47 / 52
第8章 暴走する者たち
4
しおりを挟む
「な、なんてことをっ……!」
ポーラ様は脇腹を押さえて床に崩れ落ちた。
「正気じゃねえな」
ランシード様は呟くと、わたしの手を取って場所を移動し、デスタとの距離を取ろうとする。
「俺が相手をするから、セフィリアはここで大人しくしておいてくれ。あいつは、セフィリアを傷つけるつもりはないみたいだからな」
ランシード様がわたしを部屋の奥へと誘導してくれた時、扉が叩かれる。
「ランシード! セフィリア! 二人共無事なの!?」
「静かにしてください、母上! 今はそれどころじゃないんですよ」
シドナ様の応対をしたのはデスタだった。
ランシード様のふりをしているみたい。
実の母親が息子の声を聞き間違えるとは思えない。
だって、デスタとランシード様の声は、全然似ていないんだもの。
「母上! 怪我人がいます! 医者を呼んでください!」
本物のランシード様が叫んだ時だった。
「うああああ!」
デスタが叫び声を上げながら、ランシード様に斬りかかってきた。
「ほんっとーに馬鹿だな」
ランシード様は呟くと、デスタをひらりと躱し、行き過ぎようとしたデスタの横腹を蹴った。
「ぎぇっ!」
変な声を上げて、デスタは横に吹っ飛び、剣を床に落とす。
ランシード様はその剣を蹴り飛ばそうとしたけれど、カーペットのせいで剣が滑らないことに気がついたのか、一瞬だけ動きを止めた。
そしてすぐに、剣を拾ったランシード様は、壁にもたれかかっているデスタに話しかける。
「もう終わりだよ」
「まだ、まだだ!」
デスタは叫んで立ち上がり、扉のほうに走っていく。
そっちに逃げても結果は同じなのに、いつまで悪あがきをするつもりなのかしら。
「絶対に僕は幸せになるんだ!」
「ロイアン卿! あなた、自分が何をしているのかわかってるの!? 幸せになれるわけないわ!」
「うるさい! こうするしかなかったんだ」
デスタはポーラ様の体を蹴ってから、わたしに向かって叫ぶ。
「彼女が女王なんかになったら大変なことになる! だから、殺すんだ! 僕は英雄なんだよ!」
「殺す以外の方法だってあるでしょう! それに、あなたは国のためにポーラ様を傷つけたんじゃないでしょう!?」
どんな理由があっても、人を刺すだなんて許されないことだ。
しかも、デスタは自分に大義名分があるように言っているけれど、実際は違う。
彼女と結婚したくないだけじゃないの!
「早く! 早く扉を開けて!」
扉の向こうから、シドナ様の焦る声が聞こえてきた。
扉をこじあけようとしているのか、何度も扉が揺れる。
わたしは、デスタの注意を引くために話しかけた。
「ポーラ様と結婚したくないという気持ちは理解できるわ! でも、こんなことをするのは間違ってる!」
「セフィリア」
デスタは、訴えかけていたわたしの言葉を遮って言う。
「君が僕と結婚してくれないのなら、僕はランシード様や彼女を殺したのは君だと言う」
「馬鹿なこと言わないで! あなたのその手と服を見てみなさいよ! ポーラ様の血で汚れているじゃない!」
「僕はセフィリアに刺されたポーラ様を介抱したから血まみれなんだ。君は、勢い余ってポーラ様やランシード様を殺したというショックで、部屋のバルコニーから身を投げて自害する」
