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第7章 それぞれの執着心
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無言で扇を拾い、テーブルの上に置くと、王妃陛下は叫ぶ。
「豚の子供の分際で生意気な口を叩くなんて許せないわ!」
「王妃陛下、あなたのような立場の方が、そのような発言をして許されると思っていらっしゃるのですか?」
「そ、それは……!」
王妃陛下は唇を噛んでわたしを睨む。
「今日のお話は、わたしの母が豚で父も人間ではない動物なのだと教えてくださるためだったと理解してよろしいでしょうか?」
「それだけじゃないわ! でも、もういいわ! 気分を害したから帰りなさい! それから、今日の話はランシード殿下には言うんじゃないわよ!」
「承知しました」
ランシード様にだけらしいので、頷いてから立ち上がる。
「では、本日は失礼させていただきます」
「待ってくれ!」
王妃陛下やポーラ様が口を開く前に、デスタが立ち上がって叫ぶ。
「僕は君とやり直したいんだ。元々は君と結婚するつもりだったんだから!」
この人は何を言い出すのよ。
「別にわたしにこだわらなくてもいいわ。わたしにはあなたよりも素敵な婚約者ができたんだから」
「納得いかないんだ!」
デスタがテーブルを回り込んでこようとした。
でも、それをポーラ様が彼の服を掴んで止める。
「デスタ! あなた、わたくしよりもそんな女を選ぶつもりなの!?」
「それは……っ」
「ポーラ、放してあげなさい。ランシード殿下には私たちから伝えましょう」
王妃陛下が勝ち誇ったような笑みを浮かべて、話を続ける。
「デスタとセフィリアは愛し合っているのよ。だから、二人を婚約者に戻してあげましょう。そうでしょう? セフィリア。そのほうが嬉しいのでしょう?」
「嬉しくありませんので、お断りいたします」
迷うことなく答えると、王妃陛下は何が面白いのか笑い始める。
「あなたが何を言っても無駄よ! デスタ! セフィリアを連れて、今すぐに逃げなさい!」
「馬鹿なことを言うのはやめてください!」
わたしが扉に向かって歩き出すと、デスタが後ろから抱きついてきた。
「セフィリア! 僕にはセフィリアしかいないんだ。ポーラ様は僕の運命の相手じゃない!」
「嫌よ! 放して! わたしだってあなたの運命の相手じゃないわ!」
「あっはは! 楽しいことになっているわね。この状況を他の人にも見せてあげましょう」
ポーラ様は立ち上がると、わたしたちの横を通り過ぎ、勢い良く部屋の扉を開けた。
開け放たれた扉の向こうにはランシード様がいた。
ランシード様は後ろからデスタに抱きつかれているわたしを見て、目を見開いた。
ポーラ様はランシード様が廊下に待っていたことに驚いたようで、一瞬、怯んだ様子だった。
扉付近に立っている騎士に、わたしとデスタを見せつけたかったんだと思う。
ポーラ様はすぐに面白がる様子でわたしを指差して叫ぶ。
「ランシード殿下! 見てください! あなたの婚約者は元婚約者と浮気しています!」
「浮気なんてしていません!」
「好きだ! 好きなんだよ! セフィリア!」
否定したけれど、デスタはわたしの腰に腕を回し、顎をわたしの肩に置いてきた。
昔のわたしなら、ときめいているはずのこの状況は苦痛でしかなかった。
ランシード様はわたしのことを嫌いになったかしら。
ランシード様を見つめると、眉根を寄せて、こちらに近づいてくる。
「セフィリア、セフィリア!」
「嫌っ! 放して! 気持ち悪い!」
デスタがわたしの髪に顔を埋めて、首に鼻をこすりつけてきた時だった。
「俺のセフィリアに触んな」
ランシード様は低い声で呟くと、デスタの髪を掴み、わたしから引き剥がし、テーブルに向けて放り投げた。
「……ランシード様」
「セフィリア、大丈夫か?」
よろめいたわたしをランシード様は抱きとめると、さっき、デスタが顔を埋めていた部分に、自分の顔を寄せた。
「むかつく。俺でさえまだ触れてなかったのに」
「ひゃうっ!」
ランシード様がわたしの首をぺろりと舐めたものだから、変な声が出てしまった。
「あとで、もっと消毒しような?」
ランシード様は顔を離し、わたしの左頬を優しく撫でてから、カーペットの上で尻もちをついているデスタを見下ろす。
「俺の婚約者に手を出したんだ。どうなるか覚悟はできてんだろうなあ?」
