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第8章 暴走する者たち

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「な、なんてことをっ……!」

 ポーラ様は脇腹を押さえて床に崩れ落ちた。

「正気じゃねえな」

 ランシード様は呟くと、わたしの手を取って場所を移動し、デスタとの距離を取ろうとする。

「俺が相手をするから、セフィリアはここで大人しくしておいてくれ。あいつは、セフィリアを傷つけるつもりはないみたいだからな」

 ランシード様がわたしを部屋の奥へと誘導してくれた時、扉が叩かれる。

「ランシード! セフィリア! 二人共無事なの!?」
「静かにしてください、母上! 今はそれどころじゃないんですよ」

 シドナ様の応対をしたのはデスタだった。
 ランシード様のふりをしているみたい。

 実の母親が息子の声を聞き間違えるとは思えない。
 だって、デスタとランシード様の声は、全然似ていないんだもの。

「母上! 怪我人がいます! 医者を呼んでください!」

 本物のランシード様が叫んだ時だった。

「うああああ!」

 デスタが叫び声を上げながら、ランシード様に斬りかかってきた。

「ほんっとーに馬鹿だな」

 ランシード様は呟くと、デスタをひらりと躱し、行き過ぎようとしたデスタの横腹を蹴った。

「ぎぇっ!」

 変な声を上げて、デスタは横に吹っ飛び、剣を床に落とす。
 ランシード様はその剣を蹴り飛ばそうとしたけれど、カーペットのせいで剣が滑らないことに気がついたのか、一瞬だけ動きを止めた。
 そしてすぐに、剣を拾ったランシード様は、壁にもたれかかっているデスタに話しかける。

「もう終わりだよ」
「まだ、まだだ!」

 デスタは叫んで立ち上がり、扉のほうに走っていく。
 そっちに逃げても結果は同じなのに、いつまで悪あがきをするつもりなのかしら。

「絶対に僕は幸せになるんだ!」
「ロイアン卿! あなた、自分が何をしているのかわかってるの!? 幸せになれるわけないわ!」
「うるさい! こうするしかなかったんだ」

 デスタはポーラ様の体を蹴ってから、わたしに向かって叫ぶ。

「彼女が女王なんかになったら大変なことになる! だから、殺すんだ! 僕は英雄なんだよ!」
「殺す以外の方法だってあるでしょう! それに、あなたは国のためにポーラ様を傷つけたんじゃないでしょう!?」

 どんな理由があっても、人を刺すだなんて許されないことだ。
 しかも、デスタは自分に大義名分があるように言っているけれど、実際は違う。

 彼女と結婚したくないだけじゃないの!

「早く! 早く扉を開けて!」

 扉の向こうから、シドナ様の焦る声が聞こえてきた。
 扉をこじあけようとしているのか、何度も扉が揺れる。
 わたしは、デスタの注意を引くために話しかけた。

「ポーラ様と結婚したくないという気持ちは理解できるわ! でも、こんなことをするのは間違ってる!」
「セフィリア」

 デスタは、訴えかけていたわたしの言葉を遮って言う。

「君が僕と結婚してくれないのなら、僕はランシード様や彼女を殺したのは君だと言う」
「馬鹿なこと言わないで! あなたのその手と服を見てみなさいよ! ポーラ様の血で汚れているじゃない!」
「僕はセフィリアに刺されたポーラ様を介抱したから血まみれなんだ。君は、勢い余ってポーラ様やランシード様を殺したというショックで、部屋のバルコニーから身を投げて自害する」
「ふざけたことを言わないで!」

 わたしはそこまで言ったあと、恐怖で何も言えなくなった。
 ランシード様が近寄ってきて、わたしの体を抱きしめてくれる。

「な、何だよ。そんな恐ろしいものを見るような目で僕を見て」

 デスタがそう言った時だった。
 傷が深くなかったのか、ポーラ様が立ち上がり、デスタの首に後ろからリボンを巻き付けた。

「な、何を!」
「あんたなんか、わたくしが殺してやるわ!」
「やめろ! ぐぇっ、ぐっ!」

 リボンといっても腰に巻いていた太いリボンで生地もしっかりしている。
 だから、ちょっとやそっとでは破れそうになかった。

「ぐぇぇ……、たす……け」
「無茶苦茶だ」

 ランシード様がため息を吐いてから、わたしを見つめて苦笑する。

「さすがに黙って見てるのはヤバいだろ」

 ランシード様はそう言って、わたしを連れてデスタとポーラ様の横を通り過ぎ、部屋の鍵を開けたのだった。
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