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第5章 シードの正体
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わたしがショックを受けている様子を見たノノルー様は、さすがに悪いと思ったのか、もう一度頭を下げてきた。
「申し訳ございません」
「……許すわ」
顔を向けて頷くと、ノノルー様は頭を上げた。
泣きそうな顔をしているから、彼女にも興奮する何かの理由があるのかもしれない。
ノノルー様は、その後はディエル様に連れられて、わたしの前から去って行った。
「落ち着いてきたかな?」
ランシード殿下が優しくて甘い声で尋ねてくる。
抱きしめられているから顔が見えない。
でも、周りに人がいるから、きっと顔もキラキラしているのだと思う。
「大丈夫です。ありがとうございました」
「なら良いけど。あ、歌おうか?」
「え?」
驚いて聞き返すと、ランシード様が歌い始める。
前とは違う曲だったけれど、聞いたことのある曲だった。
近くに立っていた騎士や使用人たちの表情がどんどん歪んでいく。
耳を押えたいけれど、そんな失礼なことはできないといったところかしら?
好みなのかもしれないけれど、わたしはランシード殿下の歌声は嫌じゃない。
気分良く歌い続けるランシード殿下と、とうとう頭を抱え始めた使用人たち、どちらを優先するか考え、わたしはランシード殿下の歌を止めることにした。
*****
その後、わたしはテイルスの王妃陛下である、シドナ様の部屋に連れてこられていた。
シドナ様が座っている向かい側のソファにわたしは座っていて、ランシード殿下は扉の前の床で正座させられていた。
まずは、シドナ様にお詫びをする。
「先程は取り乱している姿をお見せしてしまい、誠に申し訳ございませんでした」
「気にしないでちょうだい。ノノルーとディエルから話は聞いたわ。それにしてもあなた、ランシードの歌を聞いて平気だなんてすごいわ」
シドナ様が言うには、ランシード殿下のお父様であるテイルスの国王陛下も同じ様に歌が苦手らしい。
でも、二人共、歌を歌うのが好きだから、周りとしては悩みの種だった。
以前、飼っていた鳥や犬が歌声を聞いて失神してしまってからは、歌うのを控えていたのだと教えてくれた。
「わたしには心地良いというか、なんといいますか」
「普通なら聞いていられないはずよ。もう少しで騎士と使用人が、数日間、働けなくなるところだったわ」
シドナ様はシルバーブロンド色々なのゆるやかなウェーブのかかった髪を背中の後ろに払ってから、話を続ける。
「わたしは陛下の歌は大丈夫なんだけれど、ランシードの歌は駄目なのよね。だから、私の前で歌わないようにと言ってるんだけど」
わたしが止める前にシドナ様が帰ってきてしまったので、ランシード殿下が歌っていたのがバレてしまっていた。
「申し訳ございません」
わたしとランシード殿下の声が重なった。
「理由があったのならかまわないわ」
その割には、ランシード殿下は正座させられているんだけど、どういうことなのかしら?
疑問が湧いたけれど、そんなことは口に出せない。
シドナ様はにこりと笑うと、わたしに尋ねてくる。
「ランシードからまだ話を聞いていないようだから、私から伝えるわね。でも、絶対に他人には話をしないでちょうだい」
「承知しました」
「他国と話し合った結果、テイルス王国がロロゾフの王家を滅ぼすことに決まったの。ランシードがラソウエ公爵家の養子になったのは、この国の内情を探るためよ」
「王太子殿下自らがスパイになったということですか?」
あまりにもありえないことだから、わたしは思わず聞き返してしまった。
「申し訳ございません」
「……許すわ」
顔を向けて頷くと、ノノルー様は頭を上げた。
泣きそうな顔をしているから、彼女にも興奮する何かの理由があるのかもしれない。
ノノルー様は、その後はディエル様に連れられて、わたしの前から去って行った。
「落ち着いてきたかな?」
ランシード殿下が優しくて甘い声で尋ねてくる。
抱きしめられているから顔が見えない。
でも、周りに人がいるから、きっと顔もキラキラしているのだと思う。
「大丈夫です。ありがとうございました」
「なら良いけど。あ、歌おうか?」
「え?」
驚いて聞き返すと、ランシード様が歌い始める。
前とは違う曲だったけれど、聞いたことのある曲だった。
近くに立っていた騎士や使用人たちの表情がどんどん歪んでいく。
耳を押えたいけれど、そんな失礼なことはできないといったところかしら?
好みなのかもしれないけれど、わたしはランシード殿下の歌声は嫌じゃない。
気分良く歌い続けるランシード殿下と、とうとう頭を抱え始めた使用人たち、どちらを優先するか考え、わたしはランシード殿下の歌を止めることにした。
*****
その後、わたしはテイルスの王妃陛下である、シドナ様の部屋に連れてこられていた。
シドナ様が座っている向かい側のソファにわたしは座っていて、ランシード殿下は扉の前の床で正座させられていた。
まずは、シドナ様にお詫びをする。
「先程は取り乱している姿をお見せしてしまい、誠に申し訳ございませんでした」
「気にしないでちょうだい。ノノルーとディエルから話は聞いたわ。それにしてもあなた、ランシードの歌を聞いて平気だなんてすごいわ」
シドナ様が言うには、ランシード殿下のお父様であるテイルスの国王陛下も同じ様に歌が苦手らしい。
でも、二人共、歌を歌うのが好きだから、周りとしては悩みの種だった。
以前、飼っていた鳥や犬が歌声を聞いて失神してしまってからは、歌うのを控えていたのだと教えてくれた。
「わたしには心地良いというか、なんといいますか」
「普通なら聞いていられないはずよ。もう少しで騎士と使用人が、数日間、働けなくなるところだったわ」
シドナ様はシルバーブロンド色々なのゆるやかなウェーブのかかった髪を背中の後ろに払ってから、話を続ける。
「わたしは陛下の歌は大丈夫なんだけれど、ランシードの歌は駄目なのよね。だから、私の前で歌わないようにと言ってるんだけど」
わたしが止める前にシドナ様が帰ってきてしまったので、ランシード殿下が歌っていたのがバレてしまっていた。
「申し訳ございません」
わたしとランシード殿下の声が重なった。
「理由があったのならかまわないわ」
その割には、ランシード殿下は正座させられているんだけど、どういうことなのかしら?
疑問が湧いたけれど、そんなことは口に出せない。
シドナ様はにこりと笑うと、わたしに尋ねてくる。
「ランシードからまだ話を聞いていないようだから、私から伝えるわね。でも、絶対に他人には話をしないでちょうだい」
「承知しました」
「他国と話し合った結果、テイルス王国がロロゾフの王家を滅ぼすことに決まったの。ランシードがラソウエ公爵家の養子になったのは、この国の内情を探るためよ」
「王太子殿下自らがスパイになったということですか?」
あまりにもありえないことだから、わたしは思わず聞き返してしまった。
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