「ひいっ!」
シード様化したランシード様に睨まれたデスタは情けない声を上げた。
「豚の子供の分際で生意気な口を叩くなんて許せないわ!」
「王妃陛下、あなたのような立場の方が、そのような発言をして許されると思っていらっしゃるのですか?」
「そ、それは……!」
王妃陛下は唇を噛んでわたしを睨む。
「今日のお話は、わたしの母が豚で父も人間ではない動物なのだと教えてくださるためだったと理解してよろしいでしょうか?」
「それだけじゃないわ! でも、もういいわ! 気分を害したから帰りなさい! それから、今日の話はランシード殿下には言うんじゃないわよ!」
「承知しました」
ランシード様にだけらしいので、頷いてから立ち上がる。
「では、本日は失礼させていただきます」
「待ってくれ!」
王妃陛下やポーラ様が口を開く前に、デスタが立ち上がって叫ぶ。
「僕は君とやり直したいんだ。元々は君と結婚するつもりだったんだから!」
この人は何を言い出すのよ。
「別にわたしにこだわらなくてもいいわ。わたしにはあなたよりも素敵な婚約者ができたんだから」
「納得いかないんだ!」
デスタがテーブルを回り込んでこようとした。
でも、それをポーラ様が彼の服を掴んで止める。
「デスタ! あなた、わたくしよりもそんな女を選ぶつもりなの!?」
「それは……っ」
「ポーラ、放してあげなさい。ランシード殿下には私たちから伝えましょう」
王妃陛下が勝ち誇ったような笑みを浮かべて、話を続ける。
「デスタとセフィリアは愛し合っているのよ。だから、二人を婚約者に戻してあげましょう。そうでしょう? セフィリア。そのほうが嬉しいのでしょう?」
「嬉しくありませんので、お断りいたします」
迷うことなく答えると、王妃陛下は何が面白いのか笑い始める。
「あなたが何を言っても無駄よ! デスタ! セフィリアを連れて、今すぐに逃げなさい!」
「馬鹿なことを言うのはやめてください!」
わたしが扉に向かって歩き出すと、デスタが後ろから抱きついてきた。
「セフィリア! 僕にはセフィリアしかいないんだ。ポーラ様は僕の運命の相手じゃない!」
「嫌よ! 放して! わたしだってあなたの運命の相手じゃないわ!」
「あっはは! 楽しいことになっているわね。この状況を他の人にも見せてあげましょう」
ポーラ様は立ち上がると、わたしたちの横を通り過ぎ、勢い良く部屋の扉を開けた。
開け放たれた扉の向こうにはランシード様がいた。
ランシード様は後ろからデスタに抱きつかれているわたしを見て、目を見開いた。
ポーラ様はランシード様が廊下に待っていたことに驚いたようで、一瞬、怯んだ様子だった。
扉付近に立っている騎士に、わたしとデスタを見せつけたかったんだと思う。
ポーラ様はすぐに面白がる様子でわたしを指差して叫ぶ。
「ランシード殿下! 見てください! あなたの婚約者は元婚約者と浮気しています!」
「浮気なんてしていません!」
「好きだ! 好きなんだよ! セフィリア!」
否定したけれど、デスタはわたしの腰に腕を回し、顎をわたしの肩に置いてきた。
昔のわたしなら、ときめいているはずのこの状況は苦痛でしかなかった。
ランシード様はわたしのことを嫌いになったかしら。
ランシード様を見つめると、眉根を寄せて、こちらに近づいてくる。
「セフィリア、セフィリア!」
「嫌っ! 放して! 気持ち悪い!」
デスタがわたしの髪に顔を埋めて、首に鼻をこすりつけてきた時だった。
「俺のセフィリアに触んな」
ランシード様は低い声で呟くと、デスタの髪を掴み、わたしから引き剥がし、テーブルに向けて放り投げた。
「……ランシード様」
「セフィリア、大丈夫か?」
よろめいたわたしをランシード様は抱きとめると、さっき、デスタが顔を埋めていた部分に、自分の顔を寄せた。
「むかつく。俺でさえまだ触れてなかったのに」
「ひゃうっ!」
ランシード様がわたしの首をぺろりと舐めたものだから、変な声が出てしまった。
「あとで、もっと消毒しような?」
ランシード様は顔を離し、わたしの左頬を優しく撫でてから、カーペットの上で尻もちをついているデスタを見下ろす。
「俺の婚約者に手を出したんだ。どうなるか覚悟はできてんだろうなあ?」
「ひいっ!」
シード様化したランシード様に睨まれたデスタは情けない声を上げた。
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