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第8章 暴走する者たち
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「ランシード殿下! わたくしは見ましたわ! わたくしの婚約者であるデスタと殿下の婚約者であるセフィリアは恋仲なんです!」
「違います!」
叫ぶポーラ様の言葉をわたしが否定すると、デスタが叫ぶ。
「僕はただ、やり直したいだけなんだ! 僕は誰よりもセフィリアのことを愛してる! セフィリア、思い出してくれよ、君は勝手ばかりしている僕のことを、あんなにも好きでいてくれたじゃないか!」
「それは昔の話よ! もう、あなたのことなんて好きじゃないわ!」
「そうか。へえ、セフィリアはそんなにも、お前のことが好きだったのか」
ランシード殿下はデスタに向かって言うと、彼のシャツの襟首を掴んで立ち上がらせる。
「俺のセフィリアがお前のことを好きだったのは過去の話だろ? もう、セフィリアはお前に恋愛感情なんてねぇんだよ」
「それは、殿下が勝手に思っていらっしゃるだけです! セフィリアは僕の」
デスタの話の途中で、ランシード様は襟首をつかんでいた手を離し、デスタの鼻を拳で殴った。
「ほげっ!」
間抜けな声を上げて、デスタは床に倒れ込む。
「俺のセフィリアだって言ってんだろ」
「ランシード様」
暴力をふるうことは良くない。
わたしが原因で怒っているのならと思って、後ろから抱きついてお願いする。
「セフィリア?」
「あの」
「……どうした?」
「ランシード様と二人きりになりたいです」
ランシード様の背中に頬を寄せて言うと、彼のお腹に回しているわたしの腕に優しく触れる。
「そんなことを言われたら、今はここまでにしないといけなくなるじゃないか」
冷静になったのか、ランシード様はそう言ってくれたので、わたしはゆっくりと彼から体を離す。
ランシード様は鼻を押さえて、うずくまっているデスタに声を掛ける。
「君がセフィリアのことを抱きしめているもんだから、ついカッとなってしまった。悪かった」
「わりゅいとおもってるなら、僕にセフィリアを返してくだしゃい」
「それは無理。セフィリアは僕の本性を知っても態度を変えない人だから。僕と結婚してもらうんだ」
「別にセフィリアじゃなくても良いじゃないですか!」
「君はそうかもしれないけど、僕は違う」
ランシード様は冷たく応えると、わたしのほうに振り返り、少し乱暴にわたしの手を取った。
「帰ろう」
「は、はい!」
「ランシード殿下! 目を覚ましてください! この女は浮気していたんですよ!」
王妃陛下がわたしを指差して叫んだので否定する。
「わたしは浮気なんてしていません!」
「浮気以外の何があるの! 元婚約者のいる部屋にノコノコ入ってくるだなんて!」
「王妃陛下とポーラ様がいらっしゃったから入ったのです。それに、一緒の部屋にいることが浮気だと思うのなら、どうして止めてくださらなかったんですか?」
「そ、それは私も忙しくて、考えが及ばなかったのよ」
わたしと王妃陛下が言い合っていると、ランシード様がテーブルの上に置いたままだった、王妃陛下の扇を指差す。
「セフィリア、あれはセフィリアのものかな?」
「いいえ。王妃陛下がわたしに投げてきたものです」
「……投げてきた?」
答えたわたしを見るのではなく、ランシード様は王妃陛下に目を向けた。
「投げたのではありません! 手が滑ったのです!」
「そうですか。その話については改めて聞かせてもらうことにしましょう」
ランシード様は冷たい口調で言うと、怒りを抑えるかのように、わたしの手を強く握り直した。
「セフィリア、待たせてごめん。行こうか」
「はい」
「待ってください! いくら、他国の王族とはいえ、城内を勝手にウロウロするだなんてありえません!」
ポーラ様がまともな発言をしたので驚きつつ、ランシード様を見つめる。
「君のお父上は一人でうろうろしなければ良いと許可してくれたけどね? だから、君の国の騎士を借りて見張ってもらっていたんだけどな」
そう言ったランシード様は笑みを浮かべたけれど、目は笑っていなかった。
「とにかく、落ち着いてセフィリアの話を聞くよ。それから判断する。でも」
ランシード様はデスタに向かって言葉を続ける。
「君のことは絶対に許さない」
「ひっ!」
わたしからはランシード様の顔がはっきりとは見えなかった。
でも、よほど恐ろしい表情をされていたみたいで、ランシード様がわたしに笑顔で振り返ると同時に、ポーラ様が叫ぶ。
「ちょっと! こんなところで漏らさないで!」
