あなたには彼女がお似合いです

風見ゆうみ

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第7章 それぞれの執着心

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 ロビースト様については、ランシード様も手を打つと言ってくれていたので、お任せすることにした。
 少し気がかりなのはお姉様のことだ。
 ロビースト様からの手紙の内容に、自分のことは書かれていなかったと知って、少しがっかりした様子だったからだ。

 そのことで談話室でお姉様とお茶をしながら話をすることにした。

「お姉様はまだロビースト様に未練があるのですか?」
「……未練なんてないわ」

 少し間があったけれど、お姉様は首を横に振った。

「それを信じますが、お姉様はロビースト様のどこが良かったんですか?」

 今なら冷静に話してもらえるかと思って聞いてみた。
 すると、お姉様は苦笑して答える。

「私のことを好きになってくれる唯一の人だと思い込んでいたの」
「今でもそう思っているんですか?」
「それがね」

 お姉様は頬を両手で押さえる。

「どうかされたんですか?」
「私のことを可愛いと言ってくれている人がいると、お父様が教えてくれたの」
「そ、そうだったんですか!」

 それならそうと、もっと早くに教えてくれていたら良かったのでは?

 そう思った時に、お姉様が話を捕捉する。

「お父様からは前々から言われていたの。でも、私が聞く耳を持たなかったの。そんな人いるわけないって決めつけていたのよ。だけど、ここに帰ってきてから、お父様に改めて言われたの。会う気があるなら話をつけてくれるって」
「会ってみるんですか?」
「ええ。傷つくのは怖いけど、ロビースト様以外に私を大事にしてくれる人がいるなら、その人のために生きていこうと思うのよ」
「別に自分のためだけに生きても良いと思いますけど」

 この国の貴族の女性は嫁に行くことが当たり前だ。
 だけど、自分で道を切り開く人がいても良いと思う。

「そうね。もし、今度会う人がロビースト様ほどではなくても、私のことを軽んじるような人なら、一生、独身で生きていくつもりよ。最初はお父様やテックに支えてもらわないといけないかもしれないけど、いつかは一人で生きていけるように頑張るわ」

 お姉様はそこまで言ったあと、自嘲気味に笑う。

「食べたくても食べるものがなければ、自然に痩せるでしょうしね」
「無理はなさらないでください」
「私なんかに心配なんてされたくないでしょうけど、今はセフィリアのほうが心配だわ。お父様から聞いたけど、あなた、王女殿下に目を付けられているんでしょう?」
「そうみたいです。だけど、どうしてかわかりません。デスタのことでかもしれませんね」

 わたしが目を付けられている本当の理由を、お姉様は知らない。
 せっかく前向きになっているのだから、下手に不安材料を与えて、精神を不安定にさせることは良くないと思った。

 お姉様と話し終えた後は、執務室で仕事をしていたお父様の所へ向かった。
 執務室に入ると、お父様から話しかけてくる。

「ランシード殿下から聞いたが、四日後にはここを出るつもりか?」
「はい。今日はランシード殿下としての滞在二日目です。残りは三日間。その次の日には帰られるそうですから、その時に一緒に行くつもりです」
「だから、フィーナを簡単に許したのか」

 お父様は持っていたペンをペン差しに戻して、わたしを見つめる。

「お姉様のことは断ち切ったつもりでしたが、目を覚ましてくれたのであれば、関係修復しても良いと思ったんです」

 微笑んでみせると、お父様は目を伏せて頷く。

「そのほうが彼女も喜ぶだろう」

 彼女というのは、お母様のことだと思った。

「お父様はお母様のことを大事にしていたんですね」
「……そんなことはない」
「いいえ。考えてみたら、仲が良いからこそ、子供が三人もいるんですよね」
「跡継ぎが欲しかっただけだ」
「無理して作らなくても良かったはずです」

 跡継ぎ候補は親戚から探せば良いだけだ。
 夫婦仲が悪いなら無理して作ることはない。

「お父様」
「なんだ」
「お父様は王妃陛下が憎いですか?」
「どうしてそんなことを聞く?」
「真実を知ったからです」

 お父様が珍しく動揺したような表情を見せた。

「お母様は死に追いやられたのですか」
「何の話だ」
「テイルス王国の公爵令嬢から聞いたんです。お母様は王妃陛下に嫌がらせをされていたのですね?」

 睨みつけるようにしてお父様を見つめると、お父様の眉間の皺がより深くなった。
 そして、大きく息を吐いてから立ち上がる。

「ここで待っていなさい」

 そう言うと執務室から出ていき、封筒を手に戻ってきた。
 お父様は封筒の中から二つ折りにされた手紙を取り出して、何も言わずにわたしに差し出した。

 渡された手紙はしわくちゃで、水滴が落ちたあとが見受けられた。

「拝見します」

 一言告げてから、手紙を開く。

 手紙はお母様からお父様へ宛てた遺書だった。

 お母様が王妃陛下や取り巻きからいじめられていたことが書かれてあり、嫌われている自分を知られたくなくて、お父様に相談できなかったことが書かれていた。

『こんなわたしが生きていてごめんなさい。

 わたしのせいで、わたしの可愛いフィーナやセフィリア、テックが嫌な目に遭うかもしれません。

 生きている価値のないわたしは死を選びます』

 涙が止まらなかった。
 悲しいだけじゃない。
 悔しかった。
 ここまでお母様が追い詰められていたのに、わたしは何も気づいてあげられなかった。

「セフィリア、お前は悪くない。お前はまだ子供だった」

 お父様はわたしにハンカチを渡してくれてから、言葉を続ける。

「取り巻きに関しては、もう悩む必要はない」
「……どういうことですか?」
「この世にいないからだ」
「……まさか」
「私が殺したんじゃない。間接的に関わってはいるがな」

 お父様はわたしの手から手紙を受け取ると、窓際に立ち、わたしに背を向けて話す。

「お前たちの母には、子供たちには自分の好きな道を歩ませてくれと頼まれていた」
「お父様」

 今まで一人で悪人になってきてくれたことには感謝している。
 でも、もう、わたしも子供じゃない。

「わたしはお母様ではありません。お母様とお父様の子供です」
「それがどうした」
「王妃陛下と王女殿下については、わたしに任せていただけませんか」

 お母様の優しさや心を色濃く受け継いだのは、お姉様とテックだ。
 そして、わたしはお母様よりもどちらかというと、お父様の寄りの精神の強さだと思われる。

 お父様が動くよりもわたしが動くほうが安全だ。

 そう思って、わたしはお父様を見つめた。

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