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第2章 新たな婚約者

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 シード様はわたし達の様子を確認した後は「じゃあ、もう帰るわ。ねみぃし」と言って、誰の返事を待つことなく部屋を出て行ってしまった。
 シード様に対するお父様たちの様子に驚いたわたしは、シード様にお礼を言うことも忘れて、しばらく呆然としていた。
 それはロイアン伯爵たちも同じで、不思議そうな顔をして、お父様とロビースト様を見つめていた。

 そんな中、一番に我に返ったのは、お姉様だった。

「あの、ロビースト様! お願いです! 痩せます! 痩せますから! 私と結婚してください!」
「うるさい!」

 ロビースト様は縋りつこうとした、お姉様を蹴り飛ばすと、シード様の後を追うように部屋から出て行った。

「待って! ロビースト様!」

 お姉様はまだ、ロビースト様のことが諦められないようで、必死の形相で彼を追いかけて部屋を出ていった。

「あ、あの、今日のところは私共も失礼させていただきます」

 お姉様が部屋を出て行った後、ロイアン伯爵が何度も頭を下げて去ろうとした。
 すると、ソレーヌ様がロイアン伯爵にしがみつく。

「お父様、さっきの言葉は嘘ですわよね? お母様と離婚なんてしませんわよね?」
「……ソレーヌ、お前たち二人の関係に気付けなかったということで、今回の責任は私にもある」
「で、でしたら……!」
「だから、責任を取って婚約破棄を認めるんだ。そして、お前の母と離婚する」
「そんな! 責任の取り方が間違っています!」

 ソレーヌ様が叫ぶと、ロイアン伯爵が静かに尋ねる。

「では、どう責任を取ればいいんだ?」
「あの、慰謝料などを払うのは間違っていないと思います。でも、離婚するのは間違っています!」
「そうだな。離婚で責任を取るのはまた違うかもしれない」
「で、では!」

 ソレーヌ様の表情が笑顔に変わった。
 でも、ロイアン伯爵はすぐに彼女の希望の光をなかったのものにする。

「私がお前たちを見たくない。それだけだ。だから、離婚は絶対にする」

 そう言うと、ロイアン伯爵はデスタとソレーヌ様を促す。

「デスタ、婚約破棄の書類を交わすまでは、お前は私の息子だ。そして、ソレーヌ、お前も離婚するまでは娘だ。家に帰るぞ」
「お父様! 考え直してください!」
「父上! 僕を捨てないでください! 父上に捨てられたら僕はどうなるんですか!」
「そんなものは知らん! こうなることを考えないお前らが悪い!」

 縋ってくるデスタを突き放した後、ロイアン伯爵は、わたしとお父様に再度、深々と頭を下げる。

「お見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ございません。失礼いたします」
「あの、セフィリア様! 改めて、お話する機会をいただけませんか?」
「そ、そうだ、セフィリア! 落ち着いてからまた話をしよう! 君は感情的になっているだけなんだ!」

 ロイアン伯爵とは、後からでも話が出来ると思ったのか、デスタとソレーヌ様は、わたしに救いを求めてきた。
 
「ソレーヌ様、申し訳ございませんが、あなたとお話することはありません。それから、デスタ様。今回のお話は、悩んで考え抜いた結果です。それを感情的だなんて言われては不愉快です。あなたは、わたしがどれだけ傷ついていたかわかっていないようですね」
「悪いと思っているよ! 今度こそは君を大事にする! ソレーヌなんかよりも君のほうが良いんだ」

 デスタの言葉を聞いたソレーヌ様の顔が一瞬だけ歪んだ。
 でも、この場は話を合わせておいたほうが良いと思ったのか、すぐに泣きそうな表情を作って私に訴える。

「申し訳ございませんでした。あの、寂しかっただけなんです! セフィリア様やお兄様の優しさに甘えていただけなんです! そんなに傷ついてらしたなんて知りませんでした! これからはもう」
「ソレーヌ様、これからはありません。どうぞお帰りください」

 話を打ち切ると、ロイアン伯爵に目を向ける。

「お気をつけてお帰りくださいませ」
「ありがとうございます。息子と娘が失礼いたしました。また、明日に改めてお詫びと婚約破棄の件でお伺いさせていただきます」

 ロイアン伯爵は頭を下げると、嫌がるデスタとソレーヌ様を連れて部屋から出て行った。
 三人が出て行ってからすぐに、お父様が口を開く。

「予想外のことが起きたせいで、思った以上に面白いものになったな」
「お父様、遊びではないのですよ! それに、シード様は一体何者なのです!? お父様が逆らえない方だなんて、よっぽどの方だとしか思えません!」
「お前は知らなくても良いことだ」 

 話すことが出来ないのか、話したくないだけなのか確認しようとした時だった。
 お姉様が暗い表情で応接室に戻ってきた。
 涙も枯れ果てたといった様子で、目もうつろだった。
 
「お姉様」

 何と声をかけたら良いのか迷った時だった。

「そうよ! ロビースト様がおっしゃる通り、全部あなたのせいよ! あなたが太らなかったから悪いのよ!」

 お姉様は、憎しみのこもった目で私を睨み付けてきた。
 

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