「ふざけたことを言わないで!」
わたしはそこまで言ったあと、恐怖で何も言えなくなった。
ランシード様が近寄ってきて、わたしの体を抱きしめてくれる。
「な、何だよ。そんな恐ろしいものを見るような目で僕を見て」
デスタがそう言った時だった。
傷が深くなかったのか、ポーラ様が立ち上がり、デスタの首に後ろからリボンを巻き付けた。
「な、何を!」
「あんたなんか、わたくしが殺してやるわ!」
「やめろ! ぐぇっ、ぐっ!」
リボンといっても腰に巻いていた太いリボンで生地もしっかりしている。
だから、ちょっとやそっとでは破れそうになかった。
「ぐぇぇ……、たす……け」
「無茶苦茶だ」
ランシード様がため息を吐いてから、わたしを見つめて苦笑する。
「さすがに黙って見てるのはヤバいだろ」
ランシード様はそう言って、わたしを連れてデスタとポーラ様の横を通り過ぎ、部屋の鍵を開けたのだった。
ポーラ様は脇腹を押さえて床に崩れ落ちた。
「正気じゃねえな」
ランシード様は呟くと、わたしの手を取って場所を移動し、デスタとの距離を取ろうとする。
「俺が相手をするから、セフィリアはここで大人しくしておいてくれ。あいつは、セフィリアを傷つけるつもりはないみたいだからな」
ランシード様がわたしを部屋の奥へと誘導してくれた時、扉が叩かれる。
「ランシード! セフィリア! 二人共無事なの!?」
「静かにしてください、母上! 今はそれどころじゃないんですよ」
シドナ様の応対をしたのはデスタだった。
ランシード様のふりをしているみたい。
実の母親が息子の声を聞き間違えるとは思えない。
だって、デスタとランシード様の声は、全然似ていないんだもの。
「母上! 怪我人がいます! 医者を呼んでください!」
本物のランシード様が叫んだ時だった。
「うああああ!」
デスタが叫び声を上げながら、ランシード様に斬りかかってきた。
「ほんっとーに馬鹿だな」
ランシード様は呟くと、デスタをひらりと躱し、行き過ぎようとしたデスタの横腹を蹴った。
「ぎぇっ!」
変な声を上げて、デスタは横に吹っ飛び、剣を床に落とす。
ランシード様はその剣を蹴り飛ばそうとしたけれど、カーペットのせいで剣が滑らないことに気がついたのか、一瞬だけ動きを止めた。
そしてすぐに、剣を拾ったランシード様は、壁にもたれかかっているデスタに話しかける。
「もう終わりだよ」
「まだ、まだだ!」
デスタは叫んで立ち上がり、扉のほうに走っていく。
そっちに逃げても結果は同じなのに、いつまで悪あがきをするつもりなのかしら。
「絶対に僕は幸せになるんだ!」
「ロイアン卿! あなた、自分が何をしているのかわかってるの!? 幸せになれるわけないわ!」
「うるさい! こうするしかなかったんだ」
デスタはポーラ様の体を蹴ってから、わたしに向かって叫ぶ。
「彼女が女王なんかになったら大変なことになる! だから、殺すんだ! 僕は英雄なんだよ!」
「殺す以外の方法だってあるでしょう! それに、あなたは国のためにポーラ様を傷つけたんじゃないでしょう!?」
どんな理由があっても、人を刺すだなんて許されないことだ。
しかも、デスタは自分に大義名分があるように言っているけれど、実際は違う。
彼女と結婚したくないだけじゃないの!
