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第3章 戻ってきた救世主

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 エルファの怪我は鼻から血は激しく出ていたけれど、お医者様の指示通りに処置すると、しばらくしてから止まったので安心した。
 わたしのほうも口の中が切れていただけで、今のところは打撲程度で済みそうだった。
 背中は無理だったけれど、お腹は手で守れていたからかもしれない。

 今日はエルファには休みを取らせて、マディアスには彼女に付いておいてほしいとお願いした。
 ラソウエ家に古くから勤めているメイドに聞いたところ、シード様が言っていたように、ロビースト様は自分よりも綺麗な男性が嫌いなのだそうだ。
 そのため、何人もの男性が犠牲になっているらしく、ここに来る騎士や使用人は容姿の優れていない人しか来れないらしい。

 わたしの部屋の前に立っていれば、マディアスはまた、ロビースト様に目を付けられるかもしれない。
 今晩、シード様が来てくれると言っていたから、そのことについて相談しようと思い、今日のところは仕事を休ませた。

「確認不足だったわ」

 ベッドで横になった状態で両手で顔を覆って呟く。

 ロビースト様の本性を、お父様は知っていたのかしら?
 知っていないとおかしいわよね。
 でも、今までは男性にだけ暴力をふるっていたようだから、女である私たちは大丈夫だと思ったのかしら。

 大きなため息を吐いて、ゆっくりと上半身だけ起こす。

 お父様を信用はできない。
 ここから逃げたいと言ったら、シード様は手助けしてくれるかしら。
 そんなことを思った時だった。

「いけません、旦那様! シード様から、旦那様をセフィリア様に近付けないようにと言われております!」
「うるさい! 殺されたいのですか!」
「申し訳ございません、旦那様! めいれ」

 騎士らしき男性の声が途切れ、どさりと鈍い音が聞こえた。

「この人間と同じようなことになりたくなければ、そこを退きなさい」

 ロビースト様の声が聞こえて、わたしは恐怖でシーツを強く握りしめた。
 予想するに、二人いる内の騎士の一人を斬って、もう一人の騎士を脅したのだと思う。
 
 ギイという音を立てて扉が開き、中に入ってきたのは返り血らしき赤いものを白いシャツに付けたロビースト様だった。

 剣は持っていないけれど、片手に書類の束を持っている。
 
 ロビースト様はベッドの近くまでやって来ると叫ぶ。

「この書類! 間違っていますよ! 昨日! あなたが! やったものです!」

 書類の束を投げつけられたので、一枚だけ手に取って内容を確認してみる。
 特におかしいところはなかった。

「こんな簡単なことができないとは信じられません!」

 ロビースト様は叫ぶと、私に投げつけていた書類を一枚手にとって破り始めた。

「何でもかんでもやれと言われた通りにやらなくてもいいんですよ! 応用というものを知らないんですか、あなたは!」
「ですが、それはロビースト様に指示された通りにしたものです!」
「うるさい! 口ごたえするな!」

 ロビースト様はわたしの頬を平手打ちした。

「私の妻になりたいのなら、言い返すことはやめなさい。全て私の言う通りだと言うのです!」
「嫌です! 大体、わたしはあなたの妻になんかなりたくありません!」
「まだ、口ごたえするのですか!」

 ロビースト様が叫んで手を振り上げた時、閉められたはずの部屋の扉が開かれた。

 ノック音は聞こえなかっただけなのかわからない。
 とにかく、中に入ってきたのが、シード様だということはわかった。

 シード様は不機嫌そうな顔で、ロビースト様の所まで歩いてきて足を止めた。
 そして、私に顔を向けて尋ねてくる。

「何があったんだよ?」
「……ロビースト様の言う通りに作り上げた資料ですが、気に入らないと言われました」
「ふぅん。それでビリビリ破いてんのか。お前の指示が悪かったとは思わねぇの?」

 シード様は今度はわたしにではなく、ロビースト様に話しかけた。

「そ、そんな、わたくしはちゃんと丁寧に説明をしたんです! ただ、一つやり方を教え間違えていて」
「やり方を教え間違えていた?」
「そうです! でも、おかしいなと思うような間違いです! 言われたことしかできないセフィリアが悪いのです! だから、セフィリアを殴っ」

 ロビースト様の話の途中で、シード様がロビースト様の頬を拳で殴った。
 殴られたロビースト様は、近くにあった執務机に体を大きくぶつけ、尻もちをつく。

「な、ど、どうしてわたくしを殴るんですか!」
「どうしてじゃねえだろ。お前がやったことを俺もしただけだ」

 シード様は呆れた表情でロビーストを見つめて言った。
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