上 下
16 / 43

15  癒やしの力と禁忌の魔法

しおりを挟む
 ブリトニー卿が執務室の中に入るように、わたしとエルン様を促してくれた。
 そのため、帰りの馬車の手配をしなければならないけれど、部屋の中に入る前に、お馬鹿さん3人組を帰らせることにした。

「とにかくお帰りください。本来ならばあなたたちのしたことは許されるものではありませんよ。ムーニャ様は特に」

 王族だから何とか許されているのであって、普通の貴族なら門の中にだって入れてもらえないはずだわ。

 というか、テイル公爵家は相手にする暇もないくらい忙しいといった感じかしら。

「このことは両陛下にお伝えしますから」

 冷たく言うと、三人は焦った顔になった。
 そして、テナミ様が一番に口を開く。

「そういえば、やらないといけないことがあるのだった。失礼する」
「ぼ、僕もだ! では!」
「わ、私もですわ!」

 ムーニャの場合は置いていかれたくないといった感じで、二人の後を慌てて追いかけていった。

 その後は執務室の中に入り、アクス様とブリトニー卿に三人の非礼を詫びた。

 私が詫びるのもどうかと思ったけれど、昔の婚約者や友人たちだったため、何も言わないのもどうかと思ったのだ。

「リアンナ嬢に謝ってもらう必要はない。それよりも、今日はどうしたんだ」

 さすがに仕事をしながら、わたしの相手をするのは失礼だと思ったのか、アクス様は書類仕事の手を止めて、わたしに目を向けた。

「いえ。以前、お話できなかったことを伝えに来ただけです」

 エルン様が心配して、わたしに相談しに来てくれたんです、と言うのもどうかと思ったので、そう答えた。

「できなかった話?」
「ええ。目のクマが酷いようですから気になったんです。ちゃんと眠れていますか?」

 アクス様の目の下のクマは以前よりも酷い気がするので、答えは聞かなくてもわかる。

「眠れてはいる。それよりも聞きたいことがあるんだが」
「何でしょうか?」
「ムーニャ嬢は魅了魔法が使えるんだろうか?」

 アクス様は目を閉じてこめかみを押さえる。

「どういうことですか?」

 近くにあるソファに座るように促されたけれど、アクス様の様子が気になって近づくと、突然、アクス様が眠り始めた。

「「「えっ!」」」

 話の途中で眠り始めてしまったので、わたしだけじゃなく、ブリトニー卿やエルン様までもが驚きの声を上げた。

 近づいて顔を覗き込んだり、目の前で手を振ってみても、一向に起きる気配はない。

 せっかく眠れたのだから起こすのも何だと思って、部屋から静かに出て行こうとすると、アクス様の目がぱちりと開いた。
 そして、驚いた顔になって言う。

「今、寝てたのか?」
「寝てましたね」

 ブリトニー卿が頷くと、アクス様は両手で顔を覆う。

「前回もこんな感じだったんだ。リアンナ嬢が近づいて来ると眠くなる」
「そうなんですか?」

 そう言って、また近づいていくと、アクス様がまた眠ってしまった。

「わたしから何か眠るオーラでも出ているんでしょうか」

 ブリトニー卿に尋ねると、思案顔で答えてくれる。

「それも聖なる力なのかもしれませんね。アクス様はかなり疲れておられますので、眠ることによって癒やしになるのではないでしょうか」
「お兄様が眠っているところなんて初めて見ましたわ! しかも、こんなに大きな声でお話をしていても起きないだなんて」

 エルン様が感動した様子で言う。

 アクス様が眠ってくれたことや、エルン様が喜んでくれることは嬉しい。
 でも、わたしはこのままどうしたら良いのかわからない。

 結局、わたしが立っているところに椅子を持ってきてもらい、そこに座ってアクス様を眺めながら、エルン様と会話をし、その間にブリトニー卿は仕事をしながら、わたし達の相手もしてくれた。

「先程、アクス様も聞いておられましたが、バケッソ伯爵令嬢は魅了魔法でも使えるのでしょうか?」
「どういうことでしょう?」
「僕は大丈夫なんですが、アクス様はバケッソ伯爵令嬢が近づいてくると、急に彼女が愛しくなるんだそうです」
「それは恋をしているのではなくてですか?」
「ええ。普段は思い出すだけでも嫌なんだそうです」

 ブリトニー卿が苦笑して言った。

 一体、どういうことなのかしら?
 魅了魔法というものが存在するのは知っている。

 でも、その魔法を使うことは禁忌とされているから、使っていることがわかれば処刑される可能性もある。

 ムーニャはそんな馬鹿な魔法を使っているのかしら?
 馬鹿だから、ありえないことはないけど――

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】キズモノになった私と婚約破棄ですか?別に構いませんがあなたが大丈夫ですか?

