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第2章 新たな婚約者

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 その後は、お父様がお姉様の侍女を呼び付けて、お姉様を部屋に連れ戻させたため、後味の悪いままに終わった。
 次の日の朝に、テックの部屋まで昨日の話をしに行くと、すでにお姉様から話を聞いたと教えてくれた。

「フィーナお姉様は自分は悪くないと言っていましたが、そんなことはないと思います。もちろん、ロビースト様も大人なんですから、体型の好みについては我慢すべきところではないかと思いますが……」
「譲れないこだわりなのかもしれないわね。生理的に無理というやつなのかしら? こうなったら、わたしも太るしかないわね」
「セフィリアお姉様、フィーナお姉様に何を言われても気にしないでください。痩せる痩せないは自分との戦いです。お姉様に関係はありません」
「ありがとう。本人がそのことに気付いてくれれば良いのだけど」

 小さく息を吐いてから、テックと一緒に朝食をとりにダイニングルームに向かった。

 ダイニングルームに入ると、メイドからお姉様は食事はこれから部屋でとると聞かされた。

 わたしの顔を見たくないんだそうだ。
 話し合いをする気力も失せていたわたしは、自分からは話しかけないことに決めた。
 食事後はお父様の仕事の手伝いを始めた。
 お姉様は嫁入り修行だと言って、いつも部屋で刺繍などをしているから、今日もそうするつもりだと思われる。

 昼前にロイアン伯爵がやって来て、わたしの婚約破棄は成立した。
 そして、お父様はロイアン伯爵家に莫大な慰謝料を請求した。
 伯爵家では到底払えない額だった。

「必ず、お支払いいたします。正確に言うと、息子の新たな婚約者に払っていただくことになりますが」
「新たな婚約者……?」

 昨日、揉めに揉めた応接室で向かい合って座っているロイアン伯爵に、わたしは思わず聞き返した。

「はい。実は愚息から話を聞いたのですが、かなり前から、愚息にアプローチしていた女性がいたんです。その方が婚約破棄の話を聞いて、自分が新たな婚約者になると……」
「お相手の方はどなたなのです?」
「正式に発表があると思いますので、お待ちください」
「では、あなたは息子と縁を切ることはやめたのだな?」

 わたしが尋ねる前にお父様が尋ねると、ロイアン伯爵は「はい」と小さな声で言って頷いた。

 現在の夫人との離婚はやめたけれど、ソレーヌ様は近い内に家から追い出すつもりらしい。
 デスタもそれを認めているのだそう。
 
 本当に最低な男だわ。

 ソレーヌ様がどうなったかは、改めて連絡をくれると約束してロイアン伯爵は帰っていった。

 その後、お父様とデスタについての話をする暇もなく、お姉様が応接室にやって来た。

「お父様! これを見てください! ロビースト様からの手紙です!」

 お姉様はわざと、座っているわたしに足をぶつかってから、お父様に手紙を渡した。
 お父様は読み終わると、無言でわたしに手紙を渡してくる。

 そこには、どちらかを婚約者にするか決めるために、わたしとお姉様をラソウエ公爵家に住まわせると書かれていた。
 わたしは手紙をお父様に返してから叫ぶ。

「信じられません! わたしは絶対に嫌です!」
「といっても、片方だけが来るのでは駄目だと書かれてるぞ」
「お姉様だけで良いじゃないですか!」
 
 立ち上がり、座ったままのお父様に叫んだ時だった。

「何よ、ワガママばっかり! あなたなんか妹じゃない! あなたがいるから私は一生日陰で生きていかないといけないのよ!」

 お姉様がわたしの頬を平手打ちした。
 さすがにカッとなって言い返す。

「どうしてわたしのせいで日陰で生きていかないといけないことになるんですか!」
「あなたは自分が気が付いてないだけで、可愛いしスタイルも良いのよ! だから、男性受けするの! 特に私の横にいれば余計にね! ロビースト様のことだって、私が痩せなきゃいけなくなったのはあなたのせいよ!」
「ロビースト様のことは関係ないでしょう!?」

 わたしの言葉に、お姉様が応える前にお父様が会話に入ってくる。

「本当に面白い展開になってきたな。どうして、セフィリアのせいになるんだ? 痩せる努力をしなかったのはお前だ。散々、私に馬鹿にされたんだから悔しくて痩せるくらいできただろうに」
「お父様の場合は応援してくれているのではなく、馬鹿にしていただけでしょう!」
「それはお前の勝手な思い込みだろう」

 言い返したお姉様に憐れむような視線を送ったお父様は、大きく息を吐いた。
 そして、今度はわたしのほうに目を向ける。

「正式にまた、ラソウエ公爵より連絡があるだろう。望み通りにフィーナと行って来い。最終的にお前との婚約や結婚を望むようなら受けるんだ」
「お父様、わたしは絶対に嫌です!」
「なら、フィーナを今すぐに痩せさせろ」

 お父様はそう言うと、立ち上がって部屋から出ていこうとした。

「待ってください、お父様! お父様のほうからお願いしていただけませんか!? 好みじゃないから婚約者を選びたいだなんておかしいでしょう! 抗議すべきです!」
「そうですわ、お父様! ロビースト様は私の婚約者なんです! セフィリアには渡せません!」
「フィーナ! そう思うなら、今すぐに痩せろ! 二年以上体型を変えられないだなんておかしいだろう! 一度、痩せてリバウンドしたというのならまだしも、お前は一度も痩せたことがないだろう!」
「あなたのせいで!」

 お父様がお姉様を叱責すると、お姉様は八つ当たりのように、また、わたしを殴ろうとしてきた。

 予想ができるのであれば食らわない。
 後ろに下がって避けると、お姉様は勢いを殺すことができずに前のめりに倒れた。

「お姉様、そんなにラソウエ公爵が好きなのであれば、先に行って、彼を自分のものにしてください」

 お姉様を助け起こすこともせずに、わたしは背を向けて部屋から出た。

 次の日、お姉様は一人でラソウエ公爵家に向かった。
 そして、その日の夕方に帰ってきたかと思うと、わたしの部屋にやって来て土下座した。

「お願いよ、セフィリア! あなたが一緒じゃないと屋敷に入れてくれないの! お願い! 姉の頼みを聞いてちょうだい!」

 都合の良いことを言うお姉様を、冷めた目で見ながら思う。
 
 この様子では、痩せたとしてもロビースト様に選ばれることはないでしょうね。

 結局、抗っても無駄で、わたしはお父様の命令で、お姉様とラソウエ公爵家に行くことになった。

 そして、ロビースト様の本性を知ることになるのだった。
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