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最終章 あなたには彼女がお似合いです

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 ランシード様には自室に戻るように言われた。
 でも、ロビースト様はわたしの名を呼んでいるのだから、無関心でいるわけにもいかなかった。

 その気持ちを伝えると、ランシード様は渋々だけれど了承してくれた。
 二人でエントランスホールに向かうと、お父様とテックが騎士たちと話をしているところだった。

「お父様、一体、何が起きているのですか?」
「よくわからんが、ラソウエ公爵はお前を出せと言っていて、王妃陛下はランシード殿下と話をしたいと言っている」

 お父様は眉間の皺を深くしてから、話を続ける。

「ラソウエ公爵が爆発物を王妃陛下に提供したようだな。といっても、使ったのは、王妃陛下に指示された人間だろうが」
「まだ、爆発物を持っている可能性が高いですね」
「ええ」

 ランシード様の問いかけに、お父様は頷いた。

「今はセフィリアとランシード殿下を呼びに行っていると言って待ってもらっていますが、二人を渡さなければ、この屋敷の扉を爆破すると言っていました。先程の爆発は門を壊すためのものでしょう」
「危険です。外に出てはいけませんよ」

 お父様の話を聞いたテックが不安そうな顔で、わたしとランシード様を見つめた。

 門を守っていた騎士たちは大丈夫かしら。
 爆発に巻き込まれていなければ良いんだけど。

「爆発物を持ってるから、取り押さえるのも難しいということですね?」
「はい。二人が仲良く死んでくれるだけなら良いのですが、誰かを巻き込もうとしているのは確実です」

 ランシード様とお父様が話をしている間に、わたしはテックに話しかける。

「怖い思いをさせてごめんね」
「セフィリアお姉様が謝ることではありません。王妃陛下とラソウエ公爵がおかしいのです」
「そうね。だけど、こんなことになってしまった以上、おかしいでは済まされないわ」

 ロビースト様がわたしにこだわる理由が本当にわからない。

 ファーラ様の場合は、ランシード様がシドナ様に、ポーラ様がランシード様を殺すつもりだったという話をしたから、それに対する逆恨みなのだと思われる。

「早くランシード殿下を連れてきなさい!」
「そうです! 早くわたくしにセフィリアを渡すんです! セフィリアのせいで、どこの令嬢もわたくしの妻になりたがらないのですよ!」

 それってわたしのせいなの?

 扉をドンドンと叩く音が聞こえて、扉のほうに目を向ける。

 正直に言うと、会うのは怖い。
 でも、逃げるわけにもいかない。
 
 イライラする気持ちを抑えて、ランシード様に話しかける。

「ランシード様、このままでは扉を守っている騎士も危険です。とにかく会うだけ会ってみます。ただ、そうなるとランシード様も出せと言われる可能性があるんですが」
「セフィリア一人で行かせるわけないだろ」
「ありがとうございます」

 上手くいけば王妃陛下だけでなく、ロビースト様も潰すことができる。
 というか、上手くいかなくても捕まえることができれば終わりね。
 
 お父様のほうを見ると、わたしを見ていたのか目が合った。

「爆発に巻き込まれないようにだけ注意しろ」
「よっぽどの馬鹿じゃない限り、自分が近くにいるのに爆発物を使ったりしないでしょう」
「相手がよっぽどの馬鹿だから言っているんだ」

 お父様に言われて、再認識する。

 そうだわ。
 今まで相手をしてきた人たちも、今、ここに来ている人たちも、身分が高いだけでワガママで頭の中はからっぽだ。
 周りが苦労して頑張ってくれていたから、国として成り立っていたんだわ。
 口にすれば、何でも自分の言う通りになると思い込んでいて、そうならない場合は強硬手段をとるのだ。

 もう、そんなことはさせない。

 決意を固めると、まずは騎士が扉を開けてくれた。

 ロビースト様とファーラ様の姿が見えたところで、ランシード様が口を開く。

「邸の中には入ってこないでください」
「あなたが大人しく私に付いてくるなら、邸に入る必要はないわ」
「私を連れて行ってどうするつもりです?」
「簡単よ! あなたを人質にしてポーラの命を助けてもらうのよ!」

 ファーラ様は黙って聞いていれば、無茶苦茶な話をしてくる。

「このままだと、ポーラは殺されるんでしょう? そんなの黙っているわけにはいかないじゃない! ポーラはただ正直な気持ちを口にしただけなのに!」
「何でもかんでも正直に言えばよいと言うものではありませんわ」

 発言に苛立ってしまったわたしは、髪が乱れて化粧も落ち、まるで別人のようになってしまったファーラ様に言った。

「うるさいわよ! 豚の娘は黙っていなさい!」
「私の妻が豚だと言うのなら、あなたは何なんです? 多くの女性が嫌っている虫ですか?」

 お父様が会話に割って入ってきた。

「私をあんなものに例えるだなんて許せない!」

 そう言って、ファーラ様は手に持っていた黒いものを掲げた。

「これは手榴弾よ! 目撃者全員の口をふさいでやるわ」
「くそ、最悪だな」

 ランシード様は呟き、なぜ、ファーラ様が物騒なものを持っているのかを教えてくれた。
 理由はラソウエ公爵家の養子になる際にロビースト様から望まれて渡したものだという。

 軍事大国のテイルス王国は武器の輸出も盛んだから、ロビースト様がランシード様と手を組もうとした理由の一つになるのかもしれない。

「さあ、ランシード殿下! セフィリアを殺したくなければ、私の言うことを聞きなさい!」
「嫌だよ。どうせ、セフィリアも殺すつもりだろ」
「セフィリアはわたくしの妻です! 殺させるわけにはいきません!」

 そう言って、ロビースト様はファーラ様を殴り、よろめいた彼女の髪の毛を掴むと、彼女の額を近くの壁に打ち付けた。

「勝手な真似をするんじゃない! だから、王家と手を組むのは嫌だったんですよ!」
「う……、あ」

 意識が朦朧としているのか、ファーラ様は持っていた手榴弾を手から落とした。

 転がった手榴弾をお父様が素早く拾う。
 ロビースト様はそんなことは気にせずに、ファーラ様に叫ぶ。
 
「最初から期待はしていなかったが、本当に馬鹿な王妃ですね! この国の王家は潰れるべきです!」
「そうだな。それからお前の家も潰したほうが良さそうだ」

 そう言ったランシード様は、ロビースト様の手を捻り上げて、ファーラ様を自由にした。
 そして、ロビースト様の右頬に重いパンチを入れたのだった。


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