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第5章 シードの正体
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シード様の付き人のディエル様が「もうやめてください!」と懇願してきたけれど、わたしが泣き止むまで、シード様は歌い続けた。
だから、もう泣いてないと伝えると、シード様は歌うのをやめた。
「とにかく、エルテ公爵家に送り届けるから、婚約破棄ができたか確認しといてくれねぇか?」
泣き止んだにも関わらず、シード様はわたしを抱きしめたまま言った。
「わたしはやはり、今の段階では、デスタと婚約してることになっているんでしょうか」
「だろうな」
「シード様と婚約したいと言えば、破棄してもらえますか?」
「俺のほうから正式に依頼はしてる。ただ、俺のほうも色々とやらないことがあるんだ。だから、少し時間をくれ。必ず迎えに行くから」
「……迎えに行く、というのは?」
「今も言ったが、やらないといけないことが山積みでな。悪いけど、少しの間、連絡が取れなくなる」
シード様はそう言って、わたしを抱きしめる腕の力を強くした。
「何か、お手伝いできることはありませんか?」
「そうだな。近い内に贈り物をするから受け取ってくれ。ただ、意味を知って逃げられたら困るから、贈り物の意味は調べるな」
「ど、どういうことですか?」
「いいから」
「気になるじゃありませんか!」
「待っててくれたら良い」
シード様はどうしても話すつもりはなさそう。
諦めて、話題を変えてみる。
「では、シード様の正体はいつ教えていただけるんです?」
「そうだな。近い内に王都でパレードがあるだろ? その時に待ち合わせよう。どうせなら派手にやって、皆にセフィリアが俺のもんだって知らしめたいし」
「パレードの時なんて人が多すぎて待ち合わせなんて無理です! それに知らしめるって言っても、人はパレードのほうを見ているじゃないですか」
シード様がわたしを騙すとは思いたくない。
でも、彼のことを、わたしは何も知らない。
確実な約束がないと不安になる。
「じゃあ、近い内に手紙を送るから、その時に待ち合わせ場所を書いておく。心配すんな。絶対に見つけるから」
「……わかりました」
「不満そうだな」
「不安になっているだけです」
「しょうがねぇ奴だな」
そう言って、シード様はわたしの顔を両手で上げると、顔を近づけてきた。
「な! 何を考えているんですか!」
シード様の口を両手で押さえると、眉根を寄せて答える。
「証拠が欲しそうだったから」
「それとこれとは別です!」
「責任取らないといけねぇだろ」
「わたしはまだデスタと婚約中です!」
「そうだった。悪い。じゃあ、証拠は何がいいんだ?」
「わかりません」
そうこうしている内に、エルテ公爵家にたどり着いた。
お父様が家にいなかったため、シード様はテックと話をしただけで、すぐに帰っていってしまった。
しばらくして、屋敷に帰ってきたお父様は、わたしが出迎えると「おかえり」とだけ言って、それ以上は何も言わずに部屋に戻ろうとしたので抗議する。
「お父様、わたしの意見を無視して婚約を破棄したり結んだりするのはやめてください! わたしはデスタと結婚なんて絶対にしたくありません!」
「うるさい。躾のなっていない犬のように吠えるのはやめろ。お前とロイアン卿の婚約は王女殿下の望みだ。それなのに婚約破棄できる条件を取り付けだのただから有り難く思え」
お父様はそう言うと、扉のほうに視線を移す。
「お前にお客様だ。婚約破棄するなら婚約破棄しろ」
お父様に言われて、扉のほうを振り返ると、ゆっくりと扉が開かれた。
重い足取りで屋敷の中に入ってきたのはデスタだった。
久しぶりに会った彼は、以前よりも身なりの良い服装だけれど、生気のない顔をしていた。
そして、挨拶もなくわたしに向かって叫ぶ。
「セフィリア! 助けてくれ! 僕は王女と結婚したくないんだ!」
「そんなの知らないわ! どうしてわたしがあなたを助けなくちゃいけないのよ!」
お父様はどういうつもりで、デスタをここに連れてきたのかしら。
シード様から連絡がいっているから、わたしとシード様が婚約しようとしていることは知っているはず。
ということは、お父様もシード様とわたしの婚約を望んでいるということ?