何事かと思ってデスタのほうを見ると、尻もちをついているデスタの周りのカーベットにじわじわと何かが染み渡っていくのがわかった。
「違います!」
叫ぶポーラ様の言葉をわたしが否定すると、デスタが叫ぶ。
「僕はただ、やり直したいだけなんだ! 僕は誰よりもセフィリアのことを愛してる! セフィリア、思い出してくれよ、君は勝手ばかりしている僕のことを、あんなにも好きでいてくれたじゃないか!」
「それは昔の話よ! もう、あなたのことなんて好きじゃないわ!」
「そうか。へえ、セフィリアはそんなにも、お前のことが好きだったのか」
ランシード殿下はデスタに向かって言うと、彼のシャツの襟首を掴んで立ち上がらせる。
「俺のセフィリアがお前のことを好きだったのは過去の話だろ? もう、セフィリアはお前に恋愛感情なんてねぇんだよ」
「それは、殿下が勝手に思っていらっしゃるだけです! セフィリアは僕の」
デスタの話の途中で、ランシード様は襟首をつかんでいた手を離し、デスタの鼻を拳で殴った。
「ほげっ!」
間抜けな声を上げて、デスタは床に倒れ込む。
「俺のセフィリアだって言ってんだろ」
「ランシード様」
暴力をふるうことは良くない。
わたしが原因で怒っているのならと思って、後ろから抱きついてお願いする。
「セフィリア?」
「あの」
「……どうした?」
「ランシード様と二人きりになりたいです」
ランシード様の背中に頬を寄せて言うと、彼のお腹に回しているわたしの腕に優しく触れる。
「そんなことを言われたら、今はここまでにしないといけなくなるじゃないか」
冷静になったのか、ランシード様はそう言ってくれたので、わたしはゆっくりと彼から体を離す。
ランシード様は鼻を押さえて、うずくまっているデスタに声を掛ける。
「君がセフィリアのことを抱きしめているもんだから、ついカッとなってしまった。悪かった」
「わりゅいとおもってるなら、僕にセフィリアを返してくだしゃい」
「それは無理。セフィリアは僕の本性を知っても態度を変えない人だから。僕と結婚してもらうんだ」
「別にセフィリアじゃなくても良いじゃないですか!」
「君はそうかもしれないけど、僕は違う」
ランシード様は冷たく応えると、わたしのほうに振り返り、少し乱暴にわたしの手を取った。
「帰ろう」
「は、はい!」
「ランシード殿下! 目を覚ましてください! この女は浮気していたんですよ!」
王妃陛下がわたしを指差して叫んだので否定する。
「わたしは浮気なんてしていません!」
「浮気以外の何があるの! 元婚約者のいる部屋にノコノコ入ってくるだなんて!」
「王妃陛下とポーラ様がいらっしゃったから入ったのです。それに、一緒の部屋にいることが浮気だと思うのなら、どうして止めてくださらなかったんですか?」
「そ、それは私も忙しくて、考えが及ばなかったのよ」
わたしと王妃陛下が言い合っていると、ランシード様がテーブルの上に置いたままだった、王妃陛下の扇を指差す。
「セフィリア、あれはセフィリアのものかな?」
「いいえ。王妃陛下がわたしに投げてきたものです」
「……投げてきた?」
答えたわたしを見るのではなく、ランシード様は王妃陛下に目を向けた。
「投げたのではありません! 手が滑ったのです!」
「そうですか。その話については改めて聞かせてもらうことにしましょう」
ランシード様は冷たい口調で言うと、怒りを抑えるかのように、わたしの手を強く握り直した。
「セフィリア、待たせてごめん。行こうか」
「はい」
「待ってください! いくら、他国の王族とはいえ、城内を勝手にウロウロするだなんてありえません!」
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「君のお父上は一人でうろうろしなければ良いと許可してくれたけどね? だから、君の国の騎士を借りて見張ってもらっていたんだけどな」
そう言ったランシード様は笑みを浮かべたけれど、目は笑っていなかった。
「とにかく、落ち着いてセフィリアの話を聞くよ。それから判断する。でも」
ランシード様はデスタに向かって言葉を続ける。
「君のことは絶対に許さない」
「ひっ!」
わたしからはランシード様の顔がはっきりとは見えなかった。
でも、よほど恐ろしい表情をされていたみたいで、ランシード様がわたしに笑顔で振り返ると同時に、ポーラ様が叫ぶ。
「ちょっと! こんなところで漏らさないで!」
何事かと思ってデスタのほうを見ると、尻もちをついているデスタの周りのカーベットにじわじわと何かが染み渡っていくのがわかった。
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