40 / 52
第7章 それぞれの執着心
3
しおりを挟む
ロビースト様は一体、何がしたいのかしら。
お姉様がいなくなってもソレーヌ様がいるんだから、わたしにこだわらなくてもソレーヌ様に結婚してもらえばいいと思うんだけど?
口には出さずに、ランシード様を見ると、わたしの言いたいことをわかってくれたようで眉根を寄せる。
「ロビーストはソレーヌ嬢は解放してやったんだろうか。ちょっと確認してみる」
「もしかして、わたしがランシード様と婚約したのが気に入らないだけでしょうか?」
「なきにしもあらずってとこかもしれないな」
ふうと小さく息を吐いて、ランシード様は穏やかな表情を作り、馬車の窓を小さく開けて中から騎士に声を掛ける。
「ラソウエ公爵をどうして近づかせたんだ?」
「申し訳ございません。先頭を歩いていた騎士の前に現れたようです」
「そうか」
騎士の答えを聞いたランシード様は眉尻を下げてわたしに謝ってくる。
「嫌な思いをさせてごめん」
「わたしのせいですから、ランシード様は悪くありません」
「ロビーストは何でセフィリアに付きまとうんだろう」
「わたしに婚約を破棄されたことが気に入らないのかもしれません」
ロビースト様は無駄なところでプライドが高そうだもの。
お姉様には好き勝手やってしまったという自覚があるのかもしれないけれど、彼の中では、わたしに悪いことをしたという自覚がないのだと思う。
だから、それくらいで婚約破棄されるなんて、プライドが許さないのかもしれない。
「でも、婚約破棄されるようなことをしたのは、ロビーストのほうだろ?」
「ロビースト様にとって、わたしにしたことは暴力ではなく躾なんだと思います。だから、それを悪いと思っていないのではないでしょうか」
「本当に彼がセフィリアのことを好きだったとかいうことはないんだな?」
「それはありえません。今回のことがあるまで、わたしとロビースト様に接点はありません」
ランシード様の言葉を否定すると、彼は胸の前で腕を組んでから難しい顔をする。
この短い間でなんとなくわかってきたのだけど、ランシード様とシード様の切り替えは、不機嫌かどうかによって変わるのだと思った。
不機嫌な時はシード様モードになる。
だから、今もシード様に切り替わった。
「面倒くせぇな。かといって、あいつ潰しても混乱を招くだけなんだよな」
「どうしてですか? 跡継ぎがいないからですか?」
「それもあるけど、他国の王族が口を出すのもどうかと思うだろ」
「ラソウエ公爵家を現在の王家と一緒に失脚させてしまうことはできないんでしょうか?」
「それについては出来ないことはない。っていうか、他国の王族が云々は関係ないか。婚約者にちょっかいかけられてんだから、少しくらい乱暴にしてもいいよな」
ランシード様が出て行こうとするので慌てて止める。
「ちょ、ちょっとお待ちください! どうするおつもりですか?」
「人のいない所に連れて行って話をつけてくる」
「どうして人のいないところなのです?」
「どうしてだろうな」
悪い笑みを浮かべるランシード様の腕を掴んでお願いする。
「ランシード様に何かあったら嫌なんです。ですから、今は出ないでください。賊がいないとは限りません」
「……わかった」
ランシード様は少し考えはしたけれど頷いてくれた時、ロビースト様の叫ぶ声が聞こえた。
「セフィリア嬢! いや、セフィリア! 今すぐに出てきて、自分が悪かったとわたくしに詫びなさい! そうしなければ絶対に許しません! このわたくしがあなたに婚約を破棄されるなどありえないのですから!」
「道をお開けください!」
ランシード様に指示された騎士たちがロビースト様を追い払ったらしく、馬車が動き始めた。
「許しませんよ! セフィリア! 覚えていなさい! 絶対に後悔させてやりますから!」
「それはこっちのセリフだ」
ロビースト様の言葉を聞いたランシード様がわたしの手を握り、窓の外を見て小さく呟いた。
その後、家に送り届けてもらってしばらくすると、ロビースト様から手紙が届いた。
テックとお父様に手紙の内容を確認してもらうと、自分がどれだけ素敵な男性であるのかということが書かれてあり、そんなロビースト様をわたしごときが嫌えるはずがないということが書かれていたのだった。
お姉様がいなくなってもソレーヌ様がいるんだから、わたしにこだわらなくてもソレーヌ様に結婚してもらえばいいと思うんだけど?
