35 / 52
第6章 王族との接触
4
しおりを挟む
「お姉様、一体、何があったんです? ひどい怪我じゃないですか。もしかして、ロビースト様に暴力をふるわれたのですか?」
近寄って話しかけると、お姉様は小さく頷く。
「ロビースト様はどうしても私の見た目が気に入らないって言うの」
「それで殴られたんですか?」
「ええ。殴られただけじゃなくて」
お姉様が話してくれたのは、わたしが家に帰ってから、ロビースト様の暴力が、もっと酷くなったという話だった。
お姉様が車椅子に乗っているのは、腕を振り払われて階段から転げ落ちたかららしい。
怪我をして動けないのに、そのまま放置され、その時に生きることを選ぶのか、それとも死を選ぶのか考えさせられたそうだ。
階段を落ちた時に足を骨折してしまったから、車椅子はお父様が用意してくれたと教えてくれた。
「どうして、暴力がエスカレートしたんでしょうか」
「セフィリアが帰ったことに腹を立てていたみたい。それに、ソレーヌさんも暴れていたしね」
薄情なことにお姉様に言われて、ソレーヌ様のことを思い出した。
「ソレーヌ様はどうしているんですか?」
「彼女は部屋に閉じ込められているわ」
「軟禁状態にあるということですか?」
「ええ。ご飯などは与えてもらっているけれど、室内から出れないの。しかも、窓のない部屋だから逃げることもできない。私の場合は、お父様がよこしてくれた御者が私の元気な姿を確認するまでは帰れないと言ってくれたの。そして、こんな私を見て、無理やり連れ帰ってこられたの」
無理やりという言葉を聞いて、わたしとランシード様は顔を見合わせた。
お姉様はまだロビースト様に執着しているのかしら?
生きたいと思った時点で、ロビースト様を見限ったんじゃないの?
「セフィリア」
「……何でしょうか」
「本当にごめんなさい。私はどうかしていたわ。目が覚めたから許してくれるわよね?」
お姉様が涙を流しながら謝ってきた。
どう応えたら良いのか分からなくてランシード様を見る。
すると、彼はお姉様にはっきりと言った。
「謝れば許されるものでもないし、その謝罪が本気かどうかはわからないよね」
「本気に決まっているではないですか!」
お姉様は声を荒らげて、ランシード様に訴える。
「私は愛してほしかっただけなんです! セフィリアが羨ましくて酷いことを言ってしまったんです! そのことを悪いと思うから謝っているんです!」
「その時のあなたは、セフィリアには何を言っても良いとでも思っていたのかな?」
お姉様に尋ねたランシード様の顔には笑みが浮かんでいる。
でも、本当に笑っているようには思えなかった。
お姉様は俯いて答える。
「いいえ。ただ、婚約者がすぐに決まるセフィリアを妬んでしまっていて、そんなに幸せなら、少しくらい嫌なことを言ってもいいかと」
「そんなことを思う性格が駄目だと考えたことはあるのかな?」
「……はい?」
お姉様がランシード様に聞き返すと、冷たい笑みを浮かべて尋ねる。
「容姿ではなく、自分の中身に原因があることを考えたことはないかと聞いてるんだよ」
「そんな」
お姉様がショックを受けた顔をした時だった。
お父様が屋敷の奥からやって来て、ランシード様に頭を下げる。
「こちらから出向かなければならないところをお越しいただきありがとうございます」
「いや、僕の妻になる人の家に来ることは別に苦じゃないからかまわない」
ランシード様はそう言ってから、わたしを抱き寄せて話を続ける。
「結婚まではセフィリアにはここで過ごしてもらわないとならない。彼女をよろしく頼むね」
「もちろん娘の面倒は見ますが」
お父様は頷いたあとに、わたしに白い封筒を差し出してきた。
すでに封は破られている。
「誰からなのでしょう?」
「王女殿下だ。お前の婚約を祝いたいんだそうだぞ」
お父様はにやりと笑う。
わたしがお母様のことを知ったことを、お父様は知らない。
この意地悪さも演技なのかしら。
「明日に謁見の間に来いとのことだが、お前はそれどころではないだろう? 断っておくぞ」
「いいえ、お父様。わたしは王女殿下にお会いします」
強い口調で言うと、珍しく、お父様が驚いた顔をした。
近寄って話しかけると、お姉様は小さく頷く。
「ロビースト様はどうしても私の見た目が気に入らないって言うの」
「それで殴られたんですか?」
「ええ。殴られただけじゃなくて」
お姉様が話してくれたのは、わたしが家に帰ってから、ロビースト様の暴力が、もっと酷くなったという話だった。
お姉様が車椅子に乗っているのは、腕を振り払われて階段から転げ落ちたかららしい。
怪我をして動けないのに、そのまま放置され、その時に生きることを選ぶのか、それとも死を選ぶのか考えさせられたそうだ。
階段を落ちた時に足を骨折してしまったから、車椅子はお父様が用意してくれたと教えてくれた。
「どうして、暴力がエスカレートしたんでしょうか」
「セフィリアが帰ったことに腹を立てていたみたい。それに、ソレーヌさんも暴れていたしね」
薄情なことにお姉様に言われて、ソレーヌ様のことを思い出した。
「ソレーヌ様はどうしているんですか?」
「彼女は部屋に閉じ込められているわ」
「軟禁状態にあるということですか?」
「ええ。ご飯などは与えてもらっているけれど、室内から出れないの。しかも、窓のない部屋だから逃げることもできない。私の場合は、お父様がよこしてくれた御者が私の元気な姿を確認するまでは帰れないと言ってくれたの。そして、こんな私を見て、無理やり連れ帰ってこられたの」
無理やりという言葉を聞いて、わたしとランシード様は顔を見合わせた。
お姉様はまだロビースト様に執着しているのかしら?
生きたいと思った時点で、ロビースト様を見限ったんじゃないの?
「セフィリア」
「……何でしょうか」
「本当にごめんなさい。私はどうかしていたわ。目が覚めたから許してくれるわよね?」
お姉様が涙を流しながら謝ってきた。
どう応えたら良いのか分からなくてランシード様を見る。
すると、彼はお姉様にはっきりと言った。
「謝れば許されるものでもないし、その謝罪が本気かどうかはわからないよね」
「本気に決まっているではないですか!」
お姉様は声を荒らげて、ランシード様に訴える。
「私は愛してほしかっただけなんです! セフィリアが羨ましくて酷いことを言ってしまったんです! そのことを悪いと思うから謝っているんです!」
「その時のあなたは、セフィリアには何を言っても良いとでも思っていたのかな?」
お姉様に尋ねたランシード様の顔には笑みが浮かんでいる。
でも、本当に笑っているようには思えなかった。
お姉様は俯いて答える。
「いいえ。ただ、婚約者がすぐに決まるセフィリアを妬んでしまっていて、そんなに幸せなら、少しくらい嫌なことを言ってもいいかと」
「そんなことを思う性格が駄目だと考えたことはあるのかな?」
「……はい?」
お姉様がランシード様に聞き返すと、冷たい笑みを浮かべて尋ねる。
「容姿ではなく、自分の中身に原因があることを考えたことはないかと聞いてるんだよ」
「そんな」
お姉様がショックを受けた顔をした時だった。
お父様が屋敷の奥からやって来て、ランシード様に頭を下げる。
「こちらから出向かなければならないところをお越しいただきありがとうございます」
「いや、僕の妻になる人の家に来ることは別に苦じゃないからかまわない」
ランシード様はそう言ってから、わたしを抱き寄せて話を続ける。
「結婚まではセフィリアにはここで過ごしてもらわないとならない。彼女をよろしく頼むね」
「もちろん娘の面倒は見ますが」
お父様は頷いたあとに、わたしに白い封筒を差し出してきた。
すでに封は破られている。
「誰からなのでしょう?」
「王女殿下だ。お前の婚約を祝いたいんだそうだぞ」
お父様はにやりと笑う。
わたしがお母様のことを知ったことを、お父様は知らない。
この意地悪さも演技なのかしら。
「明日に謁見の間に来いとのことだが、お前はそれどころではないだろう? 断っておくぞ」
「いいえ、お父様。わたしは王女殿下にお会いします」
強い口調で言うと、珍しく、お父様が驚いた顔をした。
130
お気に入りに追加
3,560
あなたにおすすめの小説
【完結】もう結構ですわ!
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。
愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/29……完結
2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位
2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位
2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位
2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位
2024/09/11……連載開始

