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第5章 シードの正体
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届いた花冠をテックに見せて部屋に帰る途中に、お父様と出くわした。
お父様は花冠を指差して険しい顔で尋ねてくる。
「セフィリア、その花冠をどこで手に入れた?」
「いただきものです。パレードの時に付けてきてほしいと言われました」
「もしかして、シード様からか?」
「よくおわかりになりましたわね。この花冠に何か意味がありますの?」
私が尋ねると、お父様は鼻で笑う。
「それくらい渡された時点で調べるべきだろう。今度のパレードはテイルス国の王家が来るパレードなんだ。テイルス国の歴史を調べればわかるだろう? 教科書には載ってないかもしれないが、図書館に行けば本くらいある」
「花冠については調べるなとシード様から言われています。それに、お父様が外へ出してくださらないじゃないですか」
「調べるなだと? そういうことか。お前は気に入られたもんだな」
お父様は本当に嬉しい時に見せる笑顔で話を続ける。
「やはり、お前は私の娘だ」
「意味がわかりません」
「パレードに行けば意味がわかる。それから、自分が無知だったこともな」
「……普通の方は知っていることですか?」
「いや、国内だと世界の王家に興味のある人間しか知らないかもしれない」
黙っていたら、調べてもバレることはない。
でも、シード様と約束したのよね。
約束を破ることはしたくない。
家の中にある本で調べるのもやめておこう。
「大丈夫だ。お前の命が危ないだとか、そういうものではない。さすがに、そんなものなら止めるくらいの親心はある」
「信じられませんわ」
「勝手にしろ。だが、面白いことになるだろうと言っておく。いや、やはり、私も一緒に行くことにしよう」
「いけませんわ! 人が多すぎて危険です!」
お父様は命を狙われている可能性が高い。
さすがに、目の前で死んでしまわれたら心は痛む。
そんな思いは口に出さずに訴えると、お父様は笑う。
「大丈夫だ。変装していく」
「そんな問題ではないでしょう」
「そんな問題なんだ。私が行かないと話にならないだろうからな」
「事情がわかっているのなら隠さずに教えてくださいませ!」
「サプライズがあっても良いだろう。そして、お前はやっと私から解放されるぞ」
お父様は珍しく声を上げて笑うと歩き去っていく。
「一体、この花冠に何の意味があるって言うの?」
高価なものだとはわかる。
でも、これの持つ意味がわからない。
「勉強していなかった私の馬鹿!」
誰に言うでもなく、わたしは廊下で叫んだのだった。
*****
パレードの当日、わたしは動きやすい服装でありつつ、花冠に似合う格好とにする為、薄いピンク色のミモレ丈のワンピースドレスを着て出かけることにした。
今日のパレートは軍事大国であるテイルス国の王妃陛下と王太子殿下の歓迎パレードだった。
友好100周年を記念してのパレードで、その後、お二人は5日間、城の敷地内にある迎賓館に滞在される。
お父様と一緒に待ち合わせている場所に向かうと、かなりの人だかりだった。
一目でも他国の王族を見ようと集まっている。
こんな場所でシード様と本当に会えるのかしら。
パレードはすでに始まっていて、遠くの方では紙吹雪が散っている。
「見えてきたな」
ラフな格好なだけで、まったく変装していないお父様が指差す先には豪奢な馬車が見えた。
他国の王族も気になるけれど、今はシード様のほうが気になる。
花冠を付けて指定の場所で待っていると、豪奢な馬車が1台通り過ぎた。
そして、後に続くもう一台も通り過ぎるはずが、なぜか停車した。
馬車の周りを囲んでいた馬に乗った騎士や馬たちも動きを止める。
一人の騎士が馬から下りて馬車の扉を開ける。
中から出てきたのは、真っ白な軍服を着た爽やかな美青年だった。
馬車の中から現れたのはテイルス国の王太子殿下のランシード様だった。
まだ、若いのに軍服にはたくさんの勲章が付いている。
シルバーブロンドの短髪で、前髪は眉毛よりも下の位置に整えられていて、顔立ちは眉目秀麗だ。
綺麗な赤色の瞳を見た瞬間、シード様を思い出した。
でも、シード様とはまったく雰囲気が違う。
彼は前髪を上げていたし長髪だった。
しかも、こんな爽やかで優しい笑みを浮かべる人ではない。
周りが頭を下げたことに気づき、わたしも慌てて花冠を手に取って頭を下げた。
「やっと見つけたよ、お姫様」
ランシード様の柔らかくて甘い声が、わたしの頭上から聞こえてきた気がした。
嘘でしょ?
わたしに話しかけているんじゃないわよね?
「ねえ、セフィリア、顔を上げてよ。僕だよ? 忘れたなんて言わないよね?」
これは絶対に夢だ。
ありえないわ。
ゆっくりと顔を上げて、ランシード殿下を見つめる。
「待たせてごめんね。約束通り迎えに来たよ」
爽やかな笑みを浮かべて、手を差し出すランシード殿下に、わたしは言葉を返すことができない。
シードって、ランシード殿下のシードなの?
