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第7章 それぞれの執着心
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屋敷から出るのは良くないとランシード様からは言われていた。
でも、ランシード様のお母様であるシドナ様から許可を得て、お父様と話をした次の日に、わたしは登城した。
テイルス王国に行く前に、色々なことを片付けてしまいたかったし、デスタの件で話があると王妃陛下に呼び出されたからだ。
シドナ様はわたしがランシード様に嫁ぐのであれば、これくらいの試練は乗り越えなければならないと判断されたのだと思う。
ランシード様は最後まで渋っていたから、話し合いが終わったら、迎賓館で待ってくれている彼の元へ行くつもりをしている。
でも、すぐに帰れそうにはなかった。
メイドに案内された場所は王城内にある来賓室だった。
ワインレッド色のソファに座るように促されて腰掛けると、すでに斜向かいの位置に座っていた王妃陛下が口を開く。
「よく来てくれたわね。会えて嬉しいわ。あなたたちに会いたいと言い続けてきたのだけれど、エルテ公爵が許してくれなかったのよ」
王妃陛下が出席されるパーティーに今までは出席していなかったため、わたしとしては、王妃陛下のことは、ほぼ初見に近い。
白を基調とした滑らかそうな生地に色とりどりの宝石が散りばめられたドレスを身にまとった王妃陛下は、ドレスだけでなく外見もとても美しかった。
金色の髪をシニヨンにした王妃陛下は青色の瞳をわたしに向けて話を続ける。
「本当は姉にも来てほしかったのよ。あなたのお母様に似ていると聞いたから」
「あらやだ。セフィリアは家畜から生まれたの? お父様似なのね」
王妃陛下の言葉を聞いた王女殿下が笑う。
王妃陛下の横には王女殿下が座っており、その横にはデスタが座っていた。
デスタは二人の会話など聞こえていないかのように、真正面に座る、わたしだけを見つめていた。
目の下のくまが酷いので、あまり眠れていないみたい。
というか、わたしのことは見ないでほしいわ。
「ねえ、聞いてるの?」
デスタに気を取られていて返事をしなかったからか、王女殿下は不機嫌そうな顔で聞いてくる。
「もちろんですわ。王女殿下のお話ですもの」
「セフィリア、そんな他人行儀にならないでちょうだい? わたくしのことはポーラと呼んでくれていいのよ?」
「では、ポーラ様と呼ばせていただきます」
「ふふ。豚の子供でも人間の言葉がわかるのねぇ? やっぱり、ポーラと呼ぶのはやめてもらおうかしら?」
ポーラ様はわたしをわざと怒らせようとしているみたいね。
挑発にのってイライラするつもりはないので、冷静に対応する。
「わたしを豚の子供とおっしゃりたいようですが、その豚というのは誰のことをおっしゃっているのです? わたしの両親のことをでしょうか?」
「家畜というのは、あなたの母親じゃないの。父親のほうは、まあ、もう少しマシな動物じゃないかしら」
王妃陛下が扇を開き、自分の口を隠して笑う。
「豚も可愛いと思いますので、別に気にはなりません。それに動物は人間と違って心は純粋ですから。わざと誰かに嫌な思いをさせようとは考えないでしょう」
「ちょっと、あなた何が言いたいのよ」
ポーラ様が目を吊り上がらせて尋ねてきた。
「そのままの意味です。それから、ここでの会話は全てランシード様にお話いたします。この話を聞いて、どう思い、どんな対応を取られるかはランシード様が決めてくださると思います」
「それは……っ」
王妃陛下はそこで言葉を止めて、わたしを睨み付けてきた。
わたしは微笑んで尋ねる。
「本当のことを言っておられるのでしょう? それでしたら、焦る必要はありませんわよね?」
「焦ってなんかいないわ。けれど、命令よ。ランシード殿下には伝えないようになさい」
「それはどうしてでしょうか?」
「言われなくてもわかるでしょう!」
「では、お聞きしますが、ランシード様に聞かれては困る話をなぜされたのでしょうか?」
王妃陛下と目を合わせて話すことは、この国では許されていない。
だから、王妃陛下の胸元の真珠のネックレスを見つめて尋ねた。
「命令などしなくても、そんなことは口にしないことが当たり前でしょう!」
「では、最初から口に出さなくても良かったのではないでしょうか?」
王妃陛下は白い頬を真っ赤にして立ち上がって叫ぶ。
「生意気な娘ね! あなたの母親は困った顔をして謝るだけだったのに!」
「わたしはセフィリア・エルテです。母ではありません」