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

【完結保証】第二王子妃から退きますわ。せいぜい仲良くなさってくださいね
ネコ
恋愛
公爵家令嬢セシリアは、第二王子リオンに求婚され婚約まで済ませたが、なぜかいつも傍にいる女性従者が不気味だった。「これは王族の信頼の証」と言うリオンだが、実際はふたりが愛人関係なのでは? と噂が広まっている。ある宴でリオンは公衆の面前でセシリアを貶め、女性従者を擁護。もう我慢しません。王子妃なんてこちらから願い下げです。あとはご勝手に。

婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。
妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。
……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。
けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します!
自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。
【完結】恋は、終わったのです
楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。
今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。
『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』
身長を追い越してしまった時からだろうか。
それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。
あるいは――あの子に出会った時からだろうか。
――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。

真実の愛を見つけた婚約者(殿下)を尊敬申し上げます、婚約破棄致しましょう
さこの
恋愛
「真実の愛を見つけた」
殿下にそう告げられる
「応援いたします」
だって真実の愛ですのよ?
見つける方が奇跡です!
婚約破棄の書類ご用意いたします。
わたくしはお先にサインをしました、殿下こちらにフルネームでお書き下さいね。
さぁ早く!わたくしは真実の愛の前では霞んでしまうような存在…身を引きます!
なぜ婚約破棄後の元婚約者殿が、こんなに美しく写るのか…
私の真実の愛とは誠の愛であったのか…
気の迷いであったのでは…
葛藤するが、すでに時遅し…

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。
やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。
落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。
毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。
様子がおかしい青年に気づく。
ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。
ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
最終話まで予約投稿済です。
次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。
ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。
楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

婚約破棄のその後に
ゆーぞー
恋愛
「ライラ、婚約は破棄させてもらおう」
来月結婚するはずだった婚約者のレナード・アイザックス様に王宮の夜会で言われてしまった。しかもレナード様の隣には侯爵家のご令嬢メリア・リオンヌ様。
「あなた程度の人が彼と結婚できると本気で考えていたの?」
一方的に言われ混乱している最中、王妃様が現れて。
見たことも聞いたこともない人と結婚することになってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる