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32 怒りの雷
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パーティーが始まってすぐは、問題の三人は遠巻きにわたしたちの様子を窺っているだけだった。
誕生日プレゼントは本人に直接渡すわけではなく、受付で危険物ではないか確認してもらうために預けている。
出来れば話しかけたくない。
でも、主役に話しかけないのも失礼なのかしら。
「お祝いの言葉は、テナミ様に直接、伝えないといけないのでしょうか」
「……そうだな。その他大勢という形で挨拶できたら一番良いんだが、テナミ殿下は君を待っているようだし無理だろうな」
「そこまでして、国王陛下になりたいのでしょうか?」
「今まで王太子殿下という立場で国王陛下になると思って生きてきたのだから、諦められないのもしょうがない気もする」
アクス様の言っていることは理解できないわけではない。
でも、そうなると、彼を選ぼうとしていないわたしは悪い人間なのだろうか。
「言っておくが、テナミ殿下を選んだら良いだなんて思っていない。俺は君には幸せになってほしい。だから、君の好きな人を選べば良いと思っている」
表情から察してくれたのか、アクス様はそう言って微笑んでくれた。
「ありがとうございます。中々、良い人がいないというのが現実です」
「君に選ばれたいと思っている人間はたくさんいるんだから、焦らなくても良いし、じっくり選べばいい」
「ありがとうございます」
苦笑すると、アクス様は不思議そうな顔をする。
「……どうかしたか?」
「いえ。何でもありません」
アクス様はテイル家の嫡男なんだから、国王陛下の座なんて興味はないものね。
「考えてみたら、君が誰かを選べば、こんな風に話したりできなくなるんだな」
「……そうですね。アクス様も素敵な婚約者を見つけてくださいね」
「それは」
アクス様が困った顔をして、わたしを見つめた時だった。
「リアンナ! 俺のために来てくれてありがとう!」
テナミ様が満面の笑みを浮かべて近づいてきた。
誕生日を祝うために来たから、テナミ様のためということは間違っていない。
だから、素直にお祝いの言葉を述べる。
「お誕生日おめでとうございます、テナミ殿下。お誕生日をお祝いしに来ただけで、それ以上の深い意味はありませんので、誤解なさらないようにだけお願いいたします」
「リアンナ、照れなくても良いんだ」
テナミ様がわたしの腕を掴もうとした時、アクス様が間に入ってくれた。
「テナミ殿下、申し訳ございませんが、彼女は私のパートナーです。必要以上に近づくのはご遠慮ください」
「俺はパーティーの主役なんだぞ!」
「存じ上げております。だからこそ、パートナーでもない女性に必要以上に近づくことは許されないのではないでしょうか」
「どうしてだよ!?」
テナミ様が大声を上げて聞き返すと、アクス様はテナミ様に近づいて小声で言う。
「品位を疑われてしまいますよ。主役なのですから目立ちます。今だって多くの人に見られているでしょう」
「う、うるさいな! そんなことは言われなくてもわかっている!」
テナミ様はアクス様から離れると、わたしに体を向けてお願いしてくる。
「今日は誕生日なんだ。プレゼントのかわりに二人で話す機会をくれないか」
「二人きりというのは無理ですわ。テナミ様にはムーニャ様という婚約者がいらっしゃるでしょう?」
「ムーニャとは婚約を解消する予定だ」
「失礼なことを申し上げますが、テナミ様のその言い方は不倫しようとしている男性が、妻とは別れる予定だと言って、他の女性を口説いているようなものにしか聞こえませんわ」
「そ、そんなことはない! 絶対に婚約解消してリアンナとやりなお」
テナミ様がそこまで叫んだ時だった。
閃光と共にドーンッという音がして、ダンスホール内が揺れた。
衝撃で倒れそうになったわたしを、アクス様が抱き寄せて支えてくれる。
「悪い。断りもなく触れてしまった」
「いいえ。ありがとうございました。あの、今の音と衝撃は一体何だったのでしょう?」
天井を見上げると、シャンデリアがゆらゆら揺れている。
「雷が落ちたみたいだな」
アクス様に抱き寄せられたまま、騒がしくなったホール内を見回そうとすると、お腹を押さえて顔面蒼白になっているテナミ様が見えた。