見上げて応えると、王妃陛下は癇癪を起こしたのか、わたしの足元に扇を投げつけてきたのだった。
でも、ランシード様のお母様であるシドナ様から許可を得て、お父様と話をした次の日に、わたしは登城した。
テイルス王国に行く前に、色々なことを片付けてしまいたかったし、デスタの件で話があると王妃陛下に呼び出されたからだ。
シドナ様はわたしがランシード様に嫁ぐのであれば、これくらいの試練は乗り越えなければならないと判断されたのだと思う。
ランシード様は最後まで渋っていたから、話し合いが終わったら、迎賓館で待ってくれている彼の元へ行くつもりをしている。
でも、すぐに帰れそうにはなかった。
メイドに案内された場所は王城内にある来賓室だった。
ワインレッド色のソファに座るように促されて腰掛けると、すでに斜向かいの位置に座っていた王妃陛下が口を開く。
「よく来てくれたわね。会えて嬉しいわ。あなたたちに会いたいと言い続けてきたのだけれど、エルテ公爵が許してくれなかったのよ」
王妃陛下が出席されるパーティーに今までは出席していなかったため、わたしとしては、王妃陛下のことは、ほぼ初見に近い。
白を基調とした滑らかそうな生地に色とりどりの宝石が散りばめられたドレスを身にまとった王妃陛下は、ドレスだけでなく外見もとても美しかった。
金色の髪をシニヨンにした王妃陛下は青色の瞳をわたしに向けて話を続ける。
「本当は姉にも来てほしかったのよ。あなたのお母様に似ていると聞いたから」
「あらやだ。セフィリアは家畜から生まれたの? お父様似なのね」
王妃陛下の言葉を聞いた王女殿下が笑う。
王妃陛下の横には王女殿下が座っており、その横にはデスタが座っていた。
デスタは二人の会話など聞こえていないかのように、真正面に座る、わたしだけを見つめていた。
目の下のくまが酷いので、あまり眠れていないみたい。
というか、わたしのことは見ないでほしいわ。
「ねえ、聞いてるの?」
デスタに気を取られていて返事をしなかったからか、王女殿下は不機嫌そうな顔で聞いてくる。
「もちろんですわ。王女殿下のお話ですもの」
「セフィリア、そんな他人行儀にならないでちょうだい? わたくしのことはポーラと呼んでくれていいのよ?」
「では、ポーラ様と呼ばせていただきます」
「ふふ。豚の子供でも人間の言葉がわかるのねぇ? やっぱり、ポーラと呼ぶのはやめてもらおうかしら?」
ポーラ様はわたしをわざと怒らせようとしているみたいね。
挑発にのってイライラするつもりはないので、冷静に対応する。
「わたしを豚の子供とおっしゃりたいようですが、その豚というのは誰のことをおっしゃっているのです? わたしの両親のことをでしょうか?」
「家畜というのは、あなたの母親じゃないの。父親のほうは、まあ、もう少しマシな動物じゃないかしら」
王妃陛下が扇を開き、自分の口を隠して笑う。
「豚も可愛いと思いますので、別に気にはなりません。それに動物は人間と違って心は純粋ですから。わざと誰かに嫌な思いをさせようとは考えないでしょう」
「ちょっと、あなた何が言いたいのよ」
ポーラ様が目を吊り上がらせて尋ねてきた。
「そのままの意味です。それから、ここでの会話は全てランシード様にお話いたします。この話を聞いて、どう思い、どんな対応を取られるかはランシード様が決めてくださると思います」
「それは……っ」
王妃陛下はそこで言葉を止めて、わたしを睨み付けてきた。
わたしは微笑んで尋ねる。
「本当のことを言っておられるのでしょう? それでしたら、焦る必要はありませんわよね?」
「焦ってなんかいないわ。けれど、命令よ。ランシード殿下には伝えないようになさい」
「それはどうしてでしょうか?」
「言われなくてもわかるでしょう!」
「では、お聞きしますが、ランシード様に聞かれては困る話をなぜされたのでしょうか?」
王妃陛下と目を合わせて話すことは、この国では許されていない。
だから、王妃陛下の胸元の真珠のネックレスを見つめて尋ねた。
「命令などしなくても、そんなことは口にしないことが当たり前でしょう!」
「では、最初から口に出さなくても良かったのではないでしょうか?」
王妃陛下は白い頬を真っ赤にして立ち上がって叫ぶ。
「生意気な娘ね! あなたの母親は困った顔をして謝るだけだったのに!」
「わたしはセフィリア・エルテです。母ではありません」
見上げて応えると、王妃陛下は癇癪を起こしたのか、わたしの足元に扇を投げつけてきたのだった。
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