なか
恋愛
「キズモノのお前とは婚約破棄する」 顔にできた顔の傷も治らぬうちに第二王子のアルベルト様にそう宣告される 大きな傷跡は残るだろう キズモノのとなった私はもう要らないようだ そして彼が持ち出した条件は婚約破棄しても身体を寄越せと下卑た笑いで告げるのだ そんな彼を殴りつけたのはとある人物だった このキズの謎を知ったとき アルベルト王子は永遠に後悔する事となる 永遠の後悔と 永遠の愛が生まれた日の物語

私が公爵の本当の娘ではないことを知った婚約者は、騙されたと激怒し婚約破棄を告げました。

Mayoi
恋愛
ウェスリーは婚約者のオリビアの出自を調べ、公爵の実の娘ではないことを知った。 そのようなことは婚約前に伝えられておらず、騙されたと激怒しオリビアに婚約破棄を告げた。 二人の婚約は大公が認めたものであり、一方的に非難し婚約破棄したウェスリーが無事でいられるはずがない。 自分の正しさを信じて疑わないウェスリーは自滅の道を歩む。

聖女の能力で見た予知夢を盗まれましたが、それには大事な続きがあります~幽閉聖女と黒猫~

猫子
恋愛
「王家を欺き、聖女を騙る不届き者め! 貴様との婚約を破棄する!」  聖女リアはアズル王子より、偽者の聖女として婚約破棄を言い渡され、監獄塔へと幽閉されることになってしまう。リアは国難を退けるための予言を出していたのだが、その内容は王子に盗まれ、彼の新しい婚約者である偽聖女が出したものであるとされてしまったのだ。だが、その予言には続きがあり、まだ未完成の状態であった。梯子を外されて大慌てする王子一派を他所に、リアは王国を救うためにできることはないかと監獄塔の中で思案する。 ※本作は他サイト様でも掲載しております。

甘やかされて育った妹が何故婚約破棄されたかなんて、わかりきったことではありませんか。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるネセリアは、家でひどい扱いを受けてきた。 継母と腹違いの妹は、彼女のことをひどく疎んでおり、二人から苛烈に虐め抜かれていたのである。 実の父親は、継母と妹の味方であった。彼はネセリアのことを見向きもせず、継母と妹に愛を向けていたのだ。 そんなネセリアに、ある時婚約の話が持ち上がった。 しかしその婚約者に彼女の妹が惚れてしまい、婚約者を変えることになったのだ。 だが、ネセリアとの婚約を望んでいた先方はそれを良しとしなかったが、彼らは婚約そのものを破棄して、なかったことにしたのだ。 それ妹達は、癇癪を起した。 何故、婚約破棄されたのか、彼らには理解できなかったのだ。 しかしネセリアには、その理由がわかっていた。それ告げた所、彼女は伯爵家から追い出されることになったのだった。 だがネセリアにとって、それは別段苦しいことという訳でもなかった。むしろ伯爵家の呪縛から解放されて、明るくなったくらいだ。 それからネセリアは、知人の助けを借りて新たな生活を歩むことにした。かつてのことを忘れて気ままに暮らすことに、彼女は幸せを覚えていた。 そんな生活をしている中で、ネセリアは伯爵家の噂を耳にした。伯爵家は度重なる身勝手により、没落しようとしていたのだ。

婚約者に犯されて身籠り、妹に陥れられて婚約破棄後に国外追放されました。“神人”であるお腹の子が復讐しますが、いいですね?

サイコちゃん
ファンタジー
公爵令嬢アリアは不義の子を身籠った事を切欠に、ヴント国を追放される。しかも、それが冤罪だったと判明した後も、加害者である第一王子イェールと妹ウィリアは不誠実な謝罪を繰り返し、果てはアリアを罵倒する。その行為が、ヴント国を破滅に導くとも知らずに―― ※昨年、別アカウントにて削除した『お腹の子「後になってから謝っても遅いよ?」』を手直しして再投稿したものです。

優秀な妹と婚約したら全て上手くいくのではなかったのですか?

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるイルティナには、優秀な妹がいた。 文武両道、才色兼備な妹は魔法の才能もあり、日夜偉業を成し遂げる程の天才だった。 そんな妹と比べて平凡であるイルティナは、慈善活動に精を出していた。 彼女にとって、人の役に立てることといったらそれくらいしかなかったのである。 ある時イルティナは、伯爵令息であるブラッガと婚約することになった。 しかしながら、彼もその両親や兄弟も、イルティナのことを歓迎していなかった。彼らが求めているのは、彼女の妹だったのである。 優秀な妹と婚約したら、全てが上手くいく。ブラッガは、そのような主張をした。 そしてその望みは、叶うことになる。イルティナの妹は、ブラッガと婚約したいと言い出したのだ。 しかしブラッガは、理解していなかった。 イルティナの妹は、決して一筋縄ではいかない者だったのだ。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

不憫な妹が可哀想だからと婚約破棄されましたが、私のことは可哀想だと思われなかったのですか?

木山楽斗
恋愛
子爵令嬢であるイルリアは、婚約者から婚約破棄された。 彼は、イルリアの妹が婚約破棄されたことに対してひどく心を痛めており、そんな彼女を救いたいと言っているのだ。 混乱するイルリアだったが、婚約者は妹と仲良くしている。 そんな二人に押し切られて、イルリアは引き下がらざるを得なかった。 当然イルリアは、婚約者と妹に対して腹を立てていた。 そんな彼女に声をかけてきたのは、公爵令息であるマグナードだった。 彼の助力を得ながら、イルリアは婚約者と妹に対する抗議を始めるのだった。 ※誤字脱字などの報告、本当にありがとうございます。いつも助かっています。

処理中です...