そうだったわ。
テナミ様は雷が苦手だったわ。
誕生日プレゼントは本人に直接渡すわけではなく、受付で危険物ではないか確認してもらうために預けている。
出来れば話しかけたくない。
でも、主役に話しかけないのも失礼なのかしら。
「お祝いの言葉は、テナミ様に直接、伝えないといけないのでしょうか」
「……そうだな。その他大勢という形で挨拶できたら一番良いんだが、テナミ殿下は君を待っているようだし無理だろうな」
「そこまでして、国王陛下になりたいのでしょうか?」
「今まで王太子殿下という立場で国王陛下になると思って生きてきたのだから、諦められないのもしょうがない気もする」
アクス様の言っていることは理解できないわけではない。
でも、そうなると、彼を選ぼうとしていないわたしは悪い人間なのだろうか。
「言っておくが、テナミ殿下を選んだら良いだなんて思っていない。俺は君には幸せになってほしい。だから、君の好きな人を選べば良いと思っている」
表情から察してくれたのか、アクス様はそう言って微笑んでくれた。
「ありがとうございます。中々、良い人がいないというのが現実です」
「君に選ばれたいと思っている人間はたくさんいるんだから、焦らなくても良いし、じっくり選べばいい」
「ありがとうございます」
苦笑すると、アクス様は不思議そうな顔をする。
「……どうかしたか?」
「いえ。何でもありません」
アクス様はテイル家の嫡男なんだから、国王陛下の座なんて興味はないものね。
「考えてみたら、君が誰かを選べば、こんな風に話したりできなくなるんだな」
「……そうですね。アクス様も素敵な婚約者を見つけてくださいね」
「それは」
アクス様が困った顔をして、わたしを見つめた時だった。
「リアンナ! 俺のために来てくれてありがとう!」
テナミ様が満面の笑みを浮かべて近づいてきた。
誕生日を祝うために来たから、テナミ様のためということは間違っていない。
だから、素直にお祝いの言葉を述べる。
「お誕生日おめでとうございます、テナミ殿下。お誕生日をお祝いしに来ただけで、それ以上の深い意味はありませんので、誤解なさらないようにだけお願いいたします」
「リアンナ、照れなくても良いんだ」
テナミ様がわたしの腕を掴もうとした時、アクス様が間に入ってくれた。
「テナミ殿下、申し訳ございませんが、彼女は私のパートナーです。必要以上に近づくのはご遠慮ください」
「俺はパーティーの主役なんだぞ!」
「存じ上げております。だからこそ、パートナーでもない女性に必要以上に近づくことは許されないのではないでしょうか」
「どうしてだよ!?」
テナミ様が大声を上げて聞き返すと、アクス様はテナミ様に近づいて小声で言う。
「品位を疑われてしまいますよ。主役なのですから目立ちます。今だって多くの人に見られているでしょう」
「う、うるさいな! そんなことは言われなくてもわかっている!」
テナミ様はアクス様から離れると、わたしに体を向けてお願いしてくる。
「今日は誕生日なんだ。プレゼントのかわりに二人で話す機会をくれないか」
「二人きりというのは無理ですわ。テナミ様にはムーニャ様という婚約者がいらっしゃるでしょう?」
「ムーニャとは婚約を解消する予定だ」
「失礼なことを申し上げますが、テナミ様のその言い方は不倫しようとしている男性が、妻とは別れる予定だと言って、他の女性を口説いているようなものにしか聞こえませんわ」
「そ、そんなことはない! 絶対に婚約解消してリアンナとやりなお」
テナミ様がそこまで叫んだ時だった。
閃光と共にドーンッという音がして、ダンスホール内が揺れた。
衝撃で倒れそうになったわたしを、アクス様が抱き寄せて支えてくれる。
「悪い。断りもなく触れてしまった」
「いいえ。ありがとうございました。あの、今の音と衝撃は一体何だったのでしょう?」
天井を見上げると、シャンデリアがゆらゆら揺れている。
「雷が落ちたみたいだな」
アクス様に抱き寄せられたまま、騒がしくなったホール内を見回そうとすると、お腹を押さえて顔面蒼白になっているテナミ様が見えた。
そうだったわ。
テナミ様は雷が苦手だったわ。
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