というか、見た目も中身も別人じゃないの!
お父様は花冠を指差して険しい顔で尋ねてくる。
「セフィリア、その花冠をどこで手に入れた?」
「いただきものです。パレードの時に付けてきてほしいと言われました」
「もしかして、シード様からか?」
「よくおわかりになりましたわね。この花冠に何か意味がありますの?」
私が尋ねると、お父様は鼻で笑う。
「それくらい渡された時点で調べるべきだろう。今度のパレードはテイルス国の王家が来るパレードなんだ。テイルス国の歴史を調べればわかるだろう? 教科書には載ってないかもしれないが、図書館に行けば本くらいある」
「花冠については調べるなとシード様から言われています。それに、お父様が外へ出してくださらないじゃないですか」
「調べるなだと? そういうことか。お前は気に入られたもんだな」
お父様は本当に嬉しい時に見せる笑顔で話を続ける。
「やはり、お前は私の娘だ」
「意味がわかりません」
「パレードに行けば意味がわかる。それから、自分が無知だったこともな」
「……普通の方は知っていることですか?」
「いや、国内だと世界の王家に興味のある人間しか知らないかもしれない」
黙っていたら、調べてもバレることはない。
でも、シード様と約束したのよね。
約束を破ることはしたくない。
家の中にある本で調べるのもやめておこう。
「大丈夫だ。お前の命が危ないだとか、そういうものではない。さすがに、そんなものなら止めるくらいの親心はある」
「信じられませんわ」
「勝手にしろ。だが、面白いことになるだろうと言っておく。いや、やはり、私も一緒に行くことにしよう」
「いけませんわ! 人が多すぎて危険です!」
お父様は命を狙われている可能性が高い。
さすがに、目の前で死んでしまわれたら心は痛む。
そんな思いは口に出さずに訴えると、お父様は笑う。
「大丈夫だ。変装していく」
「そんな問題ではないでしょう」
「そんな問題なんだ。私が行かないと話にならないだろうからな」
「事情がわかっているのなら隠さずに教えてくださいませ!」
「サプライズがあっても良いだろう。そして、お前はやっと私から解放されるぞ」
お父様は珍しく声を上げて笑うと歩き去っていく。
「一体、この花冠に何の意味があるって言うの?」
高価なものだとはわかる。
でも、これの持つ意味がわからない。
「勉強していなかった私の馬鹿!」
誰に言うでもなく、わたしは廊下で叫んだのだった。
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パレードの当日、わたしは動きやすい服装でありつつ、花冠に似合う格好とにする為、薄いピンク色のミモレ丈のワンピースドレスを着て出かけることにした。
今日のパレートは軍事大国であるテイルス国の王妃陛下と王太子殿下の歓迎パレードだった。
友好100周年を記念してのパレードで、その後、お二人は5日間、城の敷地内にある迎賓館に滞在される。
お父様と一緒に待ち合わせている場所に向かうと、かなりの人だかりだった。
一目でも他国の王族を見ようと集まっている。
こんな場所でシード様と本当に会えるのかしら。
パレードはすでに始まっていて、遠くの方では紙吹雪が散っている。
「見えてきたな」
ラフな格好なだけで、まったく変装していないお父様が指差す先には豪奢な馬車が見えた。
他国の王族も気になるけれど、今はシード様のほうが気になる。
花冠を付けて指定の場所で待っていると、豪奢な馬車が1台通り過ぎた。
そして、後に続くもう一台も通り過ぎるはずが、なぜか停車した。
馬車の周りを囲んでいた馬に乗った騎士や馬たちも動きを止める。
一人の騎士が馬から下りて馬車の扉を開ける。
中から出てきたのは、真っ白な軍服を着た爽やかな美青年だった。
馬車の中から現れたのはテイルス国の王太子殿下のランシード様だった。
まだ、若いのに軍服にはたくさんの勲章が付いている。
シルバーブロンドの短髪で、前髪は眉毛よりも下の位置に整えられていて、顔立ちは眉目秀麗だ。
綺麗な赤色の瞳を見た瞬間、シード様を思い出した。
でも、シード様とはまったく雰囲気が違う。
彼は前髪を上げていたし長髪だった。
しかも、こんな爽やかで優しい笑みを浮かべる人ではない。
周りが頭を下げたことに気づき、わたしも慌てて花冠を手に取って頭を下げた。
「やっと見つけたよ、お姫様」
ランシード様の柔らかくて甘い声が、わたしの頭上から聞こえてきた気がした。
嘘でしょ?
わたしに話しかけているんじゃないわよね?
「ねえ、セフィリア、顔を上げてよ。僕だよ? 忘れたなんて言わないよね?」
これは絶対に夢だ。
ありえないわ。
ゆっくりと顔を上げて、ランシード殿下を見つめる。
「待たせてごめんね。約束通り迎えに来たよ」
爽やかな笑みを浮かべて、手を差し出すランシード殿下に、わたしは言葉を返すことができない。
シードって、ランシード殿下のシードなの?
というか、見た目も中身も別人じゃないの!
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