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第6章 王族との接触
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「嘘をついているんじゃないわよね?」
「嘘だと思うのでしたら、わたしを好きにしてくださって結構ですよ。後悔しないのでしょうから」
たとえ痛い目に遭うことになったとしても、それで、テイルス王国がこの国に攻め込むきっかけを作れるのであれば構わない。
そうすれば、わたしもお母様の仇を討つことができる。
「自信ありげな顔ね。でも、一度確認を入れるわ。どう考えてもテイルス王国がそう簡単に動くとは思えないもの」
王女殿下は壁際に立っている五人のメイド姿の女性の内の一人に話しかける。
「テイルス王国に、いえ、迎賓館にいるテイルス王国の王妃陛下に確認を入れてちょうだい。本当にセフィリアの言う通りなのかを調べたいの」
「承知いたしました」
「セフィリア、嘘だったとしたら、どうなるかわかっているのでしょうね?」
「わたしはそんな嘘をつく人間ではありません」
強い口調で答えると、王女殿下はまた別のメイド姿の女性に声を掛ける。
「わたくしの扇は持っているわね?」
尋ねられたメイドではなく、他の女性が王女殿下に扇を差し出す。
彼女はそれを右手で受け取ると、左手の手のひらに何度も当てながら、わたしを見つめる。
「確認をしに行っている間は違うお話をしましょう。あなたは、ライシード殿下のことをどう思っているの?」
「とても素敵な方だと思っております」
「素敵な方ねぇ? それはデスタよりも?」
「もちろんです」
現在のデスタは王女殿下の婚約者だ。
こんな言い方をするのは本来ならば良くない。
でも、わたしは彼女を怒らせなければならないから、本音を言っても良い。
王女殿下は眉根を寄せ、扇を手のひらに打つ力を強めて言葉を発する。
「信じられない。豚の娘のくせに」
「お言葉を返すようで恐縮ですが、わたしは豚の娘ではありません」
「わたくしは知ってるのよ。あなたの母のこと。あなたの姉のことだって知ってるわ」
「わたしの姉や母の何を、王女殿下が知っておられるんですか?」
「だって、お母様から聞いていたもの」
王女殿下が得意げに話を続けようとした時だった。
「やめろ、ポーラ!」
壇上に現れたのは、国王陛下だった。
中肉中背で垂れ目気味の目を持つ陛下は、赤いマントをなびかせ、青い瞳を王女殿下に向けたまま、壇上から下りてくる。
「セフィリア嬢、今回の婚約、本当におめでとう。我が国の令嬢がテイルス王国の王太子に嫁ぐことになるなんて、本当にわたしも鼻が高い」
「お父様!? 何を言っていらっしゃるの!?」
「ポーラ、お前は黙っていなさい」
黒くて長い髪を一つにまとめた陛下は、国王らしい威厳もなく、ヘラヘラと笑いながら話を続ける。
「テイルス王国の国王陛下からは、セフィリア嬢に無礼な発言をしたり、態度を取ったりすると、酷い場合は戦争になると言われている。私は戦争なんてしたくないんだよ」
「そうですわね。戦争になれば」
その先は口には出さずに、頭の中で思う。
敗戦国の国王の首を取るのが普通だもの。
そうなると、開戦した時点で目の前にいる陛下は死んだも同然の状況になる。
それなら、戦争なんてしたくないわよね。
「お父様! そんな脅しに屈すると言うのですか!」
「当たり前だ! 戦争になったら、私は殺されるし、お前だって無事では済まないんだぞ?」
「戦争に勝てば良いではないですか」
王女殿下はテイルス王国とロロゾフ王国の戦力差を知らないみたいね。
どれだけ、甘やかされて育ってきたのかしら。
わたしも他国の知識はまだまだ少ない。
でも、今の状況がロロゾフ王国にとって良くない状況であることくらい理解できる。
王女殿下は悔しそうにわたしを見つめる。
「こんな人間以下の女が幸せになるだなんて」
「人間以下ということは、人間も含まれていますので気にしませんわ」
にこりと笑顔を見せると、王女殿下は不機嫌そうな顔でわたしを睨みつけた。