お父様の手のひらの上で転がされていることには腹が立つ。
でも、婚約破棄しなければならないことは間違いない。
「デスタ様、今回の婚約は父がわたしの意思を確認せずに勝手に結んだものです。申し訳ございませんが、婚約を破棄させていただきます」
わたしの言葉を聞いたデスタは絶望したような表情になった。
だから、もう泣いてないと伝えると、シード様は歌うのをやめた。
「とにかく、エルテ公爵家に送り届けるから、婚約破棄ができたか確認しといてくれねぇか?」
泣き止んだにも関わらず、シード様はわたしを抱きしめたまま言った。
「わたしはやはり、今の段階では、デスタと婚約してることになっているんでしょうか」
「だろうな」
「シード様と婚約したいと言えば、破棄してもらえますか?」
「俺のほうから正式に依頼はしてる。ただ、俺のほうも色々とやらないことがあるんだ。だから、少し時間をくれ。必ず迎えに行くから」
「……迎えに行く、というのは?」
「今も言ったが、やらないといけないことが山積みでな。悪いけど、少しの間、連絡が取れなくなる」
シード様はそう言って、わたしを抱きしめる腕の力を強くした。
「何か、お手伝いできることはありませんか?」
「そうだな。近い内に贈り物をするから受け取ってくれ。ただ、意味を知って逃げられたら困るから、贈り物の意味は調べるな」
「ど、どういうことですか?」
「いいから」
「気になるじゃありませんか!」
「待っててくれたら良い」
シード様はどうしても話すつもりはなさそう。
諦めて、話題を変えてみる。
「では、シード様の正体はいつ教えていただけるんです?」
「そうだな。近い内に王都でパレードがあるだろ? その時に待ち合わせよう。どうせなら派手にやって、皆にセフィリアが俺のもんだって知らしめたいし」
「パレードの時なんて人が多すぎて待ち合わせなんて無理です! それに知らしめるって言っても、人はパレードのほうを見ているじゃないですか」
シード様がわたしを騙すとは思いたくない。
でも、彼のことを、わたしは何も知らない。
確実な約束がないと不安になる。
「じゃあ、近い内に手紙を送るから、その時に待ち合わせ場所を書いておく。心配すんな。絶対に見つけるから」
「……わかりました」
「不満そうだな」
「不安になっているだけです」
「しょうがねぇ奴だな」
そう言って、シード様はわたしの顔を両手で上げると、顔を近づけてきた。
「な! 何を考えているんですか!」
シード様の口を両手で押さえると、眉根を寄せて答える。
「証拠が欲しそうだったから」
「それとこれとは別です!」
「責任取らないといけねぇだろ」
「わたしはまだデスタと婚約中です!」
「そうだった。悪い。じゃあ、証拠は何がいいんだ?」
「わかりません」
そうこうしている内に、エルテ公爵家にたどり着いた。
お父様が家にいなかったため、シード様はテックと話をしただけで、すぐに帰っていってしまった。
しばらくして、屋敷に帰ってきたお父様は、わたしが出迎えると「おかえり」とだけ言って、それ以上は何も言わずに部屋に戻ろうとしたので抗議する。
「お父様、わたしの意見を無視して婚約を破棄したり結んだりするのはやめてください! わたしはデスタと結婚なんて絶対にしたくありません!」
「うるさい。躾のなっていない犬のように吠えるのはやめろ。お前とロイアン卿の婚約は王女殿下の望みだ。それなのに婚約破棄できる条件を取り付けだのただから有り難く思え」
お父様はそう言うと、扉のほうに視線を移す。
「お前にお客様だ。婚約破棄するなら婚約破棄しろ」
お父様に言われて、扉のほうを振り返ると、ゆっくりと扉が開かれた。
重い足取りで屋敷の中に入ってきたのはデスタだった。
久しぶりに会った彼は、以前よりも身なりの良い服装だけれど、生気のない顔をしていた。
そして、挨拶もなくわたしに向かって叫ぶ。
「セフィリア! 助けてくれ! 僕は王女と結婚したくないんだ!」
「そんなの知らないわ! どうしてわたしがあなたを助けなくちゃいけないのよ!」
お父様はどういうつもりで、デスタをここに連れてきたのかしら。
シード様から連絡がいっているから、わたしとシード様が婚約しようとしていることは知っているはず。
ということは、お父様もシード様とわたしの婚約を望んでいるということ?
お父様の手のひらの上で転がされていることには腹が立つ。
でも、婚約破棄しなければならないことは間違いない。
「デスタ様、今回の婚約は父がわたしの意思を確認せずに勝手に結んだものです。申し訳ございませんが、婚約を破棄させていただきます」
わたしの言葉を聞いたデスタは絶望したような表情になった。
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