「早く! 早く扉を開けて!」
扉の向こうから、シドナ様の焦る声が聞こえてきた。
扉をこじあけようとしているのか、何度も扉が揺れる。
わたしは、デスタの注意を引くために話しかけた。
「ポーラ様と結婚したくないという気持ちは理解できるわ! でも、こんなことをするのは間違ってる!」
「セフィリア」
デスタは、訴えかけていたわたしの言葉を遮って言う。
「君が僕と結婚してくれないのなら、僕はランシード様や彼女を殺したのは君だと言う」
「馬鹿なこと言わないで! あなたのその手と服を見てみなさいよ! ポーラ様の血で汚れているじゃない!」
「僕はセフィリアに刺されたポーラ様を介抱したから血まみれなんだ。君は、勢い余ってポーラ様やランシード様を殺したというショックで、部屋のバルコニーから身を投げて自害する」
「ふざけたことを言わないで!」
わたしはそこまで言ったあと、恐怖で何も言えなくなった。
ランシード様が近寄ってきて、わたしの体を抱きしめてくれる。
「な、何だよ。そんな恐ろしいものを見るような目で僕を見て」
デスタがそう言った時だった。
傷が深くなかったのか、ポーラ様が立ち上がり、デスタの首に後ろからリボンを巻き付けた。
「な、何を!」
「あんたなんか、わたくしが殺してやるわ!」
「やめろ! ぐぇっ、ぐっ!」
リボンといっても腰に巻いていた太いリボンで生地もしっかりしている。
だから、ちょっとやそっとでは破れそうになかった。
「ぐぇぇ……、たす……け」
「無茶苦茶だ」
ランシード様がため息を吐いてから、わたしを見つめて苦笑する。
「さすがに黙って見てるのはヤバいだろ」
ランシード様はそう言って、わたしを連れてデスタとポーラ様の横を通り過ぎ、部屋の鍵を開けたのだった。
61
お気に入りに追加
3,469
あなたにおすすめの小説
【完】王妃の座を愛人に奪われたので娼婦になって出直します
112
恋愛
伯爵令嬢エレオノールは、皇太子ジョンと結婚した。
三年に及ぶ結婚生活では一度も床を共にせず、ジョンは愛人ココットにうつつを抜かす。
やがて王が亡くなり、ジョンに王冠が回ってくる。
するとエレオノールの王妃は剥奪され、ココットが王妃となる。
王宮からも伯爵家からも追い出されたエレオノールは、娼婦となる道を選ぶ。
ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?
望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。
ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。
転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを――
そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。
その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。
――そして、セイフィーラは見てしまった。
目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を――
※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。
※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)
人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜
清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。
クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。
(過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…)
そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。
移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。
また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。
「俺は君を愛する資格を得たい」
(皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?)
これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。
妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。
しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。
それを指示したのは、妹であるエライザであった。
姉が幸せになることを憎んだのだ。
容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、
顔が醜いことから蔑まされてきた自分。
やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。
しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。
幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。
もう二度と死なない。
そう、心に決めて。
王命での結婚がうまくいかなかったので公妾になりました。
しゃーりん
恋愛
婚約解消したばかりのルクレツィアに王命での結婚が舞い込んだ。
相手は10歳年上の公爵ユーグンド。
昔の恋人を探し求める公爵は有名で、国王陛下が公爵家の跡継ぎを危惧して王命を出したのだ。
しかし、公爵はルクレツィアと結婚しても興味の欠片も示さなかった。
それどころか、子供は養子をとる。邪魔をしなければ自由だと言う。
実家の跡継ぎも必要なルクレツィアは子供を産みたかった。
国王陛下に王命の取り消しをお願いすると三年後になると言われた。
無駄な三年を過ごしたくないルクレツィアは国王陛下に提案された公妾になって子供を産み、三年後に離婚するという計画に乗ったお話です。
【完結】これからはあなたに何も望みません
春風由実
恋愛
理由も分からず母親から厭われてきたリーチェ。
でももうそれはリーチェにとって過去のことだった。
結婚して三年が過ぎ。
このまま母親のことを忘れ生きていくのだと思っていた矢先に、生家から手紙が届く。
リーチェは過去と向き合い、お別れをすることにした。
※完結まで作成済み。11/22完結。
※完結後におまけが数話あります。
※沢山のご感想ありがとうございます。完結しましたのでゆっくりですがお返事しますね。
理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました
ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。
このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。
そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。
ーーーー
若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。
作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。
完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。
第一章 無計画な婚約破棄
第二章 無計画な白い結婚
第三章 無計画な告白
第四章 無計画なプロポーズ
第五章 無計画な真実の愛
エピローグ
君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。
みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。
マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。
そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。
※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる