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第4章 切らなければならない縁
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数時間後、わたしとシード様はエントランスホールにいた。
エルファとマディアスは外に出て待ってくれている。
出て行こうとしたところで、ロビースト様が不服そうな顔でやって来たので、深々と頭を下げる。
「お世話になりました。ここで遭った出来事は父に報告させていただきます」
「脅しているつもりですか?」
ロビースト様はわたしを睨みつけて尋ねてきた。
「脅すだなんてとんでもないですわ。事実を伝えるだけですもの」
「セフィリア嬢。わたくしに歯向かうだなんてありえません。わたくしはエルテ公爵家を許しませんよ?」
「あら。脅しているのはそちらですわね?」
これ見よがしにため息を吐いてから、笑顔を作る。
「怖くはありませんわ。ロビースト様よりも父のほうが賢いはずです。父なら、こうなった時のために手は打っているでしょうから」
お姉様のことは気になるけれど、痛い目に遭ったほうが目を覚ましてくれるかもしれない。
一度言葉を区切ったあと、姿を見せないお姉様への伝言をお願いする。
「帰りたくなったら、いつでもエルテ公爵家に帰ってくれば良いと姉に伝えていただけませんか?」
「どうしてわたくしが! 絶対に嫌です!」
「では、他の方に頼みます」
様子を見に来ていたお姉様の侍女がいたから、伝言を頼む。
侍女が頷いてくれたのを確認してから、シード様に話しかける。
「お待たせしました、シード様。行きましょうか」
「ああ」
シード様は特にロビースト様には話すことがないようで、頷いて踵を返した。
「待って!」
屋敷の奥からやって来たのはソレーヌ様だった。
わたしとシード様は足を止めて、彼女を見つめる。
ソレーヌ様は私の前にやって来ると、可愛らしい笑顔を浮かべて口を開いた。
「セフィリア様は本当に賢くないですわね。ロビースト様よりも得体の知れない男性を選ぶなんて信じられませんわ」
ソレーヌ様はちらりとシード様のほうに視線を送ったあと、ふふと笑う。
「顔は良いかもしれないけれど、言葉遣いや態度が酷過ぎますわ。あんな方と結婚したら奴隷みたいに扱われてしまうのでしょうね」
シード様のほうを見ると眉根を寄せただけなので、言わせておけば良いという意味として受け止めた。
だって、それはシード様がやることではなく、ロビースト様がやりそうなことなんだもの。
「わたしはシード様を信じて尽くすつもりです。ソレーヌ様はロビースト様にどうされるおつもりなんですか?」
「もちろん。私はロビースト様には尽くすつもりよ」
「そうですか。では、頑張ってくださいませ」
「もう、俺はお前を助けねぇからな。これからは自分で何とかしろよ」
わたしが声を掛けた後にシード様はソレーヌ様に言った。
「そんなことを言われなくても大丈夫です。私はここで、ロビースト様と幸せになるんですから」
ソレーヌ様はうっとりした表情でロビースト様にすり寄った。
何も知らないって幸せね。
ああ、でも、お姉様のようになってしまったら、ロビースト様の本性を知っていても彼のことを好きになるのかしら?
ソレーヌ様にはもう行き場所なんてない。
ロビースト様の本性を知ったら、絶望することでしょうね。
「では、さようなら」
今度こそ、この家を出ようとした時だった。
お姉様が駆け寄ってきて、ソレーヌ様に叫んだ。
「ロビースト様から離れて! 絶対にロビースト様は渡さないわ!」
「いや! 怖い! ロビースト様、助けて!」
お姉様に腕を引っ張られたソレーヌ様はロビースト様にしがみついた。
「離れなさいよ!」
お姉様はソレーヌ様を強く引っ張り、ソレーヌ様は抵抗してロビースト様のシャツを掴む。
そして、掴んだところが悪かったのか、ロビースト様のシャツのボタンを引っ張られた勢いで引きちぎってしまった。
「ちょっと、なんてことをするのよ! ロビースト様、申し訳ございません! 悪いのはこの女です!」
「何てことをしてくれたんですか!」
ソレーヌ様が訴えていると、ロビースト様は怒りの形相になって叫び、ソレーヌ様の頬を叩いた。
「……え?」
ソレーヌ様は打たれた頬を手で押さえながら、呆然とした表情になる。
「これは亡くなった母に選んでもらった大切なシャツなんです! それなのに!」
ロビースト様は目に涙を浮かべながら、ソレーヌ様を睨み付けた。
エルファとマディアスは外に出て待ってくれている。
出て行こうとしたところで、ロビースト様が不服そうな顔でやって来たので、深々と頭を下げる。
「お世話になりました。ここで遭った出来事は父に報告させていただきます」
「脅しているつもりですか?」
ロビースト様はわたしを睨みつけて尋ねてきた。
「脅すだなんてとんでもないですわ。事実を伝えるだけですもの」
「セフィリア嬢。わたくしに歯向かうだなんてありえません。わたくしはエルテ公爵家を許しませんよ?」
「あら。脅しているのはそちらですわね?」
これ見よがしにため息を吐いてから、笑顔を作る。
「怖くはありませんわ。ロビースト様よりも父のほうが賢いはずです。父なら、こうなった時のために手は打っているでしょうから」
お姉様のことは気になるけれど、痛い目に遭ったほうが目を覚ましてくれるかもしれない。
一度言葉を区切ったあと、姿を見せないお姉様への伝言をお願いする。
「帰りたくなったら、いつでもエルテ公爵家に帰ってくれば良いと姉に伝えていただけませんか?」
「どうしてわたくしが! 絶対に嫌です!」
「では、他の方に頼みます」
様子を見に来ていたお姉様の侍女がいたから、伝言を頼む。
侍女が頷いてくれたのを確認してから、シード様に話しかける。
「お待たせしました、シード様。行きましょうか」
「ああ」
シード様は特にロビースト様には話すことがないようで、頷いて踵を返した。
「待って!」
屋敷の奥からやって来たのはソレーヌ様だった。
わたしとシード様は足を止めて、彼女を見つめる。
ソレーヌ様は私の前にやって来ると、可愛らしい笑顔を浮かべて口を開いた。
「セフィリア様は本当に賢くないですわね。ロビースト様よりも得体の知れない男性を選ぶなんて信じられませんわ」
ソレーヌ様はちらりとシード様のほうに視線を送ったあと、ふふと笑う。
「顔は良いかもしれないけれど、言葉遣いや態度が酷過ぎますわ。あんな方と結婚したら奴隷みたいに扱われてしまうのでしょうね」
シード様のほうを見ると眉根を寄せただけなので、言わせておけば良いという意味として受け止めた。
だって、それはシード様がやることではなく、ロビースト様がやりそうなことなんだもの。
「わたしはシード様を信じて尽くすつもりです。ソレーヌ様はロビースト様にどうされるおつもりなんですか?」
「もちろん。私はロビースト様には尽くすつもりよ」
「そうですか。では、頑張ってくださいませ」
「もう、俺はお前を助けねぇからな。これからは自分で何とかしろよ」
わたしが声を掛けた後にシード様はソレーヌ様に言った。
「そんなことを言われなくても大丈夫です。私はここで、ロビースト様と幸せになるんですから」
ソレーヌ様はうっとりした表情でロビースト様にすり寄った。
何も知らないって幸せね。
ああ、でも、お姉様のようになってしまったら、ロビースト様の本性を知っていても彼のことを好きになるのかしら?
ソレーヌ様にはもう行き場所なんてない。
ロビースト様の本性を知ったら、絶望することでしょうね。
「では、さようなら」
今度こそ、この家を出ようとした時だった。
お姉様が駆け寄ってきて、ソレーヌ様に叫んだ。
「ロビースト様から離れて! 絶対にロビースト様は渡さないわ!」
「いや! 怖い! ロビースト様、助けて!」
お姉様に腕を引っ張られたソレーヌ様はロビースト様にしがみついた。
「離れなさいよ!」
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そして、掴んだところが悪かったのか、ロビースト様のシャツのボタンを引っ張られた勢いで引きちぎってしまった。
「ちょっと、なんてことをするのよ! ロビースト様、申し訳ございません! 悪いのはこの女です!」
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「……え?」
ソレーヌ様は打たれた頬を手で押さえながら、呆然とした表情になる。
「これは亡くなった母に選んでもらった大切なシャツなんです! それなのに!」
ロビースト様は目に涙を浮かべながら、ソレーヌ様を睨み付けた。
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