幸せなお飾りの妻になります!

風見ゆうみ

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 私が店から出てくると、トーイと話をしていたリアム様が驚いた顔をして私を見た。

「アイリス、思った以上に早かったね。母上の買い物に付き合わされた時は、こんなに早くなかったよ。ゆっくり選んで良かったのに」

 店の外には、リアム様とトーイ、それから護衛騎士の人がいるだけで、ココルの姿は見当たらなかった。

「あの……、ココルは」
「ああ。帰ってもらったよ。といっても、今、泊まっている宿屋のほうにだけど」
「妹が何か失礼な事を言ったりしませんでしたか?」

 恐る恐る尋ねると、リアム様とトーイは顔を見合わせた。

 失礼な事を言わないわけがないわよね。
 聞かなくてもわかる事だったわ。
 相手は公爵閣下なのに、自分が夫人の妹ということで気が大きくなって失礼な事を言ったのね。

「本当に申し訳ございません。私がもっとしっかりしていれば……」
「妹を育てたのは君じゃないだろう? あの両親にアイリスのような子が育ったことの方が驚きだね。反面教師だったんだろうか」
「それもあると思いますし、友人に恵まれたんだと思います」

 普通の子なら、人の嫌なことをわざわざするような子と一緒に遊ぶよりかは仲間はずれにするはず。
 それなのに、サマンサは私を見捨てなかった。

 だから、周りが見えるようになったというのもあると思う。

「そうか、それは良かったね」

 リアム様は優しく微笑んでくれたけれど、すぐに表情を渋いものに変える。

「僕が悪いんだ。結納金という名目で渡した手切れ金が多すぎたみたいでね。君の家族は金に目がくらんでしまっている」
「そうだったんですね。おかしいとは思ったんです。あそこまでお金に執着するような子ではなかったので」

 頷いてから、気になった事を聞いてみる。

「家族がこの街に来ている事は知っておられたのですか?」
「いや。そこまでマークしていなかったというのもあるんだけど、どうやら、プリステッド公爵令嬢が手を貸しているみたいで、こちらに情報がまわらないようにしていたみたいだ」
「プリステッド公爵令嬢が……?」
「ああ。さすがにノマド家が僕の領地に入ってきたら連絡するようにと、管理を任せている貴族達に連絡をしてたんだけど、この地を任せていた貴族が、僕に連絡するのをわざと遅らせたみたいだ。中々、真相を吐いてくれなかったから時間がかかってしまった」

 リアム様はさらりと平気な顔で恐ろしいことを言われた。

 私とサマンサが話をしている間に、何が起こっていたのかしら……。

 考えない事にしましょう。
 だって、悪いことをしたのは相手のほうなんだもの。

「アイリス様、ココル様が付き合おうとしている男性も、プリステッド公爵令嬢から雇われた評判の良くないゴロツキです。どうします? ゴロツキは始末しますか?」

 トーイが聞いてくるので、慌てて首を横に振る。

「し、始末って! まだココルとどうこうなっていないのでしたら、始末とか物騒なことではなく、遠ざけていただけないでしょうか?」
「承知しました」

 トーイは頷いてくれたけれど、リアム様が厳しい表情で言う。
 
「その男が他の人間にも迷惑をかけているようなら、僕に連絡をくれ。処分内容を考える。それから、プリステッド家にも抗議をいれないとな。人の領地内で好き勝手するなんて、どんな行為か認識してもらわないと」
「あの、もしかして、全て、私のせいなのでしょうか?」

 私がお飾りの妻になったせいで、リアム様だけではなく、たくさんの人に迷惑をかけてしまったのかと思うと、とても申し訳なく思った。

「アイリスのせいじゃないよ。僕達がしている話は、ゴミをゴミ箱に捨てる話だよ」
「そうですよ、アイリス様。ゴミが道に捨てられていたら、風に飛んだりしてしまうでしょう? ゴミが増えていかないように拾って処分するんですよ」

 リアム様もトーイも笑顔で言ってくれているけれど、話の内容は少し怖い気がするわ。

「それよりアイリス。夕方までまだ時間があるから、ちゃんとしたデートをしようか」
「い、今からですか!?」
「うん。駄目かな? 僕は今日のデートを楽しみにしていたんだけど」

 リアム様がまるでおねだりする子供のような目で私を見つめてくる。

 元々は、朝からデートの予定が、サマンサと食事をしたり、下着を選んだりで、ティータイムの時間になってしまっているのだから、このお誘いを私が断れるはずもない。

「わかりました。よろしくお願いいたします。リアム様の行きたいところに行きましょう!」
「あ、あと、リアムって呼んでくれないの?」
「…リアム様は、そんなに様をつけられるのが嫌なのですか?」
「おかしいかな? でもさ、トーイのことはいつからか、トーイ様じゃなくてトーイになってるのに、僕は駄目だなんて変じゃないか?」
「それは、トーイが様なんていらないってうるさかったからです」
「じゃあ、僕もうるさく言おうかな」

 リアム様が私を見て微笑む。

 これは敵わないわ。

「……リアム」
「ん?」
「リアムって呼びます。これで、満足してもらえますか?」

 リアム様からリアム呼びに変更するだけなのに、本当に恥ずかしかった。

「うん、すごく嬉しい」

 そう言って笑ったリアムの顔を見て、呼吸がしづらくなり、思わず胸をおさえた。

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