そして、それと同時に王女殿下のメイドが帰ってきて、改めてわたしの言っていることが間違いないと、王女殿下に知らされたのだった。
「嘘だと思うのでしたら、わたしを好きにしてくださって結構ですよ。後悔しないのでしょうから」
たとえ痛い目に遭うことになったとしても、それで、テイルス王国がこの国に攻め込むきっかけを作れるのであれば構わない。
そうすれば、わたしもお母様の仇を討つことができる。
「自信ありげな顔ね。でも、一度確認を入れるわ。どう考えてもテイルス王国がそう簡単に動くとは思えないもの」
王女殿下は壁際に立っている五人のメイド姿の女性の内の一人に話しかける。
「テイルス王国に、いえ、迎賓館にいるテイルス王国の王妃陛下に確認を入れてちょうだい。本当にセフィリアの言う通りなのかを調べたいの」
「承知いたしました」
「セフィリア、嘘だったとしたら、どうなるかわかっているのでしょうね?」
「わたしはそんな嘘をつく人間ではありません」
強い口調で答えると、王女殿下はまた別のメイド姿の女性に声を掛ける。
「わたくしの扇は持っているわね?」
尋ねられたメイドではなく、他の女性が王女殿下に扇を差し出す。
彼女はそれを右手で受け取ると、左手の手のひらに何度も当てながら、わたしを見つめる。
「確認をしに行っている間は違うお話をしましょう。あなたは、ライシード殿下のことをどう思っているの?」
「とても素敵な方だと思っております」
「素敵な方ねぇ? それはデスタよりも?」
「もちろんです」
現在のデスタは王女殿下の婚約者だ。
こんな言い方をするのは本来ならば良くない。
でも、わたしは彼女を怒らせなければならないから、本音を言っても良い。
王女殿下は眉根を寄せ、扇を手のひらに打つ力を強めて言葉を発する。
「信じられない。豚の娘のくせに」
「お言葉を返すようで恐縮ですが、わたしは豚の娘ではありません」
「わたくしは知ってるのよ。あなたの母のこと。あなたの姉のことだって知ってるわ」
「わたしの姉や母の何を、王女殿下が知っておられるんですか?」
「だって、お母様から聞いていたもの」
王女殿下が得意げに話を続けようとした時だった。
「やめろ、ポーラ!」
壇上に現れたのは、国王陛下だった。
中肉中背で垂れ目気味の目を持つ陛下は、赤いマントをなびかせ、青い瞳を王女殿下に向けたまま、壇上から下りてくる。
「セフィリア嬢、今回の婚約、本当におめでとう。我が国の令嬢がテイルス王国の王太子に嫁ぐことになるなんて、本当にわたしも鼻が高い」
「お父様!? 何を言っていらっしゃるの!?」
「ポーラ、お前は黙っていなさい」
黒くて長い髪を一つにまとめた陛下は、国王らしい威厳もなく、ヘラヘラと笑いながら話を続ける。
「テイルス王国の国王陛下からは、セフィリア嬢に無礼な発言をしたり、態度を取ったりすると、酷い場合は戦争になると言われている。私は戦争なんてしたくないんだよ」
「そうですわね。戦争になれば」
その先は口には出さずに、頭の中で思う。
敗戦国の国王の首を取るのが普通だもの。
そうなると、開戦した時点で目の前にいる陛下は死んだも同然の状況になる。
それなら、戦争なんてしたくないわよね。
「お父様! そんな脅しに屈すると言うのですか!」
「当たり前だ! 戦争になったら、私は殺されるし、お前だって無事では済まないんだぞ?」
「戦争に勝てば良いではないですか」
王女殿下はテイルス王国とロロゾフ王国の戦力差を知らないみたいね。
どれだけ、甘やかされて育ってきたのかしら。
わたしも他国の知識はまだまだ少ない。
でも、今の状況がロロゾフ王国にとって良くない状況であることくらい理解できる。
王女殿下は悔しそうにわたしを見つめる。
「こんな人間以下の女が幸せになるだなんて」
「人間以下ということは、人間も含まれていますので気にしませんわ」
にこりと笑顔を見せると、王女殿下は不機嫌そうな顔でわたしを睨みつけた。
そして、それと同時に王女殿下のメイドが帰ってきて、改めてわたしの言っていることが間違いないと、王女殿下に知らされたのだった。
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