あなたには彼女がお似合いです

風見ゆうみ

文字の大きさ
上 下
28 / 52
第5章 シードの正体

しおりを挟む
 届いた花冠をテックに見せて部屋に帰る途中に、お父様と出くわした。

 お父様は花冠を指差して険しい顔で尋ねてくる。

「セフィリア、その花冠をどこで手に入れた?」
「いただきものです。パレードの時に付けてきてほしいと言われました」
「もしかして、シード様からか?」
「よくおわかりになりましたわね。この花冠に何か意味がありますの?」

 私が尋ねると、お父様は鼻で笑う。

「それくらい渡された時点で調べるべきだろう。今度のパレードはテイルス国の王家が来るパレードなんだ。テイルス国の歴史を調べればわかるだろう? 教科書には載ってないかもしれないが、図書館に行けば本くらいある」
「花冠については調べるなとシード様から言われています。それに、お父様が外へ出してくださらないじゃないですか」
「調べるなだと? そういうことか。お前は気に入られたもんだな」

 お父様は本当に嬉しい時に見せる笑顔で話を続ける。

「やはり、お前は私の娘だ」
「意味がわかりません」
「パレードに行けば意味がわかる。それから、自分が無知だったこともな」
「……普通の方は知っていることですか?」
「いや、国内だと世界の王家に興味のある人間しか知らないかもしれない」

 黙っていたら、調べてもバレることはない。
 でも、シード様と約束したのよね。
 約束を破ることはしたくない。

 家の中にある本で調べるのもやめておこう。

「大丈夫だ。お前の命が危ないだとか、そういうものではない。さすがに、そんなものなら止めるくらいの親心はある」
「信じられませんわ」
「勝手にしろ。だが、面白いことになるだろうと言っておく。いや、やはり、私も一緒に行くことにしよう」
「いけませんわ! 人が多すぎて危険です!」

 お父様は命を狙われている可能性が高い。
 さすがに、目の前で死んでしまわれたら心は痛む。

 そんな思いは口に出さずに訴えると、お父様は笑う。

「大丈夫だ。変装していく」
「そんな問題ではないでしょう」
「そんな問題なんだ。私が行かないと話にならないだろうからな」
「事情がわかっているのなら隠さずに教えてくださいませ!」
「サプライズがあっても良いだろう。そして、お前はやっと私から解放されるぞ」

 お父様は珍しく声を上げて笑うと歩き去っていく。

「一体、この花冠に何の意味があるって言うの?」

 高価なものだとはわかる。
 でも、これの持つ意味がわからない。

「勉強していなかった私の馬鹿!」
 
 誰に言うでもなく、わたしは廊下で叫んだのだった。


*****



 パレードの当日、わたしは動きやすい服装でありつつ、花冠に似合う格好とにする為、薄いピンク色のミモレ丈のワンピースドレスを着て出かけることにした。

 今日のパレートは軍事大国であるテイルス国の王妃陛下と王太子殿下の歓迎パレードだった。
 友好100周年を記念してのパレードで、その後、お二人は5日間、城の敷地内にある迎賓館に滞在される。

 お父様と一緒に待ち合わせている場所に向かうと、かなりの人だかりだった。
 一目でも他国の王族を見ようと集まっている。

 こんな場所でシード様と本当に会えるのかしら。

 パレードはすでに始まっていて、遠くの方では紙吹雪が散っている。

「見えてきたな」

 ラフな格好なだけで、まったく変装していないお父様が指差す先には豪奢な馬車が見えた。

 他国の王族も気になるけれど、今はシード様のほうが気になる。
 花冠を付けて指定の場所で待っていると、豪奢な馬車が1台通り過ぎた。
 そして、後に続くもう一台も通り過ぎるはずが、なぜか停車した。
 馬車の周りを囲んでいた馬に乗った騎士や馬たちも動きを止める。
 一人の騎士が馬から下りて馬車の扉を開ける。

 中から出てきたのは、真っ白な軍服を着た爽やかな美青年だった。

 馬車の中から現れたのはテイルス国の王太子殿下のランシード様だった。

 まだ、若いのに軍服にはたくさんの勲章が付いている。
 シルバーブロンドの短髪で、前髪は眉毛よりも下の位置に整えられていて、顔立ちは眉目秀麗だ。
 綺麗な赤色の瞳を見た瞬間、シード様を思い出した。

 でも、シード様とはまったく雰囲気が違う。
 彼は前髪を上げていたし長髪だった。
 しかも、こんな爽やかで優しい笑みを浮かべる人ではない。

 周りが頭を下げたことに気づき、わたしも慌てて花冠を手に取って頭を下げた。

「やっと見つけたよ、お姫様」

 ランシード様の柔らかくて甘い声が、わたしの頭上から聞こえてきた気がした。

 嘘でしょ?
 わたしに話しかけているんじゃないわよね?

「ねえ、セフィリア、顔を上げてよ。僕だよ? 忘れたなんて言わないよね?」

 これは絶対に夢だ。
 ありえないわ。

 ゆっくりと顔を上げて、ランシード殿下を見つめる。

「待たせてごめんね。約束通り迎えに来たよ」

 爽やかな笑みを浮かべて、手を差し出すランシード殿下に、わたしは言葉を返すことができない。

 シードって、ランシード殿下のシードなの?
 というか、見た目も中身も別人じゃないの!
しおりを挟む
感想 145

あなたにおすすめの小説

【完結】もう結構ですわ!

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
 どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。  愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/29……完結 2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位 2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位 2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位 2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位 2024/09/11……連載開始

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです) hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに

おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」 結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。 「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」 「え?」 驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。 ◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話 ◇元サヤではありません ◇全56話完結予定

婚約破棄されたので、隠していた力を解放します

ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」  豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシスが高らかに宣言した。  周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。  私は、この状況をただ静かに見つめていた。 「……そうですか」  あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。  婚約破棄、大いに結構。  慰謝料でも請求してやりますか。  私には隠された力がある。  これからは自由に生きるとしよう。

君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。

みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。 マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。 そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。 ※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓

婚約者は他の女の子と遊びたいようなので、私は私の道を生きます!

皇 翼
恋愛
「リーシャ、君も俺にかまってばかりいないで、自分の趣味でも見つけたらどうだ。正直、こうやって話しかけられるのはその――やめて欲しいんだ……周りの目もあるし、君なら分かるだろう?」 頭を急に鈍器で殴られたような感覚に陥る一言だった。 そして、チラチラと周囲や他の女子生徒を見る視線で察する。彼は他に想い人が居る、または作るつもりで、距離を取りたいのだと。邪魔になっているのだ、と。

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。 ※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31

【完結】この運命を受け入れましょうか

なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」  自らの夫であるルーク陛下の言葉。  それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。   「承知しました。受け入れましょう」  ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。  彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。  みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。  だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。  そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。  あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。  これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。  前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。  ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。     ◇◇◇◇◇  設定は甘め。  不安のない、さっくり読める物語を目指してます。  良ければ読んでくだされば、嬉しいです。

処理中です...