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17  必要ないもの ③ (金蔓扱いする両親①)

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 次の日の昼前に、元両親が門の前で叫んでいるという連絡が入ってきた。

 王城の敷地内に入れるわけにはいかないので、わたしが門の所まで向かう。

「ちょっと、どういうことなの! どうして、私たちは中に入れてもらえないの!? 私たちはリアンナの家族なのよ!」

 ソナルナ伯爵夫人が門兵に向かって騒いでいるのが見えた。
 慌てて駆け寄って鉄柵越しで注意する。

「やめてください! わたしが中に入れないようにお願いしたんです!」
「リアンナじゃないか! 聞いてくれ! 私たちは住む家を失ったんだ! だから、お前の住んでいる家に住まわせてくれ!」

 ソナルナ伯爵が門を開けようとして鉄柵に手をかけた。
 でも、すぐに門兵に引き剥がされる。

「離れてください」
「やめろ! 放せ! 私はリアンナの父なんだぞ!」
「もう、あなたはわたしの父ではありません!」

 そう言ったあとに、少し離れた所に小さな子供が二人がいて、こちらを見つめていることに気がついた。

 不安そうにしている女の子の後ろに隠れるようにして、一回り小さい男の子がいて、顔の半分だけ見せて、わたしを見つめている。

 大人二人は小綺麗にしているのに、子供たちは薄汚れた服を着ている。

 虐待をしているのかと思って問いただそうかと思ったけれどやめた。

 そんなこと、子供の前でする話じゃないわね。

「お二人共、場所を変えて話をしましょう」
「わかったわ。行きましょう!」

 ソナルナ伯爵夫人は中に入れるのだと思ったらしく、笑顔になって言った。

 でも、門兵は門を開かない。

「ちょっと! どういうことなの!」
「場所を変えるとは言いましたが、この中に入るとは言っていません」

 ソナルナ伯爵夫人に、わたしは冷たく答えた。
 そして、弟妹に優しい口調で話しかける。

「はじめましてよね。わたしがリアンナよ。話は聞いてくれているかしら?」

 鉄柵越しに尋ねると、妹が口を開く。

「ロザンナです。お姉様のことは、一昨日に初めて知りました」
「僕もです。えっと、ロブです」

 ロザンナとロブはぺこりと頭を下げた。

「どうして知らなかったの?」
「お父様とお母様は何も言ってくれませんでした」

 ソナルナ伯爵夫妻のほうに目をやると、気まずそうに目を逸らした。

 信じられないわ。
 わたしは最初からいなかったことにされていたのね。

「どうして、そんなことになっているのか、後で説明していただけますでしょうか?」
「もちろんよ。だけど、子供に聞かせる話ではないわ!」

 ソナルナ伯爵夫人の言葉に同意する。

「わたしもそう思います。あの、ロザンナとロブだけ中に入れてあげてください」

 弟妹については、わたしがソナルナ伯爵夫妻と話をしている間は、レブさんたちにお願いする話を付けている。

「承知しました」

 そう言って、門兵は二人を連れて中に入ってきた。

 ソナルナ伯爵夫妻も便乗して入ってこようとしたけれど、わたしが外に出て止めた。

「どうしてもここで話がしたいようですから、ここで話をしましょう。子供たちにも聞かれなくて良くなりましたから」

 ロザンナたちは不安そうにしていた。
 でも、わたしと一緒に来てくれていた執事からお菓子があると聞くと、喜んで執事と一緒に手を繋いで歩いていった。
 その背中が遠ざかっていくのを見てから言うと、ソナルナ伯爵夫妻は表情を歪める。

「私たちを拒否するつもりなのか! この親不孝者めが!」
「そうよ! 5歳までは私たちがあなたを育てたのよ!」
「その点については感謝していますが、わたしがここに来てからは、わたしのことを自分たちの娘ではなく、金蔓としか見ていなかったのでしょう?」

 ソナルナ伯爵夫妻に尋ねると、伯爵は顔を真っ赤にして叫ぶ。

「聖なる力がお前に使えるようになったのは、誰のおかげだと思ってるんだ!」
「少なくとも、あなたのおかげではありません!」
「この生意気な娘が!」

 言い返すと、伯爵がわたしに向かって手をあげようとした。
 でも、その手を突然、伯爵の後ろから現れた人物が掴んだ。

「何をするんだ、このクソ野郎!」

 伯爵は暴言を叫んで振り返った。

 でも、自分が暴言を吐いた相手が誰だかわかると、ぶるぶると震え始めた。

「クソ野郎と呼ぶのはかまわないが、暴力は良くない」

 伯爵の手を掴んだまま、いつの間に近づいていたのか謎のアクス様が言った。
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