を連れ出すなんて野蛮なやり方ですわね。ですが、プリステッド公爵令嬢の誠意を感じることは出来ましたわ」
これが嫌味だと気が付いたのか、プリステッド公爵令嬢は一瞬、眉根を寄せたけれど、私をテーブルの方に促す。
「お許しいただけたのであれば良かったですわ。では、アイリス様、どうぞお座りになって?」
プリステッド公爵令嬢は、二人が去ったから空いた席ではなく、元々空いていた、プリステッド公爵令嬢の向かい側の席を手で示した。
「私は帰らなくてもよろしいのですね?」
「もちろんですわ。間違っているのは、ビティング伯爵令嬢とコザック伯爵令嬢です」
「そうでしたか」
にこりと微笑んで、私は促された席に座った。
けれど、今、この場ではそんな言葉は当てはまりそうにはなかった。
経験してみないとわからないものね。
少しの沈黙のあと、プリステッド公爵令嬢は、私から視線をそらすと、答えを返してくれないビティング伯爵令嬢の方に目を向けて口を開いた。
「ビティング伯爵令嬢」
「は、はいっ!」
プリステッド公爵令嬢に声をかけられたビティング伯爵令嬢は、飛び上がるようにして椅子から立ち上がり返事を返した。
「申し訳ないけれど、今日はもうお帰りになってくださる?」
「……え? い、今、なんと?」
「お帰りになってほしいとお伝えしたのです。アイリス様は大事なお客様ですわ。それなのに、そんな失礼なことを仰るだなんて主催者としては、場の空気をこれ以上乱すわけにはいきませんので、ビティング伯爵令嬢にはお帰りいただくしかありませんの」
「そ、そんなっ! 私はっ!」
ビティング伯爵令嬢は今にも泣き出しそうな顔になって、プリステッド公爵令嬢に近付いていこうとしたけれど、近くにいたメイドによって止められる。
「お帰りはこちらです。ご案内いたします」
「ご、ご案内って、私はまだ帰りたくなんか…っ」
「ビティング伯爵令嬢、お帰りになって?」
プリステッド公爵令嬢は持っていた扇の先を口元にあてて、にっこりと微笑んだ。
性格が良くないのはどっちもどっちといったところかしら。
私としては、別に帰らせなくても私を帰らせてくれれば良いのだけど、そんなことはさせたくないものね?
ビティング伯爵令嬢だけ帰らせるのは可哀想な気がして、プリステッド公爵令嬢に声を掛ける。
「プリステッド公爵令嬢にお聞きしたいのですが、遅れてきて一緒にお茶をするつもりだなんて図太い神経だと仰っていたご令嬢、たしか、コザック伯爵令嬢でしたかしら? コザック伯爵令嬢には何のお咎めもなしでしょうか? ビティング伯爵令嬢だけというのは、私は納得できませんわ」
「そ、それは、もちろん、今からお伝えするつもりでしたわ!」
プリステッド公爵令嬢は唇をかみしめたあと、青ざめているコザック伯爵令嬢に告げる。
「お聞きになったでしょう? コザック伯爵令嬢、あなたもお帰りになって?」
「そんな! プリセス様! 私はっ、言われたとおりに!」
「何を言っているの! わたくしのせいにしないでちょうだいっ!!」
コザック伯爵令嬢が悲痛な叫びを上げたけれど、プリステッド公爵令嬢はその叫びを自分の声でかき消すと、私の方に振り返る。
「アイリス様、これでご満足いただけたでしょうか?」
「マオニール公爵夫人! お許しください! これは、プリステッド公爵令嬢に頼まれてっ!」
ビティング伯爵令嬢とコザック伯爵令嬢が私に訴えようとしたけれど、いつの間にか現れた騎士達によって、無理やり連れて行かれてしまった。
あまりの強引なやり方に小さく息を吐いてから答える。
「満足しているかと聞かれましたら、満足はしておりませんわね。納得のいかないことを言われたんですもの。それに、あんな風に女性を連れ出すなんて野蛮なやり方ですわね。ですが、プリステッド公爵令嬢の誠意を感じることは出来ましたわ」
これが嫌味だと気が付いたのか、プリステッド公爵令嬢は一瞬、眉根を寄せたけれど、私をテーブルの方に促す。
「お許しいただけたのであれば良かったですわ。では、アイリス様、どうぞお座りになって?」
プリステッド公爵令嬢は、二人が去ったから空いた席ではなく、元々空いていた、プリステッド公爵令嬢の向かい側の席を手で示した。
「私は帰らなくてもよろしいのですね?」
「もちろんですわ。間違っているのは、ビティング伯爵令嬢とコザック伯爵令嬢です」
「そうでしたか」
にこりと微笑んで、私は促された席に座った。
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