口には出さずに、ランシード様を見ると、わたしの言いたいことをわかってくれたようで眉根を寄せる。
「ロビーストはソレーヌ嬢は解放してやったんだろうか。ちょっと確認してみる」
「もしかして、わたしがランシード様と婚約したのが気に入らないだけでしょうか?」
「なきにしもあらずってとこかもしれないな」
ふうと小さく息を吐いて、ランシード様は穏やかな表情を作り、馬車の窓を小さく開けて中から騎士に声を掛ける。
「ラソウエ公爵をどうして近づかせたんだ?」
「申し訳ございません。先頭を歩いていた騎士の前に現れたようです」
「そうか」
騎士の答えを聞いたランシード様は眉尻を下げてわたしに謝ってくる。
「嫌な思いをさせてごめん」
「わたしのせいですから、ランシード様は悪くありません」
「ロビーストは何でセフィリアに付きまとうんだろう」
「わたしに婚約を破棄されたことが気に入らないのかもしれません」
ロビースト様は無駄なところでプライドが高そうだもの。
お姉様には好き勝手やってしまったという自覚があるのかもしれないけれど、彼の中では、わたしに悪いことをしたという自覚がないのだと思う。
だから、それくらいで婚約破棄されるなんて、プライドが許さないのかもしれない。
「でも、婚約破棄されるようなことをしたのは、ロビーストのほうだろ?」
「ロビースト様にとって、わたしにしたことは暴力ではなく躾なんだと思います。だから、それを悪いと思っていないのではないでしょうか」
「本当に彼がセフィリアのことを好きだったとかいうことはないんだな?」
「それはありえません。今回のことがあるまで、わたしとロビースト様に接点はありません」
ランシード様の言葉を否定すると、彼は胸の前で腕を組んでから難しい顔をする。
この短い間でなんとなくわかってきたのだけど、ランシード様とシード様の切り替えは、不機嫌かどうかによって変わるのだと思った。
不機嫌な時はシード様モードになる。
だから、今もシード様に切り替わった。
「面倒くせぇな。かといって、あいつ潰しても混乱を招くだけなんだよな」
「どうしてですか? 跡継ぎがいないからですか?」
「それもあるけど、他国の王族が口を出すのもどうかと思うだろ」
「ラソウエ公爵家を現在の王家と一緒に失脚させてしまうことはできないんでしょうか?」
「それについては出来ないことはない。っていうか、他国の王族が云々は関係ないか。婚約者にちょっかいかけられてんだから、少しくらい乱暴にしてもいいよな」
ランシード様が出て行こうとするので慌てて止める。
「ちょ、ちょっとお待ちください! どうするおつもりですか?」
「人のいない所に連れて行って話をつけてくる」
「どうして人のいないところなのです?」
「どうしてだろうな」
悪い笑みを浮かべるランシード様の腕を掴んでお願いする。
「ランシード様に何かあったら嫌なんです。ですから、今は出ないでください。賊がいないとは限りません」
「……わかった」
ランシード様は少し考えはしたけれど頷いてくれた時、ロビースト様の叫ぶ声が聞こえた。
「セフィリア嬢! いや、セフィリア! 今すぐに出てきて、自分が悪かったとわたくしに詫びなさい! そうしなければ絶対に許しません! このわたくしがあなたに婚約を破棄されるなどありえないのですから!」
「道をお開けください!」
ランシード様に指示された騎士たちがロビースト様を追い払ったらしく、馬車が動き始めた。
「許しませんよ! セフィリア! 覚えていなさい! 絶対に後悔させてやりますから!」
「それはこっちのセリフだ」
ロビースト様の言葉を聞いたランシード様がわたしの手を握り、窓の外を見て小さく呟いた。
その後、家に送り届けてもらってしばらくすると、ロビースト様から手紙が届いた。
テックとお父様に手紙の内容を確認してもらうと、自分がどれだけ素敵な男性であるのかということが書かれてあり、そんなロビースト様をわたしごときが嫌えるはずがないということが書かれていたのだった。
65
お気に入りに追加
3,470
あなたにおすすめの小説
今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます
妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。
しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。
それを指示したのは、妹であるエライザであった。
姉が幸せになることを憎んだのだ。
容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、
顔が醜いことから蔑まされてきた自分。
やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。
しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。
幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。
もう二度と死なない。
そう、心に決めて。
ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?
望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。
ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。
転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを――
そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。
その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。
――そして、セイフィーラは見てしまった。
目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を――
※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。
※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)
【完結】妹に全部奪われたので、公爵令息は私がもらってもいいですよね。
曽根原ツタ
恋愛
ルサレテには完璧な妹ペトロニラがいた。彼女は勉強ができて刺繍も上手。美しくて、優しい、皆からの人気者だった。
ある日、ルサレテが公爵令息と話しただけで彼女の嫉妬を買い、階段から突き落とされる。咄嗟にペトロニラの腕を掴んだため、ふたり一緒に転落した。
その後ペトロニラは、階段から突き落とそうとしたのはルサレテだと嘘をつき、婚約者と家族を奪い、意地悪な姉に仕立てた。
ルサレテは、妹に全てを奪われたが、妹が慕う公爵令息を味方にすることを決意して……?
忘れられた幼な妻は泣くことを止めました
帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。
そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。
もちろん返済する目処もない。
「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」
フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。
嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。
「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」
そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。
厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。
それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。
「お幸せですか?」
アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。
世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。
古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。
ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。
※小説家になろう様にも投稿させていただいております。
御機嫌ようそしてさようなら ~王太子妃の選んだ最悪の結末
Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。
生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。
全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。
ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。
時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。
ゆるふわ設定の短編です。
完結済みなので予約投稿しています。
妹に人生を狂わされた代わりに、ハイスペックな夫が出来ました
コトミ
恋愛
子爵令嬢のソフィアは成人する直前に婚約者に浮気をされ婚約破棄を告げられた。そしてその婚約者を奪ったのはソフィアの妹であるミアだった。ミアや周りの人間に散々に罵倒され、元婚約者にビンタまでされ、何も考えられなくなったソフィアは屋敷から逃げ出した。すぐに追いつかれて屋敷に連れ戻されると覚悟していたソフィアは一人の青年に助けられ、屋敷で一晩を過ごす。その後にその青年と…
【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った
Mimi
恋愛
声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。
わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。
今日まで身近だったふたりは。
今日から一番遠いふたりになった。
*****
伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。
徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。
シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。
お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……
* 無自覚の上から目線
* 幼馴染みという特別感
* 失くしてからの後悔
幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。
中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。
本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。
ご了承下さいませ。
他サイトにも公開中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる